精選版 日本国語大辞典「縁」の解説
えん【縁】
〘名〙
[一] 二つ以上のものが寄りついてかかわりを持つ作用を表わす。
① 仏語。
(イ) 広義には結果を引き起こす因のこと。狭義には結果を引き起こす直接の内的な原因である因に対し、それを外から助ける間接の原因をいう。
※三教指帰(797頃)上「重輅軽走、抑亦油縁」
※観智院本三宝絵(984)上「縁を待ちて形を顕し給ふ事」
(ロ) 心が外の事物に向かって行なうはたらきかけ。攀縁(はんえん)。
※袋草紙(1157‐59頃)上「縁は物を聞きもし、見もする心也」
② (①から生じたような)人と人とのめぐり合わせや結びつき。縁故。
※能因本枕(10C終)八二「つぎつぎえんたづねて、文得んといはすれば」
③ 親子、夫婦、主従など、人と人との結びつき。つづきあい。あいだがら。
※平家(13C前)二「我子の縁にむすぼほれざらむには」
④ 関係を持つきっかけ。現在の状況をもたらす過去からの関係。えに。えにし。
※黄表紙・敵討義女英(1795)上「さてさて不思議の御ゑんでお心やすくいたした」
⑤ 物事との関係。つながり。
※福翁自伝(1899)〈福沢諭吉〉緒方の塾風「何程えらい学者になっても、頓と実際の仕事に縁(エン)がない。即ち衣食に縁(エン)がない」
⑥ 「えんご(縁語)」の略。
※和歌肝要(1296頃)「歌をはやく詠まむ故実には、題につきて縁をいそぎ求めて」
[二] (「椽」とも書く) 物事のまわり、周辺を表わす。
② 家の外側の板敷きの部分。
(イ) 寝殿造りで、母屋(もや)の廂(ひさし)の外側や渡殿に張り渡された板敷きの部分。
※竹取(9C末‐10C初)「この皇子(みこ)〈略〉えんにはひ上(のぼ)り給ひぬ」
(ロ) 座敷の外側に作り付けた細長い板敷き。縁側。
※俳諧・続猿蓑(1698)夏「涼しさや椽より足をぶらさげる〈支考〉」
(ハ) (縁側に代用される台の意で) 縁台。
※俳諧・去来抄(1702‐04)先師評「咲花にかき出す椽のかたぶきて〈芭蕉〉」
[語誌](1)(一)①について。(イ)「縁」は仏教語では四縁〈因縁・等無間縁(次第縁)・所縁縁(縁縁)・増上縁〉のうち増上縁に当たる。(ロ)「日本書紀」「風土記」などでは、縁をコトノモトと読む。これらは因縁由来の意であり、次第に縁は男女(夫婦)、親子、主従など仏教語からは離れた用法に傾いてゆく。→えに・えにし。
(2)(二)②について。(イ)寝殿造りで廂の間をとりまいている部分のうち、板を横に並べた板敷きを「簀子(すのこ)」といい、板を縦に並べたものを「縁(えん)」または「縁側(えんがわ)」と呼ぶとする説がある。おおむね東、南、西側は簀子で、北側に縁を用いていたようである。(ロ)現代の民家では、縁板を奥行き方向に張った縁を切り目縁(きりめえん)あるいは木口縁(こぐちえん)といい、長手方向に張った縁を榑縁(くれえん)という。
(2)(二)②について。(イ)寝殿造りで廂の間をとりまいている部分のうち、板を横に並べた板敷きを「簀子(すのこ)」といい、板を縦に並べたものを「縁(えん)」または「縁側(えんがわ)」と呼ぶとする説がある。おおむね東、南、西側は簀子で、北側に縁を用いていたようである。(ロ)現代の民家では、縁板を奥行き方向に張った縁を切り目縁(きりめえん)あるいは木口縁(こぐちえん)といい、長手方向に張った縁を榑縁(くれえん)という。
えに‐し【縁】
(イ) 「し」が助詞としての性質を保っているとみられるもの。
※伊勢物語(10C前)六九「とりて見れば、かち人の渡れど濡れぬえにしあれば、と書きて末はなし」
(ロ) 熟して一語化したとみられるもの。
ゆかり【縁】
〘名〙
① なんらかのかかわりあい。多少のつながり。ちなみ。機縁。
※安法集(983‐985頃)「大空のゆかりと聞けばまだみねど雲に埋る跡ぞゆゆしき」
※源氏(1001‐14頃)蓬生「大弐の北の方のたてまつり置きし御衣どもをも、心ゆかずおぼされしゆかりに、見入れ給はざりけるを」
② 血のつながりのある者。血縁。縁者。また、夫から見た妻、または妻から見た夫。親族。一族。
※貫之集(945頃)三「ゆかりとも聞えぬものを山吹の蛙の声に匂ひけるかな」
※増鏡(1368‐76頃)二「七条院の御ゆかりの殿原、坊門大納言忠信・尾張中将清経」
③ 「ゆかりじそ(縁紫蘇)」の略。
※滑稽本・大山道中膝栗毛(1832)初「ハアゆかりか妙だ妙だ。是でやっと目がさめた」
ふち【縁】
〘名〙
① 物のまわりの部分。へり。めぐり。多く、ふちどりしたりして他と区別できるような、周縁の部分をいう。
※大鏡(12C前)四「的のかたにいろどられたりし車のよこさまのふちをゆみのかたにし」
② 刀剣の柄口(つかぐち)、鞘口(さやぐち)の金具。〔日葡辞書(1603‐04)〕
※浄瑠璃・博多露左衛門色伝授(1708)五「ふちはなるとにたつ波の、さっと打たる岩崎や」
へり【縁】
〘名〙
① 物の端。めぐり。まわり。ふち。また、物の端につけた装飾など。
※大和(947‐957頃)一七三「簾もへりは蝙蝠にくはれて」
② 特に、畳やござのふちにつけた布。
※枕(10C終)二七七「高麗縁(かうらいばし)の、筵青うこまやかに厚きが、へりの紋いとあざやかに」
ゆか・る【縁】
〘自ラ四〙 (名詞「ゆかり(縁)」の動詞化) ゆかりとなる。ゆかりである。血縁の関係にある。
※愚管抄(1220)四「此すぢに満仲なんどもかたらはれけるにや、武士にてゆかりつつかはれて、推知してつげ申たりけるにや」
えに【縁】
〘名〙 (「えん(縁)」の韻尾の n を「に」で表記したもの) ゆかり。縁故。ちなみ。
※源氏(1001‐14頃)澪標「みをつくし恋ふるしるしにここまでもめぐりあひけるえには深しな」
[語誌]→「えにし(縁)」の語誌
えん‐・ず【縁】
〘他サ変〙 仏語。心とその働きが対象に向かって働いて、その対象のすがたをとらえる。
※往生要集(984‐985)大文五「或縁下往二生浄土一衆生上、応レ作二是念一」 〔雑阿含経‐一二〕
え【縁】
〘名〙 (「えん」の「ん」の無表記) ゆかり。つながり。えにし。えん。
※伊勢物語(10C前)九六「秋かけていひしながらもあらなくに木の葉ふりしくえにこそありけれ」
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報