精選版 日本国語大辞典「角」の解説
かく【角】
[1] 〘名〙
② つのの形をしたものの名称。
(イ) つので作った笛、またはその形をした笛。中国から伝わり、古く戦陣で用いた。和訓では大角を「はらのふえ」、小角を「くだのふえ」という。つのぶえ。
※令義解(718)軍防「凡軍団。各置二鼓二面。大角二口。少角四口一」
※妙一本仮名書き法華経(鎌倉中)一「つつみをうち、角(カク)貝(はい)をふき」 〔北史‐斉宗室諸王伝下・文襄諸子・安徳王延宗〕
(ロ) 髪型の一種。あげまき。つのまき。〔礼記‐内則〕
(ハ) 中国古代からの銅製の酒器。爵(しゃく)の一種で、約四升(約七リットル)を入れる。〔譬喩尽(1786)〕〔儀礼‐特牲饋食礼〕
③ (形動) 四角なさま。また、四角なもの。方形。
※日葡辞書(1603‐04)「Cacu(カク)ナ〈訳〉四角なもの、または角のあるもの」
※妻木(1904‐06)〈松瀬青々〉冬「角に切て縄でさげ行鯨哉」
④ 柱や桁(けた)に用いる材木で、丸木の四方を削り、または大木を挽き割って四角に造材した長木をいう。角材。
※俳諧・続猿蓑(1698)上「禅寺に一日あそぶ砂の上〈里圃〉 槻(けやき)の角のはてぬ貫穴〈馬莧〉」
⑤ (「鉸具(かく)」のあて字) ⇒かこ(鉸具)
⑥ 活字の角柱部の横断面の大きさ。
⑦ (方形をした貨幣であるところから) 一分金、または一分銀。
※洒落本・傾城買指南所(1778)「此せつ、かくぶっばらって、女郎かひはならぬ事なり」
⑧ 「かくおしき(角折敷)」の略。
※日葡辞書(1603‐04)「Cacu(カク)〈訳〉サカヅキを載せる四角な薄板」
⑨ 将棋の駒の一つ。角行(かくぎょう)。
※咄本・鹿の巻筆(1686)一「角はきりんのいかりあれば竜馬となる」
⑩ (「格」とも書く) 鉄砲の的(まと)の中心部。角形につくる。
※翁問答(1650)下「かくをもうちはづすばかりなり」

⑫ 数学用語。
(ロ) 二つの直線が交わってできる四つのかどの、もとの二直線に対する称。
(ハ) 直線が平面と交わっているとき、その直線のその平面への正射影ともとの直線とがつくるかどの、もとの直線と平面とに対する称。
(ニ) 二平面が交わっているとき、その交わりの直線に垂直な平面と二平面との交わりとしてできる二直線のなすかどの、もとの二平面に対する称。
⑬ 東洋音楽で、五音階の一つ。第三番目の音。→五音(ごいん)。
※古今著聞集(1254)六「管絃のおこり、その伝はれる事久し。〈略〉宮・商・角・徴・羽の五音あり」 〔礼記注‐月令〕
⑭ 川船の敷船梁(しきふなばり)を押える当木(あてぎ)。ねこ。〔和漢船用集(1766)〕
[2] 〘接尾〙 一分金、または一分銀を数えるのに用いる。
※浮世草子・男色大鑑(1687)五「今時のこんがうに弐角(にカク)づつとらしても、さのみうれしがる㒵つきもせず」
[3] 星の名。二十八星宿の一つ。星の東方第一宮。乙女座のスピカを含む。すぼし。
※制度通(1724)一「角・亢・氐・房・心・尾・箕の七星、いつにても是を東方の七宿と云」 〔楚辞‐天問〕
つの【角】
〘名〙
※書紀(720)雄略即位前(前田本訓)「今近江の来(く)田綿(わた)蚊屋(かや)野に猪(ゐ)鹿多(さは)に有(あ)り。其の戴(ささけたる)角(ツノ)、枯樹の末(えた)に類(に)たり」
※神楽歌(9C後)小前張・蟋蟀「蟋蟀の 妬さ慨さ や 御園生に参りて 木の根を掘り食むで おさまさ 津乃(ツノ)折れぬ おさまさ おさまさ 津乃(ツノ)折れぬ」
※義経記(室町中か)五「草摺を臥木のつのに引掛けて、真逆様にどうど転び」
③ 冠の巾子(こじ)と髻(もとどり)をつき通すもの。かんざし。
※元和本下学集(1617)「角 ツノ 冠
」

④ 「つのぶえ(角笛)」の略。
※今昔(1120頃か)六「酉時に至て、皷打ち、角を吹く」
⑤ (その形相が角をはやした鬼に似るところから) 女の嫉妬。また、怒り。いきどおり。
※浄瑠璃・丹波与作待夜の小室節(1707頃)中「旦那殿の苦い顔は日比生へたつのにまたがさかふぞなふ怖や」
⑥ 釣漁具の一つ。烏賊(いか)・鰹(かつお)などを釣る時に用いる、鹿・牛・山羊の角や牛馬の蹄(ひづめ)などでつくった擬餌針。
⑦ 「つのがき(角書)」の略。
⑧ 紋所の名。角の形を図案化したもので抱き角・六つ角・違い角など種々ある。

⑨ 張形(はりかた)の異称。
かく‐・す【角】
〘他サ変〙
① くらべる。較す。
※米欧回覧実記(1877)〈久米邦武〉三「皆大国の美観なれども、其力量を角せば、遂に一頭地を出すべし」
② 優劣をきそう。あらそう。較す。
※西国立志編(1870‐71)〈中村正直訳〉一一「蓋し我と力を角(〈注〉アラソフ)するものは、我精神を強し、我練熟を助くるものなり」
かく‐・い【角】
〘形口〙 かく・し 〘形ク〙 四角なさま。角ばっているさま。
※米欧回覧実記(1877)〈久米邦武〉一「真鍮板に縦横の方眼(カクキあな)を雕(ほ)り」
※銃後(1913)〈桜井忠温〉三〇「小銃弾が、其の窓の周囲を刳り取って角(カク)い窓が形も何にもなくなってしまひ」
かく‐・し【角】
〘形ク〙 ⇒かくい(角)
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