デジタル大辞泉 「季節風」の意味・読み・例文・類語
きせつ‐ふう【季節風】
[類語]風・春一番・
季節によって吹き分けられている風系をいう。たとえば日本付近では、冬季には北西風が、夏季には南東風が卓越して吹くが、これらは日本の季節風である。季節風は英語ではモンスーンmonsoonというが、これはアラビア語の季節を意味するマウシムmausimを語源とする。マウシムは元来は年に一度の祭りとか、養蚕の季節とか航海の季節などを広くいう場合に用いられた。紀元1世紀ころ、インド洋の季節風が外洋航海に利用されるようになったころには、季節風にはもっぱらエテジア風etesiaiという名が用いられたが、これは年を表すエトスetosに由来することばであった。中世にインド洋からアラビア海を広く航海したアラビア人たちは、1年を周期とする季節風の吹き回しをマウシムというようになり、これがポルトガル人により継承されmonçāo, mouçāoとなり、さらに転化して現在の英語のmonsoonとなった。
[根本順吉]
夏と冬の季節風がもっとも顕著に現れるのはインド洋であるが、この地方では紀元前数世紀ころから、沿岸航海をする航海者たちは経験的にそのような風の吹くことを知っており、風が変わり順風になってから航海をしたというような記録が残されている。沿岸航海から離れアラビア海の外洋航海を始めたのはアレクサンドリアのヒッパロスHippalusである。彼は、毎年7月から9月にかけて吹く西寄りの風に目をつけ、エオリアÆoliaからインドへ洋上を直行することができたのである。ラテン語のヒッパロスに西風の意味があるのは、ヒッパロスのこの発見にちなむものである。
ヒッパロスのこの事績は紀元世紀の始まる前後のころと考えられているが、季節風についての知識は、その後アラビア海やインド洋を航海するアラビア人たちによって深められていた。16世紀の中ごろになると、50か所ぐらいの地点における季節風の吹き初めと吹き終わりが記録されている。
東アジア海域においても、初期は沿岸航海に限られていたが、外洋航海が行われるようになると、8~9世紀ころから季節風に順応して航海の時期を選ぶというようなことが行われた。日本ではそのころ、なお季節風についての知識は十分でなく、むだな風待ちをしたというような記録も残されている。しかしその後、船の帆が発達し、風を斜めに受けて航海できるようになると、16~17世紀には、日本でも広く季節風を利用して航海が行われるようになった。
[根本順吉・青木 孝]
季節風をその原因を問わずに、ただ季節を吹き分ける(風向の違いは120度以上)という現象にだけ着目してみると(気圧傾度の向きが反転するところがあるからで、5本の帯は、それぞれ(1)熱帯季節風帯―1本、(2)亜熱帯季節風帯―2本、(3)寒帯季節風帯―2本である。
)、地球上の分布の特徴は、そのような地域が地球を取り巻く五つの帯になっている点にある。このような分布を示すのは、季節の変化に伴って南北方向のインド洋の北半球側および東南アジア海域はもっとも季節風が卓越する所にあたっており、この部分が狭義の季節風地帯(モンスーン地帯)となっているのである。ドイツの気象学者レッチェンのようにこれを「海の季節風」という人もある。海の季節風を除くと、季節風地帯は各緯度圏に細胞状に断続しているので、これを細胞状季節風cell monsoonともいう。
低緯度地帯に卓越している海の季節風は、夏季に普通この地帯にみられる北東貿易風を打ち消し南西風となって吹いているのであるが、この南西風は対流圏の下層およそ5キロメートルの範囲に限られ、その上空には東風がみられる。上空の東風の北側にはチベット高気圧が存在するが、このチベット高気圧の位置、強さは、ヒマラヤからは、はるか偏西風帯の風下にあたる日本付近の梅雨期や夏の天候と、密接な関係をもっている。
カスピ海のような大きな湖水では、夏と冬では風向が反転している。すなわち夏季は湖水から湖岸に向かう風が吹くのに対し、冬は湖岸から湖上に向かう気流となる。季節によって風が吹き分けられているので季節風ともみられるが、この場合は季節風的傾向をもった風系とされ、季節風そのものとは考えない。海岸で卓越する海陸風も、季節によって、季節風を強めたり弱めたりすることがあるが、このような修飾も、局地的な気候を考える場合には重要である。
[根本順吉・青木 孝]
日本が季節風地帯にあることを抜きにして日本の風土は考えられない。冬の日本海側の多雪は、大陸からの季節風の吹き出しによるものであり、梅雨期の開始、終わりは夏の南西季節風の動静に関係する。高温多湿の日本の夏の天候は南東季節風の支配下の天候である。このような気候の特徴はその地域に住んでいる人にとっては当然のことのように思われるが、他地域(たとえば地中海周辺)の気候とこれを比較してみると、その著しい差異に気づくのである。その差異を反映して日々の生活の違いが風土的特徴として現れてくるのである。
[根本順吉]
季節を吹き分ける風系を指し,英語ではモンスーンというが,これはアラビア語で季節を意味するmausimに由来する。モンスーンの定義は数多くあるが次の三つにおおむね分けられる。
(1)アラビア海で約6ヵ月交替で吹く南西風と北東風のこと。
(2)南アジア,東南アジアの人々にとってのモンスーンは米作などに必要な高日季の雨,あるいは雨季のこと。
(3)その季節内で,その季節を代表するに足るほどの高い出現頻度をもち,大気大循環の風系にふさわしいほどの地理的空間を占め,冬から夏,夏から冬にかけて風向が反対もしくはほぼ反対になるような1組の卓越風系のこと。本来,季節風といえば(3)の意味であるが,モンスーンとだけいう場合には(1)か(2)の場合を指すことが多いので注意が必要である。
季節風域の分布は図に示すように,ほぼ緯度圏に沿って帯状に分布する傾向があり,赤道から北に向かって熱帯季節風帯,亜熱帯季節風帯,中緯度季節風帯,寒帯季節風帯と名付けられている。南半球に亜熱帯季節風帯しか描かれていないのは,十分な風の資料がないためである。
1月は熱帯収束帯が最も南下するので,この収束帯に当たるアフリカ南部,セレベスからニューギニアに至る諸島,アマゾン川流域などが全地球上で最も多雨の地域となる。この時期最も特徴的なのはシベリア大陸に中心をもつ大高気圧が形成される一方,アレウト列島方面に大きな低気圧が発生することである。この間を冬の季節風が吹くことになる。日本の冬の気候もほとんどこの季節風に支配されている。気圧配置はいわゆる西高東低となり,季節風は本州以北では北西風,九州および南西諸島では北ないし北東風となり大陸で冷却された寒気を運んでくるので日本の気温はヨーロッパの同緯度の場所より著しく低くなっている。これに反して,北アメリカは大陸の大きさがアジア大陸に比較して小さいこともあって,季節風は顕著でない。
一方,インド洋では大陸からの寒気は亜熱帯収束帯を赤道より南に押しやり,東南アジアからインドはこのころ乾季になっている。7月の場合は一般に高層の偏西風が弱いため,地表の加熱の分布が偏西風のうねりに大きく影響している。サハラ砂漠,東南アジア,北アフリカ南部などが加熱されると,その高層大気は北の方へはみ出し,偏西風の尾根になり,その尾根の西側では高層の発散に伴って地上で低気圧が形成される。したがって,季節風低気圧が形成されるのは主として大陸の南西部であり,特に顕著に認められるのは1月(南半球の夏)のオーストラリア大陸である。北太平洋に定常的な高気圧が形成され,日本を含む東アジアはこの高気圧の縁辺を回る南よりの風が吹いて暑い湿った夏となり,同緯度のヨーロッパの気温と比べると日本がはるかに高くなっている。
執筆者:花房 竜男
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(饒村曜 和歌山気象台長 / 宮澤清治 NHK放送用語委員会専門委員 / 2007年)
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…インド洋および南アジア,東南アジアにおいて,夏季は南西から,冬季は北東から吹く季節風のこと。アラビア語で〈季節〉を意味するマウシムmawsim(mausim)に由来する。 モンスーンは,夏と冬に定期的にしかも逆方向に吹くことから,インド洋では,モンスーンを利用した航海,貿易が古くから行われた。それは前2000年にさかのぼるともいわれるが,1世紀中ごろの《エリュトラ海案内記》では,モンスーンを利用した航海法を始めたのはギリシア人ヒッパロス(ヒッパロスの風)であるとしている。…
…しかし高さが数km以下であるため,対流圏の中層以高で現れることはまれである。
[中規模な風系]
(1)季節風 モンスーンとも呼ばれる。季節風は,海陸の分布により,夏には大陸内では海洋に比較して高温低圧になり,冬には反対に低温高圧になるために,1年周期で変わる風系である。…
…インド洋と地中海とではそれぞれ造船技術,航海法において著しい違いがある。インド洋では,6ヵ月交代で一定方向に吹くモンスーン(季節風。アラビア語で〈季節〉を意味するマウシムが語源)を利用して冬に北東から南西に向けて航海し,夏は逆に南西から北東に向かって航海を行った。…
※「季節風」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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