アルカロイド

デジタル大辞泉 「アルカロイド」の意味・読み・例文・類語

アルカロイド(alkaloid)

植物体に存在する、窒素を含む特殊な塩基性成分の総称。一般に、少量で動物に対して強い生理作用をもつ。ニコチンモルヒネコカインアコニチンキニーネなど。植物塩基。

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精選版 日本国語大辞典 「アルカロイド」の意味・読み・例文・類語

アルカロイド

  1. 〘 名詞 〙 ( [英語] alkaloid ) 植物体中に存在する窒素を含む塩基性有機化合物の総称。有毒なものが多く、微量で、人や動物に顕著な薬理作用を及ぼす。興奮剤、麻酔剤など薬用となるものもある。ニコチン、カフェイン、キニン、コルヒチン、モルフィンアトロピンムスカリンベルベリンなど約五〇〇種に及ぶ。植物塩基。〔医語類聚(1872)〕

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化学辞典 第2版 「アルカロイド」の解説

アルカロイド
アルカロイド
alkaloid

植物体中に存在する含窒素塩基性物質.重要な生理作用,薬理作用を示すものが多い.プリン塩基などの,動物性起源の含窒素化合物をこれに含めることもある.1805年,F.W. Sertünerのモルヒネ分離以来,化学の発達とともにその数は飛躍的に増大し,現在,数千を数える.分類学上,ケシ科,アカネ科,キョウチクトウ科などのように,アルカロイド出現率の多い科と,バラ科のように,その出現率のまれな科がある.類縁の植物から得られるものは,同一の前駆物質(アミノ酸テルペンなど)より生合成されており,化学構造上,互いに関連をもっていることが多い.普通,同一植物中に数種類混在し,それらは類似の,あるいは親近な化学構造をもっている.このうち,比較的多量に含まれるものを主アルカロイド,これに伴うものを副アルカロイドという.
アルカロイドは化学構造上の類縁により,簡単なアミン類,ピロリジンアルカロイドピリジンアルカロイドトロパンアルカロイド,イミダゾールアルカロイド,プリンアルカロイドキノリンアルカロイドイソキノリンアルカロイドピロリジジンアルカロイド,キノリジジンアルカロイド,インドールアルカロイドジテルペンアルカロイドステロイドアルカロイドなどに分類されるが,前駆物質を同一とするアルカロイドでも植物内で転位を起こして,化学的には別種の骨格をもっている場合が多いので,かえって不便なことが多い.むしろ,これを含有する植物の種類によって,キナアルカロイドアヘンアルカロイドロベリアアルカロイドヒガンバナアルカロイドセネシオアルカロイドルピンアルカロイドエリトリナアルカロイド麦角アルカロイドストリキノスアルカロイド,吐根アルカロイド,ラウウォルフィアアルカロイド,アコニットアルカロイドベラトルムアルカロイド,ソラヌムアルカロイド,リコポジウムアルカロイドなどの分類を併用するほうが,同属の植物により得られるものが構造的に関連している点で便利である.とくに,イソキノリンアルカロイド,インドールアルカロイドは変化に富み,骨格様式,起源植物によって多数のサブグループに分類されている.アルカロイドは植物体中では,有機酸(シュウ酸リンゴ酸乳酸タンニン酸キナ酸メコン酸など)と結合して存在している.
アルカロイドを得るには,植物を酸または水,アルコールで抽出し,酸性水溶液として,それにアルカリを加えてアルカロイドを遊離させ,適当な有機溶媒でふたたび抽出して,総アルカロイドを得,これを再結晶,クロマトグラフィーなどの手段で分離する.多くは無色の結晶で光学活性である.その検出は,アルカロイド試薬による沈殿反応,または呈色反応による.これらの反応は,とくに毒物検定の方法として裁判化学上重要である.アルカロイドの多くはいちじるしい生理作用を示し,コニインストリキニーネアコニチンなどの毒薬が多いが,モルヒネ(麻酔,鎮痛),キニーネ(抗マラリア),エフェドリン(咳止め),ヨヒンビン(催淫),コルヒチン(染色体倍加)などのように適当量の使用で,医薬品として用いられるものも多数にのぼる.植物体内における作用は,(1)代謝の最終産物,(2)アミノ酸の貯蔵,(3)外敵からの防御など種々の説があるが,はっきりしていない.その植物体内における含量と存在比は,季節によって変動がみられる.

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改訂新版 世界大百科事典 「アルカロイド」の意味・わかりやすい解説

アルカロイド
alkaloid

類塩基,植物塩基とも呼ばれる。天然の有機塩基類で窒素原子を含み,アルカリ性の反応を示し,酸と結合して塩類をつくる物質の総称。しかし動物体内に存在するプリン誘導体や塩基性のタンパク質,アミノ酸などは通常これに含めない。アルカロイドに類似した構造をもつ合成物質も,合成アルカロイドとしてアルカロイドに含めることがある。多くは苦味があり,薬理活性,毒性等を有する。

 アルカロイド単離の第1号はモルヒネである。アヘンの有効成分の単離を志したドイツの薬剤師ゼルチュルナーF.W.A.Sertürner(1783-1841)が,1803年に研究に着手し,3年後にその成功を報告した。この研究成果を重視したマイスネルが18年にアルカロイド(〈アルカリ様の〉の意)という総称を提唱したものである。モルヒネの発見は当時,生薬や有毒植物などから活性成分をとり出す研究をおおいに刺激し,その後の有機化学や製薬工業の発達を促進した。なかでもキナ皮からのキニーネの単離(1820)が重視される。日本では,長井長義の麻黄からエフェドリンを単離した研究が有名である。植物体内でのアルカロイドの生成経路についても知見が集積されつつある。たとえばイソキノリン型アルカロイドの生合成機構については,古くからの研究により,アミノ酸のチロシンから導かれるドーパミンが植物体内にあるアルデヒドと縮合してノルラウダノソリンを生成し,これからアポルフィン系,モルヒネ系,プロトベルベリン系などの各種のアルカロイドが生成すると考えられている。アルカロイドは植物体内ではシュウ酸,酒石酸,メコン酸その他の種々の有機酸などの塩として存在するが,それらの植物体内における生理学的意義は不明である。アルカロイドを多く含む植物には次のような種類がある。単子葉植物(ユリ科,ヒガンバナ科,イネ科,ラン科,ヤシ科,ビャクブ科),双子葉植物(ケシ科,アカネ科,キンポウゲ科,ツヅラフジ科,ナス科,マメ科,キョウチクトウ科,コショウ科),裸子植物(マオウ科,イチイ科),菌類(子囊菌等)。これらのアルカロイドは,アルカロイド沈殿試薬およびアルカロイド呈色試薬を用いて,その存在を知ることができる。主要なアルカロイドとして次のようなものが挙げられる。

 (1)アヘンアルカロイド 麻薬性鎮痛薬モルヒネ,鎮咳薬コデイン,鎮痙薬パパベリン等の医療上重要なアルカロイドを含む。(2)キナアルカロイド マラリア治療薬のキニーネ,抗不整脈薬のキニジンを含む。キニーネは代表的苦味物質でもある。(3)ラウオルフィアアルカロイド インドジャボクのアルカロイドでレセルピンなどを含む。レセルピンは血圧降下作用,静穏作用を有し,中枢神経系や交感神経末端の化学伝達物質を枯渇させることがその作用機序とされる。(4)麦角アルカロイド ライムギの穂に寄生する菌に含まれるアルカロイドで,エルゴタミンエルゴメトリンなど。これらは子宮収縮・止血作用等を有し,陣痛促進薬として用いられる。

 これらグループとしての名称をもつアルカロイドのほかにも,次のように多様な活性をもつアルカロイドがある。強い中枢興奮・幻覚作用を有するコカインメスカリンLSD,脊髄反射を著しく亢進させ,ついには激烈な痙攣(けいれん)から致死効果を示すストリキニーネなどは,薬と毒の両方の特性を備えたアルカロイドで,医学の世界のみならず推理小説等多くの文学作品にも登場する。漢方薬からも多くのアルカロイドが抽出されており,麻黄からのエフェドリン(鎮咳薬),黄連からのベルベリン(腸内殺菌薬)などが有用である。副交感神経遮断薬のアトロピンは鎮痙作用,瞳孔散大作用等を示す医療上重要なアルカロイドであるが,その含有植物のハシリドコロ,チョウセンアサガオは,食用野草と誤認されて,しばしば重篤な中毒をひき起こす。ヒガンバナの鱗茎にも,催吐性のアルカロイドのリコリンなど30種以上のアルカロイドが見いだされている。南米で矢毒として用いるクラーレにもアルカロイドが含まれる。タバコに含まれるニコチンも薬理活性,および毒性ともに強力なアルカロイドで,紙巻きタバコ1本中に,幼児を死に至らしめる量のニコチンが含有されている。《Encyclopedia of the Alkaloids》(1975)には約4030種のアルカロイドが収載されており,これらが14ないし16のグループに分類されている。(表参照)
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百科事典マイペディア 「アルカロイド」の意味・わかりやすい解説

アルカロイド

含窒素化合物に属する塩基性の植物成分。植物塩基とも。ナス科,ケシ科,キンポウゲ科,アカネ科などに属する植物に多く存在し,生理作用の著しいものが多い。モルヒネアトロピン(鎮痛,鎮痙(ちんけい)),エフェドリンコデイン(鎮咳(ちんがい)),コカイン(局所麻酔),ニコチンカフェインコルヒチンキニーネストリキニーネなど医薬や農薬として重要なものがある。
→関連項目灰汁アヘン(阿片)イヌホオズキウィルシュテッターガランタミンスコポラミンスパルテインテオフィリンテオブロミンニチニチソウ麦角ヒガンバナマチンムスカリン薬用植物有毒植物ヨヒンビンレセルピンロートエキス

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栄養・生化学辞典 「アルカロイド」の解説

アルカロイド

 窒素を含む植物由来の塩基で,天然には多くの場合有機酸と結合した形で存在する.生理活性の強いものが多く,毒物も多いが,医薬品として用いられているものもある.コカイン,モルヒネ,トリカブトの毒のアコニチンなど.

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世界大百科事典(旧版)内のアルカロイドの言及

【薬用植物】より

…このうち洋薬とは古代からヨーロッパで使われてきたものに,16世紀以降,新大陸,アフリカおよび東南アジア地域で利用されていたものが移入されて,その薬効成分が研究され,強い生理作用をもつ生薬が加えられたものである。強い生理作用をもつ生薬の多くはアルカロイドか強心配糖体を含んでいる。
[薬効]
 薬用植物には治療に使うものと,健康保持などの予防に使うものがあるが,それらの種類および使用量ならびに頻度は圧倒的に後者にかたよっている。…

※「アルカロイド」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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