(読み)ユエ

デジタル大辞泉 「故」の意味・読み・例文・類語

ゆえ〔ゆゑ〕【故】

事の起こるわけ。理由。原因。「あって母方の姓を継ぐ」「のないいらだち」「ありげな顔」
りっぱな経歴由緒ゆいしょ来歴。「ある家の出」
趣。風情
「前栽などもをかしく―を尽くしたり」〈手習
縁故ゆかり
「男はもとより―ありける人の末なりければ」〈宇治拾遺・一〇〉
故障。事故
「よろづの―、さはりをしのぎて」〈宇津保・あて宮〉
体言または活用語の連体形に付けて用いる。
㋐原因や理由を表す。…のため。…によって。…がもとで。「幼さの過ち」「今日は急ぐこれで失礼する」
㋑逆接の関係を表す。…であるのに。…なのに。
「はなはだも降らぬ雪―こちたくも天つみ空は曇らひにつつ」〈・二三二二〉
[類語]理由謂れゆえん曰く事由所由事情諸事情根拠意味原因故由ゆえよし事訳ことわけわけ合い訳柄わけがら子細

こ【故】[漢字項目]

[音](漢) [訓]ゆえ ふるい もと ことさら
学習漢字]5年
昔の。以前の事柄。「故事故実/温故・世故典故
古くからのなじみ。もとの。「故旧故郷故国故主
(「」と通用)古びている。使い古し。「故紙反故ほご
死亡する。「故人物故
さしさわりのある出来事。「故障事故・多故」
ことさらに。わざと。「故意故殺故買
[名のり]ひさ・ふる
[難読]何故なぜ

かれ【故】

[接]代名詞「か」に動詞「あり」の已然形「あれ」の付いた「かあれ」の音変化。「かあれば」の意から》
前述の事柄を受けて、当然の結果としてあとの事柄が起きることを表す。ゆえに。だから。
「あづまはやと詔云り給ひき。―、その国をなづけてあづまとふ」〈・中〉
段落などの初めにおいて、事柄を説き起こすことを表す。さて。それで。
大国主神あはせて五つの名あり。―、此の大国主神の兄弟あにおと八十神やそがみしき」〈・上〉

から【故/柄】

目的・目標を表す。ため。
「我が―に泣きし心を忘らえぬかも」〈・四三五六〉
原因・理由を表す。ため。ゆえ。
「あにもあらぬおのが身の―人の子の言も尽くさじ我も寄りなむ」〈・三七九九〉
複合語の形で用いる。
血縁関係にあること。「や―」「はら―」
「問ひくるう―はら―なき国に」〈・四六〇〉
㋑そのものに本来備わっている性格・性質。本性。
「国―か見れども飽かぬかむ―かここだ貴き」〈・二二〇〉

こ【故】

[接頭]
姓名・官職名などに付いて、その人がすでに死亡したことを表す。「山田一郎氏」
官位や地位を表す語に付いて、それがもとのものであることを表す。前の。「中宮の大夫」

え〔ゑ〕【故】

《「ゆえ」の音変化》ゆえ。わけ。理由。
「思ふ―に逢ふものならばしましくも妹が目離れて吾居らめやも」〈・三七三一〉

け【故】

原因、理由を表す語。ゆえ。ため。
「泣く泣くよばひ給ふ事、千度ばかり申し給ふ―にやあらむ、やうやう雷鳴止みぬ」〈竹取

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「故」の意味・読み・例文・類語

ゆえ ゆゑ【故】

〘名〙
[一] 深い理由や原因。また、由来。
① 物事の確かな理由・原因。わけ。子細。
万葉(8C後)一四・三四二一「伊香保嶺に雷(かみ)な鳴りそね我が上には由恵(ユヱ)はなけども児らによりてそ」
源氏(1001‐14頃)夕顔「この扇の尋ぬべきゆへありて見ゆるを、猶このはたりの心知れらん者を召して問へ」
② 非常に趣のある様子。すばらしい風情。また、良い趣味。情趣。
※源氏(1001‐14頃)帚木「人もたちまさり、心ばせまことにゆへありと見えぬべく」
③ 人の素姓や身分、物の成り立ちなどの、すぐれて由緒のあること。
※宇治拾遺(1221頃)一〇「男はもとよりゆへありける人の末なりければ、口惜しからぬさまにて侍りけり」
④ 縁故のあること。ゆかり。
今昔(1120頃か)三〇「若し旧き男にて有し人の故などにてもや御(おはし)ますらむと思つれば」
⑤ さしさわり。故障。
※万葉(8C後)一三・三二八八「さなかづら いや遠長く 我が思へる 君によりては 言の故(ゆゑ)も 無くありこそと」
[二] 体言や活用語の連体形などに付けて用いる形式名詞。
① 理由を示す。…のため。
古事記(712)中・歌謡「櫟井の 丸邇坂(わにさ)の土(に)を 端土(はつに)は 膚赤らけみ 底土(しはに)は に黒き由恵(ユヱ) 三栗(みつぐり)の その中つ土を 頭衝(かぶつ)く 真火には当てず 眉画き 濃に画き垂れ 逢はしし女」
※源氏(1001‐14頃)桐壺「ただこの人のゆへにて、あまたさるまじき人の恨みを負ひし果て果ては」
② 前の事柄に対して、結果としての後の事柄が反対性・意外性を持つ場合、逆接的意味に解される。…だのに。…であるが。
※万葉(8C後)七・一三七〇「はなはだも降らぬ雨故(ゆゑ)にはたつみいたくな行きそ人の知るべく」
[語誌](1)事物に本質的に備わっている原因をいう。これに対して、類義語「よし(由)」は、要因を事物のうちに求めることに重点があり、両者は本来、意味を異にする語と思われる。しかし、すでに上代から「ゆえよし」という語形が存し、また古辞書類でも同一字にユヱ・ヨシ両訓が認められることなどから、古くから両者の意味は近接していたと思われる。
(2)中古の和文では(一)②・③の意で用いられるようになるが、これは「ゆえあり」という文脈的意味を取り込んだもので、人物や事物の風情が、そのもののすばらしい本質に由来する、つまり「ゆえあり」と感じられる状態をさして用いられたもので、同様の意味は「よしあり」にも見られる。

かれ【故】

〘接続〙 (「か(斯)」に動詞「あり」の已然形「あれ」の付いた「かあれ」から転じたもの)
① 先行の事柄の当然の結果として、後行の事柄が起こることを示す。こういうわけで。ゆえに。かかれば。
※古事記(712)上「『〈略〉還り降りて改め言へ』とのりたまひき。故(かれ)(ここ)に反り降りまして、更に其の天の御柱を先の如く往き廻(めぐ)りたまひき」
② 段落などの初めにおいて、事柄を説き起こすことを示す。さて。そこで。ここに。
※古事記(712)上「故(かれ)、避追(やら)はえて、出雲の国の肥の河上に在る鳥髪の地(ところ)に降りましき」

こ【故】

[1] 〘名〙 昔からのなじみ。古い知り合い。〔周礼‐秋官・小司寇〕
[2] 〘接頭〙
① 官位、姓名などの上に付けて、その人がすでに死亡していることを表わす。なき。
※土左(935頃)承平五年二月九日「故ありはらのなりひらの中将の」 〔沈約‐碑題〕
② 官位や地位を表わす語の上に付けて、それがもとのものであることを表わす。もと。前の。さきの。
※栄花(1028‐92頃)暮待つ星「大夫には故中宮の大夫」

【故】

〘名〙 (「ゆえ」の変化したもの) ゆえ。理由。
※万葉(8C後)一五・三七三一「思ふ恵(ヱ)に逢ふものならば暫(しまし)くも妹が目離(か)れて吾(あれ)居らめやも」

け【故】

〘名〙 理由を示す語。ゆえ。ため。せい。
※竹取(9C末‐10C初)「千度ばかり申し給ふけにやあらん。やうやうかみ鳴り止みぬ」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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