一向(読み)イッコウ

デジタル大辞泉 「一向」の意味・読み・例文・類語

いっ‐こう〔‐カウ〕【一向】

[名]一向宗いっこうしゅう」の略。
[副](「一向に」の形で用いる)
全然。まったく。「何を言われても一向に動じない」
(あとに打消しの語を伴って)ちっとも。少しも。「一向に存じません」「服装には一向に構わない」
ひたすら。いちずに。
「その儀では候はず、―御一家の御上とこそ承り候へ」〈平家・二〉
いっそのこと。むしろ。
「さもなくば―に時宗が首討って」〈浄・大磯虎〉
[形動][文][ナリ]《近世江戸語》話にならないほどひどいさま。全くひどいさま。
「今日は―なものさ。この腹ぢゃあ飲めやせん」〈洒・通気粋語伝〉
[類語]全く全然さっぱりまるきりまるで少しもからきしちっとも皆目一切まるっきり何らとんといささかも毫も微塵も毛頭更更何もなんにも何一つ一つとして到底とても全くもってどだいてんで寸分一寸寸毫毫末夢にも元元元来本来大体自体そもそも元より根っから今まで従来年来旧来これまで在来従前古来かねがねかねて常常つねづね間断かんだん延延連綿長長ながなが脈脈綿綿縷縷るる前前まえまえずっと生まれつき生来

い‐こう〔‐カウ〕【一向】

[副]《「いっこう(一向)」の促音の無表記》ひたすら。
「その代はりに、―に仕うまつるべくなむ」〈玉鬘

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「一向」の意味・読み・例文・類語

いっ‐こう‥カウ【一向】

  1. [ 1 ] 〘 副詞 〙 ( 「に」「の」を伴うことが多い )
    1. 一つのことがらに専念して他を考えない意を表わす語。動作性の語にかかりやすい。ひたすら。いちずに。いこう。
      1. [初出の実例]「智者の振舞をせずして、只一かうに念仏すべし」(出典:一枚起請文(1212頃))
      2. 「一かう彼れをうち頼み、年月を送り給ふ」(出典:曾我物語(南北朝頃)二)
      3. [その他の文献]〔薬師経〕
    2. 物事が完全に一つの傾向にある意を表わす語。形状性の語にかかりやすい。すべて。全部。もっぱら。たいそう。むやみに。
      1. [初出の実例]「次震動顛倒、材木一向自中倒臥」(出典:左経記‐長元四年(1031)一〇月一七日)
      2. 「他(ひと)が顫へて居ても一向平気なものである」(出典:吾輩は猫である(1905‐06)〈夏目漱石〉一)
    3. 下に打消の語を伴って、程度の完全なことを強める意を表わす。まるで。ちっとも。さっぱり。まったく。
      1. [初出の実例]「一向莫言煩熱尽、秋風偸逐地形催」(出典:殿上詩合(1056)泉石夏中寒〈藤原季綱〉)
      2. 「筧の水が凍りて、一向に水が不通ぞ」(出典:中華若木詩抄(1520頃)中)
    4. 一つの方面
      1. [初出の実例]「一かうの風斗(ばかり)を得て十体にわたる所を知らで」(出典:申楽談儀(1430)序)
    5. 一つのことがらを選び取る意を表わす。いっそ。むしろ。
      1. [初出の実例]「母の御めんなくは一ッ向(いっこう)御手にかけてたべ」(出典:浄瑠璃・大磯虎稚物語(1694頃)四)
  2. [ 2 ] 〘 形容動詞ナリ活用 〙 否定的な意味を含めていう。全くひどい。まるでだめだ。→一向なもの
    1. [初出の実例]「代々一向な仕打(しうち)の者にまぎれござなく候かへ」(出典:洒落本傾城買二筋道(1798)夏の床)

一向の語誌

平安時代のかな文学には「いかう」が多く、鎌倉時代以後は「一向」が多い。


ひた‐ぶる【一向・頓】

  1. ( 古くは「ひたふる」か )
  2. [ 1 ] 〘 形容動詞ナリ活用 〙
    1. ただ一つの方向に強く片寄るさま。もっぱらそのことに集中するさま。いちず。ひたすら。
      1. [初出の実例]「親ののたまふことをひたふるにいなび申さむ事のいとほしさに」(出典:竹取物語(9C末‐10C初))
      2. 「人はよろづをさしおきて、ひたふるに徳をつくべきなり」(出典:徒然草(1331頃)二一七)
    2. 完全にその状態であるさま。すっかり。まったく。
      1. [初出の実例]「大菩提に於て 永(ヒタフルニ) 退転せじ」(出典:守護国界主陀羅尼経平安中期点(1000頃))
    3. 向こう見ずで、ひたむきなさま。
      1. [初出の実例]「ひたふるなる御心なつかはせ給そ」(出典:源氏物語(1001‐14頃)夕霧)
    4. 無理を冒して強引なさま。粗暴で配慮に欠けるさま。
      1. [初出の実例]「海賊のひたふるならむよりもかのおそろしき人の追ひ来るにやと」(出典:源氏物語(1001‐14頃)玉鬘)
  3. [ 2 ] 〘 副詞 〙 もっぱらそのことに集中するさま、完全にそうであるさまを表わす語。ひたすら。
    1. [初出の実例]「よそめにはひたふる狂人と人や見るらん」(出典:謡曲・清経(1430頃))
  4. [ 3 ] 〘 名詞 〙 向こう見ずで勇猛な士。
    1. [初出の実例]「劔を帯せらむひたふる万人」(出典:今昔物語集(1120頃か)五)

ひと‐むき【一向】

  1. 〘 名詞 〙 ( 形動 )
  2. 一つの方向。一つの方面。また、そのさま。
    1. [初出の実例]「ひたすら静なる本木の、音曲ばかりなると、又、舞・働きのみなるとは、一むきなれば、書きよき物なり」(出典:風姿花伝(1400‐02頃)六)
  3. ある一つのことに心を向けて、ほかを顧みないこと。また、そのさま。ひたむき。一途
    1. [初出の実例]「さる故にや、一むきの人の及ざる所をせし也」(出典:古今連談集(1444‐48頃)下)

い‐こう‥カウ【一向】

  1. 〘 副詞 〙 ( 「いっこう(一向)」の促音が表記されなかった形。「に」を伴っている ) =いっこう(一向)[ 一 ]
    1. [初出の実例]「をば君にあづけ奉りて、いかうにこのことを後見(うしろみ)奉らん」(出典:宇津保物語(970‐999頃)国譲下)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「一向」の解説

一向 いっこう

俊聖(しゅんじょう)

出典 講談社デジタル版 日本人名大辞典+Plusについて 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内の一向の言及

【専修念仏】より

…法然以前にももっぱら念仏を修して往生した人々はあり,往生伝が作られているが,それら念仏者は,諸行のなかの一つとしての念仏を修していた。法然の教説では,〈弥陀の一切衆生のためにみづからちかひたまひたりし本願の行なれば,往生の業にとりては念仏にしくことはなし〉(〈津戸三郎へつかはす御返事〉)と信じて,一向に修する念仏が要求されており,法然以前と以後とでは念仏観に質的相違があった。念仏は行者が選ぶものではなく,阿弥陀仏が選んだものであるゆえに絶対の価値があるとされた。…

※「一向」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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