デジタル大辞泉 「全然」の意味・読み・例文・類語
ぜん‐ぜん【全然】
「―たるスパルタ国の属邦にあらずと雖も」〈竜渓・経国美談〉
[副]
1 (あとに打消しの語や否定的な表現を伴って)まるで。少しも。「
2 残りなく。すっかり。
「結婚の問題は―僕に任せるという愛子の言葉を」〈志賀・暗夜行路〉
3 (俗な言い方)非常に。とても。「
[類語](1)まったく・まるきり・まるで・さっぱり・
( 1 )近世後期に中国の白話小説から取り入れられ、「まったく」というルビを付けて用いられていた。
( 2 )明治期に入っても、小説では「すっかり」「そっくり」「まるで」「まるきり」などのルビ付きで用いられていることが多い。二葉亭四迷「浮雲‐二」の「全然(スッカリ)咄して笑ッて仕舞はう」、尾崎紅葉「金色夜叉‐前」の「此家は全然(ソックリ)お前に譲るのだ」、島崎藤村「破戒‐三」の「全然(マルデ)師範校時代の瀬川君とは違ふ」、坪内逍遙「当世書生気質‐一〇」の「先刻桐山から聞いた事をば、全然(マルキリ)鸚鵡石で喋口(しゃべ)りたてる」など。漢語「ぜんぜん」が一般化するのは明治三〇年から四〇年にかけてである。
( 3 )( 2 )に挙げた例のルビでもわかるように、「全然」は「すべてにわたって」「残るところなく」「全部」というような意味で、[ 二 ]①②のように、もともとは肯定表現にも否定表現にも使うことができた。否定表現との結びつきが強まるのは大正末から昭和にかけてである。
( 4 )[ 二 ]③は、昭和二〇年以後に現われた用法で、肯定表現を伴う点では[ 二 ]①と似ているが、①のように「残らず」「全部」の意味は含まず、ある状態の程度を強調するだけの働きである点が異なる。多くの人がこれを奇異な使い方に感じたのは、否定表現を伴わないということだけではなく、[ 二 ]①とは違って、「とても」「非常に」と同様、単なる程度強調に使われたということが大きな理由である。
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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