精選版 日本国語大辞典 「足・脚」の意味・読み・例文・類語
あし【足・脚】
[1] 〘名〙
[一] 動物のからだに付属し、からだを支えたり、移動させたりすることに用いる器官。脊椎動物では四本を原則とし、魚類のひれから進化したものとされる。人間では足首から下の部分を指す足と、骨盤と足首との間を指す脚とを区別することもあるが、一般には両部分の総称として用いる。無脊椎動物ではさまざまな構造をしているが、体から突出した自由運動のための器官である。甲殻類の付属肢、環形動物の疣足(いぼあし)などがある。
① 人間の胴体下部の器官。
(イ) 人体の下肢。骨盤から左右に分かれ出ている部分。股関節から足の指先までの部分。胴体を支え、運動に関わる。
※万葉(8C後)五・九〇四「立ちをどり 足すり叫び 伏し仰ぎ 胸打ち歎き」
(ロ) (イ)のうち、特に、くるぶしより下の部分。
※古事記(712)下・歌謡「夏草の あひねの浜の かき貝に 阿斯(アシ)ふますな 明かして通れ」
※源氏(1001‐14頃)玉鬘「あゆむともなくとかくつくろひたれどあしのうら動かれず」
② 人以外の動物の下肢を①に準じて言ったもの。
※伊勢物語(10C前)九「白き鳥のはしとあしと赤き、鴫(しぎ)の大きさなる」
[二] 物の形状または機能を(一)に見たてて言う。
① 物の下部にあって、それをささえる用をなすもの。また、線状をなして下へ出ているもの。
※書紀(720)神武即位前一〇月「一柱騰宮(アシひとつあがりのみや)。此云二阿斯毘苔徒鞅餓離能瀰椰一」
※源氏(1001‐14頃)行幸「かすかなるあし弱き車など輪をおしひしがれ、あはれげなるもあり」
② 山の裾。麓。〔史記‐李斯〕
③ (「雨の足」「風の足」の形で) 線状にとらえた、雨の降りざま、風の吹きざま。
※枕(10C終)一九八「雨のあし横さまにさわがしう吹きたるに」
※海道記(1223頃)豊河より橋本「松を払ふ風の足は」
④ 長旗の末端に垂れ下がり風に翻る部分。旗脚(はたあし)。〔十巻本和名抄(934頃)〕
※源平盛衰記(14C前)三五「旌(はた)の足(アシ)を見て、五十騎三十騎此こ彼(かしこ)より馳集る」
⑤ (船の足の意で)
(イ) 船の深さ。船体が水中に入っている喫水のことをいう場合と、船体内の深さをいう場合がある。前者を入足(いりあし)または惣足(そうあし)といい、後者を立足(たちあし)といって区別する。→足が入る。
※高倉院厳島御幸記(1180)「御舟のあし深くて湊へかかりしかば」
(ハ) 船の進み具合。→足が強い。
※仮名草子・尤双紙(1632)上「かろきもののしなじな〈略〉名さへかる石。から船のあし」
⑥ 太刀をつるための帯取(おびとり)を通す金具。一の足と二の足がある。
※鎌倉殿中以下年中行事(1454か)一二月一日「右の手をば、御剣二の足のもとをとり」
⑦
(イ) (晉の魯褒の「銭神論」に、「翼なくしてとび、足なくして走る」とある句からでたものかともいう) 銭(ぜに)の異名。足があって歩くかのように、渡っていくところからいう。→お銭(あし)。
(ロ) 相場用語として、株の値段の動きをいう。あしどり。「足が早くて買人追いつかず」
⑨
※歌舞伎・音聞浅間幻燈画(1888)序幕「『去年貴様は不義理だらけで近在の方へ行ったときいたが』〈略〉『おっしゃる通り足だらけで江戸に居られず』」
⑩
(イ) (酒の品質を支えるものとしての) 酒の性質。主に酒言葉として用いる。
※童蒙酒造記(1687頃)一「一、酒の足とは酒の性の事也」
(ロ) 餠などの食べ物の粘着力、ねばりけについていう。
※蕎麦通(1930)〈村瀬忠太郎〉四「昔の蕎麦粉の製法は、〈略〉外皮や甘皮の壊れたのが交って居て、粉の色が黒くなり随って足(粘着力)がない」
⑬ 漢字構成の名称。漢字の下の部分をいう。「思」の「心」、「然」の「灬」など。
⑭ 男陰。「中足」「前足」などの形で用いることが多い。
⑮ 網目の結び目と結び目との間の部分。「網目の脚」
⑯ 「かやあし(茅足)」の略。こけらぶきのこけら板の重ねのおりめの寸にいう語。「あし一寸五分」
[三] (一)を用いて、歩いたりするなど、それに関わる行動をすること。また、その行動の結果や機能。
① 歩くこと。あゆみ。
※宇津保(970‐999頃)春日詣「この御前にあそばすおほん琴の音するかたにむきて、疾(と)きあしをいたして走る」
②
※疑惑(1913)〈近松秋江〉「直ぐその足で〈略〉上野のステーションに駈けつけ」
(ロ) 客が来ること。客足。
※今年竹(1919‐27)〈里見弴〉二夫婦「客の足を繋ぐために、どうかしてきまった妓(をんな)でもあてがはう」
③ 移動をするためにかかる費用。足代。もとは、主に寄席芸人の隠語として用いたものか。「あごあし付き」
④ 足どり。足あと。特に、逃亡者についていう場合が多い。→足が付く。
※誰にも言えない(1953)〈大下宇陀児〉「この質問は、甲府での足を取るための第一歩で、感付かれはしないかとひやひやしたが」
⑤
(イ) (「足がかり」の略か) 手がかり。関係をつけるきっかけ。→足を付ける②。
※歌舞伎・桜姫東文章(1817)六幕「よしない捨て子を足にして、二十両たァあんまりな」
(ロ) ((イ)の結果としての) 情人。悪足。
※洒落本・仕懸文庫(1791)三「此節ほうこう人もほしいが、わりい足でもついちゃアいねへかノ」
※歌舞伎・東海道四谷怪談(1825)四幕「女房に飽きが来て、外(ほか)の女を足にしようとしたのを」
⑥ =あしいろ(脚色)
⑦ 「あしづかい(足遣)②」の略。
※随筆・桐竹紋十郎手記(1910頃)「寛政年足名人吉田万吉」
⑧ 鞠を蹴ること。鞠を蹴る技術。また、蹴る人。まりあし。
※嵯峨のかよひ(1269)「我も人もけうあるあしどもおほし」
[2] 〘接尾〙
① 数詞の下について、広さの単位を表わす。
② 石高、金銭などの概算をいうか。…ぐらい。…内外。
※牛庵一代御奉公覚書(益田家文書)(1635)「防長二一石あしも知行持不申候」
[語誌]アシは上代から現代まで、足首から下と、下肢全体の両方を指して使われ続けている。中世末期から近世前期にかけて、スネがこの二つの意味でも用いられたが、アシにとって代わるまでには至らなかった。
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報