精選版 日本国語大辞典 「無意識」の意味・読み・例文・類語
む‐いしき【無意識】
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意識に基づいて心を理解しようとする意識心理学に反対するフロイトの精神分析の基礎的概念。記述的な意味と場所論的な意味をもっている。記述的用法は「無意識的」というように形容詞として使われる場合で、この意味では意識されないものはすべて無意識的である。一方、名詞として使われる場合は、フロイトの場所論(局所論ともいう)における意識、前意識、無意識からなる心的装置のなかの無意識のことをいう。精神分析の初期では、無意識は抑圧されたもの、意識から追放されたものによってつくられていると考えられたが、このような抑圧が可能になるためには排除される場所がなくてはならず、あらかじめ原抑圧があるという仮定が必要になった。したがって、無意識はただ抑圧されたものというだけでなく、無意識として独自の場所(体系)をもつものと考えられるようになった。これが、心を一つの装置とみなして、三つの場所、すなわち無意識、前意識、意識からなるという場所論である。
記述的には無意識と前意識は区別されないが、場所論的には両者は内容によって区別される。無意識は衝動を代理する表象から成り立ち、かつ自由に移動しうるエネルギーをもっているとみなされる。この無意識を典型的に表しているのが夢である。無意識は衝動のエネルギーをもっているので、絶えず意識あるいは行為として衝動を満足させようとしている。抑圧されたものは絶えず逆戻りして、意識に表れようとしているのである。この無意識の衝動は抑圧されたものである限り、衝動表象はそのままの姿では意識に表れることができず、意識に受け入れられるように歪曲(わいきょく)され、変容される。夢や病の症状は、こうした変容を受けたものである。無意識は意識と異なり、「……ではない」という否定もなく、時間もなく、破壊されることもなく、現実を顧慮することもなく、願望を充足しようとする快感原則が支配していると考えられる。これを一次過程とよび、前意識は二次過程に支配されるものとして区別される。
二次過程は、現実を顧慮する意識的・論理的な過程であり、現実に適応することを目的に発達する。無意識は「もの」表象から成り立っているのに対して、前意識は「もの」表象と「語」表象から成り立つとも考えられる。フロイトの精神分析の後期(1920年以降)には、無意識、前意識、意識の場所論はエス(イド)、自我、超自我の三つの場所(審級)からなる新しい自我論に修正された。おおむねエスは無意識に対応しているが、前意識と意識は自我あるいは超自我に対応しているわけではない。新しい場所論は無意識の概念を不用にするものではない。どこまでも無意識から意識を理解しようとするのが、精神分析の一貫した考え方である。ユングにおいては、無意識は個人的無意識と集合的無意識に分けられ、無意識は創造的活動の母胎と考えられる。
[外林大作・川幡政道]
『シャリエ著、岸田秀訳『無意識と精神分析』(1970・せりか書房)』▽『フロイト著、井村恒郎訳「無意識について」(『フロイト著作集6』所収・1970・人文書院)』▽『C・G・ユング著、高橋義孝訳『無意識の心理』(1977・人文書院)』▽『鈴木晶著『フロイトからユングへ――無意識の世界』(1999・日本放送出版協会)』▽『イグナシオ・マテ・ブランコ著、岡達治訳『無意識の思考――心的世界の基底と臨床の空間』(2004・新曜社)』
一般的には現在の意識野に現れてこないすべての心的内容をいうが,特にS.フロイトの精神分析理論において重要な地位を占める概念。K.ヤスパースによれば,無意識には,根本的に意識化することの不可能な意識外の機構(すなわち精神的なものの下部構造)と目下は無意識だが〈気づかれるようになりうるもの〉との二つがある。これに従えばフロイトの唱える無意識は,あくまで後者の,さしあたり現在の心の中には認められぬものに属する。
フロイトの無意識の概念は,主として神経症の臨床経験に基づいており,すぐれて力動的な概念である。神経症者がみずから意識できる葛藤に治療者がいかにとり組んでも神経症は治癒せず,患者が意識できぬ葛藤を精神分析療法によって推察しうるものとし,適切な解釈を通して患者に意識化させることによってはじめて治癒への道が開かれることをフロイトは経験した。この場合の無意識葛藤は,ヤスパースのいう〈気づかれるようになりうるもの〉であって,フロイトによって前意識と呼ばれる。精神分析療法に対する抵抗が取り除かれると患者の脳裡に浮かび上がってくるのがこの前意識的な表象である。
しかし前意識の深部にはさらに本来の無意識がある。このもっぱら欲動によって構成されている無意識それ自体は,心的領域と身体領域の境界概念--これはヤスパースのいう意識外の機構に近い--であって,決して意識化されることはないが,この活動の代理表象は願望とか幻想という形をとって意識化されうる。この無意識はエネルギーと浮上力とをもち,たえず前意識のなかに侵入しようとし,一方無意識の側からも同時に抑止的な影響を受ける。健康人の覚醒時の精神生活に無意識がその片鱗をのぞかせることははなはだまれだが,いいちがい,やりそこないといった失錯行為と夢とにそれは現れる。ことに夢はフロイトが〈無意識にいたる王道〉であるといったように,無意識の形成と内容とを推測させる好材料である。無意識の内容は混沌とした〈一次過程〉であり,欲動のエネルギーによって強力に備給されており,無時間的であり,快楽原則に支配されている。神経症の示すさまざまな症状は,いわば形成された夢と等価であり,無意識の欲動表象とこれを抑圧せんとする自我との葛藤の妥協的形成物とみなされる。精神分裂病(統合失調症)においては,自我の崩壊によって,むしろ無意識が露出してくるとみられる。このようにフロイトは初期の理論形成においては,〈第一の局所論〉と呼ばれる意識,前意識,無意識の系列を考え,無意識の占める領域が最も広いと考えた。後期の〈第二の局所論〉においては,エス(イド),自我,超自我の人格構造論が提示され,エスと第一の局所論における本来の無意識とはほぼ照応する。しかし同時に自我ならびに超自我の機能も無意識にとどまることが多いことが強調された。すなわち無意識の浮上を制御する自我の防衛機制も自我にとっては無意識的に自動的に発動されるものであり,超自我に迎合する自我の罪悪感や処罰されたい要求は,それが超自我の脅威に基づくものとは,当の個人にとって意識化されていないからである。
なお,フロイトは個人的無意識を考えたわけだが,ユングはさらに普遍的無意識の存在を考えた。これは経験によって生じたものではなく超個人的な心的内容で,われわれの祖先の経験が遺伝したものと考えられている。
→意識 →精神分析
執筆者:下坂 幸三
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(石川伸晃 京都精華大学講師 / 2007年)
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…S.フロイトの用語。夢では覚醒時にくらべて無意識的内容が浮上しやすくなるが,それでも無意識的内容が前意識―意識系に到達することを禁止したり抑制する機能が働いている。この機能を検閲という。…
…(3)肉体なくして精神はないが,精神のない肉体も考えられず,肉体を動かしているものこそ精神であると考える立場。また,精神と意識を同一視する立場や,無意識を考える立場もあり,ましてや,精神を研究する方法論に至っては,それを不可能であるとする立場もあって,まったくさまざまである。 近代において一応学としての心理学らしきものがはじまったのは,イギリスの経験論にもとづくロック,D.ヒュームらの連合心理学からである。…
…これは神経症患者を寝椅子に横臥させて,そのさい脳裡に浮かぶいっさいを自由に語らせる一方,治療者はこれに対していっさいの先入見を排して,患者の物語る連想にまんべんなく聴き入ることを基本とする治療法である。フロイトは,幼児期に源泉をもつ,抑圧されて無意識となった葛藤を神経症の病因と仮定したから,この自由連想法が患者の無意識的葛藤の存在を探り出すのに最良の方法と考えたのである。 さて,治療の実際は,たとい順調にはじめられたようにみえても,早晩,患者の連想はとどこおるようになる。…
※「無意識」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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