デジタル大辞泉
「無意識」の意味・読み・例文・類語
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む‐いしき【無意識】
- 〘 名詞 〙
- ① 意識のないこと。気を失うこと。
- ② ( 形動 ) 自分が自分の行為に気づいていないこと。はっきりとした自覚なしで行動すること。また、そのさま。
- [初出の実例]「これ皆故意ありてにはあらず、ただ新主人の無意識の挙動よりして生じたることにはあれど」(出典:一国の首都(1899)〈幸田露伴〉)
- ③ 心理学・哲学で、意識されない心的過程、生理的活動、反射などをさす。また、精神分析学で、意識下にあり、意識や行動に影響を及ぼすが、催眠・自由連想・麻酔などの操作によらなくては意識化されないもの。潜在意識。
- [初出の実例]「ライプニッツが楽調の美を知るを無意識中の算術といひしも」(出典:柵草紙の山房論文(1891‐92)〈森鴎外〉早稲田文学の没理想)
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無意識
むいしき
unconscious
意識に基づいて心を理解しようとする意識心理学に反対するフロイトの精神分析の基礎的概念。記述的な意味と場所論的な意味をもっている。記述的用法は「無意識的」というように形容詞として使われる場合で、この意味では意識されないものはすべて無意識的である。一方、名詞として使われる場合は、フロイトの場所論(局所論ともいう)における意識、前意識、無意識からなる心的装置のなかの無意識のことをいう。精神分析の初期では、無意識は抑圧されたもの、意識から追放されたものによってつくられていると考えられたが、このような抑圧が可能になるためには排除される場所がなくてはならず、あらかじめ原抑圧があるという仮定が必要になった。したがって、無意識はただ抑圧されたものというだけでなく、無意識として独自の場所(体系)をもつものと考えられるようになった。これが、心を一つの装置とみなして、三つの場所、すなわち無意識、前意識、意識からなるという場所論である。
記述的には無意識と前意識は区別されないが、場所論的には両者は内容によって区別される。無意識は衝動を代理する表象から成り立ち、かつ自由に移動しうるエネルギーをもっているとみなされる。この無意識を典型的に表しているのが夢である。無意識は衝動のエネルギーをもっているので、絶えず意識あるいは行為として衝動を満足させようとしている。抑圧されたものは絶えず逆戻りして、意識に表れようとしているのである。この無意識の衝動は抑圧されたものである限り、衝動表象はそのままの姿では意識に表れることができず、意識に受け入れられるように歪曲(わいきょく)され、変容される。夢や病の症状は、こうした変容を受けたものである。無意識は意識と異なり、「……ではない」という否定もなく、時間もなく、破壊されることもなく、現実を顧慮することもなく、願望を充足しようとする快感原則が支配していると考えられる。これを一次過程とよび、前意識は二次過程に支配されるものとして区別される。
二次過程は、現実を顧慮する意識的・論理的な過程であり、現実に適応することを目的に発達する。無意識は「もの」表象から成り立っているのに対して、前意識は「もの」表象と「語」表象から成り立つとも考えられる。フロイトの精神分析の後期(1920年以降)には、無意識、前意識、意識の場所論はエス(イド)、自我、超自我の三つの場所(審級)からなる新しい自我論に修正された。おおむねエスは無意識に対応しているが、前意識と意識は自我あるいは超自我に対応しているわけではない。新しい場所論は無意識の概念を不用にするものではない。どこまでも無意識から意識を理解しようとするのが、精神分析の一貫した考え方である。ユングにおいては、無意識は個人的無意識と集合的無意識に分けられ、無意識は創造的活動の母胎と考えられる。
[外林大作・川幡政道]
『シャリエ著、岸田秀訳『無意識と精神分析』(1970・せりか書房)』▽『フロイト著、井村恒郎訳「無意識について」(『フロイト著作集6』所収・1970・人文書院)』▽『C・G・ユング著、高橋義孝訳『無意識の心理』(1977・人文書院)』▽『鈴木晶著『フロイトからユングへ――無意識の世界』(1999・日本放送出版協会)』▽『イグナシオ・マテ・ブランコ著、岡達治訳『無意識の思考――心的世界の基底と臨床の空間』(2004・新曜社)』
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無意識 (むいしき)
unconscious
一般的には現在の意識野に現れてこないすべての心的内容をいうが,特にS.フロイトの精神分析理論において重要な地位を占める概念。K.ヤスパースによれば,無意識には,根本的に意識化することの不可能な意識外の機構(すなわち精神的なものの下部構造)と目下は無意識だが〈気づかれるようになりうるもの〉との二つがある。これに従えばフロイトの唱える無意識は,あくまで後者の,さしあたり現在の心の中には認められぬものに属する。
フロイトの無意識の概念は,主として神経症の臨床経験に基づいており,すぐれて力動的な概念である。神経症者がみずから意識できる葛藤に治療者がいかにとり組んでも神経症は治癒せず,患者が意識できぬ葛藤を精神分析療法によって推察しうるものとし,適切な解釈を通して患者に意識化させることによってはじめて治癒への道が開かれることをフロイトは経験した。この場合の無意識葛藤は,ヤスパースのいう〈気づかれるようになりうるもの〉であって,フロイトによって前意識と呼ばれる。精神分析療法に対する抵抗が取り除かれると患者の脳裡に浮かび上がってくるのがこの前意識的な表象である。
しかし前意識の深部にはさらに本来の無意識がある。このもっぱら欲動によって構成されている無意識それ自体は,心的領域と身体領域の境界概念--これはヤスパースのいう意識外の機構に近い--であって,決して意識化されることはないが,この活動の代理表象は願望とか幻想という形をとって意識化されうる。この無意識はエネルギーと浮上力とをもち,たえず前意識のなかに侵入しようとし,一方無意識の側からも同時に抑止的な影響を受ける。健康人の覚醒時の精神生活に無意識がその片鱗をのぞかせることははなはだまれだが,いいちがい,やりそこないといった失錯行為と夢とにそれは現れる。ことに夢はフロイトが〈無意識にいたる王道〉であるといったように,無意識の形成と内容とを推測させる好材料である。無意識の内容は混沌とした〈一次過程〉であり,欲動のエネルギーによって強力に備給されており,無時間的であり,快楽原則に支配されている。神経症の示すさまざまな症状は,いわば形成された夢と等価であり,無意識の欲動表象とこれを抑圧せんとする自我との葛藤の妥協的形成物とみなされる。精神分裂病(統合失調症)においては,自我の崩壊によって,むしろ無意識が露出してくるとみられる。このようにフロイトは初期の理論形成においては,〈第一の局所論〉と呼ばれる意識,前意識,無意識の系列を考え,無意識の占める領域が最も広いと考えた。後期の〈第二の局所論〉においては,エス(イド),自我,超自我の人格構造論が提示され,エスと第一の局所論における本来の無意識とはほぼ照応する。しかし同時に自我ならびに超自我の機能も無意識にとどまることが多いことが強調された。すなわち無意識の浮上を制御する自我の防衛機制も自我にとっては無意識的に自動的に発動されるものであり,超自我に迎合する自我の罪悪感や処罰されたい要求は,それが超自我の脅威に基づくものとは,当の個人にとって意識化されていないからである。
なお,フロイトは個人的無意識を考えたわけだが,ユングはさらに普遍的無意識の存在を考えた。これは経験によって生じたものではなく超個人的な心的内容で,われわれの祖先の経験が遺伝したものと考えられている。
→意識 →精神分析
執筆者:下坂 幸三
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むいしき
無意識
unconsciousness(英),Unbewusstes(独)
自覚的な意識がないことや自己の経験や行動に気づかないこと。あるいは,意識されないが,認知,感情の経験や行動に影響を及ぼす心的状態,過程や活動を指す。無意識という用語は記述的に用いられる場合と,精神分析的な用語として用いられる場合とがある。記述的に用いられる場合,無意識は,自分では意図していない事象や行動の説明に用いられる。ライプニッツLeibniz,G.W.は,意識に対して無意識を考え,両者間に移行段階があると考えた。たとえば,個々の雨滴の落ちる音のような微小知覚は,それ自体は意識されないが,集合的に蓄積されると意識に達するという例がある。ヘルバルトHerbart,J.F.やフェヒナーFechner,G.T.は意識に閾値の考えを導入し,閾値を超えた表象だけが意識され,それ以外は閾下にとどまり無意識を形成すると考えた。意識と無意識を連続的な階層ととらえ,上層に経験的意識が,次に意識にはないが必要に応じて想起のできる前意識(記憶)があり,さらに,想起できない無意識があり,これが上層の意識や前意識に影響を及ぼすと考えた。
気づきawarenessや注意を伴う意識には容量に制約があるが,無意識には制約が少ないと考えられる。したがって,習慣化され半ば自動化された認知や行動は無意識化されている方が効率が良い。認知や行動面では,ルーティン作業で意識化を繰り返すと無意識化が進行することが知られている。自転車にうまく乗れるようになるのも,意識が無意識的な手続き的記憶に落とされるためであり,多くの身体的あるいは認知的技能に当てはまる。われわれの日常生活の多くは,このような無意識的な行為や認知によって営まれているといえる。
次に,無意識を精神分析的な用語として用いる場合は,フロイトFreud,S.やユングJung,C.G.らの考え方が重要である。無意識な情報は,意識に到達せず抑圧された内容をもち,意識と無意識は連続的ではないと考えられる。意識のみでは理解しにくい行為や神経的症状も,そこに無意識的な心的過程を想定することで理解が可能であると考え,抑圧によって無意識状態にある心的内容を,自由連想や夢の分析を通して理解しようとする手法を採る。
精神分析でいう無意識とは異質な無意識の現象や過程も,その後以下いろいろ知られるようになった。
ブラインドサイト(盲視)blindsightは脳の1次視覚野の損傷によって視覚を喪失した人の一部が示す視覚刺激に対して反応する能力をいう。たとえば動く物体を欠損視野に提示して強制的な判断を求めると,視覚的な気づきを伴わず,本人の確信度も低いのに動きが認識されることがある。外側膝状体から1次視覚野に投射される通常のルートでは意識化されるのに対して,外側膝状体から分岐して中脳経由で高次視覚野に至るルートがブラインドサイトとかかわると推定されている。
分離脳split brainは,てんかん治療などで大脳両半球を結ぶ脳梁を切断した脳をいう。左右の大脳半球が独立して働くため,一つの身体に二つの心が宿るなどといわれ,巧妙な刺激提示と両手が反対側の神経支配で動くことを利用して,左右両半球の機能的差異の研究が進んだ。患者自身は分離を意識しているわけではない。
非意識non-consciousnessという用語は精神分析などの意味を帯びがちな無意識という術語を避ける以上のような場合に用いられることがある。
また,サブリミナルアドバタイジングsubliminal advertisingは閾下広告ともよばれ,意識に上らないような時間空間的条件で広告する手法をいう。テレビなどで知覚できないような刺激で繰り返しメッセージを出して購買への動機を強めようとする。閾下知覚subliminal perceptionは刺激閾以下の刺激が提示されたときに,皮膚電気活動や反応時間などで,なんらかの反応が得られたときに用いられる用語である。 →意識 →精神物理学 →精神分析
〔苧阪 直行〕
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知恵蔵
「無意識」の解説
無意識
フロイトによって創始された精神分析学の基本概念。無意識の概念は、人間の理性や意識がそのコントロールを超えたものによって支配されていることを示し、人間は理性的であるとした近代的人間像や意識を重視する哲学に大きな衝撃を与えた。まずフロイトは、身体に異常がないにもかかわらず歩けない等の症状が現れるヒステリー患者の治療を通じて、患者のうちに本人が認めたくない欲望があることに気づいた。心には、かなえられなかった欲望が意識に上らないよう抑圧されている。この抑圧された欲望が「無意識」とされ、ヒステリーの原因と考えられた。フロイトは、抑圧された欲望の記憶を想い出させる治療法を試みたが、患者のなかには、口では「治りたい」というにもかかわらず、抑圧された欲望を話さず抵抗する者が出てくる。そこで後期のフロイトは、患者の抵抗自体が無意識的なものであることに気づき、無意識のなかに欲望を抑圧するはたらきもあると考えた。そこで提出されたのが、「自我」「エス」「超自我」というモデルである。エスは抑圧された無意識の欲望、超自我は親の命じたルールが身につき無意識化されたものを意味する。自我はエスと超自我の葛藤の調停をはかる。こうして、患者の抵抗は、超自我の命令によるエスの抑圧、自我による調停の失敗として説明された。
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
無意識
むいしき
unconscious
記述的,局所的,力動的の3つの使い方がある。記述的には,ある時点で意識されない事象ないし行動をさす。局所的には,意志によって意識化できる局所を前意識と呼び,これに対して,抑圧を解く操作 (催眠など) によって初めて意識化可能になる局所を無意識という。また力動的には,無意識の内容を取上げる。 17世紀から「意識されない自己心」が論議されていたが,19世紀末に哲学的には F.W.ニーチェが,心理学的には S.フロイトがこの概念を明確にした。心理学では,意識されることなく精神内界で進行する心理過程を無意識という。フロイトは,自分では認識できなくてもこのような無意識過程は個人の行動を大いに左右すると主張して,現代心理学に強い影響を与えた。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
世界大百科事典(旧版)内の無意識の言及
【検閲】より
…S.フロイトの用語。夢では覚醒時にくらべて無意識的内容が浮上しやすくなるが,それでも無意識的内容が前意識―意識系に到達することを禁止したり抑制する機能が働いている。この機能を検閲という。…
【心理学】より
…(3)肉体なくして精神はないが,精神のない肉体も考えられず,肉体を動かしているものこそ精神であると考える立場。また,精神と意識を同一視する立場や,[無意識]を考える立場もあり,ましてや,精神を研究する方法論に至っては,それを不可能であるとする立場もあって,まったくさまざまである。 近代において一応学としての心理学らしきものがはじまったのは,イギリスの経験論にもとづくロック,D.ヒュームらの連合心理学からである。…
【精神分析】より
…これは神経症患者を寝椅子に横臥させて,そのさい脳裡に浮かぶいっさいを自由に語らせる一方,治療者はこれに対していっさいの先入見を排して,患者の物語る連想にまんべんなく聴き入ることを基本とする治療法である。フロイトは,幼児期に源泉をもつ,抑圧されて[無意識]となった葛藤を神経症の病因と仮定したから,この自由連想法が患者の無意識的葛藤の存在を探り出すのに最良の方法と考えたのである。 さて,治療の実際は,たとい順調にはじめられたようにみえても,早晩,患者の連想はとどこおるようになる。…
※「無意識」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」