精選版 日本国語大辞典 「壁」の意味・読み・例文・類語
かべ【壁】
へき【壁】
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建物の周囲に用いて外界から居住空間を区画し、およびその空間を建物の使用目的に応じ適宜に分割する固定した仕切りの総称であり、前者を外壁、後者を間仕切り壁という。なお地盤または床面から高さ90センチメートル程度のところまでを腰壁、窓から上の部分を小壁(こかべ)とよぶことがある。また、壁面に柱などの建築部材の露出しているものを真壁(しんかべ)、そうでないものを大壁(おおかべ)という。
壁は構造的に耐力壁と非耐力壁とに分かれる。耐力壁は建築構造上必要不可欠の部位として床、屋根その他の荷重を負担するもので、その崩壊はただちに建物全体の崩壊につながる。一般に組積式(石造、れんが造、ブロック造など)構造や壁式構造をもつ鉄筋コンクリート造の壁がこれに属する。非耐力壁は柱、梁(はり)などによって組まれた軸組(躯体(くたい))の間をふさぐもので、荷重は原則として軸組が負担する(このような構造を架構式という)ので、壁の崩壊はかならずしも建物全体の崩壊にはつながらない。わが国の木造建築(校倉(あぜくら)式のものを除く)の壁はすべてこれに属し、なお鉄骨造や普通の鉄筋コンクリート造でもおおむねこれに準じる。ただし非耐力壁であっても、これを多く設けたものほど結果的に安定した建物となる。耐力壁のうちとくに地震力に対抗する目的で設けられるものを耐震壁(へき)という。この壁を有効に設ければ、柱、梁などの負担を軽減することができる。高層建築において、最下階から最上階まで連続するエレベーター室、階段室などを囲む壁がしばしばその目的で活用される。
耐力壁は荷重を負担するという性格上、強度の削減につながる広い開口(窓、出入口など)をつくることは困難である。非耐力壁ではそれが自由につくられ、極端な場合、柱と柱の間をすべて開口にとることすら可能である。酷熱または酷寒の地域では、厳しい外気から屋内を隔離するため、窓は比較的小さくつくられる。耐力壁的発想による組積式はこのような所に発達し、北欧などで、れんが造や石造による重厚な壁の目だつ建物の多いのはこの理由による。しかし多湿の風土では、屋内の通風が重視されるから、窓を大きくとれる非耐力壁を用いる架構式のほうが適している。とくにわが国のように多湿に加えて地震の頻発するような所では、建物強度と通風の両立しない組積式は不適当である。良質の森林資源に恵まれていたわが国の建築が木造架構式に終始してきたのもそのためで、明治時代、文明開化の象徴として積極的に導入された赤れんが建築が関東大震災(1923)以来、事実上建てられなくなり、それまでこの種の構造をとっていた建物が鉄筋コンクリート造に置き換えられていったのも同じ理由による。なお世界的にみれば、硬葉樹林地帯では耐力壁をもつ建物が、照葉樹林地帯に非耐力壁をもつ建物が、それぞれ多く分布しているといわれる。
[山田幸一]
耐力壁において強度の必要なことはいうまでもないが、非耐力壁をも含めて壁にはなお次のような機能が要求される。(1)視線の遮断、(2)耐火、(3)耐水、(4)断熱、(5)遮音、(6)吸音、(7)破壊力に対する抵抗、などである。これら諸機能をすべて具備するものが優れた壁であるが、現実にはそのようなものは得がたく、建物の目的に応じて必要な機能をもつ壁がつくられる。
以上のうち(1)(2)はあらゆる建物に要求されるが、たとえば酷熱、酷寒の地域では(4)が、城塞(じょうさい)や倉庫では(7)がとくに重視されるなど、それぞれに適合した壁が用いられる。
壁の構成は壁面と壁体に分けて考えると理解しやすい。壁面とは壁の表面の状態をいい、壁体とは表面を含めた壁の全層をいう。組積式構造やコンクリート造では壁体の素地をそのまま壁面とするものもあるが(赤れんが積みやコンクリート打放しの壁がこれにあたる)、一般には別の材料で壁面に仕上げ(化粧)を施すことが多い。架構式では躯体を骨格として壁下地を組み、それに壁材料を取り付けて壁体をつくるのが普通である。しかし下地を組むかわりにコンクリートブロック、れんが、ALC(発泡コンクリート)版、PC(プレキャストコンクリート)版などを積み上げることもある。ここでのブロック積みなどは、形は組積式であっても、非耐力壁として扱われることはいうまでもない。
[山田幸一]
左官工事は、壁下地を組み壁体を構成する場合でも、コンクリートなどの素地を化粧する場合でも、古今東西を通じて壁の構成にもっとも広く採用されてきた工法である。それは、小舞(こまい)下地土壁のように一見もろく弱い仕様でも、非耐力壁ないし化粧用としては十分な力をもち、なお前述の諸機能をひととおり備えているからで、日本でも法隆寺遺構以来現在まで豊富に用いられてきた。左官工事は、それ自身多様な仕上げが可能であるが、なお材料を選ぶことによって、さらにその壁面を下地として壁画、塗装、吹付け、タイル(モザイクタイルを含む)、壁装(壁紙やクロス張り)などの化粧を施せる。また近年はコンクリート型枠の精度が向上しているので、その壁面に左官工事を省略して塗装以下の仕上げを行うこともある。
壁下地に木や石(擬石を含む)の板あるいは各種成型板(合板、合成樹脂板、ボード、金属板など)などの乾式材を取り付け壁体をつくり、あるいはコンクリート壁面などを化粧することもある。これらは左官工事に比べて工期が早く、かつ仕上げの均一性を確保しやすい利点がある。反面、乾式材はある特定の機能に対しては優れていても、他の機能をほとんどもたないものが多く、左官工事ほどの汎用(はんよう)性はない。たとえば、金属板は化粧材としての美しさはあっても断熱性や遮音性はないに等しく、少なくとも断熱材を併用した複合材料として用いなければならない。
[山田幸一]
(1)防火壁、(2)吸音壁、(3)透光壁、(4)耐酸壁、(5)耐食壁、(6)放射線遮蔽(しゃへい)壁など、特殊な用途にあてられる壁がある。(1)は多人数を収容する建物または一定規模以上の建物で防火区画を必要とするところに、(2)は奏楽室などで残響時間の調整を必要とするところに、(3)は一般の壁とは異なり光の透過を必要とするところに、(4)(5)は薬品を扱うところに、(6)は放射性物質を扱うところ(医療機関や原子力発電所など)に、それぞれ用いられるもので、いずれもその目的に見合った特殊な構成となる。たとえば(1)は壁体全層を不燃材料で構成し、もし開口をとる場合は防火戸で随時密閉できるようにしておかなければならず、その仕様は建築基準法に規定されている。
壁という語は、また文芸作品で「塗る」と「寝る」をかけて夢の異称として用いられることもある。例「ねぬ夢にむかしのかへを見つるよりうつゝにものそかなしかりけり」(『後撰(ごせん)和歌集』)。また女房詞(ことば)の「おかべ」は豆腐の異称で、豆腐を白壁に見立てて、いいかえたものである。
[山田幸一]
『山田幸一著『壁』(1981・法政大学出版局)』▽『山田幸一編『日本の壁』(1982・駸々堂)』
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…同じ木造であっても,材木を横にして積み重ねる校倉(あぜくら)のような構造は,倉庫その他のごく一部の建築にしか使われなかった。骨組みのなかで最も重要なのは,柱と,これをつなぐ梁(はり),貫(ぬき),長押(なげし)で,壁は単なる仕切りにすぎず,構造的に重要な意味をもたない。そのため,壁をまったくもたない建築も可能であり,また一般に窓や出入口は煉瓦造,石造に比べてはるかに大きい。…
…それらの屋内諸室は床(とこ),棚,付書院,納戸構(なんどがまえ)の座敷飾を装置した座敷(上段間につくる場合が多い)を上座とし,二の間,三の間などの下座,納戸などを付属した構成をもち,四周に広縁,入側縁をともなった。これらの諸室の間仕切には襖障子をたて,鴨居(かもい)の上は欄間または小壁につくる。室内は畳を敷きつめ,上座は一段高く上段につくって下座と区別した。…
…その結果として,自然,建物の大きさはある程度に制限され,大規模なものはごくまれである。柱と梁とが主要な構造材であるから,壁は仕切りにすぎず,構造的な意味はない。したがって,柱と柱との間はすべて開放とすることができる。…
…屋根葺き材の種別では,茅葺き(かやぶき)(藁葺き),杉皮葺き・板葺き(ともに石置屋根),桟瓦(さんがわら)葺き,本瓦葺きがある。外壁の種別では柱を外に見せた真壁(しんかべ)式と,壁の中に柱を塗り籠めた大壁式に大別される。真壁式は東日本,大壁式は西日本の民家に多い。…
…建築空間の下部にあって,その上に人がのり,物を置き,種々の生活を繰り広げる目的で設けられる水平な面をいう。屋根,壁などとともに,生活のための空間を直接つくりあげているもっとも基本的な建築の一要素といえる。屋内にあるものに限って床という場合もあるが,現代の建築学では,屋内外を問わず,前述の定義に合致するものを床としてとらえるのが一般的である。…
※「壁」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について | 情報
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