(読み)セン

デジタル大辞泉 「泉」の意味・読み・例文・類語

せん【泉】[漢字項目]

[音]セン(漢) [訓]いずみ
学習漢字]6年
地中からわき出る水。いずみ。「泉水温泉渓泉源泉鉱泉神泉清泉盗泉飛泉噴泉湧泉ゆうせん・ようせん
温泉のこと。「泉質塩泉間欠泉単純泉
あの世。「泉下黄泉こうせん
穴あき銭。「泉貨刀泉
和泉いずみ国。「泉州
[名のり]み・みず・みぞ・もと
[難読]和泉いずみ黄泉よみ

いず‐み〔いづ‐〕【泉】

《「出水いずみ」の意》地下水が自然に地表にわき出る所。また、そのわき出た水。湧泉ゆうせん 夏》「―への道おくれゆく安けさよ/波郷
物事が出てくるもと。源泉。「希望の」「知識の
[補説]作品名別項。→
[類語]湧き水清水岩清水泉水噴水オアシス井戸掘り抜き井戸

いずみ【泉】[絵画]

《原題、〈フランスLa Sourceアングルの絵画。カンバスに油彩。縦163センチ、横80センチ。泉の擬人像である女性が水瓶から水を注ぐ姿を描いた作品。新古典主義絵画における裸婦像の傑作の一とされる。パリ、オルセー美術館所蔵。

いずみ【泉】[横浜市の区]

横浜市の区名。昭和61年(1986)戸塚区から分区。

いずみ【泉】[姓氏]

姓氏の一。
[補説]「泉」姓の人物
泉鏡花いずみきょうか

いずみ【泉】[仙台市の区]

仙台市北部の区名。住宅地。もと泉市で、昭和63年(1988)仙台市に編入、翌年区となる。

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精選版 日本国語大辞典 「泉」の意味・読み・例文・類語

いず‐みいづ‥【泉】

  1. [ 1 ] 〘 名詞 〙
    1. ( 「出水」の意 ) 地中からわき出てくる水。また、そのわき出る場所。《 季語・夏 》
      1. [初出の実例]「試みに近江の益須郡の醴泉(こさけのイツミ)を飲ましめたまふ」(出典:日本書紀(720)持統七年一一月(北野本訓))
      2. 「結ぶより早(はや)歯にひびく泉かな〈芭蕉〉」(出典:俳諧・都曲(1690)上)
    2. ( を比喩的に用いて ) ものごとの出てくるもと。源泉。
      1. [初出の実例]「人生の苦限を救ふのは愛(ラヴ)の霊泉(イヅミ)だと初めて気が附いた」(出典:くれの廿八日(1898)〈内田魯庵〉五)
    3. いずみどの(泉殿)」の略。
      1. [初出の実例]「堀河のいづみ、人々見んとありしを」(出典:讚岐典侍(1108頃)下)
    4. ( 死の世界を「黄泉(こうせん)」というところから ) 死者の行く世界。よみのくに。黄泉。
      1. [初出の実例]「往事渺茫としてすべて夢ににたり。旧遊零落して半(なかば)(イズミ)に帰す」(出典:車屋本謡曲・松山鏡(1539頃))
  2. [ 2 ]
    1. [ 一 ] 横浜市の行政区の一つ。昭和六一年(一九八六)戸塚区から分離成立。市南西部、境川支流の和泉川東岸にある。相模鉄道いずみ野線が通じ、通勤住宅地として発展。
    2. [ 二 ] 仙台市の行政区の一つ。平成元年(一九八九)成立。市北西部、七北田(ななきた)川流域にある。旧泉市域。商業・住宅地域。

いずみいづみ【泉・和泉】

  1. 姓氏の一つ。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「泉」の意味・わかりやすい解説

泉(湧泉)
いずみ

地下水が、地下水流動系の流出域の抵抗の弱い部分で自然に地表へ湧(わ)き出しているところ。湧泉(ゆうせん)ともいう。ヨーロッパでは16、17世紀まで、泉や地下水の起源は、地下の岩石に隠れている巨大な貯水池で、海から地下を通ってきて塩分の抜けた水がたまったものであると信じられていた。このような考えを水の逆循環説という。現在では泉の降水起源説が定説となっている。

[榧根 勇]

地形や地質による分類

泉は水文地質状態によって次のように分類できる。

(1)不圧帯水層の露頭から出る泉 地下水面と地表面との切り合いに生じる泉で、地下水面下に切り込んでいる河川の河畔にできる沿河泉(えんかせん)、谷の側壁に発達する谷壁泉(こくへきせん)、崖(がけ)の下に発達する崖下泉(がいかせん)、地下水面まで達している小窪地(くぼち)にある凹地泉(おうちせん)、扇状地の傾斜が緩くなる扇端(せんたん)部にみられる扇端泉などがある。一般にこの型の泉の規模は小さい。

(2)透水層と不透水層が互層をなしている所から出る泉 不透水層が侵食されて被圧帯水層が地表に露出し、被圧地下水が湧出する泉で、地質構造によって単斜泉、向斜泉、背斜泉および不整合泉に分類できる。

(3)溶食洞から出る泉 カルスト地形の地域に多くみられる泉で、地下水は岩石の節理系統や割れ目に沿ってできた管や洞窟(どうくつ)の中を流れる。この種の泉には巨大なものがあり、南フランスの石灰洞から出るボークリューズの泉は豪雨後には湧出量を増し毎秒120立方メートルに達するが、乾期には毎秒6立方メートルに減じる。秋吉台(あきよしだい)の秋芳洞(あきよしどう)の湧水は200ヘクタールの水田を灌漑(かんがい)していた。

(4)溶岩中から出る泉 溶岩の割れ目や透水性の火山砂礫岩(かざんされきがん)などから出る泉で、火山山麓(さんろく)や溶岩台地の末端部にみられ、大湧泉が多い。富士山の三島溶岩から湧き出す静岡県三島市や柿田川の湧水の湧出量は、合計して毎秒15立方メートルで日本一と称せられた。

(5)岩石の割れ目から出る泉 岩石の割れ目系統を雨水が満たし、水が低い地点まで流下して湧出するものと、断層などで地下に不連続が生じ割れ目から地下水が自噴するものとがある。

[榧根 勇]

湧出状態による分類

富士山の白糸ノ滝(しらいとのたき)のように、岩の割れ目からほとばしり出る泉を逬出泉(へいしゅつせん)という。昔の人はこれを走井(はしりい)とよんだ。盆状のくぼんだ底から湧出し池のようになっている泉を池状泉(ちじょうせん)という。山中湖北西の忍野八海(おしのはっかい)は深さ2メートルに達する有名な池状泉である。また、どことなく水が湧出して沼沢状をなすものを湿池泉というが、これは河岸の葦原(あしはら)のように、相対的に低地帯である所でよくみられる。湖底や海底など水中へ流出する湧水もある。琵琶湖(びわこ)の西岸には湖底湧水が、海に面する富山県黒部川扇状地の沖合には海底湧水が、それぞれ多数ある。大規模な海底湧水はフロリダ半島など石灰岩地帯に多い。

 湧出量が周期的に変化する間欠泉(かんけつせん)はカルスト地形の地域に多く、岩石中の空洞のサイフォン作用によるものと思われる。広島県帝釈峡(たいしゃくきょう)の「一杯水(いっぱいみず)」はこの種の泉として有名である。熱水と水蒸気の混合物を周期的に噴出する間欠沸騰泉は温泉の一種で、アイスランドのガイサー、アメリカのイエローストーン国立公園のものが有名である。日本にも熱海大湯(あたみおおゆ)や宮城県鬼首(おにこうべ)に間欠泉があったが、いまは噴出していない。1983年(昭和58)6月に長野県の諏訪湖(すわこ)東岸で大規模な間欠泉が掘り当てられた。

[榧根 勇]

水温

浅層地下水の湧出している泉の水温は年変化するが、恒温層以下の地下水では年変化しない。徳島県吉野川右岸の江川(えがわ)湧泉の水温は7~8月に9℃、12~1月に22℃になり、その原因は、河川水が地下に伏流し湧出するまでに遅れが出るためといわれている。日本の温泉法では25℃以上は温泉になる。

[榧根 勇]

水利用

カルスト地形の地域には河川がなく、泉が唯一の水源である。乾燥地域では集落はオアシスに立地する。また崖錐(がいすい)(崖下に堆積(たいせき)した岩屑(がんせつ))や扇状地に横井戸を掘って人工的な泉をつくり灌漑(かんがい)などに利用している。これらの横井戸には地方によって異なった呼称があり、イランではカナートqanat、アフガニスタンではカレーズkarez、北アフリカではフォガラfoggaraなどとよばれており、日本の鈴鹿(すずか)山麓にも「マンボ」とよばれる同種のものがある。日本の火山山麓や扇状地末端の泉は、水量が豊富で、水温の年変化が少ないため、マス類やアユ類の養殖に適しており、岩手山麓、那須(なす)山系、日本アルプス山系、富士山麓、伊吹山麓、阿蘇(あそ)山麓、霧島山系などで大規模な養殖が行われている。山間部には湧水を利用したワサビ田も多い。1985年(昭和60)に環境庁(現、環境省)が選定した「昭和の名水百選」の約8割が湧水であり、その後20年以上が経過して新たに選定した「平成の名水百選」も、その6割以上が湧水である。日本の湧水量は降水量の減少、地下水揚水量の増加、減反(げんたん)政策による水田からの浸透量の減少などにより減少傾向にある。環境省は2010年(平成22)に「湧水保全・復活ガイドライン」を作成し、先進的な取り組み事例を紹介している。

[榧根 勇]

日本の民俗

大都市や離島を別にすると、日本は水の豊かな国である。人口が少なくて、自由に住居を選ぶことのできた時代には、まずきれいな水が手近にある所に家を建てて住み着いたであろう。泉は出水(いずみ)の意である。各地の方言にも同類のことばが多く、「でみず」「ですい」を基本形として、「でみ」「です」「ねみず」などがある。「しょうず」「しゅうず」などは「そうず」(添水)の転で、また「すず」というのは、泉の湧き出る音からきた名称と思われる。また「ひぐち」「ふね」は水を受ける設備の名の転用であり、「かま」「がま」「ほら」は地形からきている。「しみずいど」「ぼくぼくみず」などの表現もある。長崎県の平戸島(ひらどしま)や五島列島(ごとうれっとう)では、臨終の病人が「望み水」ということをする。これは、泉や井戸のなかでとくに冷たくて水質のよいものを指定して、死ぬ前にその水を飲みたいと希望するものである。飲み慣れた故郷の水を思う存分飲んでから、静かに息を引き取るのである。

 掘抜き井戸の技術の発達しなかったころは、飲料水源としての泉の必要は切実で、神の恩恵とも考えていたから、傍らに水神を祀(まつ)り、旱天(かんてん)にも干上がることのない泉は、霊泉と崇(あが)められた。また、たとえば長野県戸隠(とがくし)神社の霊泉は、日照りが続いても水量の豊かなことで知られており、旱天が続くと近在から雨乞い(あまごい)にくる。おのおの容器を持って参拝し、霊泉の水を頂いて帰る。それを田に少しずつ振りまくと、雨が降るというのである。

 泉にまつわる伝説も多い。とくに弘法水(こうぼうすい)の伝説は全国に広く分布している。弘法大師が諸国を巡るうち、水がなくて困っている所で、杖(つえ)をついて教えたとか、水を求めたら遠くへ行って汲(く)んできたので、お礼に杖をついて水が出るようにしたとか、不親切にしたため水が出なくなったとか、種々の語り方がある。

 あるいは、歴史上の著名人がその水を硯(すずり)水に使ったという「硯水」や「筆清水」、武将が矢を射た所から湧いたという「矢の根清水」、著名人が産湯に使ったという「誕生水」や「産湯水(うぶゆみず)」、孝行息子が酒好きの父親のために清水をくんで与えたら、その水が酒になったという「子は清水」、高貴な姫や長者の娘が化粧に使ったという「化粧清水」、白粉(おしろい)を溶いて旅の化粧くずれを直したという「白粉水」、自分の姿を映したという「姿見の井」など、泉の伝説が数多く伝承されているのは泉のほとりで神を祀り霊泉を神に捧(ささ)げた名残(なごり)であろう。

[井之口章次]

世界の民俗

泉は、英語の場合に井戸と同じくwellとよばれるように、井戸と共通する民俗をもち、しばしばともに崇拝の対象となる。セム系諸民族の世界観では、乳状の液体をたたえる楽園の泉が存在する。その液体は、生命の樹(き)から滴り、あるいは流れ落ちる神秘的物質であり、生命を養う働きをもつといわれる。この観念は、北・中央アジアに伝わり、ヒンドゥー教イスラム教のなかにも受け継がれ、ヨーロッパ世界にも広まっている。エデンの園の泉は、「青春の泉」の伝説を生み、またロマネスクやゴシックの僧院建築において、中庭の中心に噴水をもつ様式は、この観念を表している。生命力を象徴する泉は、それゆえ、病気を治したり、予防するのに効果があるとされる。南フランスの一地方では、夏至(げし)のときに若者たちが特定の泉で水浴をする。そうすることにより、その年に熱病にかからないといわれる。イギリスのウェールズ北部の聖ウィニフリードSt. Winifrideの泉は、不妊症などに効くと伝えられている。同じイギリスのドーセットには聖オーガスティンSt. Augustineの泉があり、この聖者が伝道の途中で水を欲して杖を突き刺したところ、水がわいたという伝説をもつ。このようにヨーロッパの泉崇拝は多くキリスト教の聖者伝説に結び付いている。それは、異教の風習がキリスト教に取り入れられたものである。ローマのトレビの泉のように願いをかける泉が各地に存在することや、19世紀なかばに一人の少女が聖母の姿を見て以来さまざまな奇跡をもたらす南フランスのルルドLourdesの泉が、現在も有名な巡礼地であることは、泉をめぐる宗教的観念の根強さを示している。

 古代ギリシアの風習では、泉が雨乞いにも用いられた。ゼウスの祭司がカシの枝を山頂の泉に浸して雨の呪術(じゅじゅつ)を行った。また特定の聖なる泉や井戸の水を一杯飲むと、預言する力を与えられたと伝わる。さらに、ギリシア人が贖罪(しょくざい)の供え物をしたあとで、川や泉で体を洗ったといわれるように、泉の水は清めの力ももつとされた。

[田村克己]

『水みち研究会編『水みちを探る――井戸と湧水と地下水の保全のために』(1992・立川けやき出版)』『南正時著『湧水百選 おいしい水ガイド』(1994・自由国民社)』『日本地下水学会編『名水を科学する』(1994・技報堂出版)』『竹下節子著『奇跡の泉ルルドへ』(1996・NTT出版)』『日本地下水学会編『続名水を科学する』(1999・技報堂出版)』『佐藤邦明・岩佐義朗編著『地下水理学』(2002・丸善)』



泉(熊本県)
いずみ

熊本県中部、八代(やつしろ)郡にあった旧村名(泉村(むら))。現在は八代市の東部を占める。旧泉村は川辺(かわべ)川上流の椎原(しいばる)、仁田尾(にたお)、樅木(もみき)、葉木(はぎ)、久連子(くれこ)の村々の総称五家荘(ごかのしょう)と柿迫(かきざこ)、栗木(くりき)、下岳(しもたけ)の3村が合併し、森林資源が尽きざる泉のごとく続くことを願って1954年(昭和29)泉村と改称された。2005年(平成17)八代市に合併。旧村域は全域、堆積(たいせき)岩(古生代)からなる九州山地で覆われ、国と県による村道建設の完工(1959)をみるまでは、落人伝説(おちゅうどでんせつ)を秘めた隔絶山村であった。林道網の拡大などが、これまでの焼畑に依存した自給自足的な生活に終止符を打たせ、かわって育林業に依存した賃金稼ぎ生活を中心的なものにした。長期にわたる育林業の欠点を補うため、シイタケ栽培、ヤマメ養殖、民宿などが盛んとなっている。反面、民俗行事として維持されてきた「月拝み」「二十三夜待ち」(小原)は、わずかに旧家によって保たれているにすぎない。

[山口守人]


泉(宮城県)
いずみ

宮城県中部にあった市。現在は仙台市泉区。旧泉市は1971年(昭和46)市制施行、1988年仙台市に編入された。泉の地名は地区の北西にある泉ヶ岳に由来する。室町時代には郷六(ごうろく)(仙台市)に本拠を置く国分(こくぶん)氏の勢力下にあった。江戸時代初めに、奥州街道の宿駅として七北田(ななきた)の集落が設置された。地区中央を流れる七北田川流域に耕地が分布し、農業が主産業であったが、1970年ごろから丘陵地に団地が造成され、仙台市のベッドタウンとして人口も急増した。仙台市営地下鉄が七北田にある泉中央駅まで通じ、また、国道4号が走り、東北自動車道泉インターチェンジがある。泉中央駅周辺には屋根付きグラウンド「シェルコムせんだい」、Jリーグベガルタ仙台」の本拠地「ユアテックスタジアム仙台」などの施設があり、駅前はにぎわいをみせている。北西部にある泉ヶ岳は仙台市民のハイキングの場となっている。泉区内には、東北学院大学、仙台白百合(しらゆり)女子大学、東北生活文化大学がある。

[後藤雄二]


泉(福島県)
いずみ

福島県南東部、いわき市の一地区。旧泉町。JR常磐(じょうばん)線泉駅を中心とした地区である。1634年(寛永11)から内藤氏の泉藩が置かれ、のち本多氏が入封し廃藩置県まで続いた。小名浜(おなはま)への分岐点として市街地を形成。駅北部は泉ヶ丘ハイタウンなどがつくられ、住宅地化が進んでいる。

[原田 榮]

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改訂新版 世界大百科事典 「泉」の意味・わかりやすい解説

泉 (いずみ)
spring

地下水が自然に地表へ湧出したもので,湧泉ともいう。湧出形態によって次の三つに分類できる。(1)逬出(へいしゆつ)泉 岩の裂け目や崖からほとばしり出るもので,日本ではこれを走井(はしりい)と称した。山岳地帯に多く,場所によっては瀑布を懸ける。富士山麓白糸の滝が代表。(2)池状泉 釜,壺,湧壺とも称した。盆状のくぼんだ底から湧出し,水をたたえるもので,富士山麓の山中湖北西にある忍野八海(おしのはつかい)が有名。(3)湿地泉 どことなく水がしみ出し湿地状をなすもので,扇状地などの長い斜面の基底部で地下水面が地表に達したところにみられる。

 泉の湧出量は地下水が涵養される地域の大きさ,雨量,帯水層の透水性などに関係する。湧出量の大きな泉はカルスト地域の溶食洞,火山山麓,溶岩台地の末端部やその中へ刻まれた谷中にみられる。南フランスのボークルーズ泉はカルスト泉karst springで,湧出量は豪雨後には120m3/sに達するが,乾期には6m3/sになり,平均は18m3/sであるという。火山地帯の大湧泉は透水性の火山角レキ岩や溶岩に覆われた砂れき層から湧出するものが多く,アメリカ合衆国アイダホ州のスネーク川に沿う75km区間の総湧出量は142m3/sに達する。東洋一と称せられる静岡県田方郡の柿田川湧水は15m3/sである。日本では湧水を利用したマス類やアユ類の大規模養殖が,岩手山麓,那須山系,アルプス山系,富士山麓,伊吹山麓,阿蘇山麓,霧島山系などで行われている。間欠的に湧出する間欠泉は,広島県帝釈峡の一杯水のようなサイフォン型と,洞穴からあふれ出すオーバーフロー型の2種がある。間欠沸騰泉は沸騰温度の熱水と水蒸気の混合物を周期的に噴出し,アイスランド,アメリカ合衆国のイェローストーン国立公園,ニュージーランド北島のものが有名である。日本にもかつて宮城県の鬼首(おにこうべ)に吹上間欠泉が存在した。砂漠地帯の泉はオアシスと呼ばれ,深井戸が掘られるまでは唯一の生活空間であった。ユーゴスラビアのカルスト地域には連続した河川系がなく,泉が唯一の水源になっている。なお,泉水の化学成分は通過地中の状態で変化し,溶解成分が1g/l以上の場合に鉱泉,水温が25℃以上の場合に温泉と呼んでいる。
執筆者:

播磨国風土記》の,国占めの標示のために杖を立てたところ泉が湧き出たという記事が語り示すように,集落や田畑を作るうえで,泉をはじめ井戸,川,池などの給水源の確保は不可欠な要件であった。集落の草分けの家の立地をみると,水量の多い泉や川,池,井戸が近くに控えていることが多く,他の家々はその水を分けてもらうために従属的立場におかれるということさえもしばしばみられた。奄美地方では,集落から遠く離れた暗河(くらごう)と呼ぶ鍾乳洞内の地下水を,厳しい規則を設けて利用した。水場は神の支配地であり,水神や井の神などと呼んでこれを祭り,新年の若水も古くからの水場から迎えるところが多い。各地に伝わる,弘法大師などの宗教者が水が不足する土地の者のためにその杖を地に突き刺して水を出してやったといういわゆる弘法清水伝説も,いかに人びとが水に苦しんでいたかを語っている。水場はまた,人びとの日常的交流の場でもあり,とくに温泉は古代から宴の場として利用されてきた。
執筆者:

《礼記(らいき)》月令篇には,泉が活動を開始する仲冬,すなわち冬11月,天子は百官に命じて井泉を祭らせるとある。また唐叔虞(とうしゆくぐ)を祭る太原の晋祠など,泉のそばに神祠の設けられることが多く,《太平経》は後漢の于吉が泉のほとりで授かったという神書に由来する。このように中国人はこんこんと湧き出る泉に不思議な生命力をみとめ,神秘視した。大宛を攻めた李広利が佩刀(はいとう)で山をつき,疎勒(そろく)を攻めた耿恭(こうきよう)が涸(か)れ井戸にむかって祈り,仏図澄(ぶつとちよう)が呪文をとなえ,慧遠(えおん)が杖で土を掘ったところ,いずれも泉が湧き出したと伝えられる。あるいはまた孔子が断じて飲もうとはしなかったという〈盗泉〉,廉潔の士をも貪欲ならしめるという広州石門の〈貪泉〉などは,人間と感応し,人間の性格を変える力があると信ぜられたのである。飲茶の風習がおこると,各地に名泉がもとめられ,たとえば陸羽の《茶経》には廬山の〈水簾飛泉〉が天下第一と称せられている。
執筆者:

自然に水が湧き出る泉は,井戸を掘る技術が未発達であった時代には特に神聖視された。水が清め,病を治すという考えは古代インドのベーダをはじめ各所に見られる。フランスのグリジーやサン・ソブール,イタリアのフォルリ等の泉は新石器時代・青銅器時代から治療に使われた跡があるとされる。1858年聖母マリアが顕れたとされる南フランスのルルドの泉も,特に8月15日聖母の被昇天祭には病気の平癒を願う巡礼者でにぎわう。ギリシア・ローマ神話では自然の力を表す樹木,川,泉は,ゼウスまたはオケアノスを父とし,母なる大地から生まれたニンフたちが守るとされた。ローマでは,フォルムの端でウェスタ神殿に近い泉を女神ユトゥルナの住家として敬い,1月11日には泉を仕事のうえで使う職種の人々を中心に,ユトゥルナリア祭が祝われた。ユトゥルナはニンフの一人として鍛冶の神ウルカヌスを祝う8月23日のウルカナリア祭にも,穀物を火事から守るように祈願された。古典詩ではユピテルの愛人となって泉の支配権を得たとも,ヤヌスと結ばれてローマの泉の神たるフォンス,またはフォントゥスを生んだともされる。ユトゥルナはまた,女性の安産の神でもあり,雨乞いの際にも祈られた。J.G.フレーザーもネミ女神の聖森に湧くエゲリアの泉が病を治し安産を得させる水の精であったことを挙げている。ケルトの信仰にも泉の崇拝があったことはシャルトル等古く建てられたキリスト教会が泉の跡であったことからも推定される。沐浴による〈みそぎ〉を重視するイスラムでは,モスクは多く泉の上に建てられる。都市や庭園に泉を配する伝統はカルデアにまでさかのぼるが,パウサニアスは前2世紀のコリントスの泉水を描いている。大プリニウスは,アグリッパ帝がローマに700の泉と105の噴水を作らせたと述べている。人工のこうした泉はヨーロッパでは多くの場合区別し,例えば英語ではスプリングに対して,ファウンテンfountainといい分ける。
井戸 →
執筆者:


泉 (いずみ)

宮城県中部,仙台市の北西部に位置する旧市。1955年七北田(ななきた)村と根白石(ねのしろいし)村が合体して泉村となり,57年町制,71年市制。88年に仙台市に編入され,89年には泉区となった。西部の泉ヶ岳(1175m)より発する七北田川流域を占める。中・上流域は農山村で,中流以下は水田地帯となり,自然堤防上では市街向けの野菜栽培も盛んである。中心集落の七北田は陸羽街道沿いの旧宿場で街村として発達し,現在でも商店が最も密集している。旧泉市が大きな変貌をみせ始めたのは,仙台・泉両市にまたがる丘陵地に大規模住宅団地が造成された1960年代からで,以後も100ha以上の団地が次々と造成された。泉ヶ岳は仙台市民のハイキングコースとして親しまれている。
執筆者:


泉(熊本) (いずみ)

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普及版 字通 「泉」の読み・字形・画数・意味


常用漢字 9画

[字音] セン・ゼン
[字訓] たるみ・いずみ・わきみず・ぜに

[説文解字]
[甲骨文]

[字形] 象形
崖の下から水が流れ落ちる形。〔説文〕十一下に「水原なり。水の出して川をす形に象る」という。〔爾雅、釈水〕に、濫泉(らんせん)は涌き水、沃泉(よくせん)は落ち水、泉(きせん)は穴から出る水とする。泉は岩の間から水が流れ落ちる形で、原がその全体形。原は源の初文。王のとき貨泉の字とし、貨泉を「白水(泉)眞人(貨)」とよんだ。

[訓義]
1. たるみ、いずみ、わきみず。
2. ぜに。

[古辞書の訓]
立〕泉 イヅミ・フカシ・ナガシ

[部首]
〔説文〕〔玉〕にともに部首とし、〔玉〕に原をこの部に加え、「今、源に作る」という。次に(しゆん)部があり、原はの略に従う字。〔説文〕に(はん)を泉部の字として録するが、この字は金文にみえ、繁泉という地名の合文と考えられる。

[語系]
泉dziuan、川・thjyunは声近く、みな川流の意。もと同系の語である。

[熟語]
泉韻・泉下・泉貨・泉窩・泉壑・泉眼・泉郷・泉響・泉金・泉・泉原・泉源・泉谷・泉壌・泉水・泉声・泉井・泉石・泉池・泉途・泉刀・泉布・泉幣・泉脈・泉門・泉流・泉路
[下接語]
淵泉・温泉・貨泉・甘泉・寒泉・泉・檻泉・九泉・泉・玉泉・渓泉・原泉・源泉・鉱泉・酒泉・神泉・深泉・井泉・清泉・石泉・池泉・鉄泉・刀泉・盗泉・湯泉・飛泉・布泉・沸泉・噴泉・野泉・幽泉・湧泉・流泉・林泉・冷泉・霊泉・泉・洌泉・漏泉

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「泉」の意味・わかりやすい解説


いずみ

熊本県中南部,八代市東部を占める旧村域。九州山地の中にある。西流する氷川上流域の下岳 (しもだけ) 村,柿迫 (かきざこ) 村,栗木 (くりぎ) 村の3村と,南流する川辺川上流域の久連子 (くれこ) 村,椎原 (しいばる) 村,樅木 (もみぎ) 村,仁田尾 (にたお) 村,葉木 (はぎ) 村の5村,いわゆる五家荘とが合体し,1954年泉村として成立。 2005年八代市,坂本村,千丁町,町,東陽村の5市町村と合体して八代市となった。山地が広く,茶,ソバ,シイタケを産し,ヤマメを養殖。栴檀轟瀑 (せんだんとどろばく) ,久連子峡などの渓谷美と原生林が有名。平家落人伝説の地として知られ,伝説館や資料館がある。五木五家荘県立自然公園と,一部は九州中央山地国定公園に属する。


いずみ
spring

湧泉 (ゆうせん) ともいう。地下水が地表に集中的に湧出する天然露頭。湧出口が河川水や湖沼の水でおおわれている場合でも,上記と同様の湧出状況が確認できれば,湧泉とみなされる (例:河底泉,湖底泉) 。集中的に湧出する湧水口が明瞭に認められないが,一定範囲の地域にわたり地下水が地表面に拡散して現出する場合は,泉と区別して表面浸出 surface effluent seepageという。高所に降った雨が地下にしみこみ,透水層中を低所に向って流れ,その帯水層が地表に露水するところで泉となる。


いずみ

福島県南東部,いわき市南部にある地区。旧町名。 1954年近隣町村と合体して磐城市となり,66年からいわき市の一部。 JR常磐線泉駅前地区は,都市計画により商店街が形成されている。小名浜の西の玄関口として交通の便に恵まれ,住宅地域となっている。

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百科事典マイペディア 「泉」の意味・わかりやすい解説

泉[区]【いずみ】

宮城県仙台市北部の区。1989年区制。1988年仙台市に編入された泉市の旧市域が引き継がれたもの。七北田(ななきた)川中・上流域を占め,川沿いの平地に水田が開け,野菜のハウス栽培などが盛ん。七北田は奥州街道の旧宿場町。1960年代から東部丘陵地に南光台団地,泉パークタウンなど大規模団地開発が進み,隣接して職住接近型の泉パークタウン工業・流通団地(155ha)がある。1992年地下鉄南北線泉中央駅が開業し,付近一帯は市の副都心としての整備が進められている。北西端の泉ヶ岳はハイキング地。146.61km2。21万1183人(2010)。

泉[区]【いずみ】

神奈川県横浜市南西端の区。1986年戸塚区から分区。相模野台地の一部で比較的平坦な台地が広がり,和泉川,阿久和川など河川流域の低地に古くから農村集落が開けた。野菜・イモ類の栽培や養豚などが行われていたが,1960年代後半から住宅団地の建設が急激に進んだ。1990年に相模鉄道いずみ野線,1999年市営地下鉄線が延伸開業,沿線では大規模宅地開発が進む。フェリス女学院大学がある。23.58km2。15万5698人(2010)。

泉【いずみ】

湧泉とも。地表に自然に地下水がわき出る所。地下水の自然の露頭。わき出た水を湧水という。地表からしみこんだ水が透水層,割れ目を流下し,山麓,扇状地末端,崖の中腹,窪地(くぼち)などからわき出る場合が多い。

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日本の企業がわかる事典2014-2015 「泉」の解説

正式社名「泉株式会社」。英文社名「IZUMI-COSMO COMPANY, LIMITED」。建設業。昭和22年(1947)「株式会社泉商会」設立。同38年(1963)現在の社名に変更。本社は大阪市北区中之島。化成品専門商社。映像用スクリーン・テント用膜材・カーシート用原糸などを販売。ほかに集塵機用フィルターなど。

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デジタル大辞泉プラス 「泉」の解説

泉〔絵画〕

フランスの画家ドミニク・アングルの絵画(1820-1856)。原題《La source》。泉の擬人像である女性が水瓶から水を注ぐ姿を描いた作品。新古典主義絵画における裸婦像の傑作の一つとされる。パリ、オルセー美術館所蔵。

泉〔映画〕

1956年公開の日本映画。岸田国士の小説を原作とする。監督:小林正樹、脚色:松山善三。出演:佐分利信、有馬稲子、佐田啓二、渡辺文雄、内田良平、桂木洋子ほか。

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【モーガン】より

…妻ヒルダ・ボーンHilda Vaughanも小説家として著名である。若い海軍士官の行動の率直な描写が目だつ《士官次室》(1919)にもこの戦争の捕虜経験が描かれるが,小説《泉》(1932)は大陸で戦うイギリス兵士の内面的苦悩を描いた傑作である。また次作《スパーケンブルック卿》(1936)はイタリアとイギリスの田園を背景にした恋物語であるが,これらは繊細で凝った文体で書かれ,とくにフランスで評判が高かった。…

【ばね】より

…スプリング,発条ともいう。ばねは〈跳ね〉に由来。力を加えると弾性変形することによってエネルギーを吸収・蓄積し,力を解放すると吸収したエネルギーを放出して元の形に復元する性質をもつものの総称。狭義には上の性質を利用した機械要素をいう。 獲物を捕らえるために若木の幹を使って作ったわなや弓は,人類の最初のばねの利用の一つと考えられている。中世になると,織機,ろくろ,粉ひき機などには,ばねの復元力を利用して戻りの動きを得ようとするくふうが見られ,この場合も木の棒のばね力を利用していた。…

【春】より

…冬から夏への漸移期にあたる季節をいう。春の時期は時代や国または地域により異なる。古代中国では立春(太陽の黄経が315゜になる日)から立夏(同45゜)の前日までを春と呼んだ。現在の分け方は西欧流のもので,北半球では春分(同0゜)から夏至(同90゜)の前日までである。慣習上は,北半球では3,4,5月,南半球では9,10,11月が春である。春の気候的特徴は,季節の進行にともなう気温の急上昇である。実際の天候推移に基づいて区分した自然季節の春の期間は地域によりまちまちである。…

【池】より

…平安時代には作庭技術を記した《作庭記》が,寝殿の前に築く池の位置,規模,築造法などを詳しく述べている。《紫式部日記絵巻》《年中行事絵巻》などによって平安時代寝殿造の大池泉がうかがわれ,そこには多く船遊奏楽が描かれている。鎌倉・室町時代になると,前代に比して池はやや小規模となり,また禅宗寺院の方丈庭には中国宋・元の山水画からの影響もあって,巧緻な枯山水風の池が現れた。…

【オアシス】より

…中央アジア,西アジア,北アフリカに多く,アラビア語ではワーハwāḥa。最も典型的な例が,地下水の湧出している泉の形態であるため,日本では泉地という訳語がよく用いられるが,しかしその形態は泉とは限らず多様であり,むしろ沃地(肥沃な土地の意)の訳語のほうが適切である。
[地理的概観]
 淡水の存在形態に応じて,オアシスには次のような種類がある。…

※「泉」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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