[1] 〘名〙 (「おもて(面)」と同語源) 物事の、人の目にふれる部分。また、二面ある物事のうちで、人目につく面。⇔
うら。
[一] おおわれていない、物事の外側や外面の部分。
① 物の、最も外側の面。表面。外面。
※源氏(1001‐14頃)若紫「海のおもてを見渡したるほどなむ、あやしくこと所に似ず」
② 外部からよく見える部分。
(イ) 外に出ている部分。表面。
※
舞姫(1890)〈
森鴎外〉「奥深く潜みたりしまことの我は、やうやう表にあらはれて」
(ロ) 外に見せるようにした部分。うわべ。外見。見え。
※
日葡辞書(1603‐04)「Vomote
(ヲモテ)ウラノ アル ヒト」
※行人(1912‐13)〈
夏目漱石〉帰ってから「少し滑稽を感じたが、表
(オモテ)ではただ『成程』と肯
(うけ)がった」
(ハ) 文書、立札などで記載されている事柄。また、その文書。占いで現われた卦(け)をもいう。
※
古今著聞集(1254)一「表を書て奉りけるとなむ」
※滑稽本・古朽木(1780)四「百廿五両の金子、さっぱりすませといふ占の面(オモテ)でござる」
③ 本来のこととして、はっきりと人前に示すに足ること。第一に重んずべきことや公式、正式のこと。
(イ)
内輪のことではなく本来のこととして表だっていること。表向きのこと。本来のつとめ。
※蓮如御文章(1461‐98)二「王法をもておもてとし、
内心には〈略〉世間の
仁義をもて本
(ほん)とすべし」
※
浄瑠璃・妹背山婦女庭訓(1771)三「涙一滴こぼさぬは
武士の表」
(ロ) 第一として重んずべきこと。正面に掲げること。
主眼。
※玉塵抄(1563)七「晉の代の人は風流をもてにして」
(ハ) はっきりと示しあらわすこと。証拠。しるし。
※浄瑠璃・念仏往生記(1687頃)名所尽し「悪を制し妄をやぶるをもって安心のおもてとし」
(ニ) 人前に見せるに足る芸。得意とする技芸。表芸。
※
狂言記・角水(1660)「それがしが芸を表
(オモテ)にたて札の面につき、
むこ入をいたそうとぞんずる」
④ この世の中。また、そこに住む人々。世間。
※いやな感じ(1960‐63)〈
高見順〉四「猪沢市太郎を殺したのは
オモテ(世間)じゃ、あんただとなってるが」
[二] 一対をなすものの主だった方。
① 通常目に見える面。正面。表面。
※土左(935頃)承平五年二月五日「うちつけに海は鏡のおもてのごとなりぬれば」
② 着物や帯を身につけたとき、外側になる布。〔名語記(1275)〕
※浮世草子・好色一代男(1682)七「悲しや、様々口がため、ぐんない島(じま)のおもてを約束するこそきのどくなれ」
③ (面) 戦のときに、敵に最も近い前線に位置すること。前面。正面。先(さき)。
※金刀比羅本保元(1220頃か)中「面にすすみたる伊藤六がまんなかに押当て放ちたり」
④ 城、屋敷などで人の目にたつ前の方。
(イ) 家などの正面。また、店先。
※虎寛本狂言・墨塗(室町末‐近世初)「聞馴れた声で表に物申と有る」
(ロ) 家の前や外の方。戸外。屋外。
※評判記・難波の㒵は伊勢の白粉(1683頃)二「そと面を見れば俄に梢の花ちり敷」
※
五重塔(1891‐92)〈
幸田露伴〉二「戸外
(オモテ)では無心の児童
(こども)達が独楽戦
(こまあて)の遊びに」
(ハ) 家のなかで入口に近い部屋。また、客を迎える部屋。表座敷。
※虎明本狂言・墨塗(室町末‐近世初)「先おもてへとおらせられひといふてくれさしめ」
⑤ 江戸城御殿のうち、大奥と将軍の私的居住区を除いた、役人、大名の詰所や儀式にあてられる部屋や場所。大名などの邸にもいう。
※滑稽本・戯場粋言幕の外(1806)上「トントお表へ上る艷治に似ておるよ」
⑥ 畳や下駄などの表面をおおうもの。ござ。〔日葡辞書(1603‐04)〕
※雁(1911‐13)〈森鴎外〉五「畳の表(オモテ)も換へなくてはならない」
⑦
(イ) 船首部の総称。舳(へ)。
※平家(13C前)一一「船のおもてに立いで、大音声をあげて申けるは」
※時規物語(1850)一「表(下越後岩船郡早田村)金録(同四拾九歳)右片口屋八左衛門と代り乗組」
⑧ (劇場で楽屋を裏(うら)というのに対して) 見物席。また、見物席に関する会計などをする仕切場。
※役者論語(1776)佐渡島日記「楽屋、おもてとも彼是申合けれども」
⑨ 連俳で、二つに折った懐紙(かいし)の表側に当たる面。単に「おもて」というときは、第一紙(初折(しょおり))の表側をさし、百韻の場合は表八句、歌仙の場合は表六句をいう。また「面(おもて)」と書いて、懐紙の表や裏の見通しの句(百韻なら一四句、歌仙なら一二句)をいう場合もある。
※俳諧・新増犬筑波集(1643)油糟「名所国神祇尺教恋無常 述懐懐旧おもてにぞせぬ」
⑩ 男色に対して女色をいう近世の語。
※浮世草子・好色一代女(1686)三「表の嫌ひはなきものと、しどけなく帯ときかけて」
※洒落本・辰巳之園(1770)「夫からおもての春岡で、こまが有から廻したら」
⑫ 野球で、各回(
イニング)の先攻が攻撃する間のこと。「七回の表」
⑬ 柔道や相撲で、正式の技。
※咄本・無事志有意(1798)柔術「サ是が表(オモテ)、又裏をとればすぐにこういたす」
[2] 〘語素〙 名詞に付いて複合語を作る。
① ある方向に向かっていること。ある側に面していること。
※源氏(1001‐14頃)桐壺「南おもてにおろして」
② ある方向の土地、地方。
※天草本平家(1592)二「ミヤ ワ ヒエノヤマ ト ナラ vomote(ヲモテ) コソ サリトモ ト ヲモワセラレタレ」