デジタル大辞泉
「参る」の意味・読み・例文・類語
ま・いる〔まゐる〕【参る】
[動ワ上一]貴人・高貴の人のもとへ行く意の謙譲語。参上する。上る。
「岩根踏み山越え野行き都辺に―・ゐしわが背を」〈万・四一一六〉
[補説]上代に、連用形「まゐ」のほか、「まいく」「まいず」「まいのぼる」など複合動詞の一部としての例がみられるだけなので、終止形が「まう」のワ行上二段活用とする説もある。
出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例
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まい・るまゐる【参】
- [ 1 ] 〘 自動詞 ラ行五(四) 〙 ( 「まい(参)」に「いる(入)」の付いた「まいいる」の変化したもので、貴人の居所にはいって行くのが原義か )
- [ 一 ] 「行く」の謙譲語で、行く先方を敬う。卑所から貴所へ、下位者が上位者のもとへ行くことを意味する。⇔罷出(まかず)。
- ① 貴人のもとや貴所に参上する、伺う。特に、朝廷に参内する。宮に参入する。
- [初出の実例]「八に曰く、群卿百寮、早(はや)く朝(マヰリ)て晏(おそ)く退(まか)つ」(出典:日本書紀(720)推古一二年四月(岩崎本訓))
- ② 宮仕えなどに上がる。奉公に上がる。出仕する。
- [初出の実例]「宮にはじめてまゐりたるころ、もののはづかしきことの数知らず」(出典:枕草子(10C終)一八四)
- ③ 入内する。貴人のもとへ、輿入れする。
- [初出の実例]「淑景舎、東宮にまゐり給ふほどのことなど、いかがめでたからぬことなし」(出典:枕草子(10C終)一〇四)
- ④ 神仏に詣でる。参拝する。
- [初出の実例]「若う侍りける時は、志賀につねにまうでけるを、年老いてはまいり侍らざりけるにまいり侍りて」(出典:後撰和歌集(951‐953頃)雑二・一一三五・詞書)
- ⑤ 物などが、貴人の手もと・貴所などに至る、来る。
- [初出の実例]「名高き帯、御はかしなど、〈略〉古き世の一の物と名あるかぎりは、みなつどひまいる御賀になんあめる」(出典:源氏物語(1001‐14頃)若菜上)
- [ 二 ] [ 一 ]の「行く先」を敬う性質が失せ、丁重・荘重にいうのに用いられるようになったもの。多く、対話敬語として用いる。
- ① 主として、自己側の者、また、敬う必要のない一般的なものの「行く」「来る」を、聞き手に対し、へりくだる気持をこめて丁重にいう。言い方を改まりかしこまったものにする。
- [初出の実例]「ここにて対面し奉らば、道場をけがし侍るべし。前の河原へ参り合はん」(出典:徒然草(1331頃)一一五)
- 「私は奥へ参って待ちまする程に」(出典:歌舞伎・姫蔵大黒柱(1695)二)
- ② 聞き手に対しへりくだる気持が無くなり、一般的に「行く」「来る」を重々しく、堅苦しい口調でいうのに用いる。時に尊敬すべき人の動作について用いることもあった。
- [初出の実例]「おめが参たらはおげんざうであらうず、又お目がまいらずは、五日も十日もとうりうであらう程に」(出典:虎明本狂言・鼻取相撲(室町末‐近世初))
- 「日本の王政維新のやうに旨く参(マヰ)るか参らぬか」(出典:福翁自伝(1899)〈福沢諭吉〉一身一家経済の由来)
- [ 三 ] ( 敬語性が失せて ) 相手に優位を占められる。また、屈するの意を表わす。
- ① 降参する。負ける。
- [初出の実例]「『おやのあしを取るといふ事が有る物か。是は何とするぞ、何とするぞ』『ヤアヤアヤア、ヤア参たの。勝たぞ勝たぞ』」(出典:虎寛本狂言・庖丁聟(室町末‐近世初))
- ② 閉口する。
- [初出の実例]「内心ひどく参ってゐたところへ」(出典:大阪の宿(1925‐26)〈水上滝太郎〉一四)
- ③ 弱る。へたばる。
- [初出の実例]「大分参ってゐる癖に、家へ入るより大声に酒々と喚く」(出典:其面影(1906)〈二葉亭四迷〉七〇)
- ④ 死ぬ。特にいやしめていうのに用いる。
- [初出の実例]「彼の容態では遠らずまゐって了うだらう」(出典:窮死(1907)〈国木田独歩〉)
- ⑤ (多く、異性などに)心が奪われる。
- [初出の実例]「お前がそんなにあの女にまゐってゐて」(出典:世間知らず(1912)〈武者小路実篤〉二五)
- [ 2 ] 〘 他動詞 ラ行四段活用 〙
- [ 一 ] 「何かを奉仕するために参上する」ところからか、あるいは、「物が参る」のを、それに関与する人物の奉仕する動作として表わしたところからか、[ 一 ]の自動詞が他動詞化したもの。
- ① 物などを上位者・尊者にすすめる意の謙譲語で、その動作の対象を敬う。さし上げる。
- [初出の実例]「親王にうまの頭、大御酒まいる」(出典:伊勢物語(10C前)八二)
- ② 上位者・尊者のために、ある事をする、物などを用意する意の謙譲語で、その動作の対象を敬う。してさし上げる。奉仕する。また、用意申し上げる。→御格子(みこうし)まいる。
- [初出の実例]「御畳の上に褥ばかり置きて、御火桶まゐれり」(出典:枕草子(10C終)一〇四)
- ③ ( この手紙をさし上げますの意から ) 手紙の脇付に用いる語。男女ともに用いた、終止形だけの用法。
- [初出の実例]「正月廿三日
公 まいる 侍者御中」(出典:実隆公記‐文明一〇年(1478)三月二四日至二七日紙背(赤松則途書状))
- [ 二 ] 奉仕者によって用意されたものを、奉仕を受ける者が用いるところから、[ 一 ]を奉仕を受ける貴人の動作そのものとして直接表わすことによって生じた尊敬語。
- ① 「食う」「飲む」の意の尊敬語。召し上がる。
- [初出の実例]「泉の大将〈略〉ほかにて酒などまいり、酔ひて」(出典:大和物語(947‐957頃)一二五)
- ② ( 多く、動作性を含む名詞に関して ) 諸動作を「する」の意の尊敬語。なさる。
- [初出の実例]「今宵はなほしづかに加持などまいりて出でさせ給へ」(出典:源氏物語(1001‐14頃)若紫)
参るの語誌
( 1 )「まゐく(参来)」「まゐづ(参出)」「まゐたる(参到)」などと関連して「まゐ」と「いる」との結合と考えられるが、「まゐ」の性質は不明。
( 2 )特殊なものとして、「御湯殿上日記‐文明九年閏正月一〇日」の「つねの御所にて三こんまいる。こよひはとめまいらるる」などに見られる補助動詞的な用法がある。
ま・いるまゐる【参】
- 〘 自動詞 ワ行上一 〙 貴所・貴人のもとへ行く意を表わす謙譲語。参上する。単独の用例はごく少なく、「まいく(参来)」「まいのぼる(参上)」「まいむかう(参迎)」など複合動詞の一部として用いられている。⇔罷(まか)る。
- [初出の実例]「この御足跡を尋ね求めて善き人の坐す国には我も麻胃(マヰ)てむ諸々を率て」(出典:仏足石歌(753頃))
参るの補助注記
連用形の例しかないため活用の種類は決定しにくい。語源を「いる(居)」に接頭語「ま」の付いたものとする説もあり、仮に上一段活用と認めておく。
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例
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