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契約 けいやく

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

契約(当事者間の合意)
けいやく

権利・義務関係の発生・変更・消滅に関する当事者間の合意。広義の契約には、債権関係の発生・変更・消滅に関する債権契約だけでなく、物権変動を生ぜしめる物権契約(たとえば、地上権設定契約や抵当権設定契約など)や結婚・協議離婚など親族的身分関係の変動に関する身分法上の契約も含まれる。しかし、狭義においては、債権契約だけを意味する。この場合の契約の機能は、財貨の移転を生ぜしめることである。民法が第3編第2章において規定している契約は、債権契約に関するが、物権契約などにも類推適用すべきものと解されている。しかし、身分法上の契約は、財産的法律関係とは性質を異にするから、これに対しては類推適用されえない。なお、契約は、複数人の合意を必要とする点で、単独の意思表示である単独行為(たとえば、取消し、解除、相殺、遺言、寄付行為など)と区別され、また、複数人の対立的・交換的意思表示である点で、複数人の平行的・求心的意思表示である合同行為(たとえば、社団法人の設立行為など)と区別される。[淡路剛久]

沿革

近代以前の契約は、身分的支配関係の色彩が濃厚であり、それに対しては種々の社会的制約が存在した。しかし、近代的契約は、身分的支配関係を伴わない(「身分から契約へ」)。また、自由にそれを結ぶことができる。近代的契約におけるこのような自由の原則は、資本主義的市民社会の勃興(ぼっこう)期において、自由競争を確保し、自由主義経済を発達せしめる機能を果たした。しかし、高度化された資本主義の段階では、社会の変動とともに契約自由の原則にも種々の変質が生じてきている。契約に対する法的規制は、このように社会の推移とともに移り変わる運命をもっているが、契約が法的人格・私的所有とともに近代的取引法における三大要素の一つであることは変わらない事実である。[淡路剛久]

分類

契約は種々の観点からこれを分類することができる。すなわち、第一は典型契約(有名契約)と非典型契約(無名契約)の区別である。前者は民法の定める13種類の契約(売買・交換・贈与・消費貸借・使用貸借・賃貸借・雇用・請負・委任・寄託・組合・終身定期金・和解)をさし、後者はそれ以外の契約をいう。第二は双務契約と片務契約である。契約の各当事者が互いに対価的な意義を有する債務を負担する契約が双務契約であり(典型契約のうちでは、売買・交換・賃貸借・雇用・請負・有償委任・有償寄託・組合・和解)、そうでない契約が片務契約である(典型契約のうちでは、贈与・消費貸借・使用貸借・無償委任・無償寄託)。第三は有償契約と無償契約である。契約の各当事者が互いに対価的な意義を有する出捐(しゅつえん)(他人に財産上の利益を与える行為)をする契約が有償契約であり(双務契約はすべて有償契約に属する。そのほか、利息付消費貸借・利得分配契約・射倖(しゃこう)契約など)、そうでない契約が無償契約である(典型契約のうちでは、利息付消費貸借以外の片務契約)。第四は諾成契約と要物契約である。当事者間の合意だけで成立する契約が諾成契約であり(典型契約のうち、消費貸借・使用貸借・寄託を除く契約)、合意のほか物の引渡しなどの一定の給付を必要とする契約が要物契約である(消費貸借・使用貸借・寄託)。第五は本契約と予約である。前者は意図する契約そのものであり、後者は将来希望したときに本契約を締結する拘束を設定する契約をいう。第六が有因契約と無因契約の区別である。契約の効果が、それを成立せしめた原因事実と結び付いており、その事実がなければ債務も発生しない、というのが有因契約であり(典型契約はいずれも有因契約である)、契約の効果が原因事実と切り離されていて、その事実がなくても債務が成立するのが無因契約である。[淡路剛久]

成立・効力・解除

民法は第3編(債権)第2章に「契約」に関する規定を置いた。その第1節は「総則」と題し、契約の成立、契約の効力および契約の解除に関する規定を置く。契約の成立については、まず、すべて当事者間の合意がなければならない。これは普通は、申込みと承諾によってなされる(民法521条以下)が、交叉(こうさ)申込み(両当事者がお互いに契約の成立を申し込むこと)や意思の実現(申込みに対して承諾の意思表示と認めるべき事実がなされること。526条2項)による契約の成立も認められている。なお鉄道やバスへの乗車のように、当事者間の合意を外形的事実から認定しにくいものについては、一定の社会的関係に入った(たとえば、乗車した)ことをもって契約関係に入ったとみる考え方(事実的契約関係の理論)もある。要物契約においては、以上のような合意のほかに一定の給付が必要である。次に、契約の成立時期については、民法の原則としては、意思表示の通知が相手方に到達したときに、その意思表示は効力を生ずることになっている(97条)が、契約については特別の規定があり、隔地者間の契約において申込みと承諾の形式をとる場合には、原則として承諾の通知を発したときに契約が成立する(526条1項)。
 契約の効力としては、まず両当事者が契約で約されたとおりの権利を有し、義務を負うことがあげられる。たとえば、売買契約を例にとると、売り主は目的物を買い主に移転する義務を負うと同時に代金を請求する権利を有し、買い主は代金を支払う義務を負うと同時に目的物の引渡しを請求する権利を有することである。そのほか、契約で約されたとおりの効力が生じる(ただし、民法90条の公序良俗に違反したり、強行規定に違反しないことが必要)。契約当事者間で契約の内容について争いが生じ、その点に関して契約で別段の取り決めをしておかなかった場合には、それが典型契約のときには民法の各典型契約の規定(549条以下)によって処理され、非典型契約のときには類似の法律関係を基礎にして典型契約の規定を類推適用するなどして処理される。民法はまた、契約の総則のところで、契約の効力として、同時履行の抗弁権(533条)と危険負担(534条以下)を規定している。同時履行の抗弁権とは、相手方が債務の履行を提供するまで自己の債務の履行を拒むことができる権利(抗弁権)であり(ただし、相手方の債務が弁済期にあることが必要)、双務契約の当事者にはこの抗弁権が与えられている。次に、危険負担の規定によると、双務契約における危険は原則として債務者が負うが、特定物に関する物権の設定または移転を目的とする契約の場合には、債権者が負うという重要な例外が存する。
 契約は、両当事者がその債務を履行して目的を到達すると、終了によって消滅する。しかし、契約は中途で解除によって終了する場合もある。民法は契約総則の最後に契約の解除に関する規定を置いた。それによると契約の解除には約定(やくじょう)解除と法定解除とがあるが、民法の規定は一部が法定解除権の発生に関するほか(541条~545条)、他は両者に共通の規定である。まず、法定解除権の発生原因には二つある。すなわち、第一は履行遅滞による解除権であり、当事者の一方がその債務を履行しないときには、相手方は相当の期間を定めてその履行を催告し(一定の行為をせよと請求すること)、その期間内に履行がないときには契約を解除することができる(541条)。第二は履行不能による解除権であり、履行の全部または一部が債務者の責めに帰すべき事由によって不能となったときには、債権者は催告なしにただちに契約を解除することができる(543条)。解除の効果は、相互に原状回復の義務を負うことである(545条1項)。しかし、損害があれば損害賠償の義務をも負う(545条3項)。これらに対しては同時履行の抗弁権に関する規定が準用される(546条)。なお、解除権は一定の場合には消滅する(547条、548条)。このほか、典型契約の各規定には、特別の終了原因が定められている。
 なお、民法の契約総則に関する規定は、民法の典型契約すべてに通ずる総則という形をとっているが、それらすべてがかならずしも総則的価値をもつとは限らないということが、研究により明らかにされつつある。[淡路剛久]

社会学的概念

契約とは、ある契約上の行為が実定法に照らして規範的に妥当するか否かを問う、優れて法的な秩序をめぐる概念であるが、同時に、人々がこの法秩序についての主観的な表象に応じて、一定の行為を行い、あるいは行わないという事実についての経験的な概念でもある。この後者の意味で契約を社会学的に一般化すれば、2人以上の主体間の合意によって生ずる社会的行為の一形式ということができる。しかし、ここで問題になるのは、契約的行為が当事者たちを拘束する――権利と義務の設定・制限・消滅――のはなぜかということであり、拘束を可能にする根拠はなにかということである。近代法では、この根拠をつねに複数主体間の合意に求めてきた。ということは、まず各主体が独立の人格であること、すなわち各個人が自由な意思決定の能力をもち、対等な権利を主張しうる存在であることが前提となる。この意味で独立した個人的主体の存在が歴史上重要な意味をもつようになったのは近代市民社会の成立期であり、それを理論化したのは17~18世紀に登場した自然法思想であり、その中心が社会契約説である。
 社会契約説の先駆者であるホッブズは、市民社会の到来を自然状態と市民状態との対立によって説明し、自然権をもつ万人が万人に対して戦う自然状態を克服して市民状態に到達できるのは、諸個人が自然権を放棄して国王に譲渡する社会契約によってのみ可能であるとした。しかし、この自然権やその根拠たるべき人間的自然の理解などをめぐって、ホッブズの思想はその後のJ・ロックやJ・J・ルソーの思想と鋭く対立する。大まかにいえば、社会契約の結果として、ホッブズは絶対王制を擁護し、ロックはこれを拒否して立憲君主制を、ルソーはさらに進んで人民主権論を主張し、それぞれの時代の市民革命の理論的武器となった。この三者とも、政治理論では対立しつつ、社会契約説を共通の土台としていたことに注目すべきである。
 しかし、18世紀後半のイギリスでは、A・ファーガソンとともにA・スミスが、孤立した個人間の契約を市民社会の基礎とみることは幻想であると批判し、自由な交換=分業こそがその基礎であって、むしろ市場社会(経済法則)の国家(政治)からの独立を展望した。ついで19世紀には、H・スペンサーもまた自由な交換=分業をもって産業社会の結合原理としたが、スミスではなお盲目的であった社会発展の方向(たとえば「見えざる手」による社会調和)を社会有機体の進化論によって体系づけた。スミスもスペンサーも、市民社会の法秩序の問題として、契約の自由は分業の当然の帰結であって、政治権力や法的強制によらない交換の自由という倫理を支柱とし、むしろ権力や法はこの倫理を守護すべしとする功利主義的個人主義に基づく市民社会観を完成させた。他方、フランスのデュルケームは、契約を成立させる根拠は契約以前の拘束にあるとみて、自由意志に基づく社会観を拒否し、そもそも契約を成立させうる社会的事実の重みを問題とした。ドイツのM・ウェーバーもまた、契約の自由の形式的一般化が市場社会の強者によって一方的な強制に転化しうることを指摘していた。これらの理論の背景には、すでにマルクスが分業を所有と関連づけて問題とし、市民社会が資本家的社会に転化するメカニズムを解明して、市民社会論の克服を目ざしていたことに留意すべきである。[田原音和]
『ホッブズ著、水田洋訳『リヴァイアサン』全4冊(岩波文庫) ▽ロック著、鵜飼信成訳『市民政府論』(岩波文庫) ▽作田啓一訳「社会契約論」(『ルソー全集 第5巻』所収・1979・白水社) ▽スミス著、米林富男訳『道徳情操論』(1978・未来社) ▽デュルケム著、宮島喬他訳『社会学講義』(1974・みすず書房) ▽ウェーバー著、世良晃志郎訳『法社会学』(1974・創文社) ▽H. Spencer Principles of Sociology, 3 vols. (1876~96, Appleton, U. K.)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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