是非(読み)ぜひ

精選版 日本国語大辞典 「是非」の意味・読み・例文・類語

ぜ‐ひ【是非】

[1] 〘名〙
① 是と非。道理があることと道理がないこと。よいことと悪いこと。善悪正邪
※勝鬘経義疏(611)序「聖人之教雖復時移易一レ俗、不其是非
平家(13C前)二「進退惟(これ)きはまれり。是非いかにも弁へがたし」
小学読本(1874)〈榊原那珂稲垣〉五「我未だ法律を学ばざる故に是非を争ふこと能はざるなり」 〔礼記‐曲礼上〕
② (━する) 是と非とを判断すること。ものごとのよしあしを判断すること。批評すること。是を是とし、非を非とすること。品評
※続日本紀‐天平三年(731)一一月癸酉「其職掌者。差発京及畿内兵馬。捜捕結徒集衆。樹党仮勢。劫奪老少。圧略貧賤。是非時政。臧否人物。邪曲冤枉之事
※発心集(1216頃か)六「それもろもろの道理をまもりて是非すとも」
※ふらんす物語(1909)〈永井荷風〉再会「新にアカデミーの会員に選ばれると云へば、全都全国の新聞が全紙面を埋めて是れを是非(ゼヒ)する位ぢゃないか」 〔孟子‐公孫丑・上〕
[2] 〘副〙 (「是非共(とも)に」の意から)
① 事情がどうあろうとも、あることを実現しよう、実現したいという強い意志や要望を表わす語。是が非でも。どうあっても。きっと。ぜひとも。
※蒙古襲来絵詞(1293頃)「是非(セヒ)げざんにいるるぶきゃうなかりしあひだ」
※虎明本狂言・米市(室町末‐近世初)「其時ぜひのまふと云て、こしらへる時」
吾輩は猫である(1905‐06)〈夏目漱石〉八「是非仕舞迄精読しなくてはいかん」
② 相手に、軽くまたは儀礼的に行為を求めるさまを表わす語。なにとぞ。どうぞ。ぜひとも。
狂言記・連歌毘沙門(1700)「さらばこなたから連歌を被成。いやまづなされまいか。是非(ゼヒ)こなた被成」
③ ある条件もとでは、必ずそういう結果になると断定する意を表わす語。きまって。かならず。
洒落本・初葉南志(1780)「長兵衛なんぼ気の強ひ客達でも町人衆と侍のお客なればぜひせきが出てカウ出さうなものと」
青春(1905‐06)〈小栗風葉〉春「理論上認めます! 理論上是非然ういふ結論に至るので」

し‐ひ【是非】

〘名〙 (「し」は「是」の漢音) =ぜひ(是非)
読本・神伝‐後編(1809)二「是非(シヒ)(わか)ちがたければ」

ぜっ‐ぴ【是非】

〘副〙 (「ぜひ(是非)」の変化した語) 「ぜひ」を強めた、俗な表現。どんなことがあっても。なにがなんでも。かならず。きっと。〔かた言(1650)〕
滑稽本東海道中膝栗毛(1802‐09)二「わしもハア是ほどまでに工夫のウして、ぜっぴ(是非)まふかるべいとおもった事が、つっぱづれ申たから」

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デジタル大辞泉 「是非」の意味・読み・例文・類語

ぜ‐ひ【是非】

[名](スル)
是と非。正しいことと正しくないこと。また、正しいかどうかということ。「是非を論じる」「是非を問う」
物事のよしあしを議論し判断すること。批評すること。
「新聞が全紙面を埋めて是れを―する位じゃないか」〈荷風・ふらんす物語〉
[副]
どんな困難も乗り越えて実行しようとするさま。どうあっても。きっと。「計画を是非やり遂げたい」
心をこめて、強く願うさま。なにとぞ。「是非おいでください」
ある条件のもとでは必ずそうなると判断できるさま。必ず。きまって。
「尾端の所から喰ふ様にすると、―跡へよい所が残る」〈松翁道話・一〉
[類語](1正否当否可否可不可良否理非正邪善悪曲直きょくちょく優劣よしあし/(1)(2強いて敢えてむりやり努めてできるだけ極力なるたけなるべく可及的必ずきっと絶対何としてもどうしても何が何でも是が非でも押してたってどうぞどうかくれぐれも願わくはなにとぞなんとかまげてひとつ必ずや必然必定必死不可避誓っててっきり違いないはず決まってすなわち否が応でも否でも応でもいやでもいやとも是非ともなにぶん平にしんからこころから衷心返す返す無理無理算段無理無体無理押し無理強制的強引強気強行独断独断的理不尽強硬頑強問答無用強要力尽く力任せ腕尽くごり押し断固一刀両断横柄威圧的否応無し頑として横紙破り横紙を破る有無を言わせず腕力に訴える横車を押す押し付けがましいねじ伏せる首に縄を付ける遠慮会釈もない遠慮高圧的高飛車頭ごなし押し通す押し付ける一方的豪腕

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

普及版 字通 「是非」の読み・字形・画数・意味

【是非】ぜひ

善悪。〔礼記、曲礼上〕夫(そ)れ禮は、親を定め、疑(けんぎ)を決し、同異を別ち、是非をらかにする以(ゆゑん)なり。

字通「是」の項目を見る

出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報

世界大百科事典(旧版)内の是非の言及

【四端】より

…中国,儒教の主張の一つ。孟子によれば,人の身体に四つの手足があるように,心のなかにも惻隠(そくいん)(あわれみいたむ心),羞悪(しゆうお)(悪を恥じ憎む心),辞譲(譲りあう心),是非(よしあしを見わける心)の四つが本来的に備わっていて,これら四つの芽生え(四端)を,それぞれ仁,義,礼,智という完全な徳へとたいせつに育てあげねばならないという(《孟子》公孫丑上篇)。朱熹は仁義礼智を〈性〉(本性)とし,〈四端〉とはそれらが〈情〉として外に現れ出た〈緒〉(端緒,いとぐち)だと解釈する(《孟子集注(しつちゆう)》)。…

※「是非」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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