出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
色名の一つ。日本工業規格(JIS)では有彩色(10色名),無彩色(5色名)の計15色名を基本色名に定めているが,黄は有彩色の基本色名の一つである。スペクトル色(可視光線の単色光の示す色刺激)は,人によって色感覚が異なり,その波長も一定していないが,黄は波長ほぼ570~575nmの範囲にある。
黄が土の色であることはとくに中国で古来意識されたらしく,《説文》にも黄は土の色であるという。また《広韻》は黄を中央の色とするが,これは五行思想から東西南北と中央の五方を青白赤黒および黄で象徴したものである。このように黄は地の中央を支配する天子を象徴する色となり,たとえば天子の車を黄屋,天子の鉞(まさかり)を黄鉞,宮城の門を黄門または黄闥と呼んだ。インドでは人民の4階級(カースト)を表す4色(白赤黄黒)のうち黄はクシャトリヤ(王侯・武士階級)の色である。これは支配関係にある異民族の肌色から来たものである。古代エジプトの絵画では,女性の肌色を黄または白,男性の肌色を赤褐色と塗り分けることがよく行われる。この場合の肌色は象徴色というよりは実際の化粧の色を写したものかもしれない。しかし肌色の象徴性はとくに宗教像において顕著であり,それがエジプト,インドで非常に発達した。とくにインドではヒンドゥー教と仏教とにおいて尊像の身色が複雑をきわめ,黄色と決められているものだけでも枚挙にいとまがない。身色がどのようにして決定されるかは必ずしも明瞭でないが,太陽との関係がとくに重要な意味をもっている。
一般に太陽は金色の輝きをもつものとされ太陽に関係のある神々(エジプトのホルス,インドのビシュヌ,ギリシアのアポロン,ペルシアのミトラ,さらにキリスト)の像は多くは金色の身色をもち,金色の衣をまとい,光輪をつけ光を放つ。この金色は神的なものの栄光ないしその力を象徴するが,金色は場合によっては黄色がこれに代わる。黄色がユダヤ人の象徴色とされるのは,本来彼らがヤハウェの光の色として黄色を使用したことに基づくらしい。他方,黄は硫黄の色で,硫黄は燃えると悪臭を放つところから,悪人を懲罰するためにしばしば用いられたことが聖書に見える(《創世記》19:24,《ヨブ記》18:15~18,《ヨハネの黙示録》19:20など)。この意味での黄色の使用は,中世ヨーロッパの〈ベアトゥス本〉の写本画に著しい。
執筆者:柳 宗玄
ひとくちに黄色と呼んでも,この名称によって表現される色彩の範囲は個人個人で異なるし,民族や文化によっても異なり,また時代によっても異なる。佐竹昭広の論文〈古代日本語における色名の性格〉は,古代日本人にとって本来的な色名がアカ,クロ,シロ,アオの4種に限られること,前記4種以外の古代日本語の色名であるミドリ,ムラサキ,ハネズ,ハナダ,ニ,ソホなどがすべて古代生活における染色法と密接に結びついていること,この2点を指摘し,しばらく国語国文学界の先駆的役割を果たしつづけていた。その後,大野晋によって,シロを除くアカ,クロ,アオの基本的色名3種もまた染料,顔料による命名であるとの修正意見が出され,これが大方の承認を得るに至った。だが,そうだとすると,古代日本人は黄(きいろ)という色名を使わなかったことになるし,使っていた場合にも染色材料とのかかわり以外にはありえなかったことになる。しかも,それを裏書きする証拠も現に提出されている。伊原昭《万葉の色相》は,万葉集に〈いろ〉とよまれている用語例を調査して,用例を系統別にみると赤系統が54例であるのに対して,黄系統は1例にすぎないと述べている。その唯一例とは,〈白細砂(しらまなご)三津の黄土(はにふ)の色にいでて云はなくのみぞわが恋ふらくは〉(巻十一)の黄土色をさす。三津は難波津で,黄土色は顔料である土にちなむ命名であることが,はっきり知られる(ついでに付言すると,万葉に多い黄葉(もみじ)は赤系統に入れられている)。文学古典に依拠するかぎりでは,上述の,佐竹,大野,伊原説を正しいとみなさざるをえない。
ところが,政治や宗教の視点から検討していくと,古代人,とくに古代知識階級が,黄(きいろ)という色名を持たずにいたなどとは帰結しがたい。律令(りつりよう)の衣服令(えぶくりよう)第十九をみると,礼服(らいぶく)・朝服(ちようぶく)など帝王貴族の服装服飾を規定した色彩に黄(きいろ)はないが,制服(せいぶく)すなわち無位の者が朝廷の公事(くじ)にさいして着用する服には黄色を用いよとの特別規定を行った条文に出会う。〈制服 無位は,皆皀(くり)の縵の頭巾。黄の袍(ころも)。烏油(くろつくり)の腰帯。白き襪(したうず)。皮の履(くつ)。朝庭公事に,即ち服せよ〉とあるのがそれで,これにつづいて,礼服・制服すべてをとおして位階に応じた色を使用すべき規定までなされている。〈凡(およ)そ服色(ぶくしき)は白(しろき),黄丹(おうだん),紫,蘇方(すほう),緋(あけ),紅(くれのあい),黄橡(きつるはび),纁(そび),蒲萄(えびぞめ),緑,紺,縹(はなだ),桑(くわぞめ),黄(きぞめ),揩衣(すりぞめごろも),秦(はりぞめ),柴(しばぞめ),橡墨(つるばみすみぞめ),此の如き属(たぐい)は当色(とうじき)以下,各兼て服することを得〉と。これは,天皇から貴族,中下級官人,白丁(庶民),奴婢(ぬひ)階級に至るまでの尊卑貴賤の順位に従って,各人の位階や身分に相当する服色を着用しなければならぬとの規定である。庶民は,黄色の服色のみを用いることが許され,これ以上のきらびやかな服色を用いた場合には処罰された。
なるほどそうとわかってみると貴族階級の文学作品である記紀万葉や《懐風藻》に黄ないし黄系統の色名用例が極端に少ない理由にも合点がいく。
このような色彩に対する尊卑貴賤の差別観念は,中国律令をまる写しにした結果であると考えられるし,おおまかにはそう考えて誤りはない。しかし,中国の陰陽五行説を忠実に移植したのであれば,木火土金水の土気,すなわち黄色こそ最も尊ばれなければならぬはずであるのに,日本古代では,むしろ黄色が卑賤扱いを受けた。色彩に尊卑の差別を読みとる古代日本知識人の文化記号学は,平安王朝文化においていよいよ増幅され,紫,赤,青が理想の色とされた。もっとも,黄が〈黄金色(きんいろ)〉の義に用いられるときは,帝位の標章とされ,その場合に限っては理想の色でありえた。土色や木染めの色は依然として低く見られた。このような色彩の差別意識は,中世に入り,庶民階級が実力を蓄える時代を迎えると,当然打ち破られることになる。紙や裂(きれ)の染色,武具のための染革(そめかわ)などの需要が拡大するにしたがって,中国および東南アジアから新しい染料が舶載された。この一種の技術革新と社会構造の変動とに支えられ,永年にわたる日本人の色彩感覚に変革がもたらされた。近世以後,黄はもはや卑しい色彩ではなくなった。
→色
執筆者:斎藤 正二
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
黄色に対応する光の波長は、ほぼ573~578ナノメートルである。黄は、一般的に光刺激が同じであると、他の色に比べてかなり明るく感じる。これは人間の目が、黄の波長付近に対して敏感であることによっている。黄は光の三原色ではないが、色料の混色(減法混色)の場合には原色の一つに入っている。また、黄という文字は「光」と「田」の含意文字で、田の色のことと書かれている。したがって、ある意味では身近な色といえよう。
黄は一般的に、はでな、暖かい、明るい、強い、陽気な、はっきり、やや興奮した、といった印象がもたれている。連想としては、色そのものから思い浮かべられるレモン、ヒマワリ、カナリヤ、ミカン、バナナ、タンポポなどがあげられる。また、黄が象徴するものとしては、明朗、快活、活動、注意などがあげられる。このようなことから、黄が象徴するイメージとしては、柔らかい、明るい、楽しい、幸福な、陽気な、肌ざわりがよい、といったことになるであろう。これは、赤などと同様に外に発散するというイメージであるが、オレンジ色などに比べるとその度合いがやや弱く、柔らかみが増すようである。
黄に対する好みは、成人の場合にはそう高くない。しかし、子供のときには比較的高いといわれており、年齢が進むにつれ、好みが減少する傾向がみられる。
人間の目は、同じ光の強さのもとでは、黄を他の色より敏感に感じるため、一般に明るく感じられる。したがって、暗い色と組み合わせることにより、その対比効果で遠くからよく見える。これを利用して、黄と黒の組合せが、遠くからよく見えることが必要とされるものに使われることが多い。たとえば踏切の標識などはこの例であるし、安全地帯や道路工事の作業服などに用いられることも多い。
[相馬一郎]
…私たちは物を見るときその形を知覚するが,黄だとか青だとか,あるいは赤だとかの色も同時に知覚する。このように色とは私たちの目が光に対して感ずる知覚の一つであると表現することができよう。…
…スペクトル色(可視光線の単色光の示す色刺激)は,人によって色感覚も異なり,その波長も一定でないが,緑は波長ほぼ480~510nmの範囲にある。
[象徴としての緑]
緑は青と黄とを重ねた色であるが,その概念は古今東西はなはだあいまいで,青から黄にいたるさまざまの色を含み,しばしば青および黄とも混同される。それは,自然界において緑色を呈するものが主として草木の葉であり,それが青から黄にいたるさまざまの色を示すからであろう。…
※「黄」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
〘 名詞 〙 年の暮れに、その年の仕事を終えること。また、その日。《 季語・冬 》[初出の実例]「けふは大晦日(つごもり)一年中の仕事納(オサ)め」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油...
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