メキシコ(市)(読み)めきしこ(英語表記)Mexico City

翻訳|Mexico City

日本大百科全書(ニッポニカ) 「メキシコ(市)」の意味・わかりやすい解説

メキシコ(市)
めきしこ
Mexico City

メキシコ合衆国首都メキシコ中央高原の中央部、アナワク高原に位置する。正称はシウダー・デ・メヒコCiudad de México。人口859万1309(2000)。旧市内区の12区と周辺行政区の12区をあわせたメキシコ連邦区(Mexico D. F.)を行政区とし、行政は大統領によって任命された長官による。緯度的には熱帯に属すが、高地にあるため気候は温暖で、年降水量は1266ミリメートルである。東に連なるポポカテペトル火山イスタクシワトル火山の雪解け水に恵まれ、かつてはテスココ湖、ソチミルコ湖の広がる水郷地帯であった。周辺一帯のアナワク高原のアナワクとは、原地語で「水のある所」を意味する。人口は1970年代までは伸びが急激で、国の総人口に占める割合でみると、1940年までは8.9%であったが、50年以降は10%を超過し、78年には14.5%にもなった。これは農村部からの人口の流入によるもので、増加率も5%から7%にも達し、人口の集中化が進んだ。近郊には流入した人々が土地を不法に占拠してつくった掘立て小屋集落が広がった。しかし、その後人口集中の動きは鈍化、1990年代になると国の総人口に占める割合は10%程度を維持している。人口を就業別にみると、第1位はサービス業で38.5%。農村部出身者のなかにはメイドになる者や靴みがきなど街頭で働く者も多い。次は工業関係で31.1%、金属工業、化学・食品・織物業が中心である。都市最大の悩みは、給水洪水、排水の水の問題と地盤沈下であるが、これは乾燥気候にあることと、湖沼地帯を干拓して都市が発展してきたこととによる。1985年の地震では、地盤が弱いため大被害を受けた。

 市街は、ソカロ(憲法広場)が官庁街の中心で、ホテル街はレフォルマ大通りにある。南西部にチャプルテペック公園があり、人類学博物館など各種文化施設が整っている。北部は工業地域で、南部にメキシコ国立自治大学を中心とする近代的な大学都市がある。高級住宅区はコロニア地区で、アパート団地は北部のノアルコに、スラム街は南部に、掘立て小屋群は外縁部にみられる。市民の生活の中心は広場と教会で、ともに社交の場となっている。広場では市(いち)が立ち、教会行事は生活のリズムである。住民の90%以上がカトリック教徒であるが、グアダルーペ寺院褐色のマリアの信仰などは、土着宗教の要素も強い。なお、ソカロ周辺の歴史地区は1987年に市郊外の水郷ソチミルコとともに世界遺産の文化遺産として登録されている(世界文化遺産)。

[高木秀樹]

歴史

前身はアステカ王国の首都テノチティトランで、1345年、アステカ人がテスココ湖上の小島に築いた小集落が、15世紀中ごろからアステカ人の勢力の拡大とともに発展した。1473年には北方のトラテロルコと併合し、16世紀初頭には人口数百万の王国の首都として繁栄の極に達した。当時の住民は20万~30万ともいわれ、湖上都市の中央には大神殿や宮殿が並び、東は十数キロメートルの大堤防でテスココ湖と分かたれ、北岸、西岸、南岸の諸都市とは数本の堤道で結ばれていた。しかし1519~21年のスペイン軍との戦争で破壊され、その廃墟(はいきょ)の上にスペイン人の都市メキシコ市が建設された。かつての大神殿はカテドラルやソカロに変わり、堤道の一部は道路となっている。以後、1821年の独立までの300年間、メキシコ市はヌエバ・エスパニャ副王領(メキシコ)の首都として栄えた。住民は16~17世紀は数万程度、18世紀に入って10万を超え、フンボルトは1803年の首都人口を13万7000と記している。1810年に始まる独立戦争、対米戦争、改革戦争、対仏戦争、さらに1920年に終わるメキシコ革命と戦乱が続いたが、首都はたいした破壊は受けず、住民数も1850年代の20万弱から1910年の47万余へ増大した。周辺山地の樹木伐採や牧場化による表土流出などが原因となって、植民地時代以来繰り返されていた大洪水も、1900年の大排水路完成によっていちおう解決したが、水位の低下によって湖はいっそう縮小し地盤の沈下をもたらした。

 1920年代の中央集権の確立、1930年代後半の土地改革を含む急進的な社会改革、40年代以後の工業化の進展、そして以後1970年代初頭まで続いた「メキシコの奇跡」とよばれる経済発展は、首都の急膨張を引き起こした。とくに1950年代には、南部の大学都市や中心部トラテロル大団地の建設、道路網の大改造、北部工業地帯の建設などが行われ、さらに1968年のメキシコ・オリンピックを機に地下鉄も開通した。このような近代化の反面、周辺部には巨大なスラムが広がり、交通、住宅、環境問題など深刻な都市問題を抱えている。

[野田 隆]

『山崎春成著『メキシコ・シティ』(1987・東京大学出版会)』


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