日本大百科全書(ニッポニカ)「ドン」の解説
ドン
どん
Jorge Donn
(1947―1992)
舞踊家。ブエノス・アイレス生まれ。テアトロ・コロン附属バレエ学校でダンスと演劇を学び、13歳で初舞台を踏む。1963年、モーリス・ベジャール率いるベルギー国立二十世紀バレエ団の南米公演に感激し、同年ブリュッセルのベジャール主宰ムードラ研究所を経て、同バレエ団に入団した。66年にトップ・ソリストに昇格し、ベジャールの作品に欠かせない存在となった。76年から芸術監督ベジャールの代理を務め、81年には芸術監督に就任した。87年にバレエ団がスイスのローザンヌに移転し、ローザンヌ・バレエ団となってからも、ベジャール作品の美学をもっとも体現するダンサーとして活躍した。『ニジンスキー・神の道化』(1971)、『愛が私に語りかけるもの』(1974)、『我々のファウスト』(1975)、『ペトルーシュカ』(1977)など、しなやかな肢体と確かな技術に裏付けられた独特のエロティシズムで多くの観客を魅了した。日本でも1979年に『ボレロ』を踊り衝撃的に紹介された。その後たびたび来日し、91年には歌舞伎(かぶき)の坂東玉三郎と自作品『生のための死』を共演している。男性舞踊家の新しいイメージをつくりあげ、エイズに倒れた後もその美しさは伝説的に語られている。映画『愛と悲しみのボレロ』(C・ルルーシュ監督)に出演し、1968年にブエノス・アイレスの批評家賞を受賞した。
[國吉和子]
『M・ベジャール著、前田允訳『舞踊のもう一つの唄』(1998・新書館)』▽『『ダンスマガジン――ドン、ニジンスキーを踊る』(1991・新書館)』