デジタル大辞泉
「聖」の意味・読み・例文・類語
ひ‐じり【▽聖】
1 世の模範と仰がれる、知徳の高い人。聖人。
2 その道で特に技量にすぐれ、模範とされる人。「歌の聖」
3 高徳の僧。また一般に、僧に対する敬称。
4 寺院に所属せず、山中などにこもって修行する僧。行者。修験者。
5 諸国をめぐって勧進・乞食などをして修行する僧。高野聖・遊行聖などのこと。
6 天皇を敬っていう語。
「橿原の―の御代ゆ生れましし神のことごと」〈万・二九〉
7 《中国で清酒を「聖人」と称した故事から》清酒の異称。
「酒の名を―と負せし古の大き聖の言のよろしさ」〈万・三三九〉
[類語]名僧・高僧・聖人・生き仏・聖者・聖女・聖賢・聖哲・四聖・君子・仁者・生き神
せい【聖】
[名・形動]
1 神聖でおかすことのできないこと。清らかで尊いこと。また、そのさま。「聖なる神」「聖なる川」
2 知徳がきわめてすぐれ、理想的であること。また、その人。ひじり。
3 (濁酒を賢とするのに対して)清酒。
4 《saint》キリスト教で、聖者の名に冠する語。セント。「聖パウロ」
[類語]神聖・神神しい
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ひ‐じり【聖】
- 〘 名詞 〙
- ① 徳が高く神のような人。知徳がすぐれ、世の模範と仰がれるような人。聖人。
- [初出の実例]「人の才能は、文あきらかにして、聖の教を知れるを第一とす」(出典:徒然草(1331頃)一二二)
- ② 天皇の尊称。
- [初出の実例]「最霊之間に聖、人主(きみ)為(た)り。見を以て聖主(ヒシリ)の天皇、天に則(のと)りて」(出典:日本書紀(720)大化二年八月(北野本訓))
- ③ 仙人。神仙。やまびと。
- [初出の実例]「浦島の子〈略〉蓬莱山(とこよのくに)に到りて仙衆(ヒシリ)を歴(めく)り覩(み)る」(出典:日本書紀(720)雄略二二年七月(前田本訓))
- ④ その分野で、ぬきんでてすぐれている人。その道で卓越した人。達人。
- [初出の実例]「柿本人麿なむ、歌のひじりなりける」(出典:古今和歌集(905‐914)仮名序)
- ⑤ 徳をつんだ僧。高徳の僧。聖僧。大徳。
- [初出の実例]「このみうしろでの広ごりかかるに見つきてこそは、われはひじりになりにたれ」(出典:宇津保物語(970‐999頃)蔵開中)
- ⑥ 一般に僧侶の敬称。出家。法師。
- [初出の実例]「その事するひじりとものがたりし」(出典:枕草子(10C終)三三)
- ⑦ 寺院にはいらず、私的に修行している隠遁僧。また、修験集団などに属し、修行して験力を得た僧。行者。修験者。
- [初出の実例]「同じき法師といふ中にもたつきなく、この世を離れたるひしりにものし給ひて」(出典:源氏物語(1001‐14頃)蓬生)
- ⑧ 諸国をめぐって勧進したり、乞食(こつじき)をしたりして修行する僧。また、特に高野聖やそれの転じた時宗の遊行聖(ゆぎょうひじり)のこと。ひじりかた。
- [初出の実例]「紀伊守範道と云者、道心を発(おこし)出家遁世して蓮誉と名乗、諸国一見の聖(ヒジリ)と成たりけるが」(出典:金刀比羅本保元(1220頃か)下)
- ⑨ ( 中国で酒を禁じられた時、清酒を「聖人」と称した故事による ) 清酒の異称。
- [初出の実例]「酒の名を聖(ひじり)と負せし古の大き聖の言のよろしさ」(出典:万葉集(8C後)三・三三九)
- ⑩ 呉服行商人のこと。その姿が笈(おい)を背負った高野聖に似ていたところからいう。ひじりかた。〔随筆・嬉遊笑覧(1830)〕
せい【聖】
- 〘 名詞 〙
- ① 知徳の最もすぐれて、万世の師表となること。また、その人。ひじり。
- [初出の実例]「しるべし、山は賢をこのむ実あり、聖をこのむ実あり。帝者おほく山に幸して賢人を拝し、大聖を拝問するは、古今の勝躅(しょうちょく)なり」(出典:正法眼蔵(1231‐53)山水経)
- [その他の文献]〔書経‐大禹謨〕
- ② ( 形動 ) 清浄、尊厳でおかしたり、けがしたりし難いこと。また、そのさま。神聖。
- [初出の実例]「無数の其の星屑は、一つ一つ聖なる活きた光を胸に沁ませて」(出典:青春(1905‐06)〈小栗風葉〉秋)
- ③ ( [ラテン語] sanctus [英語] saint の訳語 ) ローマ‐カトリック教会から列聖された者(聖人)の名に冠する語。また、プロテスタントでは聖者号はないが、聖書中の主な人々を聖ペテロ、聖パウロなどと呼ぶ。
- [初出の実例]「聖(セイ)ヨハネの歌の中の」(出典:洋楽手引(1910)〈前田久八〉音楽の発達)
- ④ 清酒の異称。濁酒を「賢」というのに対する。
- [初出の実例]「聖(セイ)とはまんぐゎんじすみだ諸白の類」(出典:洒落本・蕩子筌枉解(1770)羅相作)
- [その他の文献]〔杜甫‐飲中八仙歌〕
しょうシャウ【聖】
- 〘 名詞 〙 ( 「しょう」は「聖」の呉音 ) 学識や人格がひじょうにすぐれていること。けがれなく、清らかであること。また、その人。ひじり。聖人。
- [初出の実例]「垂二捨レ凡入一レ聖之時、此位中有二一類之人一、聞レ法甚難」(出典:往生要集(984‐985)大文一〇)
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普及版 字通
「聖」の読み・字形・画数・意味
聖
常用漢字 13画
(旧字)
13画
[字音] セイ・ショウ(シャウ)
[字訓] ひじり
[説文解字]
[甲骨文]
[金文]
[字形] 会意
旧字はに作り、耳+口+(てい)。〔説文〕十二上に「なり」と通達の意とし、字を(呈)(てい)声に従うものとするが、字形と合わず、声もまた異なる。卜文に、(人の挺立する形)の上に耳をそえた形に作り、聞の初文。神の声を聞きうる人をいう。口((さい))は祝を収める器の形で、その神の声を聞きうる人を聖という。〔左伝、襄十八年〕に、当時神瞽といわれた師曠が、晋と楚とが戦うにあたって、その勝敗を卜し、風声を聞いて「南風競はず、死聲多し」と、楚の敗北を予言した話がある。そのようなものが聖者であった。周初の金文〔班(はんき)〕に「王王(わうじ)の孫」という語がみえ、また金文に「なる考」や「武」「哲」など、先人に聖を付していうことが多い。〔詩、小雅、正月〕に「(み)な予(われ)をばなりと曰ふも 誰(たれ)か烏の雌雄を知らんや」の句がある。〔論語、述而〕に、孔子は「と仁との(ごと)きは、則ち吾(われ)豈に敢てせんや」と述べており、聖は人間最高の理想態とされた。
[訓義]
1. ひじり、聖人、知徳の最もすぐれた人。
2. さとい、一芸に達した人。
3. 天子。天子に関して敬語としてそえる。
4. 清酒。濁酒を賢という。
[古辞書の訓]
〔名義抄〕 ヒジリ・キク・コヱ・サカシ・カヨフ・ウム 〔字鏡集〕 ヒジリ・コヱ・ミカド・カヨフ・ウム・キク・ナガシ
[語系]
sjieng、聽(聴)thyengは声義が近く、聽はの右旁に(徳)の省文を加えた形。は、が耳の聡明を主とするのに対して、視ることの明らかなことを主とする字である。耳目の徳を合わせて、聡明という。
[熟語]
聖渥▶・聖意▶・聖域▶・聖裔▶・聖睿▶・聖叡▶・聖恩▶・聖化▶・聖火▶・聖駕▶・聖誨▶・聖学▶・聖鑑▶・聖顔▶・聖輝▶・聖儀▶・聖躬▶・聖教▶・聖業▶・聖君▶・聖訓▶・聖敬▶・聖系▶・聖経▶・聖賢▶・聖眷▶・聖語▶・聖功▶・聖后▶・聖宰▶・聖裁▶・聖作▶・聖策▶・聖旨▶・聖姿▶・聖思▶・聖師▶・聖嗣▶・聖時▶・聖者▶・聖主▶・聖寿▶・聖淑▶・聖処▶・聖緒▶・聖詔▶・聖上▶・聖心▶・聖臣▶・聖辰▶・聖人▶・聖水▶・聖瑞▶・聖世▶・聖制▶・聖製▶・聖籍▶・聖節▶・聖善▶・聖祚▶・聖聡▶・聖体▶・聖代▶・聖沢▶・聖旦▶・聖誕▶・聖断▶・聖智▶・聖知▶・聖衷▶・聖朝▶・聖聴▶・聖勅▶・聖帝▶・聖哲▶・聖▶・聖徹▶・聖典▶・聖図▶・聖統▶・聖道▶・聖徳▶・聖範▶・聖▶・聖武▶・聖▶・聖明▶・聖門▶・聖問▶・聖諭▶・聖▶・聖容▶・聖覧▶・聖略▶・聖林▶・聖令▶・聖霊▶・聖暦▶
[下接語]
亜聖・英聖・睿聖・叡聖・淵聖・往聖・歌聖・画聖・楽聖・希聖・棋聖・剣聖・賢聖・元聖・玄聖・彦聖・降聖・三聖・四聖・至聖・詩聖・酒聖・書聖・紹聖・神聖・真聖・仁聖・斉聖・清聖・絶聖・仙聖・先聖・草聖・聡聖・大聖・誕聖・知聖・通聖・哲聖・文聖・明聖・歴聖・列聖
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聖 (ひじり)
知徳のすぐれた天子,神通力をえた仙人,学徳の秀でた僧,物ごとを極めた達人などに対する尊称。とくに平安時代以降,僧位僧官につかず,世を捨て仏道にはげんだ隠遁求道の僧,祈禱・予言・卜占・死者の葬祭にあたった民間仏教者を指す。ひじりは漢字〈聖〉の和訓であるが,その語源は〈日知り〉または〈火治り〉とされる。日のように天下のことを知る人,天文暦数に通じ日の吉凶を知る人,神聖な火を管理する人などの意である。火は霊魂のシンボルであるから,霊魂のことをつかさどる宗教者を指しているとみてよい。漢字の〈聖〉も宗教的な霊能を有するものを指していた。聖なる宗教者がもつ機能は,予言,治病,除災,鎮魂など多方面におよんでいるが,そのおもなものは語義が示唆するように司霊にあった。すなわち死霊の怨霊化をふせぎ,死霊から祖霊への昇華にはたらきかけ,また霊魂の行方を示し,付着した悪霊を除くなどの機能をもつことが聖の聖たるゆえんであり,仏教以前,仏教以後にあっても,これが聖の基本的な宗教機能であった。
仏教がさかんとなってからの聖を類型的にみると,山の修験聖と里の念仏聖とがあり,前者は呪術者,後者は葬祭者としての性格が濃い。治病・除災の修験聖と鎮魂葬祭の念仏聖との2類型が明確になるのは平安時代であるが,その原態は役角(えんのおづぬ)(役行者)と行基に代表されるように,すでに奈良時代にみられる。半僧半俗的な沙弥(しやみ)・優婆塞(うばそく)(優婆塞・優婆夷),官寺仏教と対立していた禅師・菩薩などは奈良時代の聖であり,平安時代の聖人(しようにん)・上人(しようにん),浄土教の興隆とともに現れた阿弥陀聖や阿弥陀仏号(阿弥号)を僧名に付した民間教化者はいずれも沙弥・優婆塞的な性格を色濃くおびていた。沙弥・優婆塞的な半僧半俗性が聖の基本的性格の一つであり,近世の三昧聖もまたこの性格を継承している。都鄙の庶民を教化し,庶民仏教の展開に主導的役割を果たしたのは実にこの聖たちであった。山林に入って断穀不食の苦修練行を積んだり,本寺から離れて別所や村里に隠遁したり,あるいは廻国遊行(ゆぎよう)して念仏,造寺,造仏,写経,鋳鐘,架橋などはば広い勧進(かんじん)活動を行い,穀断(こくだち)聖,十穀聖,別所聖,隠遁聖,廻国聖,勧進聖などその特徴から多様な呼称が生まれた。唱導文芸や芸能にも活躍し,唱導聖などとよばれ,また聖が多く集まる拠点にちなんで善光寺聖(善光寺),四天王寺聖,高野聖などと称された。高野聖は中世にあっては聖の代表のようにみられた。平安時代中期以後,高野山には隠遁して往生を期すものが増え,のち学侶・行人と対抗するにいたり,聖方(ひじりかた)といわれて高野山三方(さんかた)の一つとなった。高野聖は諸国を回り高野山信仰を広めたが,しだいに世俗的活動を行い,江戸時代には呉服を背負って行商に従事した。東大寺を再建した重源(ちようげん)は勧進聖として著名であるが,室町中期にはその系統をひくという十穀聖が輩出し,架橋や写経など広範な活動をしたが,資金調達に有能であり,なかには経済活動を主目的とし,金品勧募を職業化するものがいた。念仏聖は空也やその流れをひく阿弥陀聖のあとをうけ,葬祭に関与したが,近世にいたってその一部は三昧聖となって残留した。行基系の三昧聖の所伝によれば,聖の元祖は行基とともに墓地を開き,火葬を行った志阿弥法師であるという。〈志阿弥〉は固有名詞ではなく,普通名詞の〈沙弥〉からきたものであり,半僧半俗の生活態をもつものである。三昧聖は別に御坊(おんぼう)(隠坊)聖とも称された。
なお妻をもたないことを指して聖という場合がある。法然の〈ひじりて(念仏が)申されずば,在家になりて申すべし。在家にて申されずば遁世して申すべし〉(《法然上人行状画図》)という法語にある〈ひじり〉は清僧,〈遁世〉は半僧半俗の意。また念仏往生にはげむ僧や戒律を守っている僧を指して〈聖法師〉ということがある。
唐木類で作った飾りのない刀の柄を聖柄(ひじりづか)というのは,髪のない僧の頭に似ているからであり,高野聖の笈(おい)に似たあんどんを聖行灯(ひじりあんどん)という。なお《万葉集》巻三には,中国の故事によって清酒を聖と異称したことを詠んだ歌がみえる。
→聖人(せいじん)
執筆者:伊藤 唯真
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
聖(せい)
せい
聖とは、神聖のことであり、原始宗教からキリスト教、仏教などの世界宗教のなかにも含まれている。ただし、聖観念の内容については、民族に応じ、社会の違いに応じて異なっており、同じことばで包括することには疑問がある。けれども聖という語を便宜上用いることには異論はないだろう。
聖観念は、セム人の宗教を研究したイギリスのローバートソン・スミス以来、ジェームズ・フレーザー、マレットによって用いられたが、とらえ方は若干異なっていた。
聖観念の研究で、後世の実証的研究にもっとも大きな影響を与えたのは、フランスのエミール・デュルケームである。デュルケームは宗教を、「神聖なものに関連する信仰と実施との連帯的な体系」とし、聖観念を宗教の中心に位置づけた。ただ宗教のなかには、原始宗教も含めて、聖観念を伴わない観念、掟(おきて)、法、規範などが含まれていることがあり、宗教のこの定義は狭すぎるきらいがある。デュルケームは聖の根底に社会的なものがあると考えた。デュルケームと同じくドイツのルドルフ・オットーも聖を宗教の本質的な観念と考え、純粋に宗教的・非合理的な意味での聖をヌミノーゼとよんだ。「聖なる」を意味する英語のsacred「セイクレッド」やフランス語のsacré「サクレ」の語源にあたるラテン語の「サケル」sacerは、「聖なる」という意味のほかに、「消えない汚れ」「呪(のろ)われた」の意味があり、「神々に捧(ささ)げる」「崇拝に値する」とともに「恐ろしい」という意味を含んでいる。E・バンブニストは、聖観念は古代インド・ヨーロッパ語の比較検討から、聖なるものに満ちた「積極的」な側面と、人々に禁じられているという「消極的」な側面とが存在することを指摘している。エリアーデは、宗教現象の根底には俗的・日常的世界に対立する聖性が貫かれているとし、その聖性が神話、儀礼、象徴、物、人などに現れる(これをヒエロファニーhierophanie、聖性具現とよぶ)と論じた。
多くの社会に日常的・俗的生活と聖なる生活とが、また俗的世界と穢(けが)れとが分離されており、何と対比されるかによって、あるいはコンテクストの違いによって、聖が穢れに転換し、穢れが聖に転換することがある。ラテン語の「聖」に両方の意味があるのはこのためであろう。たとえば、インドネシアのバリ島南部では、北側が、宗教的に穢れているとされる「海側」(南側)と対比されるときには、それは「山側」となり、聖なる方位であるが、最高司祭が東方に神々を拝むとき、地上に悪霊への供物を置くときは、北は下界に通ずる方位であり、下層の司祭は北に向かって下界の神ウィシュヌや悪霊(ブタ・カラ)に祈る。同様にバリ島では、祭具を海で清めるとき、海は神聖な浄化の力をもつが、北の「山側」と対比するときは穢れたところである。
[吉田禎吾]
『M・エリアーデ著、風間敏夫訳『聖と俗』(1978・法政大学出版局)』▽『M・エリアーデ著、堀一郎訳『大地・農耕・女性――比較宗教類型論』(1968・未来社)』
聖(ひじり)
ひじり
漢字の聖(せい)は知徳の優れた完全な人格を表し、また宗教的には神聖性を表現する文字である。仏教でも菩薩(ぼさつ)や阿羅漢(あらかん)を賢聖(けんしょう)という。これはまた帝王の徳も表すので聖王、聖帝といい、日本では「ひじりのみかど」と読まれた。しかし「ひじり」は火を「しる」(支配する、管理する)意で、古代には、聖なる火を管理する宗教家をさしたものと推定される。しかし日本の古代仏教では、官寺・諸大寺に住む僧侶(そうりょ)に対して半僧半俗の民間僧侶(沙弥(しゃみ)、優婆塞(うばそく)などともいう)を聖とよんだのは、彼らが自らを「ひじり」と称したからである。中世には念仏(ねんぶつ)聖や勧進(かんじん)聖、遊行(ゆぎょう)聖として民間仏教の担い手となった。しかし神聖の聖の意で高僧をさす場合もあった。
[五来 重]
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聖
ひじり
霊能をもつ民間の宗教者。「日知り」が語源という。奈良時代から仏教的色彩を濃く帯びるようになり,山林などに修行する行者(ぎょうじゃ),民間に近接して活動する菩薩僧,半僧半俗の沙弥(しゃみ)や優婆塞(うばそく)などの称となった。平安時代になると念仏や法華経持経による往生行者も加え,市聖空也(くうや)・革聖行円(ぎょうえん)・多武峰(とうのみね)聖増賀(ぞうが)など多くの著名な聖が輩出し,「聖人」「上人」「仙」といった語も同義に用いられるようになった。また本来彼らの多くは単独行動だったが,この時代から京の大原や高野山などに集団で居住する「別所」を形成する者も現れた。鎌倉時代以降さらに行動範囲を広げて,念仏聖・遊行(ゆぎょう)聖・勧進聖・唱導聖・高野聖などの活動が展開された。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
聖
ひじり
「日知り」といわれるように天皇をさす。また「ひじりを立てる」というように,容易ならざる堅固な道心を要する語。聖人,上人ともいった。仏教では高僧の呼称でもあるが,また一般民間の僧のこともいった。初期には苦行的性格が強く,持経者的,呪験者的なものをはじめ,慈善救済,勧進,遊行説経,隠遁,起塔造像写経,霊地霊寺巡歴,肉食妻帯,念仏者など,また呉服を背負って行商する者など,1つの概念では包みきれない多様なものを意味したのが特徴。民衆に仏教を説いた空也をはじめ,東大寺勧進の重源,新義真言宗を開いた覚鑁 (ばん) ,関白九条兼実の祈祷師仏厳,専修念仏を唱えた法然らも聖であった。とにかく仏教を民衆のものにした功績は高く評価されている。
聖
せい
holiness
宗教の基本的概念の一つ。第一義的には神または絶対者,もしくはそれに類する神格の本質的属性であり,消極的には一切の不完全やけがれ,特に倫理的欠陥,罪の欠如をさし,積極的にはほかのいかなるものをもこえたその絶対性,特に万物の規範としてのその完全性をさす。このような超絶性は,人間に戦慄感と同時に深い魅力をも生じさせる。神以外の人間や事物も,この第一義的聖との関連において聖といわれる。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
聖【ひじり】
仏教で学徳すぐれた僧に対する美称。元来,高徳の人,聖人,天文暦数に長じた人を呼んだ。のち,大寺院に属さぬ僧や官職につかぬ高僧のこと。また諸方に遊行(ゆぎょう)して仏法を布教する僧を市聖(いちのひじり),阿弥陀聖などと呼んだ。→高野聖
→関連項目聖人|渡辺津
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聖
ひじり
平安中期以後,正規の寺院から離れ,隠遁修行し民衆教化につとめた僧侶
上人ともいう。貴族化した天台・真言の寺院を離れ,浄土信仰のため「別所」と称する仏堂で念仏した僧侶たちをいった。また山林で修行し法験をつんだ山伏や,遊行した乞食僧もさした。
出典 旺文社日本史事典 三訂版旺文社日本史事典 三訂版について 情報
聖
京都府京都市、聖護院八ッ橋総本店が製造・販売する和菓子。京都銘菓の八ツ橋の生地で粒餡を挟んだ生八ッ橋のひとつ。
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世界大百科事典(旧版)内の聖の言及
【隠者】より
…これとは別に,国家の統制下にある宗教教団の外にあって活動する民間宗教家がいた。彼らは[聖](ひじり),仙,[行者]などと呼ばれた。聖はもともと神秘的な霊力をもつと見られており,10世紀ころから浄土教の発展にともない,念仏聖が注目されるようになった。…
【高野聖】より
…[高野山]を中心にして,全国に活躍した勧進聖。聖は古代宗教家の総名であったが,奈良時代から民間僧を指すとともに,半僧半俗の私度僧を指すようになった。…
【持経者】より
…読誦する経のほとんどが《法華経》であるから,持経者という場合,《法華経》を受持読誦する僧を指した。持経者はときに聖(ひじり)ともいわれるように,おおよそ平安時代中期以降に社会的概念にまでなった聖のなかで,とりわけ《法華経》を読誦する聖が持経者とよばれた。《大日本法華経験記》はこうした持経者の略伝と法華経霊験譚を集めている。…
【慈善事業】より
…[社会福祉]【古川 孝順】
〔慈善事業の歴史〕
【日本】
[古代]
古代における慈善事業を概観すると,まず僧尼・皇族・貴族・地方官吏・豪族など個人による慈善救済活動がある。この面では,聖徳太子の四天王寺の施薬院など四院の設置ほかの事績が想起されるが,伝説的要素が強く確かなことは不明である。その点,詳細な史料の残る奈良時代の僧行基の活動は質量ともに特筆でき,後世の慈善事業に与えた影響も大きい。…
【上人】より
…この上人号は,後世,僧官制が乱れるとともに,諸宗や民間で転用かつ私用されるようになった。平安中期から本寺を離れて別所に隠遁したり,回国遊行して修行,作善勧進する僧が現れ,彼らを上人,[聖人],[聖](ひじり)などとよぶことが一般化した。上人号をもって世人から敬慕された最初は空也といわれる(《諸門跡譜》《和訓栞》)。…
【聖人】より
…聖者(しようじや),聖(ひじり)ともいう。悟りをえた人。…
【聖人】より
…一般に知識や徳が衆にすぐれ,範と仰がれるような人物,および修行を積んだ偉大な信仰者をさす語。特に後者は〈聖者〉とも称され,しばしば世俗の穢れを超越し,神のように清浄でいかなる誘惑にも屈せぬ心,不思議な奇跡を行う超能力などを備えた人をさすことが多い。このような崇高な人格と能力に到達するには,激しい禁欲的修行によって,肉体的・精神的修練を通過しなければならないとする観念が古くからあった。…
【僧】より
…習禅をもっぱらとする者)などの別があった。また,修行向上の度合に応じて凡夫と聖人(しようにん)に分けられる。聖人位はさらに阿羅漢を最高位とする四向四果の八位に分けられる。…
【杖】より
…【岩倉 博光】
[民俗]
神功(じんぐう)皇后が新羅(しらぎ)の国主の門に杖をつきたてたと《古事記》にあるのは,杖が占有権を表示するものであったことを示している。このため杖は境界を限る牓示(ぼうじ)としての役割を果たし,とくに俗界と聖界の境を示す場合,忌杖(いみづえ)と呼ばれている。また杖立(つえたて),杖突(つえつき)などの地名にまつわる伝説もこれと関連することが多い。…
【てるてる坊主(照々坊主)】より
…茨城・福島両県では,〈ころり道心〉の名称でよばれ,日乞い,雨乞いのときに使われていた。人形は悪霊をこめて追い出すために用いられたのであるが,坊主頭の形をとるのは,天気祭の司祭者が,旅の僧の聖(ひじり)や修験者であったことを示唆している。かつて日知り=聖の機能に天候の予知と,良い天気を維持する役割が課せられていたことを推測させる。…
【民謡】より
…この柳田分類に対して,折口信夫は,柳田のいう民謡を(1)童謡,(2)季節謡,(3)労働謡に分類する以外に,(4)芸謡の存在を挙げている。芸謡は芸人歌のことで,日本では各時代を通じて祝(ほかい)びと,聖(ひじり),山伏,座頭(ざとう),[瞽女](ごぜ),[遊女]などのように,定まった舞台をもたず,漂泊の生活の中で民衆と接触しつつ技芸を各地に散布した人々があり,この種の遊芸者の活躍で華やかな歌が各地に咲き,また土地の素朴な労働の歌が洗練された三味線歌に変化することもあった。瞽女歌から出た《[八木節]》,船歌から座敷歌化した《[木更津甚句]》などがその例である。…
※「聖」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」