荒ぶ(読み)スサブ

デジタル大辞泉 「荒ぶ」の意味・読み・例文・類語

すさ・ぶ【荒ぶ/進ぶ/遊ぶ】

上代は上二段活用であるが、平安時代ころから四段にも活用するようになった》
[動バ五(四)]
気持ちや生活態度にゆとりやうるおいなどがなくなる。とげとげしくなる。荒れる。「心が―・ぶ」
細かいところにまで注意が求められる芸などが荒れて雑になる。「芸が―・ぶ」
ある方向にいよいよ進む。特に、雨・風などの勢いが増す。「嵐が―・ぶ」「吹き―・ぶ」
勢いが尽きて衰える。
「降り―・ぶ時雨の空のうき雲にみえぬ夕日のかげぞうつろふ」〈風雅・冬〉
(遊ぶ)気の向くままに何かをする。慰み興じる。もてあそぶ。
「目とどめ給ひて…など、書き添へつつ―・び給ふ」〈・若菜上〉
[動バ上二]
(遊ぶ)心のおもむくままにする。あそび慰む。
「絵はなほ筆のついでに―・びさせ給ふあだごととこそ」〈絵合
(動詞の連用形について)勢いが激しくなる。さかんに…する。
朝露に咲き―・びたる月草の日くたつなへにぬべく思ほゆ」〈・二二八一〉
[類語]荒れる荒らすすさむ焦慮苛立ち焦燥焦るせく急き込む気が急く逸るテンパる焦心苛立つかりかりじりじりやきもきむしゃくしゃむずむずうずうずじれる苛つく業を煮やす痺れを切らす歯痒いじれったいもどかしい辛気臭い苛立たしいまだるっこいまどろっこい躍起隔靴掻痒いらいら尖る手ぬるい生ぬるいのろ臭い間怠まだる間怠まだるこしい煮え切らないうやむやあやふや漠然おぼろげ曖昧どっちつかず要領を得ないぬらりくらりぬらくらのらりくらりのらくらぼやかす無節操洞ヶ峠言を左右にする言葉を濁す小心弱気引っ込み思案気弱内弁慶陰弁慶臆病大人しいこわがり内気怯懦きょうだ怯弱きょうじゃく意気地なし小胆小心翼翼弱腰薄弱惰弱柔弱軟弱優柔不断柔いやわ弱弱しい女女しい弱音を吐く音を上げる悲鳴を上げる気が弱い腰が弱い肝が小さい肝っ玉が小さい

さ・ぶ【荒ぶ】

[動バ上二]
あれる。荒涼としたさまになる。
楽浪ささなみの国つ御神のうら―・びて荒れたる都見れば悲しも」〈・三三〉
古くなる。
「我が門の板井の清水里遠み人し汲まねば水―・びにけり」〈神楽・杓〉
色があせる。勢いが衰える。
「うす霧の朝けの梢色―・びて虫の音残る森の下草」〈風雅・秋下〉
心が荒れすさぶ。さびしく思う。
「まそ鏡見飽かぬ君に後れてや朝夕あしたゆふへに―・びつつ居らむ」〈・五七二〉
[補説]この語の意から派生した語に「びる」「びる」がある。

あら・ぶ【荒ぶ】

[動バ上二]
暴れる。荒れる。
「―・ぶる蝦夷えみしどもを言向ことむけ」〈・中〉
気持ちが離れる。疎遠になる。
「島の宮上の池なる放ち鳥―・びな行きそ君いまさずとも」〈・一七二〉

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「荒ぶ」の意味・読み・例文・類語

すさ・ぶ【荒・進・遊】

  1. [ 1 ] 〘 自動詞 バ上二段活用 〙 ( 動詞の連用形の下に付いて補助動詞的に用いる ) 物事の進行するなりゆきのままになる。動作、程度がはなはだしくなる。いよいよ進む。
    1. [初出の実例]「朝露に咲き酢左乾(すサび)たるつき草の日くたつなへに消(け)ぬべく思ほゆ」(出典:万葉集(8C後)一〇・二二八一)
  2. [ 2 ] 〘 他動詞 バ上二段活用 〙 心のおもむくままに物事をすすめる。慰み興ずる。もてあそぶ。他の動詞と複合して用いられることが多い。
    1. [初出の実例]「ゑは、猶、ふでのついでにすさびさせ給あだごととこそ、おもひ給へしか」(出典:源氏物語(1001‐14頃)絵合)
    2. 「さとのあまのたきすさひたるもしほ草又かきつめてけぶりたてつる〈寂蓮〉」(出典:続後撰和歌集(1251)羇旅・一三二四)
  3. [ 3 ] 〘 自動詞 バ五(四) 〙
    1. 物事の進行するなりゆきのままになる。ある特定の方向にいよいよ進む。
      1. [初出の実例]「深く染著を生して、酔ひ(スサフ)をもて性とす」(出典:成唯識論寛仁四年点(1020)六)
      2. 「外には吹雪がすさぶとも」(出典:鮫(1963)〈真継伸彦〉一)
    2. 勢いが尽きて衰える。進み果てて止む。
      1. [初出の実例]「上荒(スサヒ)(〈別訓〉まとひ・あれ)下困みて、勢久しからじ」(出典:白氏文集天永四年点(1113)四)
      2. 「思ひかねうちぬるよひもありなまし吹きだにすさべ庭の松風〈藤原良経〉」(出典:新古今和歌集(1205)恋四・一三〇四)
    3. 心を奪われておぼれる。ゆとりがなくなって荒れる。
    4. 肌などがなめらかでなくなる。荒れる。すさむ。
      1. [初出の実例]「風邪をひいた時のやうに皮膚が荒(スサ)び」(出典:街の物語(1934)〈榊山潤〉)
  4. [ 4 ] 〘 他動詞 バ四段活用 〙 心のおもむくままに物事を進める。慰み興ずる。もてあそぶ。
    1. [初出の実例]「さて、すさびて、やみにけり」(出典:平中物語(965頃)三一)
    2. 「窓ちかき竹の葉すさぶ風の音にいとどみじかきうたたねの夢〈式子内親王〉」(出典:新古今和歌集(1205)夏・二五六)

荒ぶの補助注記

奈良時代、上二段に活用していたものが、四段にも活用するようになった。のち、四段にだけ活用し、「すさむ」に移行していったと思われる。連用形の例が多く、平安時代では上二段活用でないとは言い切れないが、上二段の確例の大半が他の動詞の下に付いているところから、単独で用いられている連用形は四段活用と見た。→「すさむ(荒)」の補注


あら‐・ぶ【荒】

  1. 〘 自動詞 バ上二段活用 〙 ( 形容詞あらし(荒)」の語幹に、そのような様子をしたり、そのような状態にあることを表わす接尾語「ぶ」が付いたもの )
  2. 乱暴なふるまいをする。荒々しくふるまう。また、風などが強く吹く。荒れる。→荒ぶる神
    1. [初出の実例]「四方(よも)四角(よすみ)より疎(うと)び荒備(アラビ)来む天のまがつひといふ神の」(出典:延喜式(927)祝詞(出雲板訓))
  3. 土地が荒れる。未開である。
    1. [初出の実例]「夫れ葦原中国は本(もと)より荒芒(アラビ)たり」(出典:日本書紀(720)神代上(水戸本訓))
  4. うとくなる。情が薄くなる。
    1. [初出の実例]「筑紫船いまだも来ねばあらかじめ荒振(あらぶる)君を見るが悲しさ」(出典:万葉集(8C後)四・五五六)
  5. 俳諧で、あまり趣向を凝らさないで、あっさりと句を作る。
    1. [初出の実例]「俳諧あらび可申候事は、〈略〉ただ心も言葉もねばりなく、さらりとあらびて仕候事に御座候」(出典:浪化宛去来書簡‐元祿七年(1694)五月一三日)

荒ぶの語誌

( 1 )対義語に、「にきぶ(和)」がある。
( 2 )「あ(荒)る」が風や波が激しくなる、家や都などが荒廃する様子など常に視覚性を持つのに対し、「あらぶ」は神や人の心情や性格などについて、馴れ親しまない状態を表わす。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

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