精選版 日本国語大辞典 「厳」の意味・読み・例文・類語
きびし・い【厳】
〘形口〙 きびし 〘形シク〙 他に対する接し方や警戒の仕方が厳格、厳重である。簡単に近づいたり入り込んだりできない感じである。
① いかめしい。おごそかである。厳重である。
※枕(10C終)九二「帳台の夜、行事の蔵人のいときびしうもてなして」
② 人に対する要求などが激しく容赦がない。簡単に許すことをしないさまである。苛酷である。
※栄花(1028‐92頃)松の下枝「世中の乱れたらん事を直させ給はんとおぼしめし、制などもきびしく」
③ すきまがなくつまっているさまである。また、ゆるみがなくぴったりしている。
※大慈恩寺三蔵法師伝永久四年点(1116)三「百姓殷(さかり)に稠(キヒシウ)して居家鱗のごとくに接(まじは)れり」
④ 自然の力などが強くて、簡単には対応できないさまである。山がけわしい、寒暑の程度がひどいなど。
※梁塵秘抄(1179頃)二「熊野へ参らむと思へども徒歩より参れば道遠し、すぐれて山きびし」
⑤ 程度のはなはだしいさま。ひどく。
※浮世草子・けいせい伝受紙子(1710)五「表の戸をきびしくたたけば」
きびし‐げ
〘形動〙
きびし‐さ
〘名〙
いかめし・い【厳】
〘形口〙 いかめし 〘形シク〙 (「いかづち」「いかし(厳)」「いかる(怒)」と同根)
① 威勢があっておごそかである。規模が大きく勢いが盛んである。荘重である。壮大である。
※竹取(9C末‐10C初)「あるじいかめしう仕うまつる」
② 姿や形が普通より大きく、がっしりしている。いかつい。
※宇津保(970‐999頃)俊蔭「いかめしき栗、橡(とち)を入れて」
③ はげしい。はなはだしい。きびしい。
※源氏(1001‐14頃)明石「いかめしき雨、風、いかづちの」
※宇治拾遺(1221頃)九「いかめしくおそろしげなる声にて」
④ 改まった態度やしかたである。
※洒落本・初葉南志(1780)「是はいかめしくはござりますが、御酒の興を添へますためお目にかけますとあって献ぜられます」
⑤ ものものしい。厳重なさま。「いかめしい警護」
いかめし‐げ
〘形動〙
いかめし‐さ
〘名〙
いっか・い【厳】
〘形口〙 (「いかい(厳)」の変化した語)
① =いかい(厳)①
② =いかい(厳)②
③ =いかい(厳)③
※かた言(1650)二「物のいかめしくおほきなることを、〈略〉いっかいとはあしかるべし」
※雑俳・軽口頓作(1709)「あたたかな・いっかい尻の退(ひ)いた跡」
いかし【厳】
(シク活用形容詞「いかし」の語幹。ただし、語幹用法だけで、シク活用の確例はない) 勢いが盛んなさま、繁栄しているさま、いかめしいさま、などを表わす。「厳日(いかしひ)」「厳矛(いかしほこ)」「厳穂(いかしほ)」「厳御世(いかしみよ)」など。
※延喜式(927)祝詞「伊賀志(イカシ)の御世に幸(さき)はへまつれ」
[語誌](1)イカヅチ(雷)、イカシホ(瞋塩)のイカを、イカシの語幹とすれば、やはり語幹の用法のみではあるが、ク活用の例も上代にはあったことになる。
(2)シク活用は、イカシホ(厳穂)、イカシミヨ(厳御世)などのように、特定の語について、祝詞の類に多く見られる特殊な用法か。
(3)中古以降、ク活用で現われ、中世には口語において、イカイの形で多くは連体修飾語として用いられる。
(2)シク活用は、イカシホ(厳穂)、イカシミヨ(厳御世)などのように、特定の語について、祝詞の類に多く見られる特殊な用法か。
(3)中古以降、ク活用で現われ、中世には口語において、イカイの形で多くは連体修飾語として用いられる。
きび・し【厳】
〘形ク〙
① すきまがなく密である。
※西大寺本金光明最勝王経平安初期点(830頃)六「歯は白きこと斉しく密(キヒク)して珂と雪との猶(ごと)し」
② きびしい。むごい。激しい。苛酷である。
※百丈清規抄(1462)三「弾正をは霜台と云そ、きひくはげしう事をただす官ぢゃほどにぞ」
[補注](1)形容詞シク活用「きびし」の古い活用。→「きぶい」の補注。
(2)「書陵部本名義抄」に「キビウシテ」の「ビ」の右に、「ビシウシ」の書き込みが見られる。
(2)「書陵部本名義抄」に「キビウシテ」の「ビ」の右に、「ビシウシ」の書き込みが見られる。
いかつ‐・い【厳】
〘形口〙 いかつ・し 〘形ク〙 (「いかつ」を形容詞に活用させたもの) かどばってやわらかみがない。武張って荒々しい。ごつい。いかめしい。
※浄瑠璃・心中二つ腹帯(1722)二「伯母御のいかつい返礼」
※安愚楽鍋(1871‐72)〈仮名垣魯文〉二「しぜんとこわらしくもっともいかつきせいらいなり」
いかつ‐げ
〘形動〙
いかつ‐さ
〘名〙
いかめ・い【厳】
〘形口〙 (形容詞「いかめし」の変化したもので、室町時代の語) =いかめしい(厳)
※百丈清規抄(1462)二「受講之人を置た事はいかめい費があるぞ」
※四河入海(17C前)二「蒼鱗は松の皮ぞ。ああいかめい松かなぞ」
[語誌]シク活用「いかめし」が規範的な基本形式であるのに対して、イカメイは室町期の抄物に数多く見える臨時的な口頭形式であり、二形式の共存は意味的対立というよりも位相的対立であるととらえるべきであろう。→「いかめ(厳)」の語誌
いか‐つ【厳】
〘名〙 (形動) (「いか」は「いかめしい」「いかい」などの「いか」と同語源) かどばってやわらかみのないさま。武張ってあらあらしいさま。周囲に気兼ねなく、図々しいさま。また、そのような態度や行為。
※二曲三体人形図(1421)「心も鬼なれば、いづれも、いかつの見風にて」
[語誌](1)「厳強(いかつよ)し」の略〔大言海〕とも「厳(いか)つ」の「つ」は古代の格助詞〔近世上方語辞典=前田勇〕ともいわれる。
(2)中・近世の用例は、形容動詞としての用法が多く、近世後期から、形容詞「いかつい」が多くなる。
(2)中・近世の用例は、形容動詞としての用法が多く、近世後期から、形容詞「いかつい」が多くなる。
いかめ【厳】
〘形動〙 (形容詞「いかめし」から) いかめしいさま。おそろしいさま。
※四河入海(17C前)一「やらいかめの寺やぞ」
[語誌]「平家‐二」に、祐慶が「大の目を見いからし」たことから「いかめ房」と呼ばれたという記事があり、多くの諸本の表記から、イカメが「厳目」と理解されていたことがうかがえる。こうした理解が存したために、シク活用「いかめし」の「いかめ」が独立性を持つようになり、口語形活用の形容詞イカメイ及びその語幹用法が室町期に成立するに至ったものか。
いっかい【厳】
〘副〙 =いかい(厳)〔副〕
※浄瑠璃・彦山権現誓助剣(1786)五「いっかい苦にしてござる上、煩(わづら)やつたらどうあらう」
おごそけ・し【厳】
〘形ク〙 尊くいかめしい。
※彌勒上生経賛平安初期点(850頃)「世尊の身の支は、安かに定まり、敦(オコソケク)重(たふと)くして、むかしより掉ひ動きたまはず」
おごそか【厳】
〘形動〙 威厳があるさま。礼儀正しく近よりにくいさま。
※彌勒上生経賛平安初期点(850頃)「世尊の行歩したまふ威容は、斉しく粛(オコソカなル)こと師子王のごとし」
いから・し【厳】
〘形ク〙 (形容詞「いかし」の変化した語) いかめしい。気性などが激しい。きびしい。
※文明本愚管抄(1220)三「隆家の若く、いからきやうなる人にて」
いか・し【厳】
〘形ク〙 ⇒いかい(厳)
いかめし【厳】
〘形シク〙 ⇒いかめしい(厳)
きびし【厳】
〘形シク〙 ⇒きびしい(厳)
いかつ‐・し【厳】
〘形ク〙 ⇒いかつい(厳)
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報