猶・尚(読み)なお

大辞林 第三版の解説

なお【猶・尚】

( 副 )
以前の状態がそのまま続いているさまを表す。
相変わらず。いぜんとして。 「今も-美しい」 「今-語り継がれている」
引き続いて。もとのとおり。 「 -いっそうのお引き立てを」 「 -しばし試みよ/源氏 桐壺
以前の状態や他の同類のものと比べて程度が進んでいるさま。
ますます。よりいっそう。 「手術して-悪くなった」 「そのほうが-都合がいい」
(好ましくないと思う気持ちを強調して)さらに。もっと。 「うそをつくほうが-悪い」 「げに畜類にも-おとれり/沙石 八・古活字本
それにさらに付け加える余地があるさまを表す。まだ。 「試験まで-一〇日ある」 「憎んでも-余りある」
前の語を受けて強調する意を表す。…でさえも。でも。 「昼-暗い杉並木」
(漢文訓読に由来する語法で、下に、「如し」を伴う)あたかも。ちょうど。 「過ぎたるは-及ばざるが如し」 「上古-かくのごとし、況や末代においてをや/平家 10
(当然のこととして)なんといっても。やはり。たしかに。 「世の中に-いと心憂きものは人ににくまれんとこそあるべけれ/枕草子 267
( 接続 )
ある事柄を述べたあとにほかのことを言い添えるときに用いる語。さらに申しますと。付け加えていえば。 《尚》 「取りあえず御報告まで。-詳細は追ってお知らせします」

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精選版 日本国語大辞典の解説

なお なほ【猶・尚】

[1] 〘副〙
① 一つの状態や心情・意志などが、それを解消する可能性を有する事態を経た後も、引き続き変わることなく持続するさまを表わす。やはりもとのとおり。それでもやっぱり。何と言ってもやはり。
※万葉(8C後)二〇・四三五一「旅衣八重着重ねて寝ぬれども奈保(ナホ)はだ寒し妹にしあらねば」
② 一つの判断や意志を、対立する判断や意志を付けることによって、確認する気持を表わす。やはり。どう見ても。
※万葉(8C後)六・九六〇「隼人の湍戸(せと)の巖も鮎走る吉野の滝に尚及(し)かずけり」
※源氏(1001‐14頃)桐壺「猶しばし心みよ」
③ 欠点や好ましくない点を含む一つの状態が、他と比べてまだましであり、あるいはその欠点にもかかわらずすぐれた一面を持つことを認める気持を表わす。まだしも。むしろ。それでも。そうは言っても。
※伊勢物語(10C前)四〇「猶思ひてこそいひしか、いとかくしもあらじと思ふに、真実に絶え入りにければ、まどひて願たてけり」
④ ある状態や他のものに比べていっそう程度が増すさまを表わす。ますます。いちだんと。もっと。ずっと。さらに。
※万葉(8C後)七・一二三五「波高しいかに梶取水鳥の浮き寝やすべき猶や漕ぐべき」
⑤ (「なお…のごとし」などの形で) 一つの事物、事態が、他の事物、事態とそっくりであるさま。まるで。あたかも。ちょうど。
※守護国界主陀羅尼経巻八平安初期点(900頃)「問難皆答ふること、若(ナホ)泉流のごとし」
[2] 〘接続〙 一つの話を終えたあとに、追加して別の話を始めようとするときの、つなぎのことば。それに加えて。付け加えると。加えていうと。
※平家(13C前)三「五条大納言邦綱卿、御馬二疋進せらる。心ざしのいたりか、徳のあまりかとぞ人申しける。なを伊勢より始て、安芸の厳島にいたるまで、七十余ケ所に神馬を立らる」
[補注](1)「なお(直)」との関係を認める説と否定する説とがある。前者は、物がゆがまない・まっすぐであることを原義とする「直」のより広義としての「そのままに(事態・事象の不変)・まっすぐに」が、「なほ(猶)」の意味する「やはり」であるとする。後者は、ある事態の成立を妨げるような事情が生じているにもかかわらず、依然として成立し続けることを表わすのが「猶」の原義で、「直」の原義とはただちに結びつかないとする。
(2)(一)⑤は、漢籍で「やはり」の意にも使われる「猶」などの文字が「ちょうど…のようだ」の意にも使われるところから、国語の「なお」にも加えられた用法で、平安初期から訓点資料に見える。

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