軈て(読み)ヤガテ

デジタル大辞泉 「軈て」の意味・読み・例文・類語

やがて【×軈て/頓て】

[副]
あまり時間日数がたたないうちに、ある事が起こるさま、また、ある事態になるさま。そのうちに。まもなく。じきに。「―日が暮れる」「東京へ出てから、―三年になる」
それにほかならない。まさに。とりもなおさず。
自尊の念は―人間を支持しているもので」〈露伴・プラクリチ〉
そのまま。引き続いて。
「山の仕事をして、―食べる弁当が」〈左千夫野菊の墓
「(道真ガ大宰府ニ流サレテ)―かしこにてうせ給へる」〈大鏡・時平〉
時を移さず。ただちに。すぐさま。
「―具して宮に帰りて后に立てむ」〈今昔・三一・三三〉
[補説]「軈」は国字
[類語](1間もなく程なく・もうすぐ・もうじき・そろそろ追っつけ追ってそのうち今に追い追い遠からず遅かれ早かれ早晩いずれいつか行く行く近日近近じきすぐ直ちに早速じきすぐにすぐさま直接もうきた日ならずして後日他日不日又の日近く上げずぼちぼち今に目前秒読みカウントダウン追っ掛け時間の問題ややあって今日明日すかさず間を置く時を移さずこの先

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「軈て」の意味・読み・例文・類語

やがて【軈・頓】

  1. 〘 副詞 〙
  2. ある事態・状態がそのままで変わることなく、引き続いて次の事態・状態が出現するさまを表わす語。そのまま。そのままずっと。
    1. [初出の実例]「薬もくはず、やがて起きもあがらで病みふせり」(出典:竹取物語(9C末‐10C初))
    2. 「『かしこより人おこせばこれをやれ』とていぬ。さてやがてのちつひにけふまで知らず」(出典:伊勢物語(10C前)九六)
  3. ある事態・状態から、格別の事柄を間にはさむことなく、あるいは、時間を経過することなく、次の事態・状態が出現するさまを表わす語。すぐさま。ただちに。
    1. [初出の実例]「御ぐしおろし給ひければ、やがて御ともにかしらおろししてけり」(出典:大和物語(947‐957頃)二)
    2. 「名を聞くより、やがて面影はおしはからるるここちするを」(出典:徒然草(1331頃)七一)
  4. 他の事柄や状態ではなく、まさにその事柄や状態であることを強めていう語。とりもなおさず。ほかならず。直接名詞句を修飾し、「ほかならぬ…」と指示する用法もある。
    1. [初出の実例]「衣河の尻やがて海の如し」(出典:今昔物語集(1120頃か)二五)
    2. 「この尼ぜと申は、やがて法皇の御乳の人紀伊二位の事也」(出典:平家物語(13C前)三)
  5. 事態が推移して、あるいは、ある程度の時間を経過して、引き続いて次の事態・状態が出現するさまを表わす語。間もなく。そのうちに。
    1. [初出の実例]「后宣旨かぶらせ給、〈略〉やかてみかどうみたてまつり給」(出典:大鏡(12C前)一)
    2. 「頓て人里に至れば、あたひを鞍つぼに結付けて馬を返しぬ」(出典:俳諧・奥の細道(1693‐94頃)那須)

軈ての語誌

( 1 )「観智院本名義抄」に「便 スナハチ ヤガテ」とあるように、「すなわち」に近い意で用いられたが、「すなわち」が漢文訓読で用いられるのに対して、「やがて」は、もっぱら和文脈で用いられた。
( 2 )「今昔物語集」ほかに「軈而」の形が見え、のち「軈」一字を当てるようにもなるが、この字は国字で、「身をすぐに適応させる」意の会意文字と考えられる。
( 3 )からの用法に転ずる時期は、必ずしもはっきりしないが、中世以降に多くなる。
( 4 )語の成り立ちについては、感動詞「や」に可能肯定判断を表わす下二段動詞「かつ」の連用形「かて」が付いて古くできたものという説がある。
( 5 )日葡辞書には、「Yacate(ヤカテ)」の見出しもあるが、多く使われるのは「やがて」だと述べている。古くは清音だったか。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

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