熱(体温)(読み)ねつ(英語表記)fever

翻訳|fever

日本大百科全書(ニッポニカ) 「熱(体温)」の意味・わかりやすい解説

熱(体温)
ねつ
fever

体温の調節機能が種々の原因によって異常をきたし、正常体温(平熱)以上になった状態をいい、発熱あるいは熱があるともよばれる。体温には個人差があり、同一人でも日周期リズムといって朝の起床時と日中では1℃以内の変動がみられるほか、検温部位によっても異なる。したがって、体温の比較は一定時間に検温したものが必要で、正常体温は通常わきの下で少なくとも10分間検温して37℃以下である場合をいう。

 発熱はその程度によって微熱(37~37.9℃)、中等度発熱(38~38.9℃)、高熱(39℃以上)に分けられるが、臨床的には微熱は少なくとも10日間以上持続するものをさし、高熱を出す疾患に比べると一般に予後のよいものが多い。また高熱の場合は、数日から2週間くらい持続する短期間のものと、それ以上持続する長期間のものとがあり、感染症、膠原(こうげん)病、悪性腫瘍(しゅよう)、その他の疾患が含まれるが、予後の良好なウイルス性疾患は短期間のものが多い。一般に高熱は、その熱型(ねつけい)に従って稽留(けいりゅう)熱、弛張(しちょう)熱、間欠熱などに分けられる。

 なお、下熱(解熱)の仕方も疾患によって特徴があり、高熱から6~12時間くらいの比較的短時間のうちに急速に正常体温まで下降するものを分利crisis(分利性下熱)といい、大葉性肺炎などにみられ、多くは発汗を伴い脈拍も正常に復してくる。しかし、分利状の体温下降がみられるが、まもなく体温が再上昇するものがあり、これを仮性分利といい、この場合は脈拍の正常化がみられない。また、分利に対して渙散(かんさん)lysis(渙散性下熱)とよばれるものは、高熱が数日から数週かかって徐々に下熱する場合をいい、大多数の熱性疾患の下熱の際にみられ、腸チフス気管支肺炎などが代表的である。

 発熱は疾患の軽重、軽快と増悪、転機を知るために重要な手掛りとなり、とくに典型的な熱型は診断にも役だつところから、臨床的には発熱に対してそのまま観察する例が多い。しかし、発熱は代謝を促進させて体内のタンパク質を消耗させるほか、心臓への負荷も大きく、発汗による水や電解質の喪失など、全身状態を悪化させるので、その対策を講ずる必要がある。また、高熱を出す疾患にかかりながら発熱が軽微であったり、まったく発熱を認めない場合は重症であるか、または患者の衰弱を示すものであり、予後に注意する必要がある。なお、小児では成人より通常1℃くらい体温の上昇が著しくなるほか、老人や衰弱した患者では逆に著明な発熱をきたしにくいので、あらかじめ用心する。

 治療としては、発熱に対する原因療法とともに対症療法を行う。いたずらに解熱剤によって頻回に下熱させることは、精神的にも肉体的にも患者を消耗させることになる。しかし、老人や衰弱している患者、循環器疾患、熱射病や日射病、ショック患者、うわごとをいう患者などに対しては、冷罨法(あんぽう)などにより体を冷却し、解熱剤などを投与して速やかに下熱させる必要がある。

[柳下徳雄]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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