目次 中国 西洋 本来は中国の音楽理論用語。日本でもこれに準じて用いられ,洋楽のkey等の訳語としても用いられる。
中国 広義には音階を含めた音組織全体や〈腔調〉のように旋律型 までも意味するが,狭義には音階の種類の意味に使われる。五声 や七声 の各構成音のすべてを主音として5種,7種の調が作られ,その主音の名をとって宮調,商調などと呼ぶ。各音階の主音に絶対音高である十二律 の各律をあてると,5音音階 なら60調,7音音階なら84調が得られる。一方,十二律の各律を基音とする1オクターブ を均(きん)といい,第1律である黄鐘(こうしよう)を宮としたものを黄鐘均と呼ぶ。その宮が主音となるものとすれば黄鐘宮調すなわち黄鐘という音律を主音とする宮調音階の調が生じ,商を主音とすれば黄鐘商調すなわち太簇(たいそう)を主音とする商調音階の調を生ずる。以下,黄鐘均全部で7調が得られる。次に大呂(たいりよ)に宮をおいた大呂均でも同じく7調を生ずる。こうして均は12均ありそのすべてに7調を生ずると84調が得られる。この八十四調の理論は,亀茲(きじ)の楽人蘇祇婆(そぎば)がインド起源の七調理論を中国にもたらし,それに基づいて隋の鄭訳が582年(開皇2)に雅楽のために宮廷の楽議にはかったものである。しかし,実用に移したのは唐代からであり,さらに実際に用いられた調はこれより少ない。
雅楽以外の俗楽では漢代から清商三調(せいしようさんぢよう)(平調,清調,瑟調)や楚調,側調などの調名が用いられていた。唐代の俗楽では,古来の清商三調に基づく調や蘇祇婆七調の一部を交えた13調ないし14調が実用された。これらは八十四調に含まれるが,実際には七声十二律のうち四声七律を組み合わせた二十八調の中に収められるもので,俗楽二十八調と呼ばれる(ただし俗楽律は雅楽律より2律高い。表参照)。
唐代の二十八調は宋代には燕楽二十八調と称されたがしだいに実用調が減少した結果,現在では7調が用いられるのみとなっている。
日本の雅楽 は唐代中国の俗楽に基づくもので,日本にも二十八調の理論が伝わった。現行の六調子(壱越(いちこつ)調,双調,太食(たいしき)調,平(ひよう)調,黄鐘(おうしき)調,盤渉(ばんしき)調)は表の同名調と等しい。六調子のほかの枝調子(沙陀(さだ)調,乞食(こつしき)調,水調,性調,道調など)も古くは用いられ,それらもほとんどは唐代俗楽二十八調に含まれる。 執筆者:三谷 陽子
西洋 英語のkey,ドイツ語のTonartに相当する概念で,西洋の音楽理論においては長調あるいは短調が特定の音(x )を主音(中心音)とした場合にこれをx 調という。したがって,音組織における中心音の存在と他の諸音に対するその強力な支配関係を意味する〈調性tonality〉よりも具体的な概念である(しかし現実には,〈調〉と〈調性〉はしばしば混同して用いられている)。また長調・短調という表現も,一見二つの異なる調を意味するかのように誤解されているが,両者の区別はオクターブ内における諸音の配置状態によるのであるから旋法mode(様態)の相違にほかならず,理論的にはそれぞれ〈長旋法〉,〈短旋法〉と呼ぶのが正しい。したがって厳密にいえば,ハ長調とは〈ハを主音とする長旋法〉,ニ短調 とは〈ニを主音とする短旋法〉のことである。
西洋では16世紀から17世紀にかけて,12種の教会旋法 がしだいに長旋法(長調)と短旋法(短調)の2種に集約され,それらは19世紀末まで音楽を支配する基本的音組織となった。そしてオクターブの音階内には12個の異なる音が存在し,その各音を主音としてそれぞれ長調と短調を構成しうるから,12種の長調と12種の短調,合わせて24種の調が成立する。これらのうち同一の旋法に属する12調(たとえば12の長調)はすべて同じ音階構造をもち,ただ主音(すなわち高さ)が異なるにすぎない。したがって,ある長調(または短調)の旋律は,その旋律の同一性を失うことなく,他の長調(または短調)へ移すことができる。これを移調という。一方,ある楽曲ないし楽章の内部で一時的に他の調へ移るのは転調 である。
調性音楽の楽曲ないし楽章は中心となる一定の調(主調)をもち,途中で転調が生じても最後にはその主調で終結し,それによって安定した終止感が得られる。各曲の調の種類は,楽譜の曲頭,音部記号のあとに調号 をもって表示される。たとえば変ホ長調とハ短調のように平行調関係にある二つの調は同じ調号をもつが,その場合には主音の位置によって調を区別することができる。また24種の調のあいだには関係の深さによって種々の近親関係が存在し,一般に二つの調のあいだに共通音が多いものほど近親性が強い。換言すれば,この近親性はある調と完全5度関係にある二つの調,およびこれら3調それぞれの平行調間において最も強力であり,これらを互いの近親調という。5度圏においてはハ長調と完全5度上のト長調,完全5度下のヘ長調,以上3調の各平行短調にあたるイ短調,ホ短調,ニ短調の合計6調が近親調である。
調の性格についていえば,16世紀以来長調(長旋法)は明るく,短調(短旋法)は暗い表現に適するとされ,また調号に嬰記号(シャープ)をもつ調(嬰種調)は高揚した気分を,変記号(フラット)をもつ調(変種調)は沈静した気分を表すことが多い。さらに,平均律 以前の中全音律(音律 )においては調によって音階内部の音律的な音程構造が異なるので,種々の調はそれぞれ固有の性格をもつとされた(調性格論)。12平均律の場合は調による音程構造の相違が存在しないので,原理的には各調に固有の性格もありえないが,歴史的慣習によって,たとえばヘ長調は牧歌的・田園的表現に適すると考えられている。またJ.S.バッハの〈ロ短調〉,モーツァルトの〈ト短調〉や〈ニ短調〉,ベートーベンの〈ハ短調〉,シューベルトの〈イ長調〉や〈イ短調〉など,作曲家にとって特徴的な調の存在が指摘されることも多い。 →5度圏 →旋法 →調性 執筆者:角倉 一朗