(読み)カゲ

デジタル大辞泉 「陰」の意味・読み・例文・類語

かげ【陰/×蔭/×翳】

《「」と同語源》
物に遮られて、日光や風雨の当たらない所。「木の―で休む」
物の後ろや裏など、遮られて見えない所。裏側。「戸の―に隠れる」「月が雲の―にかくれる」
その人のいない所。目の届かない所。「―で悪口を言う」「―で支える」
物事表面にあらわれない部分裏面背後。「事件の―に女あり」「―の取引をする」
(翳)表にはっきり現れない、人の性質や雰囲気の陰気な感じ。「どことなく―のある人」
他の助け。庇護ひご恩恵。現代では、ふつう「おかげ」の形で用いる。
「元はといえばかの西内氏のお―である」〈蘆花思出の記
正式なものに対する略式。「―の祭り」
[下接語]いそ岩陰片陰草陰草葉の陰小陰の下陰下陰島陰・谷陰・軒陰・葉陰花陰日陰物陰・森陰・柳陰やぶ山陰
[類語](1日陰物陰山陰木陰草陰葉陰緑陰樹陰・森陰/(2後ろ裏面背後背面裏手裏側搦め手

いん【陰】[漢字項目]

常用漢字] [音]イン(漢) オン(呉) [訓]かげ かげる
〈イン〉
光の当たらない所。かげ。「陰影樹陰清陰緑陰
山の北側。「山陰
移りゆく日かげ。時間。「光陰寸陰
暗い。曇る。「陰雨夜陰
気分が晴れない。「陰鬱いんうつ陰気
表面に現れない。「陰徳陰謀
隠し所。性器。「陰萎いんい陰部陰門会陰えいん
(陽に対して)消極的、受動的な性質。「陰画陰極陰性陰陽太陰
〈かげ〉「陰口木陰こかげ日陰物陰山陰
難読陰陽師おんようじ・おんみょうじ陰陽道おんようどう・おんみょうどう

いん【陰】

易学で、陽に対置されて、消極的・受動的であるとされるもの。地・月・夜・女・静・偶数など。⇔
人目につかないこと。表面に現れない部分。⇔。→陰に

ほと【陰】

女性の陰部。女陰。
「―をきて死にき」〈・上〉
山間のくぼんだところ。
「御陵は畝火山の―にあり」〈・中〉

おん【陰/飲/隠/蔭】[漢字項目]

〈陰〉⇒いん
〈飲〉⇒いん
〈隠〉⇒いん
〈蔭〉⇒いん

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精選版 日本国語大辞典 「陰」の意味・読み・例文・類語

かげ【陰・蔭・翳】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「かげ(影)」と同語源 )
  2. [ 一 ] 光線や風雨の当たらないところ。
    1. 物の下や後になって、光や風にさらされない空間。
      1. [初出の実例]「大前 小前宿禰が 金門(かなと)加宜(カゲ) かく寄り来ね 雨立ちやめむ」(出典:古事記(712)下・歌謡)
      2. 「旅人が一村雨の過行くに、一樹の陰に立よって」(出典:平家物語(13C前)三)
    2. 物のうしろ。後方。
      1. [初出の実例]「御消息聞こえつたへにゐざりいる人のかげにつきて入り給ひぬ」(出典:源氏物語(1001‐14頃)夕霧)
      2. 「よそを見渡して、人の袖のかげ、膝の下まで目をくばるまに」(出典:徒然草(1331頃)一七一)
    3. 人目にかからない、隠れた場所。表立たない所。また、その人の居合わせない場所。
      1. [初出の実例]「父(てて)はただ我をおとなにしすゑて、我は世にも出で交らはず、かげに隠れたらむやうにてゐたるを見るも、頼もしげなく」(出典:更級日記(1059頃))
      2. 「仍(よっ)て蔭(カゲ)ではめの字を添て、三馬めがと人皆鄙(いや)しむ」(出典:滑稽本浮世床(1813‐23)初)
      3. 「今迄どほり、をさなく、愛度気(あどけ)なく待遇(あしら)はうと、影では思ふが」(出典:浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉三)
    4. 人間関係や世間の及ぼす被害からの庇護。また、助力したり守ってくれたりする人。めぐみ。おかげ。
      1. [初出の実例]「つくばねのこのもかのもに影はあれど君がみかげにます影はなし〈ひたちうた〉」(出典:古今和歌集(905‐914)東歌・一〇九五)
      2. 「此処を出る様にならしめたのも、元はと云へば彼西内氏の蔭である」(出典:思出の記(1900‐01)〈徳富蘆花〉四)
    5. 物事の裏面。「犯罪のかげに女あり」
      1. [初出の実例]「曲亭翁の弓張月に彼の保元の軍の摸様をただ陰影(カゲ)にのみ叙しおりしは外伝の旨趣を得たるにちかく」(出典:小説神髄(1885‐86)〈坪内逍遙〉下)
    6. ( 翳 ) 何か暗さを感じさせるような、人の性格や雰囲気。また、人の心や一生に立ちあらわれる、暗い、重苦しい感覚など。
      1. [初出の実例]「最後の句は、敬二の心に暗い翳(カゲ)を作った」(出典:黒い眼と茶色の目(1914)〈徳富蘆花〉五)
  3. [ 二 ] 特殊な対象に限った用法。
    1. 内密に出す祝儀などの心づけ。
      1. [初出の実例]「相談ができたら、かけをばちっと付てくんなせへ かげとはかけにてもうける事なり」(出典:洒落本・仕懸文庫(1791)三)
    2. 歌舞伎の舞台や寄席の高座の陰で演奏する音楽。下座音楽。
    3. 歌舞伎で、付(つけ)[ 一 ]のこと。
    4. 輪郭だけを描いたり、縫ったりした模様や紋所。
      1. [初出の実例]「半七は木綿太織をのろま色に染て、紋所はさくら草をかげにつけ」(出典:洒落本・一向不通替善運(1788))
    5. まだ正式に舞台に立たない少年の歌舞伎俳優。
      1. [初出の実例]「あの上村千之介が未(いまだ)かげなる時の事」(出典:評判記・難波の㒵は伊勢の白粉(1683頃)二)
    6. かげまつり(陰祭)」の略。
    7. ( その期間中は人前に出ないようにするところから ) 月経をいう。〔日葡辞書(1603‐04)〕

いん【陰】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「いん」は「陰」の漢音、「おん」は呉音。古くは「おん」が普通 )
  2. 易学で、陽に対置され、合わせて宇宙の根元となる気。能動的、積極的な陽に対して、受動的、消極的な事象の象徴とする。月・秋・冬・西・北・水・女・偶数・弱・静など。⇔よう(陽)
    1. [初出の実例]「男(なん)は陽、女(にょ)は陰也〈略〉南は陽、北は陰、女を北方(きたのかた)といへり」(出典:雑談集(1305)一)
    2. 「夜は又陰なれば、いかにも浮々と、やがてよき能をして人の心花めくは陽也」(出典:風姿花伝(1400‐02頃)三)
    3. [その他の文献]〔易経‐繋辞上〕
  3. 日のささないところ。ひかげ。山の北面。また、川の南岸の地をいう。〔山海経‐南山経〕
  4. 陽気が衰え、陰気の盛んなときをいう。転じて、盛りを過ぎた四〇歳以上の年齢にもいう。
    1. [初出の実例]「春夏は陽の時にて忠賞を行ひ、秋冬は陰の時にて刑罰を専らにす」(出典:太平記(14C後)四)
  5. 男女の生殖器。陰部。かくしどころ。また、男のそれを陽物というのに対して、特に女性器をさすこともある。
    1. [初出の実例]「陰 釈名云陰〈今案、玉茎・玉門等之通称也〉蔭也。言其所在蔭翳也」(出典:十巻本和名抄(934頃)二)
    2. 「陰 イン ヲン 玉茎玉門等通称也」(出典:色葉字類抄(1177‐81))
    3. [その他の文献]〔漢書‐景十三王伝・広川恵王越〕

おん【陰】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 男および女の陰部。〔十巻本和名抄(934頃)〕
  3. 暗いこと。陰気。→陰(いん)
    1. [初出の実例]「けふはおばの日にてすこしおんを見たもうじゃなれば」(出典:浮世草子・真実伊勢物語(1690)二)

ほと【陰】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 女性の陰部。女陰。ほとどころ。
    1. [初出の実例]「其の美人の富登(ホト)〈此の二字は音を以ゐる。下は此れに效ふ〉を突きき」(出典:古事記(712)中)
  3. 山間のくぼんだ所。→みほと(御陰)

かぎ【陰】

  1. 〘 名詞 〙 「かげ(陰)」の上代東国方言。
    1. [初出の実例]「暁のかはたれ時に島加枳(カギ)を漕ぎにし船のたづきしらずも」(出典:万葉集(8C後)二〇・四三八四)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

普及版 字通 「陰」の読み・字形・画数・意味


常用漢字 11画

(異体字)
8画

[字音] イン
[字訓] かげ・くもる・ひそか

[説文解字]
[金文]
[その他]

[字形] 形声
声符は(いん)。〔説文〕十四下に「陰は闇なり。水の南、山の北なり」と地勢による陰晴の義とし、また雲部十一下の字を録し「雲、日をふなり」とし、の古文二形を録する。は陰の古文。は云(雲気)を今(蓋栓の形)で蓋する意で、気をとじこめる意。陰陽は(神梯)の前に気を閉ざした呪器、または昜(玉の光)をおく呪儀。神気を閉ざし、または神気を発揚することをいう。

[訓義]
1. とざす、おおう。
2. かげ、ひかげ、くらい、奥深い。
3. くもる、しめる、うるおう。
4. ひそか、かくれる。
5. 陽に対して陰の性格をもつもの。男に対して女、方位では北、山の北側、川の南岸。
6. 性器。

[古辞書の訓]
〔名義抄〕陰 カゲ・クル・クモル・クラシ・フカシ・モダニ・ヒソカニ・フグリ・キタ・カクル・ハヤル〔字鏡集〕陰 キタ・ハカル・カクス・カクル・クル・ヒソカニ・フカシ・カゲ・クモル・モダス・クラシ・トガ・ツクル・クモノオホフ

[声系]
・()・陰・imは同声。(おお)われたものの意がある。気・日光の関係に用いる。

[語系]
陰・im、隱(隠)in、(暗)・闇mは声義が近く、おおわれてくらく、かくされる意がある。

[熟語]
陰悪・陰闇・陰痿・陰陰・陰霪・陰雨・陰鬱・陰雲・陰翳・陰厭・陰火・陰・陰姦・陰乾・陰気・陰器・陰渠・陰教・陰茎・陰計・陰恵・陰険・陰戸・陰巧・陰行・陰罪・陰殺・陰惨・陰私・陰識・陰事・陰字・陰・陰邪・陰柔・陰処・陰助・陰訟・陰情・陰森・陰唇・陰燧・陰晴・陰精・陰銭・陰賊・陰・陰地・陰中・陰虫・陰沈・陰天・陰・陰徳・陰・陰毒・陰・陰霾・陰魄・陰微・陰霏・陰庇・陰府・陰符・陰風・陰伏・陰文・陰閉・陰・陰謀・陰密・陰門・陰約・陰憂・陰陽・陰涼・陰・陰礼・陰・陰暦
[下接語]
帷陰・簷陰・花陰・凝陰・月陰・午陰・沍陰・光陰・歳陰・山陰・枝陰・樹陰・秋陰・春陰・新陰・翠陰・寸陰・清陰・晴陰・夕陰・惜陰・積陰・太陰・竹陰・重陰・庭陰・半陰・繁陰・庇陰・碑陰・微陰・伏陰・分陰・暮陰・門陰・夜陰・幽陰・余陰・嵐陰・柳陰・涼陰・諒陰・緑陰・林陰・陰・籠陰

出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報

占い用語集 「陰」の解説

古代中国において考えられた陰陽思想のこと。この世の森羅万象を「陰」と「陽」に分類することができると考えられる。この陰陽に基づく思想を陰陽思想・陰陽道といい、五行論とともに陰陽五行説に発展した。陰は「女性的」「従順」「止まる」「日陰」などの意味合いがある。

出典 占い学校 アカデメイア・カレッジ占い用語集について 情報

動植物名よみかた辞典 普及版 「陰」の解説

陰 (カゲ)

植物。日陰蔓の別称。ヒカゲの別称

出典 日外アソシエーツ「動植物名よみかた辞典 普及版」動植物名よみかた辞典 普及版について 情報

世界大百科事典(旧版)内のの言及

【陰影法】より

…光線で物体を照らしたときに,物体の置かれた台の上にできる暗部を影shadow,物体それ自身の表面にできるものを陰shadeといい,これらを描写する絵画の技術を陰影法と呼ぶ。これは,空間内の物体を人間の目が認識した場合のビジョン(視覚)の再現に不可欠の要素である。…

【下座音楽】より

…歌舞伎の演出に,効果,修飾,背景,伴奏音楽として,原則として舞台下手の板囲いをし上部の窓に黒いすだれをさげた〈黒御簾(くろみす)〉で演奏される歌舞伎囃子の通称。〈黒御簾音楽〉〈陰囃子〉(略して〈黒御簾〉〈陰〉とも)などの別称がある。ただし〈陰囃子〉は,狭義に,出囃子,出語りについて黒御簾の中で演奏される鳴物を意味することが多い。…

※「陰」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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