(読み)アブラ

デジタル大辞泉 「油」の意味・読み・例文・類語

あぶら【油/脂/×膏】

水に溶けず、水よりも軽い可燃性物質の総称。動物性・植物性・鉱物性があり、食用・灯火用・燃料用・化学工業の原料など用途が広い。
㋐動物の肉についている脂肪分。脂身あぶらみ。「―の多い切り身」
㋑皮膚から分泌する脂肪。「汗と―の結晶」
㋒植物の種子などからとれる液体。菜種油ごま油など。「―で揚げる」
㋓植物の花や葉などからとれる、芳香のある揮発性の液体。薄荷はっかなど。精油。
原油を精製したもの。重油軽油灯油など。
㋕髪油。ポマードチック類もいう。「―でなでつける」
活力のみなもと。特に酒をさすことが多い。「疲れたから―を補給しよう」
《火に油を注ぐとよく燃えるところから》おせじ。へつらい。うれしがらせ。
「えらい―言ひなます」〈滑・膝栗毛・八〉
[補説]一般に、常温で液体のもの(主に植物・鉱物性)を「油」、固体のもの(主に動物性)または皮膚から分泌されるものを「脂」、肉のあぶらを「膏」と書き分ける。
[下接語]揚げ油の油牡蠣かきかたかばの油蝦蟇がまあぶら髪油かやの油機械油木の実油きり胡桃くるみ黒油芥子けしし油胡麻ごま米油差し油白油き油種油椿つばきとぼし菜種なたねにおい油にしんぬか鼻脂はなあぶらびん付け油松脂まつやに豆油水油密陀みつだの油綿油
[類語]脂肪脂肪油油脂魚油香油オイル石油原油重油軽油灯油ガソリン揮発油精油グリース

ゆ【油】[漢字項目]

[音](呉) ユウ(イウ)(漢) [訓]あぶら
学習漢字]3年
〈ユ〉液状のあぶら。「油圧油煙油脂油田肝油給油原油香油重油醤油しょうゆ製油石油桐油とうゆ灯油廃油潤滑油
〈ユウ〉雲などが盛んにわき上がるさま。「油然
〈あぶら〉「油絵油紙種油水油
[難読]豆油

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精選版 日本国語大辞典 「油」の意味・読み・例文・類語

あぶら【油・脂・膏】

  1. 〘 名詞 〙 動物の脂肪、植物の実や種子、鉱物などからとれる、水に溶けない可燃性の物質。灯火用、食用、薬用、燃料用などに広く用いられる。普通液体のものをいうが、脂肪のように、常温では固体のものもある。
  2. [ 一 ] 動物性および植物性の油脂。
    1. 植物性の油。脂肪油。
      1. [初出の実例]「油 檮押附 四声字苑云油〈以周反 阿布良〉迮麻取脂也」(出典:十巻本和名抄(934頃)四)
      2. 「鬢(びん)さんけふはちっと油(アブラ)をつけてもらはうぜ」(出典:滑稽本・浮世床(1813‐23)初)
    2. 動物性の脂肪。
      1. (イ) 動物の体内にあって、肉などについている一種の粘液。
        1. [初出の実例]「譬へば浮べる膏(アフラ)の猶(ごと)くして漂蕩(ただよ)へり」(出典:日本書紀(720)神代上(水戸本訓))
        2. 「人の膏血(アブラ)はよき食なり、汝等剣に飽まで喰はせよ」(出典:五重塔(1891‐92)〈幸田露伴〉一)
      2. (ロ) 体内から皮膚を通して分泌した脂肪。
        1. [初出の実例]「流るる汗と膩(アブラ)との 落つるやいづこかの野辺に」(出典:落梅集(1901)〈島崎藤村〉労働雑詠)
    3. 酒の上にぎらぎらと浮き上がっているもの。酒膏(さかあぶら)。転じて、酒。
      1. [初出の実例]「捧がせる 瑞玉盞(みづたまうき)に 浮きし阿夫良(アブラ) 落ちなづさひ」(出典:古事記(712)下・歌謡)
  3. [ 二 ] 石油など鉱物からとれるもの。また、植物からとれ、おもに香料となる精油。
    1. [初出の実例]「石油(アブラ)買ふお銭もね?」(出典:魔風恋風(1903)〈小杉天外〉後)
  4. [ 三 ] 比喩的用法。
    1. ( 火に油をかけるとよく燃えるところから ) おだてること。おせじ。へつらい。追従(ついしょう)。→あぶらを言うあぶらを掛ける
      1. [初出の実例]「口先でちょっぽ草津から取寄ましたと油半分」(出典:浄瑠璃・源頼家源実朝鎌倉三代記(1781)七)
      2. 「『大層売れるさうでござんす』『お前が流行るやうなものさ』『おやお上さん、油過ぎますよ』」(出典:歌舞伎・木間星箱根鹿笛(1880)二幕)
    2. 活動の原動力になるもの。活動のみなもと。エネルギー。
      1. [初出の実例]「爾(さう)とも知らぬ女が、最些としたら貰へませうと慰めるのも油(アブラ)になって」(出典:油地獄(1891)〈斎藤緑雨〉一四)
    3. ( 汗やあぶらを出して働くところから ) 人の労苦、骨折り。また、それによって得た産物。
      1. [初出の実例]「纔(わづか)の畔(あぜ)の作り物、農業の脂(アブラ)を盗む、天の冥罰立所に」(出典:浄瑠璃・祇園女御九重錦(1760)三)
    4. (にわか)狂言で、その始終を勝手なことばを使ってひきのばすこと。
      1. [初出の実例]「あぶら、是は其俄の始終のうちを、出放題にことばにて引張る事也。あぶらを取といふ事なるべし」(出典:古今俄選(1775)一)
    5. ( 「油虫」の意から ) 他人にたかって遊興する者。また、芝居の無銭入場者など。
      1. [初出の実例]「番付にない名をいふてくろとがるの油」(出典:浮世草子・諸道聴耳世間猿(1766)四)
  5. [ 四 ]
    1. あぶらぜみ(油蝉)」の略。
      1. [初出の実例]「あぶらはやかましいばかり」(出典:銀の匙(1913‐15)〈中勘助〉後)
    2. あぶらぎっちょう(油螽蟖)」の略。

油の補助注記

( 1 )漢字表記は常温で液体のものを「油」、固体のものを「脂」、また肉のあぶらを「膏」と書き分けることがある。
( 2 )平安時代には、「おおとのあぶら」「おおとなぶら」「おおとなあぶら」などの形で、明かりを意味する語としても用いられた。

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改訂新版 世界大百科事典 「油」の意味・わかりやすい解説

油 (あぶら)

疎水性の液状物質を一般に油という。その代表的なものに動植物性油と鉱物性油とがある。前者は長鎖脂肪酸のグリセリンエステルすなわちトリグリセリドを主成分とし,後者は炭化水素が主成分であるというように,その化学的組成はまったく異なる。動植物性油については油脂という名称も用いられるが,この場合,常温で液体のものを油oil,固体のものを脂fatと区別する。油脂は生物組織の構成成分として,またエネルギー源として,タンパク質や炭水化物とともに重要な成分である。動物性油脂と植物性油脂は,グリセリドを主成分として本質的な差異はないが,微量成分,不純物などに差がある。また植物性油脂は一般に動物性油脂より融点が低い。動物性油脂は原料によって陸産動物油脂と水産動物油脂とに大別される。魚油を代表とする水産動物油脂の大部分は,不飽和脂肪酸が多く,液状で特異臭を有するが,産量が多いので硬化油原料として用いられる。これに対して陸産動物油脂の大部分は脂肪で,飽和度が高く,牛脂(ヘット),豚脂(ラード)のように固体であり,これらは食用のほかに工業用および医薬用に用いられる。植物性油脂は,脂肪酸の飽和度にしたがい,乾性油半乾性油不乾性油に分けられる。鉱物性油は,その大部分が炭化水素で,鎖構造を有するパラフィン系と環状構造を有するナフテン系に分けられ,石油から精製して揮発油,灯油,重油などが得られる。その大部分は動力用燃料に用いられ,そのほか工業用,薬品原料,溶剤にも用いられる。近年これら天然物油脂のほかに,シリコーン油など特異な物性をもつ各種の油状物質が合成され,利用されている。
油脂
執筆者:

人類がはじめて利用した油脂は狩猟・漁労によって得られた動物性の油脂であろう。そして,現在の採集狩猟民に見られるように,好んで食される食物として利用されていたと思われる。しかし,やがて食用だけでなく灯火用へと動物性油脂は転用される。ラスコーやラ・ムートの旧石器時代の洞穴で石製のランプが発見されており,その時代にはすでに油脂が灯火として用いられていたことを示す。また,寒冷地においては防寒用に,さらに儀礼の際の身体装飾用に油脂を体に塗ることもかなり早い時期から始まっていたであろう。

 動物性の油脂を大量に使用するようになるのは家畜の出現を待たねばならない。クジラやアザラシなどの海獣を除くと,野生の動物は一般に油脂成分が少ないが,家畜化されると急速に脂肪がつき始める。ブタはその典型的なものであり,さらには脂肪採集用に特殊化された脂肪尾羊(中東ではこの尾の脂肪を料理に用いている)と呼ばれるヒツジまで出現するようになる。一方,家畜を獲得したということは,その動物からとれるをも手に入れたということである。そしてその乳は獣脂よりも重要な油脂源となる。現在,遊牧民の間ではさまざまの乳製品の加工技術が見られるが,いずれの民族においても乳からバターあるいはバター・オイルをつくっている。このような技術は人類が家畜を入手した後のかなり早い時期にすでに開発されていたと思われる。ただし,バターあるいはバター・オイルは食用とは限らない。インドやチベットではむしろ寺院などの献灯としての方が重要である。

 近代製油産業が起こる以前における油脂の世界的分布をみてみると,北アジアから中東,アフリカにかけての遊牧民の地域,ヨーロッパやインドの牧畜民の地域では油脂源として乳が重要であった。一方,熱帯アフリカ,東南アジア,東アジアなどでは植物性油脂が重要であり,採集狩猟民の間では油脂の形ではほとんど用いられていなかった。

 植物性油脂の利用のひとつの中心はアフリカにある。その代表的な植物はゴマであり,アフリカのサバンナ地帯で改良され,前1300年ごろにはエジプトで栽培されていた。そして前1000年ごろにはすでにインドに伝えられていた。ゴマの種子は50%もの油脂成分を含むすぐれた油料植物であるが,これから実際に油をとることはさほど簡単なことではない。ゴマ油は少しいった後に圧搾されて油が採集される。しかし多くの場合,いった後にすりつぶして用いる。この方が油脂成分だけでなくタンパク質もいっしょにとれるため食用としては効率がよい。西アフリカの熱帯雨林地帯を起源とするアブラヤシは,果肉部にも油脂分を含む珍しい植物で,原住民は足で踏んだり,煮て上に浮かぶ油を採集している。この植物は単位面積あたりの油脂成分の生産量がずばぬけて高いゆえに,現在では東南アジア一帯で広く商業的に栽培されている。西アフリカにはアブラヤシ以外に,その地の外には出なかったシアーバターノキと呼ばれる有望な油料植物がある。種子から融点38℃のバターのような油脂が採集される。その他,日本では下剤として知られるヒマシ油の原料であるヒマや,キク科のニガーシードNiger seedなどもアフリカで改良された油料植物である。

 地中海地方ではオリーブが重要である。古代エジプト人は多くの油を使用したが,オリーブ油はヒマシ油と同様に下層民の水浴後の身体塗装用の油であった。上流の人々はゴマ油を用いていた。オリーブ油が食用として用いられるようになったのはヨーロッパに伝えられてからである。また,この地方で改良されたものには,アマとアブラナ類がある。特に後者はインド,東アジアに伝えられて重要な油料植物となる。

 インドから東南アジア,太平洋諸島にかけてココヤシが重要である。ヤシ油はココヤシの胚乳部からつくられるが,むしろその一歩手前のココナッツ・ミルクのほうが食用には一般的である。またこの地域ではトウダイグサ科のククイノキ(キャンドル・ナッツ)から油脂が採集され,灯火用に用いられていた。中国ではダイズ,エゴマ,油茶(アブラツバキ),アブラギリなどの品種改良が進んでいたが,多くは灯火用あるいは雨具用の油として用いられ,食用としては豚脂が重要であった。また,最近になって油瓜と呼ばれる植物が発見され,栽培化が進んでいる。カボチャほどの大きさの果実にアヒルの卵ほどの種子が6~8個入っており,その種子は70~80%の油脂成分を含む優れた油料植物である。なお,アメリカ大陸ではほとんど油脂は用いられていなかった。わずかに,野生の動物,あるいはラマ,アルパカなどからの獣脂が灯火用,薬用などに用いられていたにすぎない。

 近代になってから,セッケンや食用油などの需要の増加に伴い,さまざまの新しい油料植物が登場する。原理的には種子を大量に集めることができるなら,どのような種子でも油採集は可能である。実際には一種の副産物として新しい油料植物が現れる。たとえば,ワタの副産物である綿実油や米の副産物である米ぬか油,さらにはトウモロコシからのコーン・オイル,カポックからのカポック油など,いずれもこれまでは油料植物として利用されていなかった植物である。
執筆者:

日本では古くから食用や照明用に,魚油・木実油(イヌガヤの実)・ゴマ・エゴマなどが用いられてきた。とくに中世には,灯火用として社寺や公家が使用したため重要な商品となった。当時,油を製造・販売した組織が油座で,社寺を本所として灯油を献上するなどの奉仕のかわりにその保護をうけ,特権を与えられた神人(じにん)(油神人)の身分をもつ者がおもであった。なかでも石清水八幡宮の保護をうけた山城国大山崎(離宮八幡宮)の油座は,とくに鎌倉時代末から室町時代に,京都を中心とした畿内近国や瀬戸内沿岸にかけて,エゴマの仕入れ・製造・販売の独占権や諸国諸関の関銭免除の特権を握って活躍し,大和では興福寺大乗院を本所とする符坂油座が勢力をふるった。
油倉 →油座
執筆者: しかし中世末には,これらの油座は特権を失い,大坂・堺の油商人に圧倒された。そのころ原料もエゴマ・ゴマからナタネへと重心が移り,さらに綿実(わたざね)も登場して,ナタネから絞った水油と綿実から絞った白油が近世の油の主流となった。江戸・大坂の需要に応ずる近世の絞油業は,まず大坂長堀川に臨む船場・島之内と天満を中心に展開し,また1705年(宝永2)摂津平野郷には綿実絞油屋が28軒を数えた。14年(正徳4)に大坂へ積み登された商品中,価額の大きいものとして米に次いでナタネ(登せ高15万1000石,銀28万貫)があり,また大坂より諸国へ積み下した商品の筆頭は水油であった。これをみても油が重要な生活必需品となっていたことがわかる。大坂・堺・平野郷の絞油業は数は多いが人力による小規模なものであった。それに迫るものとして,18世紀前期,西摂津灘目に搾油能力の大きい水車絞油業が急速に台頭した。水車油稼専業の村〈水車新田〉もできている。油の生産工程は,まず干した種物を炒鍋(いりなべ)でいる。それを水車の動力を利用した胴突き,もしくは人力によって臼を踏み,粉にする。次にせいろうに入れて蒸したうえ,袋に詰め,重しをかけて油を絞った。

 油は食用,灯用に供されたが,江戸・大坂で油切れがおこり,あるいは小売値が騰貴することは都市の治安にも関することであったので,油に対する幕府の統制は他の商品よりもきびしかった。その統制のために諸国から上方に登される種物・油を独占的に買い入れる大坂の問屋機構がつくられた。18世紀初めには,まだ大坂廻着の種物に限られていた大坂株仲間の独占の手は,1743年(寛保3)令でさらに灘目の絞油業にまで伸ばされていく。灘目が他国から種物を買うこと,および灘目で絞った油を江戸へ直積みすることが禁じられ,灘目の絞油屋を圧倒して大坂の独占権が拡大されたのである。こうして61年(宝暦11)までに大坂両種物問屋30軒(菜種問屋20軒,綿実問屋10軒),出油屋13軒の指定がなされ,諸国積登せ種物・油の取扱い独占が確立した。また出油屋に出された諸国の油と大坂・灘目で絞った油はすべて大坂両油問屋(江戸口・京口)の手で江戸積み(江戸・東海道),京積み(大坂とその周辺・京)する流通機構も整った。その後さらに66年(明和3)に,在々絞油屋の全面禁止がなされる。灘目の絞油屋の営業自体も否定され,一段と大坂絞油屋の独占権の強化が進められたのである。しかし70年には灘目の絞油屋や西摂の菜種作農民らの反対に抗しきれず,幕府は摂津・河内・和泉の絞油屋の株仲間加入を認めた。ここに水車新田20株,兵庫・灘目61株の水車油稼を初めとする株立てがなされ,大坂の人力両絞油屋280株をしのぐ搾油力の存在が公認された。ついで73年(安永2)には山城・大和・近江・丹波の絞油稼の株仲間加入が認められた。しかしこのことは,大坂中心の特権的流通機構の中に周辺勢力を組み込み,絞った油をすべて大坂油問屋が独占的に掌握する体制を拡充することにほかならなかった。

 しかし,やがてこのような幕府による統制強化をよそに,諸国では無株絞油屋の種物買入れや油稼が盛んとなり,ナタネの専売や藩営絞油業を始める藩も現れて,大坂ならびにその周辺への諸国種物の廻着量は天明(1780年代)ころから目にみえて減少した。すでに種物・油の廻着量が減じていた1817-26年(文化14-文政9)段階の流通状況をみると,大坂油問屋が扱う油は年平均6万2000石。その9割近くが大坂および摂・河・泉で絞ったもの,あとの1割弱が国々からの出油であった。諸国からの出油の減少は幕府が全国的流通を掌握する力を失ったことを示す。大坂油問屋集荷の油は4割が江戸へ,3割が大坂市中へ出された。京都へは主として山城・丹波・近江等から供給されたので,大坂からの出荷は少なかった。廻着量の減少に弱った幕府は32年(天保3)の油方仕法の改正で方針を大転換し,地方での油絞りを認め,むしろそれを奨励して油の廻着増をはからねばならなくなる。ここに幕府-株仲間の独占体制は41年の株仲間解散を待たずしてくずれた。なお,天保ころには江戸地回り油の生産・流通も伸びたが,せいぜい江戸市場の2,3割程度を占めるにとどまったようで,横浜開港後はむしろ輸出に回されることになった。明治期に入って海外よりの石油の輸入により,ナタネ・綿実をもってする絞油業はしだいに衰退に向かった。
油売 →油かす →油問屋
執筆者:

油のもつ清浄作用は,その神秘的な効果のゆえに,世界各地の民族によって古くからさまざまな儀礼や呪術と結合し,聖別の観念を象徴する〈塗(注)油anointment〉として発展してきた。たとえば,キリスト教(カトリック,ギリシア正教,コプト教)における花嫁,花婿,妊産婦,新生児に対する塗油,そのほか戦士や病者や死者への塗油など,いずれも油のもついちじるしい呪術的効果が,儀礼にとって不可欠の媒体と信じられた結果である。とりわけ,恐るべき病気の原因とみなされた悪霊やけがれの祓や除去に対して,油は神秘的な効力を発揮すると確信され,司祭によって特別に使用された。古代イスラエルにおいては,神への供犠も,塗油によって聖別されねばならないとみなされた。王の即位式にみられる塗油は,こうした観念の表出である。メシアは,〈神によって注油された者〉を意味していた。受難を目前にしたイエスに,ひとりの女が高価なナルドnardの香油を注いだという美しい信仰の物語(《マルコによる福音書》14:3以下)も,この系譜に属している。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「油」の意味・わかりやすい解説


あぶら

室温で液体、可燃性、水に難溶性のものを一般に油という。動植物油、鉱油、精油に大別される。

油の種類

(1)動植物油 室温で液体のものを脂肪油、固体のものを脂肪あるいは脂(あぶら)という。動植物油は一般に高級飽和あるいは不飽和脂肪酸のトリグリセリドからなる。植物油は不飽和脂肪酸を多く含むが、動物脂は飽和脂肪酸を多く含む。植物油はコレステリンを含まないが、動物脂はコレステリンを含有している。脂肪などの油100グラムが吸収するヨウ素のグラム数であるヨウ素価の大小により乾性油(130以上)、半乾性油(100~130)、不乾性油(100以下)の別がある。大豆油、菜種(なたね)油などは食用油に、あまに油などは塗料に用いる。動植物油を加水分解すれば脂肪酸とグリセリンを得、水素添加すれば硬化油を得る。硬化油はマーガリン、せっけんなどに使用される。

(2)鉱油 石油およびガソリン、ナフサ、灯油、軽油、重油などの石油留分、シェールオイル(頁岩(けつがん)油)などがある。石油の主成分は炭化水素で、少量の硫黄(いおう)、窒素、酸素を含む。石油は燃料および有機化学製品をつくる石油化学工業原料として用いられる。自動車用語として油をオイルというときには、エンジンオイル、ブレーキオイルなど潤滑油を意味することが多い。

(3)精油 植物の花、葉、幹などから得られる揮発性の油で、植物性香料である。これら芳香油はテルペン類炭化水素などからなる。原料から芳香油を脂肪あるいは油で浸出したものはただちに香油として香粧料に用いうる。

[福住一雄]

油の呪術・宗教的意味

呪術(じゅじゅつ)・宗教的な脈絡において、動物の脂肪や植物油は超自然的な力の媒体とみなされた。霊力や呪力を獲得するために人間や動物の血や肉を飲食する風習は世界各地に分布するが、同様に動物の脂肪や植物油を身体その他に塗布する習俗も各地に広くみられる。塗布により、脂肪や油に内在する霊力や呪力は被塗布者(物)に伝達されると信じられているのである。

[佐々木宏幹]

超自然力の獲得と油

アンダマン島民は子供を強健に育てるために、豚の脂肪を溶かして身体に注いだ。オーストラリア先住民は他人を殺して、腎臓(じんぞう)の脂肪を身体に塗布した。死者の力が自分に伝達されると信じたからである。また彼らは武器を強化するために、敵の脂肪を塗布した。ナミビア(南西アフリカ)のダマラスでは、威力をもつとされる動物の脂肪を蓄え、いろいろな目的で使用した。インドでは、子供の脂肪に含まれる超自然力を得るため、子供を殺すことがあった。

[佐々木宏幹]

聖別と油

油を塗り、注ぐことが、対象である人物や事物の聖化を意味するような事例は少なくない。古代ギリシアでは託宣師(シャーマン)に相談に赴こうとする者は、その身体に塗油した。インドのシャーマンは神がかりする前に香油を身体に塗る。彼に憑依(ひょうい)する神に魅力的と思われるためである。ベーダ時代のバラモンは、宗教儀礼を行うに際して、沐浴(もくよく)し植物油を身体に塗布するのが常だった。インドの新郎新婦は結婚式に臨むに際し、身体に油とウコンの粉を塗布する。死に際しても、身体に塗油される。メキシコや中央アメリカの原住民の祭司が儀礼を行うときには、頭頂から足先に至るまで膏(こう)を塗布した。

 王や祭司はその地位につくにあたり塗油、注油されることが多い。古代エジプトの王(ファラオ)は叙任式のときに注油された。アステカの王は戴冠(たいかん)式の前に寺院に行き、神に忠誠を誓ったのち、高僧により身体中に塗油された。塗油式ののち、彼は初めて王の衣服を身にまとうことができた。イエス・キリストの「キリスト」は、ヘブライ語のマーシーアハmāshīa(メシア)のギリシア語訳語クリーストスkhrī- stósに由来し、「油注がれし者」の意であることは、よく知られている。『旧約聖書』には、ヤコブが石の柱を立てて油を注ぎ、これを神の家にしようとした(「創世記」28章18~19)ことや、聖なる油を人物や住家、祭壇、家具、容器などに注ぎ、聖別した(「出エジプト記」30章30、30章21~29)ことが記されている。

[佐々木宏幹]

禁忌と油

禁忌(タブー)の解除が塗油によって表現される例は多い。この場合、塗油は、禁忌された状態や地位から通常の地位、状態へと移行することを保証する意味をもつ。北アメリカやアフリカの原住民において、服喪者は、服喪期間が終了するときに、身体に塗油する。アフリカでは産婦が出産直後に塗油される。また、病気が治ったとき、女性の月経が終わったとき、少年の成人式のときなどに塗油が行われる。オーストラリアやアンダマン島では、少年が課せられた食物禁忌の期間が終了するとき、顔と身体に脂肪が塗布された。

 なお、油が媒介する超自然的力に関する観念は、とくに各地にみられる呪力=マナmanaに対する信仰や観念との関係において検討されることが必要である。

[佐々木宏幹]

民俗

日本では古くから植物性油が食用、灯火用に供された。食用としてはエゴマ、アケビ、カヤ、ツバキなどの油が古く、ついでゴマ、アブラナ、ダイズの油が好まれ、揚げ菓子や揚げ物料理に広く利用された。灯火用としては松根、肥え松からイヌガヤ、エゴマ、アブラナの油を経て石油へと、灯火具の発展とともに変遷した。動物性の油も魚油、獣油が江戸時代には灯油に用いられた。石油を灯火に初めて使ったのは越後(えちご)村上の黒川村(現新潟県胎内(たいない)市)で、鎌倉時代にさかのぼるといわれる。室町時代には油商人の油座が成立し、やがて都会には油売りの行商人が現れ、行灯(あんどん)用の油を売り歩いた。しかし地方では、関東、東北の各地で旧暦11月15日を「油搾(し)め」「油祝い」とよび、油けのあるものを食べて油の収穫を祝ったように、最近まで荏油(えのあぶら)、ごま油、菜種油などは自家製であった。エゴマの荏のついた地名も珍しくない。

 西洋でも、諸種の油が古代から食用、灯火用に供され、また民間医療、民間信仰にも用いられた。たとえば、口中の腫(は)れ物にオリーブの葉をかみ、その汁を血止めに利用した。腫れ物、吹き出物に油を塗るのは、油が清浄力をもつと考えられたからである。その清浄力によって悪霊を退散させるべく、催し事のある家の戸口に月桂樹の花輪を下げ、結婚式や葬式にオリーブの枝、花輪を用いる風習もあった。花嫁の家の入口に油を塗るまじないは現在も伝えられている。同じ目的から聖石、聖樹、神像への塗油がおこり、その民間信仰はキリスト教の聖油儀礼を形成するに至ったといわれる。

[竹田 旦]

『J・フレイザー著、永橋卓介訳『金枝篇』全5巻(岩波文庫)』

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百科事典マイペディア 「油」の意味・わかりやすい解説

油【あぶら】

疎水性の液状物質の一般的名称。石油などの鉱油,および大豆油・鯨油などの動植物油がある。鉱油と動植物油は,たとえ外観は類似していても化学成分は全く異なり,前者は各種炭化水素の混合物,後者は各種脂肪酸のグリセリンエステルである。なお動植物油について,常温で液体であるものを油(oil),固体のものを脂(fat)とする。→脂肪石油油脂

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栄養・生化学辞典 「油」の解説

 脂,油脂とほぼ同じ意味に使われる.⇒

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【脂肪油】より

…油脂のうち,融点が低く,常温で液状のものを脂肪油といい,固体のものを脂肪とよんで区別している。脂肪油は単に油ともよばれるが,石油系鉱物油,テルペン系芳香油などとは当然区別される。…

【ナタネ(菜種)】より

…日本で,種子からナタネ油をとるために栽培され,ナタネと総称されるものには,アブラナ科の,植物学的に異なった2種の作物がある。その一つアブラナBrassica campestris L.(英名Chinese colza。…

【油脂】より

…脂肪油fatty oilと脂肪fatの総称で,化学的には1個のグリセリンと3個の脂肪酸が結合したエステル(トリグリセリド)の混合物である。アルカリによりケン化されてセッケンとグリセリンになる。…

※「油」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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与野党が協議して、政策ごとに野党が特定の法案成立などで協力すること。パーシャル連合。[補説]閣僚は出さないが与党としてふるまう閣外協力より、与党への協力度は低い。...

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