角(動物)(読み)つの

日本大百科全書(ニッポニカ) 「角(動物)」の意味・わかりやすい解説

角(動物)
つの

動物の頭部にある突起で、動物の種類により形および質が違っている。哺乳(ほにゅう)類では有蹄(ゆうてい)類の多くのものにみられ、サイ(奇蹄目)以外は左右一対あるのが普通である。シカの類(偶蹄目)ではトナカイカリブーを除いて雄にだけあり、枝分れしているので枝角といわれ、毎年繁殖期を中心として脱落し生え換わる。シカの角は4月から6月に根元から落ちてしまい、残った台座から、柔らかい毛の密生した皮膚に覆われた角(袋角)が新しく伸び始め、内部で石灰分の沈着が進んで骨質の角が形成されるにつれ皮膚は脱落する。角の枝の数は年齢とある程度関係があり、2歳は無枝、5歳で四枝であるが、例外もあり、また前年より減ることもある。袋角を中国では鹿茸(ろくじょう)とよんで古くから強精剤として珍重してきた。古く日本でも、大陸から輸入した薬狩りとよばれる年中行事があり、不老長寿の薬にするために男はシカの袋角をとり、女は薬草をとっていた。『万葉集』にあり、よく知られる歌である額田王(ぬかたのおおきみ)の「あかねさす紫野行き標野(しめの)行き野守(のもり)は見ずや君が袖(そで)振る」と、それに答える大海人皇子(おおあまのおうじ)の「紫のにほへる妹(いも)を憎くあらば人妻ゆゑに我(あれ)恋ひめやも」が詠まれた舞台も、西暦668年5月5日の薬狩りのおりである。シカと同じ偶蹄目でもウシヤギヒツジなどの角は枝分れしたり、毎年抜け換わるようなこともない。また、例外も多いが一般には雌雄とも角をもっている。これらの角は前額骨の突起である角心(かくしん)を、角質化した表皮である角鞘(つのざや)が覆っており、中空であるところから洞角(どうかく)また真角(しんかく)といわれる。ウシでは品種改良の結果角なしのものもある。エダヅノカモシカは例外的な洞角をもっていて、枝分れもしているし、外側の表皮だけが毎年はげ換わる。また偶蹄目に属するキリンの角も特殊で、前額角が短く、普通の表皮で覆われており、キリン角(づの)といわれ洞角と区別される。奇蹄目に属するサイでは頭部正中線上に1本または2本の角があり、枝分れもせず抜け換わることもない。サイの角は特殊な分化をした毛が表皮とともに非常に硬く角質化したもので、内部に角心がなく中実角(ちゅうじつかく)あるいは毛角(もうかく)といわれる。一般に雌雄とも角があるがジャワサイの雌の角は痕跡(こんせき)的になっていたり、まったくないものもある。これら哺乳類の角は外敵から身を守るのにも使われるが、シカの雄などは外敵からの防衛がもっとも必要と思われる春から夏にかけての出産期と育児期はまだ袋角で武器にはならず、雌にさえ追われるため、離れて暮らすものが多い。しかし秋の交尾期には雌を奪い合うのに威力を発揮する。

 哺乳類のほか、節足動物に属する昆虫類では、カブトムシ類の雄がりっぱな角をもっている。この角は表皮と同じクチクラからなるが、相手を攻撃するときも角は上を向いたままで武器にならず、求愛のときも雄が雌の後ろから近づくので雌には見えず、どんな役目をするのかわかっていない。そのほか、軟体動物に属する腹足類(ウミウシ、タニシ、カタツムリなど)も頭部の左右に一対のいわゆる角をもつが、多くは感覚器であって触手といわれ、必要に応じて引っ込めることができる。

[守 隆夫]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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