鬼(き)(読み)き

日本大百科全書(ニッポニカ) 「鬼(き)」の意味・わかりやすい解説

鬼(き)

目に見えぬ霊魂とか死人の魂から転じて、人間を苦しめる悪神や妖怪(ようかい)などを含めていう。日本でいうオニと同義であるが、中国の信仰では、人の死によって心情や思考をつかさどる魂に対して、肉体をつかさどる魄(はく)が鬼(き)である。魂は天上にて神霊となり、天上に昇れぬ形骸(けいがい)の主体である魄が鬼(き)と化す。横死したり無縁で祀(まつ)る人のない霊は、幽鬼として祟(たた)りをなす。日本に輸入された悪霊や怪物としてのオニは、この祟りの鬼(き)からきたものである。また、わが国の御霊(ごりょう)信仰にも多分の影響がある。鬼(き)には種々あって、溺死(できし)者の霊で自己の再生のために人を水死させ祟りをする水鬼(すいき)や、虎(とら)に食われた虎鬼(こき)、獄で斬首(ざんしゅ)された首なし鬼(き)、人間を病気にさせたり寝室に侵入して祟る餓鬼(がき)など、多くの種類がある。これらの祟りをする鬼(き)の恐れるものには、経書、婚書、神廟(しんびょう)、宝剣、尿、唾液(だえき)などがある。

 鬼(き)の祟りを防ぐために、盂蘭盆(うらぼん)に灯(ひ)を掲げて、路頭に浮遊したり迷うのを防ぐ。中国東北部では、正月13日から16日にかけて油に火を注ぎ往生させるという民俗行事がある。日本の鬼(き)は中国の影響を受けているが、『日本書紀』などに黄泉(よみ)の鬼(き)としての醜女(しこめ)が登場している。上代では顔の醜いところから鬼(き)が発している。追儺(ついな)などの民俗行事に追われるオニも、中国の邪霊の影響から多様な意味を生じたものである。

[渡邊昭五]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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