デジタル大辞泉 「仁」の意味・読み・例文・類語
じん【仁】
「―ある君も用なき臣は養ふ事あたはず」〈浄・国性爺〉
2 ひと。→
「若いに似合わぬ物の分った―だ」〈有島・或る女〉
3 果実の核。さね。たね。にん。
4 細胞の核内にある1個から数個の粒状構造。主にRNAとたんぱく質とからなる。核小体。
[類語](1)愛情・愛着・情け・
( 1 )「仁」は、漢音ジン、呉音ニンである。これは「人」と同様で、③④等のように「仁・人」両字が相通じて使用される場合がある。
( 2 )孔子は、天から人間に与えられた人間の本性の働きで、たんなる情念ではなく、知と勇とをかねそなえ、克己復礼、孝悌、敬、忠恕、愛などに表現され、また制度としての礼の中にも具体化されるとした。
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中国古代思想,とくに儒家思想の最も重要な倫理・政治上の概念。金文では,古文ではと書き,これらの字形の象徴の解釈をめぐり,背に荷物を背負った身体障害者の形象であり,重任にたえる意,忍耐の意に転じたとする説,あるいは〈〉は数の二とせず,点を重ねたもので,人の座する衽席(じんせき)(しきもの)の象(かたち)を示すものとし,衽席の安舒(あんじよ)の状態から和親の意に転じたとする説などがあり,字源解釈は一定しないが,ふつうは人が二人ならぶ象と解し,人と人とが親しみあっているようすとする。
中国思想史上この仁に深遠な内容が付与されて重要な意味をもつようになったのは春秋時代前後からである。孔子が仁を自己の思想の核心を表現する概念として定立してより,孔子学派では〈人間らしさの極致〉を表徴する最高の徳目となった。仁の内容について孔子自身いろいろに説くが,〈己立たんと欲して人を立てる〉ことと説かれ,〈己の欲せざる所は人に施すことなかれ〉という〈恕(じよ)〉の精神をうちに含む愛を基本として,〈人を愛する〉ことと一般化される。儒家は愛に差等を設けることを是認するから,子の親に対する愛である〈孝〉の実践が仁を実現する第1段階であるとされ,身近なものへの愛から出発して,その愛の及ぶ範囲を順次拡大してゆけば,終極的には人類愛に到達すると考える。〈兼愛〉(無差別の愛)を主張する墨子からはこの〈仁愛〉は〈別愛〉(差別愛)だと批判される。家族愛や愛国心は必ずしも人類愛と相いれるものではないことからの批判である。
また孔子は人間が社会的存在であるとの認識と相まって,〈克己復礼〉すなわち己のわがままにうちかって,社会的規範たる礼に従うことが仁だとも説く。性善説を唱える孟子は墨子の兼愛を自己の親と他人の親とを区別しない〈禽獣の愛〉と攻撃しつつ,孔子の仁説を発展させる。仁の根拠を人の心すなわち人の不幸を黙視しえぬとする〈人に忍びざるの心〉に求めた。孔子は個人のあり方にかかわって仁を説くが,孟子は社会的妥当性を意味する〈義〉に仁と対等の価値を与え,〈仁義の道〉を説き,〈人に忍びざるの心〉にもとづく〈人に忍びざるの政〉の実現を目ざすのが真の〈王者〉の任務であると主張するにいたった。この〈仁政〉の主張は〈人間らしさ〉のあらわれである仁は個人の努力,あり方のみで具現されるものではなく,政治等の社会的諸力に裏打ちされてより高度に達成されるとの認識を背後にもっている。
その後宋代になると,仁説は独自の哲学的展開をとげ,周敦頤(しゆうとんい)(濂渓)は宇宙論的に仁を解釈して,人類の最高規範とし,程顥(ていこう)(明道)は仁を人のうちにある〈天の元(げん)〉ととらえ,この〈元〉の生々流行を仁の本質とした。程頤(ていい)(伊川)は仁を〈理〉といい,〈公〉と説き,程頤の説をついだ朱熹(子)が〈仁は愛の理,心の徳である〉と定義づけたのは,愛を作用と見,仁を本体と見る立場に立っているからである。
執筆者:安本 博
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中国倫理思想の重要概念。もっとも素朴な用法は、『詩経』叔于田(しゅくうでん)に、男を褒めて「まことに美且(か)つ仁」という表現である。「愛情深い」「親切な」などの意であろう。孔子は仁をもって最高の道徳、日常生活に遠いものではないが、容易に到達できぬものと考えた。孔子は弟子の問いに対して仁をさまざまに定義する。若い燓遅(はんち)に対しては「人を愛すること」といい、もっとも優秀な顔回(がんかい)に対しては「己れに克(か)ち(己れを克(よ)くし)礼に復(かえ)る」という(ともに『論語』顔淵(がんえん)篇(へん))。前者は外に対しての行為、後者は自己の内なる修養をさす。具体的な心構えとしては、仲弓(ちゅうきゅう)の問いに答えて「己れの欲せざるところ、これを人に施すなかれ」(顔淵篇)というのがもっともわかりやすい。つまり思いやりの心で万人を愛するとともに、利己的欲望を抑え礼儀を履行すること。ただし万人を愛するといっても、出発点は肉親への愛にある。「孝弟(悌)(こうてい)なる者はそれ仁の本(もと)たるか」(学而(がくじ)篇)。孟子(もうし)は、仁の徳の源は人間性に内在する惻隠(そくいん)の心(赤ん坊が井戸に陥りかけているのを反射的に抱きとめる心)にあると説く。孟子は、人間性に根ざす主要徳目として仁義礼智(ち)の四つを数える。漢の董仲舒(とうちゅうじょ)などは、これに信を加えて五つとする(五常(ごじょう))。これには五行説の影響もあろう。『漢書(かんじょ)』律歴志(りつれきし)によれば、仁=春(木)、義=秋(金)、礼=夏(火)、智=冬(水)、信=中央(土)。春の草木を生育させる暖かさと、仁すなわち愛の徳との連想による。
[本田 濟]
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…提携として行動するということを強く意識して考えた概念にフォン・ノイマン=モルゲンシュテルン解(安定集合ともいう)があって,寡占市場や政治問題の分析に用いられている。交渉過程において,プレーヤーが提案された利得分配に対してもつ異議やそれに対抗する逆異議を厳密に定義して,交渉の結果を求めたものに交渉集合,カーネル,仁などがある。仁は各提携から出される最大不満を最小にするという考え方から導かれたもので,唯一の利得分配を与える。…
…なお,〈慈悲〉の原語は,上記の2語のどちらか一つ,双方,別の語と,一定していない。 中国の〈仁〉には,多くの訓詁があるが,〈人間(男)であること・人間(男)らしさ〉が本義で,早い時期に,〈任(重い任務)〉〈人と人の間でもつべき態度・他者へのいたわり〉などの語感が,複合したものであろう。家父長的な義務感を出発点とし,〈天〉の〈命〉によるという使命感に支えられ,弱者への〈惻隠の心〉とともに,一人前の人間としての責任をまっとうしうる〈能力〉をもつことが,重視された。…
…ことがらの妥当性をいう。儒教では五常(仁義礼智信)のひとつとして重視され,しばしば〈仁義〉〈礼義〉と熟して使われるが,対他的,社会的行為がある一定の準則にかなっていることをいう。《礼記(らいき)》礼運篇では人の義として,父の慈,子の孝,兄の良,弟の弟(てい)(目上の者に対する従順さ),夫の義,婦の聴(聴き従う),長の恵,幼の順,君の仁,臣の忠の十義を列挙する。…
…(1)五倫五常 三綱五倫(君臣・父子・夫婦と兄弟・朋友)の身分血縁的関係をあるべき人倫秩序とし,家族組織から政治体制まで貫く具体規定を備える。この人間関係を支える必要な道徳が,五常(仁・義・礼・智・信)であり,その修得のための人間論・意識論がくりかえされた。(2)修己治人 五常を修養し(修己),五倫秩序の実現につとめる(治人)不断の教化が,統治層士人(君子)の任務である。…
…このように戦国末には異なった思想がいくつもみられるが,その源流は春秋末に出た孔子である。西周王朝滅亡後,春秋時代を通じて,天を中心とする宗教意識が衰え,代わって人間が生得にもつ徳=仁(人間相互の親愛観念であり,その根本は親や上長に対する孝悌であるとされた)を完成するために修養が大切であると説いたのが孔子である。彼は個人で多くの弟子を教育した最初の人物であり,その流れをくむ思想家を儒家とよぶ。…
…【吉沢 伝三郎】
[中国]
儒教では具体的な徳目が論ぜられることが多く,善の定義(孟子の〈欲す可きを善という〉などは恰好の定義であったと思える)をめぐって議論が展開することはなかった。〈善とは何か〉に当たるものはむしろ〈仁とは何か〉であった。しばしば,儒教では礼(外的な規範)に合致することが善である。…
…この評語は人格と学風の双方にかかわるが,程頤が事物の分析と論理化に鋭いさえをみせたのに対し,程顥は融合的,直覚的であった。その〈万物一体の仁〉の思想は,まさしくこの〈春風和気〉の具現にほかならない。そこでいう〈仁〉とは,天地万物を一体とみなし,すべての存在をわが身の一部と考えることであり,その意味で,手足のしびれを〈不仁〉と医学書が表現するのは,みごとな仁の定義だと程顥は言う。…
※「仁」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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