(読み)の

精選版 日本国語大辞典 「野」の意味・読み・例文・類語

の【野】

[1] 〘名〙
① 平らな地。山に対するもの。
※古事記(712)上・歌謡「青山に 鵼(ぬえ)は鳴きぬ さ怒(ノ)つ鳥 雉(きぎし)は響(とよ)む 庭つ鳥 鶏(かけ)は鳴く」
荒野。里に対するもの。放置されて草や低木などの茂ったままになっている地。〔十巻本和名抄(934頃)〕
墓場野辺
※本福寺跡書(1560頃)大宮参詣に道幸〈略〉夢相之事「荼毗は、ばばよりきたうらの三昧へしらすをちらし、野にてのてうしゃううかがい申せば」
④ 野良。田畑をさしていう。
浄瑠璃・源頼家源実朝鎌倉三代記(1781)六「私は北川村で藤三と申す百姓、野で働いておりましたら」
[2] 〘語素〙
動植物を表わす名詞の上に付いて、そのものが野生であること、山野で自然に生長したものであることを表わす。「のうさぎ」「のいちご」など。
② 人を表わす名詞の上に付いて、粗野である意を込めて、これを卑しむ気持を表わす。「の出頭(しゅっとう)」「の幇間(だいこ)」など。
[語誌](一)①の上代用法は「はら(原)」とよく似ているが、古代に「の(野)」と呼ばれている実際の土地の状況などを見ると、もと、「はら」が広々とした草原などをさすのに対して、「の」は低木などの茂った山裾、高原、台地状のやや起伏に富む平坦地をさして呼んだものかと思われる。

や【野】

〘名〙
① 平らで広々とした地。また、放置されて草や木などの茂ったままになっている地。の。
武蔵野(1898)〈国木田独歩〉二「風強く秋声野(ヤ)にみつ」 〔易経‐坤卦〕
② 野良。田畑。の。
※文明本節用集(室町中)「農夫相与抃於野(ヤ)〔喜雨亭記〕」
③ 官途につかないこと。政権の側に立たないこと。民間。
内幕話(1883)〈渡井新之助編〉帝政党の内幕、並機関の事「絶世の名文章いよいよ光を増し、朝となく野となく喝采せざるはなく」 〔書経‐大禹謨〕
④ (形動) 無風流であること。粗野であること。また、そのさま。
※甲陽軍鑑(17C初)品四「花と承るに、まいらぬは野(ヤ)なり」
⑤ (形動) 品位がおちること。いやしいさま。野鄙。卑俗。
史記抄(1477)七「あまりに夏の弊が野なるほどに多威儀ぞ」
小説神髄(1885‐86)〈坪内逍遙〉下「あるひは其気韻の野(ヤ)なるに失して、いと雅びたる趣向さへに為にひなびたるものとなりて」 〔論語‐雍也〕

ぬ【野】

〘名〙
① =の(野)(一)
万葉(8C後)一七・三九七八「あしひきの 山越え奴(ヌ)行き 天ざかる 鄙(ひな)治めにと」
※万葉(8C後)二〇・四三八七「千葉の奴(ヌ)の児手柏(このてがしは)のほほまれどあやに愛(かな)しみ
② (現在「の」の甲類音を表わす万葉仮名とされている「怒」「弩」「努」などを、後世、特に江戸時代「ぬ」と訓んだところから生じた語) =の(野)(一)
※万葉集古義(1844頃)総論「その古と後世と言の異なると云は、野を奴(ヌ)(古)、能(の)(新)、小竹を志奴(しぬ)(古)、志能(しの)(新)〈略〉などいふ類」
[補注](1)①の挙例「万葉‐四三八七」は、作者が東国防人なので、「の(野)」の上代東国方言か。同じく①の「万葉‐三九七八」は、「の(野)」の音変化による別形と認めたが、「の」と訓むべきか、「努」「怒」などの誤写とするべきかなどの説もある。
(2)②の場合の「ぬ(野)」を語頭にもつ複合語は、それぞれの「の(野)」の複合語の項に送った。

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デジタル大辞泉 「野」の意味・読み・例文・類語

や【野】[漢字項目]

[音](呉)(漢) [訓]
学習漢字]2年
〈ヤ〉
のはら。「野営野外原野広野荒野山野戦野田野平野牧野緑野林野
自然のままの。「野趣野獣野生
いやしく荒々しい。「野蛮野卑粗野
むきだしの。「野心野望
範囲。「視野分野
民間。「野党下野在野朝野
野球のグラウンド。「野手外野内野
下野しもつけ国。「野州
〈の〉「野原裾野すその
[補説]「埜」は古字人名用漢字
[名のり]とお・なお・ひろ
[難読]上野こうずけ下野しもつけ野老ところ野点のだて野良のら野木瓜むべ野羊やぎ

の【野】

自然のままの広い平らな地。のはら。「に咲く花」「にも山にも若葉が茂る」
広々とした田畑。のら。「朝早くからに出て働く」
動植物を表す名詞の上に付いて、そのものが野生のものであることを表す。「うさぎ」「ばら」
人を表す名詞の上に付いて、粗野であるという意で卑しめる気持ちを表す。「幇間だいこ」「育ち」
[下接語]あら荒れ野枯れ野裾野夏野花野原野春野広野冬野焼け野
[類語]野原平原広野ひろの広野こうや広原高原原っぱ松原草原そうげん草原くさはら草地野中野良野末野面田野

ぬ【野】

《上代東国方言》「の(野)」に同じ。
「千葉の―の児手柏このてかしはほほまれどあやにかなしみ置きて高来ぬ」〈・四三八七〉
「の」の甲類音を表す万葉仮名とされる「努」「怒」「弩」などを、主に江戸時代の国学者が「ぬ」とんで、「」の義に解した語。「野火ぬび」「野辺ぬべ」など。

や【野】

ひろびろとした地。のはら。の。
「風強く秋声―にみつ」〈独歩武蔵野
官職につかないこと。民間。「にある逸材」
[類語]無官在野無位無冠

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改訂新版 世界大百科事典 「野」の意味・わかりやすい解説

野 (の)

〈野〉と〈〉とは区別されて扱われている場合もあるが,その相違は明確でない。日本の律令制においては,山川藪沢とともに野は公私共利とされたが,天皇の支配権の下におかれ,天皇は鷹狩などの狩猟のため河内国交野(かたの),山城国嵯峨野・栗栖野(くるすの)・美豆野(みずの),美濃国不破・安八両郡の野,播磨国印南野(いなみの),備前国児島郡の野などの禁野(きんや)を各地に設定し,また,河内国大庭御野(おおばのみの)のような蔣(まこも),菅,莞(い)を刈る御野を占定している。平安時代以降,王臣貴族や寺社による野の占有,開発(かいほつ)は抑え難い勢いで進み,天皇家も蔵人所(くろうどどころ)猟野を定めており,院政期以後に立券された荘園の四至(しいし)内には,それぞれに区別され,丈量された原と野とが見いだされる。しかし鎌倉時代以降も,逃散(ちようさん)する百姓たちがしばしば〈山野に交わる〉といったように,野は,そこで起こった闘諍はその場のみで処理される無主の地,アジール的な特質を失っていない。とはいえ山林と違い,江戸時代には灌漑,治水の技術の発展とともに,武蔵野をはじめ野の開発は急速に進行していった。
荒野(こうや)
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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【原】より

…耕作していない広く平らな草原。野原といわれるように,野と特に大きな差はないが,1129年(大治4)の遠江国質侶牧(しどろのまき)の立券文(りつけんもん)に,原210町,野291町とあり,43年(康治2)尾張国安食荘(あじきのしよう)の立券文に,荒野(こうや)434町余,原山108町とあるように,一応区別されて丈量されている点からみて,地形的,視覚的に区別はあったものと思われる。【網野 善彦】 原の地名は藍原,高鷲原,坂門原(《日本書紀》)のように古代以来広く用いられ,現代でも単に原と呼ばれるものをはじめ,非常に多い。…

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