数(すう、数学)(読み)すう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「数(すう、数学)」の意味・わかりやすい解説

数(すう、数学)
すう

物の多少、大小、位置、順序などを表すために考えられた仕組みで、その目的から生まれた自然数、整数、有理数、実数、複素数などの総称。単に数というときは、前後の文脈によって自然数だけをさすこともあり、また、もっと広く有理数や実数や複素数まで考えていることもある。物に数を対応させることを、数える(最小の単位になるものがあって、それらが集まっている場合)とか、測る(最小の単位がない場合)とかいうが、数という語は、数えたり、測ったりした結果得られるものをさすときにも用いられる。

[島田 茂]

数の起源

数の基本は自然数であり、自然数の概念は、物の集まりを数えることから始まる。数えるという操作は、「1、2、3、4、……」あるいはこれと同じような一定の順序に並んだことばの系列(一般に数詞という)があり、これを順々に、集まりに含まれる一つ一つの物に取りこぼしや重なりなく割り当てて、つまり一対一に対応させていって、最後に割り当てたことばによって、その集まりの大きさを示すことである。この数詞と一対一の対応は、数概念ができあがっていく基盤になるものであるが、物の集まりの多少、相等を知るだけであれば、かならずしも数詞は必要としない。二つの集まりの個々のものを一対一に対応させていって、いっしょに対応し尽くせば、その個数は等しく、一方が尽きても他方が残っていれば、残っているほうが多いことがわかる。

 このような一対一の対応による個数の処理は、数詞がつくられるよりも早く生まれたものと思われ、未開種族の観察記録などにもみられる。すなわち、数詞としては「1、2、たくさん」に相当する貧弱なことばしかもっていない種族でも、たとえば、他種族との闘いに出かける際、各戦士は1個ずつ小石をとり、これを留守隊長に渡しておき、闘いから帰ったとき、集めておいた小石の山から1個ずつとっていく。こうして未帰還者がいないかどうかを知るという方法がとられている事例もある。このような一対一対応を行う際、対応させる一方の集まりを一定の配列のもとに固定しておくと、対応が完了した最後の個物をさすことばが、他方の集まりの多少を表すことになる。集まりとして手の指をとり、指に対応させるときの指の順序を固定しておけば、指の名が数詞になっていく。事実、このような起源の数詞をもった言語があることも知られているし、多くの進んだ言語が十進法(じっしんほう)による数詞の組織をもっていることは、手の指を使って数えたことの名残(なごり)であるともいわれている。

 このように、数詞は、互いに一対一に対応する一群の物の集まりに共通な一つの属性を示す語として用いられ始めた。すなわち、人が10人いるというのは、そこの人の集まりが両手の指と一対一に対応できることであり、獲物としての鳥が10羽あるというのも、同じような対応ができることであり、このことからまた、人1人に獲物1羽を対応させることが可能であることも、実際の対応づけを試みる前にわかってくる。

 物の集まりの間の共通な属性を示す語について、語と語との関係を直接に考えるようになるのは次の段階である。「5は3と2とを含めたものだ」「4は二つにきれいに分けられる」などの認識は、属性を示す語すなわち数詞を直接対象とした思考である。いわば形容詞が名詞となり、述語が主語となる過程で、一段と進んだ抽象の段階であり、数についての縁起を担ぐ宗教的な心情も、この段階に進んでいく一つの動力にはなったであろうと指摘されている。

 このようにして、個々の数を直接対象とした思考が行われるようになって数概念が発生したといえよう。そして数が明確に意識されるとともに、その機能として、物の集まりの多少を示す用い方と、集まりのなかの特定の物の全体のなかでの位置を示す用い方との両方が一体となって発達していった。この前者の用い方をした場合を集合数、後者の用い方をした場合を順序数という。

[島田 茂]

計算、命数法・記数法

人間の社会が、原始的な段階から発展して、複雑な組織をもち文明化すると、暦、租税、測量といった実用的なことを大規模に管理したり、指示したりするために大きな数を扱うことが必要になり、またこれを消滅しない形で記録しておく必要が出てくる。大きな数を表すには、数詞がずっと先のほうまで必要になるが、これに一つ一つ異なることばを割り当てていたのでは、覚えるのもむずかしく、限りなく新語が必要になる。そこで、いくつかずつをひとまとめにして、そのまとまりの数と端下(はした)という形に分割した表し方が必要になり、ひとまとまりにする数としては10とか12とかが選ばれる。このようにして十進命数法と「位(くらい)」の概念が生まれる。

 一方、数を記録する方法としては、原始時代には、木片に刻み目をつけたり、紐(ひも)に結び目をつけたりしていたのであるが、それからしだいにこれが記号化していって数字になった。しかし、単純な刻み目をそのまま記号化したのでは、すぐ大きな数になると困ってくる。そこで考えられたのが、数詞の場合の位に相当する記号を用いることである。漢字の十、百、千、……などの文字や、各位に異なった記号を百万の位まですべてつくったエジプトの場合もこれにあたる。この「位」の名にしても、異なる名を端から順につけていっては、新語の数がむやみに多く必要になる。大きな「位」についての命名の仕組みの考案が必要となる。中国や日本の文化圏で用いている万、億、兆、京(けい)、……という仕組みは、いわば万の2乗、3乗、4乗ごとに新しい名をつけるやり方で、これは4桁(けた)くぎり十進命数法といえる。アメリカでの数え方は、千を一つの単位にし、千の2乗、3乗、4乗ごとにmillion, billion, trillion, quadrillion, ……となっていくもので、3桁くぎり十進命数法である。イギリス、フランス、ドイツなどヨーロッパ系の国では、millionまではアメリカと同じであるが、そのあと、millionを新しい単位としてmillionの2乗、3乗、……をbillion, trillion, ……としていく。いわば3(6)桁くぎり十進命数法で、しかもmillionとbillionの間に、millionの1000倍にあたるmilliardという位を置いている。このような大きい数の命名法を考えていく間に、自然数の無限性が意識されてきたともいえよう。

 数える対象が大きくなると、直接一つ一つ数えることは、手間がかかり、誤りをおこしやすい。そこで、数えやすい集まりに分割して数え、数の性質を利用して、全体の数を推論するというくふうが生まれてくる。これが加法や乗法、あるいはその逆算としての減法や除法である。加法あるいは減法の計算は、前記のような数詞または数字のままではむずかしい。そこで、位ごとに物(珠(たま))の個数で表示し、位の位置を固定した計算具、すなわち素朴な形のそろばんが考案される。そろばんによれば、位は珠の置いてある桁の位置で表されるので、位を示す記号(数字)は不要であり、十進法の場合原則的には各位の個数1から9までを示す数字のみが必要である。したがって、各位の珠の個数を示す数字を桁の順に書き並べれば、その数を位を示す記号を用いずに表示できる。ただ、この場合困るのは、空位がある場合である。とくに、中間の位に空位がある場合が紛らわしい。このことを積極的に記号表示するため、今日の0の原形となった記号を考え付いたのは、古代インドの人であったといわれている。このようにして空位の記号0が導入されれば、やがて、これは1から1を引いたときに出てくる数であり、他の数字と同じように計算の対象となり、しかも空な集合の集合数となることがしだいに認められてくる。このようにして、現在の十進位取り記数法が、0の誕生とともに確立してくるし、数の概念は1、2、3、……のほかに0を含むようになる。そして、それらの数の間には四則の計算で結ばれた諸関係があり、この関係については、計算についての基本法則とよばれている諸法則が成り立つ。このあとの数概念の発展は、数によって表示しうる事象の範囲を広げることと、計算をより広い範囲と意味において利用できるようにするという方向に向かっていく。いわば数が自律的な発展をするようになる。

[島田 茂]

数概念の発展

物の集まりの多少を処理するため自然数が生まれたが、物の大きさを表現するためには、自然数では不十分になってくる。長さや面積の大きさを表そうとするとき、単位になるものを定めておいて、そのいくつ分ということを数えれば、いちおう大きさは表せるが、半端の出てくることもまれではない。財産土地、収穫物などを等分しようとするときには、このような端下は無視できない。分数小数は、こうした場合の処理の目的で考えられたもので、古代のエジプト、中国、インドなどでそれぞれ独自の形の分数の記述法が考えられ、古代バビロニアでは小数の記述法が提案された。分数のいくつかの記法のうち、インドのものが今日の分数表記法の始まりとなっているといわれている。

 分数を自然数とともに一つの体系のなかで考えると、乗法の逆の演算である除法も、その体系のなかではいつでも可能になる。自然数の範囲内では、割り切れたり、割り切れなかったりするが、分数をもつことにより、計算処理がより統一的に行えるようになる。

 正・負の符号をもった数は、加法の逆演算である減法が、引く数・引かれる数の大小にかかわりなく行えるようにする目的で考えられた。そして、これによって、資産と借金、東と西といったような反対の性質をもった量を統一的に表現することが可能になる。

 自然数に対してその符号を変えた数-1、-2、……と0とをあわせた全体を整数、二つの整数の商の形に表された数の全体を有理数という。有理数のなかでは、四則計算は、0による除法を除いて、例外なくいつも可能になる。

 分数の特別な形態として小数がある。小数は十、百、千など十進命数法の各位の数を分母とした分数の別な表し方であり、十進位取り記数法の考えをそのまま1より小さいほうへ広げていくことによって得られる。なお、十進位取り記数法がヨーロッパに紹介されたのが13世紀で、小数の記法がイギリスのステビンによって提案されたのが17世紀で、その間に4世紀もの隔たりがある。

 小数表示を用いれば、有理数は、ある最小の位で終わる有限小数か、同じ数字の列がどこまでも繰り返して続く循環無限小数かになる。

 また、長さのような量の大きさをある大きさを単位にして測って数値として表そうとするとき、有理数だけを用いたのでは表せない場合が出てくる。正方形の1辺を単位として、その対角線を表す場合などがこの例である。このことは、すでに古くギリシアの時代から知られていた。ギリシアの数学者は、有理数(整数の比)だけでこの1辺と対角線との比を論ずることができるようにするため、比についての精緻(せいち)でむずかしい理論をつくっていた。このむずかしいやり方を避けて、正方形の対角線の長さのような数を表すためには、循環しない無限小数も一つの数であると認める必要がある。こうして考えられたのが無理数で、有理数と無理数とをあわせて実数という。実数まで考えることによって、どんな長さも数値で表すことができ、その結果、直線上の点と実数との間で一対一の対応をつけることが可能になる。また、この実数の世界では、四則計算は自由に(0による除法を除いて)行える。

 しかし、四則計算のある意味の逆算法、たとえば、ある数を2乗して-1になるような数を求めることは不能である。そこで2乗して-1になるような特別な数を一つ考え、これと実数との四則計算で組み立てられる新しい数、虚数を考える。すると、実数と虚数からなるこの複素数の世界は、これまでの実数を含みながら、それより広い世界で、しかも四則計算はこれまでのように可能で、そのうえそこでつくられる四則計算からできる方程式はいつも解をもつようになる。

 四元数(しげんすう)は複素数をさらに広げた世界であるが、そこでは乗法の交換法則は成り立たない。四則計算の法則のどれかを犠牲にしなければ、複素数をさらに拡張することは不可能で、数の拡張は一応この意味で終止符が打たれる。

 以上、自然数、整数、実数、複素数と順次に数の範囲が広がるようすを、なかば歴史的に、なかば理論的に説明したが、個々の数の正確な数学的説明は、各項目を参照されたい。

[島田 茂]

集合論からみたときの数

数の働きを集合論の立場からみてみよう。自然数の働きの一つである、有限集合の元の個数を数える働きを、一般の無限集合の場合にまで拡張すると、「基数」あるいは「濃度」とよばれる概念が生ずる。たとえば、自然数の全体からなる集合の濃度は、無限集合の濃度のなかでもっとも小さな濃度であって、「アレフ・ゼロ」とよばれる。実数全体からなる集合の濃度が、これより大きくてはならないことが、カントルにより、「対角線論法」とよばれる有名な論法によって証明されている。

 自然数のもう一つの働きである、ものに順序をつける働きを、無限集合の場合にまで拡張すると、「順序数」の概念が得られる。この概念が一般的に使えるためには、選択公理が成立することを要求しなくてはならない。

 濃度や順序数は、集合論の見地から得られた、もっとも一般的な数の概念であるといえるが、その間の大小関係や算法に関しては、自然数や実数についてのものと似た事柄が成り立つ場合と、そうではない場合とがある。たとえば、濃度の積については、交換法則は一般には成り立たない。

 近ごろの論理学の重要な問題の一つは、通常の集合論的な操作によっては到達できないような途方もなく大きな基数の存在を想定する公理と、集合論の他の公理との関係を論ずることである。

 さて、数は、物体のように五感によってとらえることができるものではない。そこで、これを、観念の一種として、精神的なものと考える人もいるが、各人が数について下す主観的な判断と、数学上の真理の成立とはいちおう別のものと考える見地からすれば、数と観念とを同一視するのは、かならずしも適当ではない。そこで、実在論的な傾向の哲学者のなかには、数に、普遍者と似たような、抽象的な存在としての地位を与える人もいる。

 集合論の見地からすれば、代数系にせよ、位相の入った空間にせよ、構造のある集合であり、また、濃度や順序数もそれぞれ一種の集合であるから、集合の存在を認めることにすれば、数の存在も保証されることになる。現に、科学のことば遣いは、集合の存在を前提しているものと解釈される。

[吉田夏彦]

『ダンツィク著、河野伊三郎訳『数学の言葉=数』(1945・岩波書店)』『F・カジョリ著、小倉金之助訳『初等数学史』上下(1960・酒井書店)』『R・L・ワイルダー著、好田順治訳『数学の文化人類学』(1980・海鳴社)』『吉田洋一著『零の発見』(岩波新書)』

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