(読み)シツ

デジタル大辞泉 「質」の意味・読み・例文・類語

しつ【質】[漢字項目]

[音]シツ(漢) シチ(呉) (呉)(漢) [訓]たち ただす
学習漢字]5年
〈シツ〉
ものを成り立たせている中身。「質量異質音質均質硬質材質実質水質等質特質品質物質変質本質木質良質
生まれつき。たち。「気質資質性質素質体質美質麗質
飾り気がない。「質実質素質朴
問いただす。「質疑質問
〈シチ〉約束のしるしとして相手に預けておくもの。抵当。「質草しちぐさ質権質屋しちゃ人質ひとじち
〈チ〉に同じ。「言質
[名のり]かた・さだ・すなお・ただ・ただし・み・もと
[難読]気質かたぎ

しつ【質】

そのものの良否・粗密・傾向などを決めることになる性質。実際の内容。「量より」「が落ちる」
生まれながらに持っている性格や才能。素質。資質。「天賦のに恵まれる」「蒲柳ほりゅう
論理学で、判断が肯定判断否定判断かということ。
物の本体。根本。本質。
「結合せるを―とし、流動するを気とす」〈暦象新書・中〉
飾りけのないこと。素朴なこと。
古今集の歌よりは―なり」〈国歌八論・歌源〉
[類語](1性質性格キャラクター心柄性向性情気質たちしょう性分しょうぶん気性きしょう気立て人柄心根こころね心性しんせい品性資性資質個性人格パーソナリティー/(2素質資質資性美質特質特性属性天分能力

たち【質】

生まれつきもっている性質や体質。資質。「辛抱強いだ」「日焼けしやすい
物事の性質。「いたずらにしてはが悪い」
[類語]性分さが性格性質性向性情気質気性きしょう気立て人柄心柄こころがら心根こころね心性しんせい品性資性資質個性人格キャラクターパーソナリティー本性本能天性気心気風人となり人間性気質かたぎ肌合い家風精神

しち【質】

約束を守る保証として相手に預けておくもの。「不足代金のとして時計を預ける」
質屋から金銭を借りるときに、保証として預けておくもの。また、その物品。質草。「着物をに入れる」「流れ」
質権またはその目的物となる質物。
人質。
「或いは又其の子を―にだして、野心の疑ひを散ず」〈太平記・九〉
[類語]担保抵当かた

しち【質】[漢字項目]

しつ

ち【質】[漢字項目]

しつ

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精選版 日本国語大辞典 「質」の意味・読み・例文・類語

しつ【質】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 事物の成立するもと。物の本体。本質。根本。
    1. [初出の実例]「右件宝鏡者、弘法大師天照大神御対面之時、為仏法護持、忝奉大神之御質、皈本国、納御誕生院給」(出典:高野山文書‐永享二年(1430)正月一二日・大法師針海宝鏡寄進状)
    2. [その他の文献]〔礼記‐曲礼上〕
  3. ある物を形づくっている材料を、良否・粗密などその性質の面から見たもの。ある組織、団体の構成員などについてもいう。
    1. [初出の実例]「今分子を含むこと多きものは、其質、密にして、其量大なり」(出典:小学読本(1873)〈田中義廉〉四)
  4. 生まれながらに備えている性格。うまれつき。
    1. [初出の実例]「性者、生之質也」(出典:弁名(1717)下)
  5. かざりけのない性質。質素。また、素直。淳朴。
    1. [初出の実例]「抑夫上代之篇。義尤幽而文猶質」(出典:新撰和歌(930‐934)序)
    2. [その他の文献]〔論語‐雍也〕
  6. まと。標的。
    1. [初出の実例]「細月空驚質、清風自発声」(出典:菅家文草(900頃)五・弓)
    2. [その他の文献]〔荀子‐勧学〕
  7. 論理学で、命題を分類するのに、全称と特称という量の観点からの区別に対して、肯定と否定という区別の観点から見たものをいう。
    1. [初出の実例]「判断を其の量及び質によって分類することはカントの分類に於けると同一である」(出典:論理学(1916)〈速水滉〉一)

しち【質】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 契約を履行する担保として物を預けること。またはその物。
    1. (イ) 約束の保証として預け、違約のときの償いとするもの。
      1. [初出の実例]「もし、金(かね)給はぬ物ならば、彼衣のしち返したべ」(出典:竹取物語(9C末‐10C初))
    2. (ロ) 借金の担保として預けておくもの。借金のかた。〔色葉字類抄(1177‐81)〕
      1. [初出の実例]「わらはがよめいりをした時、十二ひとえをきてまいりたるを、あのおとこが、酒手のしちにしはてて御ざる」(出典:虎明本狂言・吃(室町末‐近世初))
    3. (ハ) 質屋から金を借りるための担保。また、担保として質屋に渡す物品。しちぐさ。
      1. [初出の実例]「そなたゆへにおきなくしたがくやしい。質(シチ)はさかさまにゃアながれ申さぬ」(出典:滑稽本・東海道中膝栗毛(1802‐09)三)
  3. 人質。
    1. [初出の実例]「此奴、糸哀れに此の質を免したり」(出典:今昔物語集(1120頃か)二五)
    2. 「或は又其子を質(シチ)に出して、野心の疑を散ず」(出典:太平記(14C後)九)

質の語誌

中世までは、占有質(今日の質)と無占有質(抵当)との区別がなく、特に必要のあるとき、前者を「入質(いれじち)」、後者を「見質(みじち)」または「差質(さしじち)」と呼んだ。江戸時代には、田畑・家屋敷・家財・什宝・人身等の占有物件を抵当とする庶民金融が、質の主体となった。


たち【質】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 人が生まれながらに持っている性質や体質。資質。うまれつき。タイプ。また比喩的に、動物、植物、病気などについてもいう。性(しょう)
    1. [初出の実例]「銭のかずよみて、袂の中でにぎりつめて、〈略〉あたたかなをもてくるたちなれば」(出典:浮世草子・好色貝合(1687)上)
    2. 「ハイ僕なぞも、矢張因循家のたちで、あんまり肉食はせなんだが」(出典:安愚楽鍋(1871‐72)〈仮名垣魯文〉二)
  3. 物の品質。物の種類。
    1. [初出の実例]「同じ糸織でも今の糸織とは、たちが違ひます」(出典:吾輩は猫である(1905‐06)〈夏目漱石〉五)
  4. 広く、物事の性質。「たちの悪い風邪」
    1. [初出の実例]「『性(タチ)』の悪い弥次を浴びせかけられた」(出典:由利旗江(1929‐30)〈岸田国士〉裏庭に開く潜戸)

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普及版 字通 「質」の読み・字形・画数・意味


常用漢字 15画

(異体字)
17画

[字音] シツ・チ・シ
[字訓] なる・ただす・したじ・かたち

[説文解字]
[その他]

[字形] 会意
(ぎん)+貝。貝はもと鼎の形。二斤(きん)(手おの)を以て鼎側に銘刻を加える意で、重要な契約や盟誓の辞などを記した。これを約剤・質剤という。剤の正字は劑。齊(斉)は(せい)で方鼎、その方鼎に銘刻を加えることを劑といい、質と立意の同じ字である。〔説文〕六下に質を「物を以て相ひ贅(ぜい)す」とあって、質入れすることをいうとするが、それは字の初義ではない。〔説文〕は字が、二斤に従う意を解しえず、その義を闕としているが、劑・則(古くは)の字形によって、その意を解くことができる。それより質要・質剤・法則などの意となる。〔周礼、天官、小宰〕「官府の」のうち、「七に曰く、賣買を聽くに質劑を以てす」、また〔周礼、地官、質人〕に「大市には質を以てし、小市には劑を以てす」とみえる。質は訓義の多い字であるが、質剤の義が本義、他はその引伸義である。

[訓義]
1. なる、なす、さだめる、鼎に銘刻して約する。
2. ただす、約に従って事の正否をただす、たしかめる。
3. よい、ただしい、あたる、まこと。
4. すなお、つつしむ、よい。
5. もと、ことのもと、本質、材質。
6. かる、抵当物を入れてかる、しち、しちにおく、保証とする、てがた、わりふ。
7. 名詞として、まと、質的、きりだい、刑具、椹質、しきり、門のなかじきり、木椹、いしずえ、基礎、柱質、かたな、おの、にぎり、弓拊(ゆづか)。

[古辞書の訓]
〔名義抄〕質 セチ・ミ・カタチ・タヒラカニ・ムクロ・モト・スナホ・フミ・オノレ・シロ・ナホシ・ナル・ナス・カフ・タダス・タダシ・ムカヘリ・サヤマキ 〔字鏡集〕質 ノブ・タダス・ムクロ・トク・モト・タヒラカ・マサシ・シロ・スナホ・ナス・ニヘ・マウス・ムカフ・カタチ・ツツシム・スガタ・ヲノレ・ナホシ・ムカヘリ・カフミ・マコト・トブラフ・サダム・タダチ・ココロミル

[声系]
〔説文〕に質声として・躓の二字を収める。は野人の言で質朴の意、躓(ち)は「(つまず)く」意で、椹質などの質の声義を承ける字である。

[語系]
質・贄tjietは同声。執tjiapも声が近い。盟誓などのために、執って遣るものを贄といい、また質という。贅tjiuatも声義の関係があり、人質として供するものを贅という。〔説文〕六下に「物を以て錢を質(か)る」とあるのは典当、いわゆる質入れで、この意に用いるのはその引伸義である。

[熟語]
質挙・質銭・質典・質布・質物・質舗・質闇・質奥・質愨・質幹・質簡・質疑・質義・質究・質勁・質券・質倹・質験・質言・質古・質庫・質行・質厚・質剤・質士・質実・質譲・質信・質真・質審・質仁・質訊・質性・質正・質成・質誠・質誓・質責・質素・質対・質旦・質地・質重・質直・質的・質当・質訥・質判・質美・質・質文・質樸・質木・質朴・質明・質問・質野・質用・質要・質犂・質律・質略・質料・質館・質宮・質作・質子・質任
[下接語]
悪質・委質・異質・瑩質・簡質・気質・貴質・玉質・形質・勁質・倹質・言質・皓質・剛質・才質・材質・侈質・資質・実質・弱質・純質・尚質・昭質・情質・人質・性質・誠質・繊質・善質・素質・体質・丹質・貞質・天質・同質・特質・質・美質・品質・稟質・賦質・物質・文質・変質・朴質・樸質・本質・面質・毛質・木質・良質・霊質・麗質・廉質

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改訂新版 世界大百科事典 「質」の意味・わかりやすい解説

質 (しち)

一般に契約の保証物件をいう。古く《類聚名義抄》に〈ムカヘリ〉(《日本書紀》では〈ムカハリ〉)あるいは〈シロ〉の訓が与えられているように,質の原義は本物・本人に代わって本物・本人と同じ機能を果たすものの意である。その意味で身代(みのしろ)は質の原型の一つを示している。
質権

律令法における質は,占有質と無占有質(こんにちの質と抵当)とを含んだものであり,また動産質不動産質を区別していなかった。奈良時代の月借銭(げつしやくせん)などでは,動産,不動産が質物としてあげられている。ただし,不動産質である田宅の質入れを禁止する法令が751年(天平勝宝3)以後何度か出された。しかし実際には不動産質の質入れも盛行した。質取主は質物を保全する義務を負い,債務不履行の場合には一定の条件のもとに売却し,その代価をもって債務の弁済に充てる売却質を原則としたが,債権者に帰属する流質の慣行もあった。

売買・貸借などの取引における担保・抵当を質といった。貸借において担保を必要としたことはいうまでもないが,中世には売買にも担保を必要とした。

(1)売買契約の場合 古代や中世の場合,取引(所有の移動)の対象となる物の所有は,実態的には家の共同的家産という性格が強く,個人の私有という性格はひじょうに脆弱である。他方観念的には物と所有主体(〈本主〉といい,個人ではなく家)とは一体的に結合しているものとみなされた。このように特殊な所有の実態と観念は,もろもろの物の交換,取引行為を根底から規定した。すなわち売買にはつねに本主の請戻権が付随し,買主の権利は債権に近い限定的・有期的な占有権でしかなかったのである。したがって担保は,貸借における債務不履行に対処するためのみならず,売買における本主の追奪あるいは第三者の追奪に対処するためにも必要であった。また中世には私的契約に対する国家権力あるいは地域権力の公的な保証・関与が構造的にきわめて不十分であったために,契約当事者は契約に関する紛争や不履行のいっさいを,基本的には当事者間で処理せねばならなかった。この点から質に関する社会慣行は複雑化,多様化せざるをえなかった。

(2)貸借契約の場合 第1に不動産の質入れには,入質と見質の別があった。入質は契約と同時に質地の占有が貸主に移転するもので,これに2形態あった。すなわち,借主が負債を返還するまで貸主が質地からの収益を獲得するものと,貸主が元利相当分の収益を獲得した上で借主に返還するものである。後者はいわゆる抵当で,差質ともいう。質地の占有は契約後も借主がこれを保留する。見質にも2形態あって,債務不履行となった場合,ただちに質地の所有権が貸主に移転するものと,質地について元利相当分を収穫するまで貸主に移譲するものである。このような質に関する社会慣行は売買と混合されて,本物返売買,本銭返売買,年季売などと呼ばれる場合もあった。第2に動産の質入れは,契約成立と同時に質物が貸主に移譲されるが,その所有権は依然として借主にあった。この場合,鎌倉幕府法では利息が元本の額を超過した時点で借主は請戻権を喪失(質流)し,質物は貸主の所有に帰するのを原則としたのに対し,公家法では貸主が元本を超過する利息の徴収を禁止するのみである。第3に人身の質入れには2形態あって,質人と身代というが,両者の差違はいまだ分明でない。
土倉
執筆者:

近世社会の質は,民衆生活を支える具体的で有力な補完機能を果たした。地域や職業集団に特有な人間諸関係に対応する質は,社会のすみずみまで浸透した。その働きは大きく分けて質地,家質,株質,質奉公,質物となる。

(1)質地 近世農村に広範,膨大に存在した長期・中期の不動産質金融。寛永の田畑永代売買禁止令(1643)以後,幕府は一貫して農民の土地売買を禁じたが,農村地域の実情から,しだいに多様な形態で土地流質が生じざるをえなかった。そして18世紀中葉以降は,名主(庄屋)への届出,村役人・五人組・親族証人の加判,名主裏書があれば,質地の流地は許容された。流地が各地域で大量に現実化したことにより,地価および地代の地域的平準化と社会的一般化が生じ,耕地担保の農村金融が確実化し,地方商工業を促進させ,下からの近代化を準備することになった。

(2)家質 都市町人の家屋敷処分は自由であり,家質はもっとも安全確実な商人・職人層の不動産担保金融であった。町名主・五人組立合いのもと,永代売買証文をそえて金主に〈家屋売渡し家守請状〉をもって家賃を払い,質入期限以内は家守として従来どおり居住する。家屋書入れ金融は流質期限切れの時点ではじめて売渡証文と家屋敷の移動を行うもので,大坂などに多かった。近世後期には家持ちで家賃や地代収入を家屋抵当金融の利子払いに充当しながら活計を保つ階層が多くみられた。

(3)株質 江戸十組問屋(とくみどんや)や大坂二十四組問屋などの諸商業株の独占的結合体は,転・廃業による株の譲渡をきびしく制限して商業流通の秩序維持を図ったが,転・廃・休業せずに営業しながら金融の道をつけるために,問屋株を質入れする場合があった。株の評価額が干鰯魚〆粕油問屋で1株500両,藍玉問屋1株200両,下り廻船問屋1株3000両といわれた幕末には,これらの株が取引同業者間の金融担保の対象にされ,営業を支えた。そのほか蔵質・荷質など民事の物品質や商事の質物貸付とみられる商人間の金融も発展した。

(4)質奉公 年貢上納にさしつかえた零細小農民,生活苦や享楽の果ての都市貧民層が,妻子を一種の人質として金主方へ奉公させることによって金融の道をつけることをいう。年季奉公より長期の場合が多く,奉公人の従属度も高く,金主側の不満や奉公人の不始末の場合には代人を差し出す必要がある。借金の利息部分のみでなく元金部分にくい込む返済は居消奉公と呼ばれた。地方豪商などにおいては,担保流れで手放した農地の小作料未納分の弁済や出入職人層の家計補助や取引差額未払い弁済のために,質奉公人が入ることが多かった。

(5)質物 質物は短期動産質金融として江戸後期から明治期を通して全盛を迎えた。庶民の生計維持からばくちを含む娯楽享受までの必要を補完する手段である。衣類,蚊屋,夜具ふとん,装身具,家財道具,刀剣骨董品から職人・博徒の印半纏にいたるまで,すべて質物金融の対象となった。質物金融は,地域の社会関係が安定し庶民が貨幣経済の中で生活しはじめた所で盛んとなる。つまり質屋と質置主が顔見知りであるか,仲介者を通して信用がつくといった,せまい範囲の地域意識を必要とする。近世初期には京大坂や江戸,城下町・門前町で中世の継続として登場し,しだいに全国に広がった。幕藩制は,質屋のもつ庶民生活への補完性と社会秩序を維持する上での役割(犯罪摘発)を高く評価して17世紀初頭以来,各種各様の取締りと監督を行った。五人組帳前書きにもその取締りに関する約条が記載されている。19世紀に入り,都市周辺農村を含め商品経済が貧農層までも巻き込んで蚕食しはじめると,小質屋が群生し,庶民の生計と小商工業を支えた。
執筆者:


質 (しつ)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「質」の意味・わかりやすい解説

質(しち)
しち

現代では、質とは債権の物的担保の一つであり、占有を移転することにより成立する物であり、移転しないで成立する抵当とは明らかに区別されるが、歴史的には時代により異なる意味をもつ。

 古代で質ということばは今日の質(占有質)と抵当(無占有質)とを含んだ。中世でも質が占有質と無占有質とを含むことばであったことは変わりはないが、両者を区別するときは、占有質を入質(いれじち)、無占有質を見質(みじち)または差質(さしじち)とよんだ。中世の動産質は明らかに占有質であり、債務不履行のときは流質となる帰属質であった。当時、質屋のことを土倉(どそう)、庫倉(くら)、蔵本(くらもと)とよんだ。不動産の入質は、債権者が目的不動産を占有し、収益する質である。したがって利子を付することができず、一般に流質とならなかった。収益は利子に充当する場合と、利子と元本の消却に充当する場合があった。前者の場合、債務者は元本を別に弁済しなければならなかったが、室町幕府は1440年(永享12)に、債務者保護のために、質地からの収益が元本と同額に達すると、その田畑は債務者に返還すべきことに定めた。奴婢(ぬひ)や当該不動産の権原ないし伝承の由来を示す手継(てつぎ)文書の入質もあった。

 近世では、中世の見質に相当する無占有質は一般に書入(かきいれ)といわれ、質ということばは占有質だけを意味することになった。動産質は主として質屋で行われた。質入れに際しては、質屋は置主・証人両者の印形をとり、質置主に質札を渡した。質物が盗難または火災で滅失したときは、前代以来の例で債務も消滅したが、それ以外の事由で質物が紛失したときは、質屋は元金の倍額を返済しなければならなかった。田畑の質入れは質入証文の文言により、(1)年季明け後流地となる質、(2)年季明け後請け戻す質、(3)年季の定めがなく債務者がいつでも請け戻せる質に分けられるが、江戸中期では(2)、後期では(1)が普通であった。江戸時代には、土地の質入れについて、とくに厳格な規定が設けられており、法律の定める要件を欠く質地の訴えは受理されず、あるいは書入とみなされ、ときには関係者は処罰された。その要件のうち、とくに重視されたのは名主(なぬし)の加印であるが、これは質契約の適法性を証明するものであった。質地からの収益は、債務元本の利子にかわるものであるから、質取主は利子を徴収できなかった。なお、家質は質とは称するものの、家屋敷の抵当であって、質(占有質)ではない。

[石井良助]


質(しつ)
しつ

「どのくらい」であるかの規定である「量」に対する、「どのように」あるかの規定。

[編集部]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「質」の意味・わかりやすい解説


しち

債権に対する優先弁済権を確保するための物的担保。日本法制史上は現行法上の質権に相当する占有質と,抵当に相当する無占有質との2つの概念を含む。律令には,前者に関する条規がみえ,また,奈良時代正倉院文書月借銭解などにおいて,すでに不動産について,無占有質の実例が見出される。中世法においては,占有質は入質 (いれじち) ,無占有質は差質 (さじち) と称される。動産の入質は,帰属質であり,鎌倉幕府法により,利息が元本の1倍をこえた場合には,流質となった。しかし,流質の期間は室町幕府法により緩和されている。不動産の入質は,その収益により利子を消却する利質と,元利を消却する元利消却質とがあった。しかし,室町幕府の永享 12 (1440) 年の法令により,この両者の区別はほとんど失われた。差質は,主として不動産について行われ,利息が元本の1倍となると流質となった。近世においては,入質は質入 (しちいれ) と称され,特に不動産中の田畑の質入れが重視された。田畑の質入れには,年期明け流地のもの,年期明け請戻しのもの,有合せ次第請戻しのものの3者があったが,幕府法により,いずれも 10年を限度として,10年を経過すれば流地となった。書入は,主として,不動産について行われ,債務不履行により流地となる書入,不履行の場合に質入に変更する書入,不履行の場合に,目的物を売却する書入の3種があった。なお,中世,近世を通じて質権の客体として人間があてられる場合もあり,それは占有質,無占有質の双方にわたって認められていた。


しつ

性質」のページをご覧ください。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「質」の解説


しち

貸借契約などの契約の保証物件。古代の令の規定では,返済が滞ると質物を売却し,代価から元利分だけを債権者がとる売却質が原則だった。しかし,平安時代に質物の所有権自体を移す帰属質が派生し,以後主流となり,中世の質には入質(いれじち)・見質(現質(げんじち))の区別が生じた。前者は,契約と同時に質地・質物の占有が債権者に移転する質(現在の質)で,後者は,債務不履行の場合はじめて所有権が債権者に移転する質(抵当)であった。このような質入れ・質取りの対象は,不動産だけでなく人間にもおよんだ。見質としての人質のほか年貢を滞納した百姓の妻子を地頭が差し押さえて身代(みのしろ)とする人質,戦国大名の同盟の保証物としての人質など,広範囲の質が設定された。近世には,動産質庶民金融(質屋)がさらに発展したほか,妻子を債権者の下で働かせて債務を返済する質奉公などが現れた。不動産の質入れも盛んに行われ,これが田畑永代売買の禁令の抜け道になるとして禁圧した江戸幕府も,名主の加判など一定の要件を備えた質入れは認めざるをえなかった。

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百科事典マイペディア 「質」の意味・わかりやすい解説

質【しち】

質権および質物を総称した言葉だが,法制史上,律令時代〜中世には今日の意味での質(占有質)だけでなく抵当(無占有質)をも含めて用いられた。中世には両者を区別するため,前者を入質(いれじち),後者を見質(みじち)または差質(さしじち)と呼んだ。江戸時代には質の語はもっぱら前者の意に用いられ,後者は書入(かきいれ)と呼ばれた。→質屋

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旺文社日本史事典 三訂版 「質」の解説


しち

債務返済の証拠(担保)として債権者に渡す財産(人・動産・不動産)
返済期限を過ぎると債権者の所有となった(質流れ)。古代,出挙 (すいこ) の形で質をとる例があるが,貨幣経済が普及した鎌倉時代以後,高利貸業者(借上・土倉・酒屋)が現れて質をとった。江戸時代,質屋のほか,御用商人や札差 (ふださし) が年貢・俸禄などを担保に大名・旗本らに金融をし,農村では田畑永代売買は禁止されたが,富農が貧農の田畑を担保にして金融をし,貧富の差を増大させた。また武士間では人質,庶民では質奉公なども行われた。

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栄養・生化学辞典 「質」の解説

 諸種の用いられ方をする.例えば,食事タンパク質の質といえば栄養価をいい,食品の質といえばその市場価値などをいう.

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【量】より

…ある性質を有する任意の二つの物を,その性質によって順序づけることができるとき,その性質を〈量〉という。そして,そうでない性質は〈質quality〉といわれる。…

【人質】より

…日本の現行法では,人を人質にとる行為は禁じられ,逮捕監禁罪,ときには誘拐罪でも処罰しうる。しかし,これらにおいては人質の目的である各種の不法な要求の強要に処罰の主眼が置かれていないばかりでなく,実際上は人質の生命の危険にも質的差異のあるのが一般である。…

【本銭返し】より

…(1)買戻しの時期を定めず,売主がいつでも本銭をもって買い戻すことを契約した無年季有合(ありあい)次第請戻(うけもどし)特約。これは当時〈有合に売る〉とも表現され,売却人の買戻権は原則上は永久的性質をもち,相続人に移転するものであった。(2)一定期間経過後に代価を支払って買い戻すことができることを契約した年季明(ねんきあけ)請戻特約。…

【無尽】より

…一定の口数を定め加入者を集め,一定の期日ごとに各口について一定の出資(掛金)をさせ,1口ごとに抽選または入札によって所定の金額を順次加入者に渡す方式でお金を融資するものである。明治以降新しい銀行制度が移植,確立され,特殊銀行や一般金融機関は整備されたが,一般の人々の間では質屋や無尽が多く利用された。しかし資本主義の発達につれて,無尽も会社組織で経営するもの(営業無尽)が増加し,その数は1913年末には1151社を数えるに至った。…

【利子】より

…もちろん,同一の主体が上記の4分類のいくつかを同時に兼ねることは可能である。たとえば,企業所有者は同時に自分の企業への(実質的な)資金供給者となりうる。その場合には,その主体は利子と利潤との双方を同時に受け取ることになるであろう。…

※「質」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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