デジタル大辞泉 「アルコール」の意味・読み・例文・類語
アルコール(〈オランダ〉・〈英〉alcohol)
2 アルコール飲料。酒類。
[補説]書名別項。→アルコール
[類語](2)酒・
水酸基OHを有する有機化合物の総称の一つ。すなわち,水酸基が結合している炭素が脂肪族鎖式炭化水素,脂環式炭化水素に属する場合にアルコールと呼ぶ。ベンゼン核のような芳香核に直接水酸基が結合したものはフェノールと総称され,アルコールとは区別される。エチルアルコールC2H5OHを単にアルコールと略称することが多い。アルコールという名はアラビア語に由来し,alは定冠詞,kuḥlは微粉末を意味する。古代エジプト以来,ある種の黒色微粉末が顔料として用いられ,これをアルコールと呼んでいた。この微粉末をつくるのに昇華法が用いられていたが,これから転じ,やがて酒を蒸留して得られるものもアルコールと呼ばれるようになった。アルコールの語が現在と同じ意味で用いられるようになったのは19世紀以後である。
アルコールは一般式R-OH(Rは脂肪族残基)であらわされる。分子中の炭素原子数の多いか少ないかにしたがって,少ないもの(ふつう炭素原子数5以下)を低級アルコール,多いものを高級アルコールと呼ぶ。また,水酸基が1個,2個,3個などのアルコールは,それぞれ一価アルコール,二価アルコール(グリコール),三価アルコールなどといい,2価以上のものを多価アルコールと呼ぶ。一方,水酸基が第一炭素に結合しているアルコール(RCH2OH)を第一(または一級)アルコールと呼び,第二,第三炭素に結合しているものを第二アルコール,第三アルコールという。脂肪族残基Rが炭素の二重,三重結合を含む不飽和炭化水素の基である場合には不飽和アルコールという。芳香族化合物の側鎖の飽和炭素原子に水酸基のついた化合物もアルコールで,芳香族アルコールと呼んでいる。
個々のアルコールの慣用名は,一価アルコールでは水酸基と結合しているアルキル残基の名称の後に,アルコールを付記して,たとえばメチル基の場合をメチルアルコール,エチル基ではエチルアルコールのように命名する。IUPAC命名法では,水酸基に対して〈オールol〉という語尾を用い,たとえばメタンCH4に対応するCH3OHをメタノール,エタンC2H6に対応するアルコールはエタノールと命名する。二価アルコールは語尾をジオール,三価アルコールはトリオールとする。
自然界にはエステルとして存在することが多く,遊離したアルコールは少ない。低級の一価アルコールは植物精油中に,高級の一価アルコールは動植物の蠟として産出する。三価アルコールであるグリセリンは高級脂肪酸とエステルをつくり,動植物の油脂として広く分布している。不飽和アルコールはテルペンとして広く天然に存在する。たとえば,バラ油中のゲラニオールやスズランの香りをもつリナロールなどがある。
一般に無色の液体または固体(高級アルコール)である。鎖式の1価の低級アルコールは揮発性で刺激臭があり,水とよく混じるが,炭素原子数が増すと不揮発性無臭,炭素数が6個以上になると不溶性となる。多価アルコールは水溶性で,一般に甘い。飽和一価アルコールにおいて,エチルアルコールのみが無毒で,他のものは有毒であるのはおもしろい。水を含まないアルコールに金属ナトリウムを加えると,水酸基の水素がナトリウムに置換されてアルコキシドができる。酸と反応してエステルを生ずる。酸化すると,第一アルコールRCH2OHはアルデヒドRCHOを経てカルボン酸RCOOHになり,第二アルコールRR′CHOHはケトンRR′C=Oになる。第三アルコールは一般に酸化されにくいが,強い酸化剤では分解して炭素数の少ない酸またはケトンとなる。不飽和結合に直接水酸基がついた不飽和アルコールは不安定な場合が多い。
炭素数1~6個の鎖式飽和一価アルコールは,炭水化物やタンパク質の発酵(アルコール発酵),エチレンやプロピレンなど石油製品を原料とする合成法により工業的に製造されている。アルコール一般の化学的合成は,ハロゲン化合物の加水分解,アルデヒドやケトンの還元,グリニャール反応,その他によって行われる。
執筆者:中井 武
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
狭義には,エチルアルコールをさし,広義には,アルコール類を総称する.
【Ⅰ】エチルアルコールの略称.エチルアルコールは人類の酒の歴史とともに古くから知られており,その組成は,17世紀にJ.L. Gay-Lussac(ゲイ-リュサック)やJ.B.A. Dumas(デュマ)により決定された.アルコール類のうちではもっとも一般的で,もっとも広い用途をもつエチルアルコールを単にアルコールと称することが多い.【Ⅱ】炭化水素の水素原子をヒドロキシ基で置換した化合物で,一般式ROHで表される.ただし,ヒドロキシ基がベンゼン環の炭素に直接結合したフェノール類はアルコール類には入らない.ヒドロキシ基の数により,一価アルコール,二価アルコール,三価アルコールなどとよび,また,ヒドロキシ基が結合している炭素原子の種類により,第一級アルコールR1CH2OH,第二級アルコールR1 R2CHOH,第三級アルコールR1 R2 R3COHに分類される.芳香族炭化水素の側鎖にヒドロキシ基の置換しているものは芳香族アルコールという.IUPAC命名法では,炭化水素名の語尾の-eを-olにかえ,メタンに対応するCH3OHをメタノールと命名する.二価および三価アルコールは,それぞれ語尾をジオール(-diol),トリオール(-triol)にかえる.普通には慣用名が用いられ,ヒドロキシ基と結合しているR基名の後にアルコールを付記して,“メチルアルコール”のように命名する.アルコール類は,多くはエステルとして自然界に存在する.一価アルコールの低級のものは植物精油中に,高級のものは動物,植物のろう中に存在する.三価アルコールのグリセリンは高級脂肪酸エステルとして油脂中に,ペンチトールやヘキシトールのような多価アルコールも動物,植物界に存在する.また,天然有機化合物にはヒドロキシ基をもつものが多い.多数の製法が知られている.
(1)メタノールは一酸化炭素と水素の高圧接触反応によって工業的につくられる.
(2)低級の飽和一価アルコール(C2~C5)は炭水化物やタンパク質の発酵によって生成する.
(3)高級のものは天然産エステルの加水分解によっても得られる.
(4)オレフィンの水和反応によって工業的に製造できる.
(5)第一級アミンに亜硝酸を作用させる.
(6)アルデヒドやケトンの接触還元により,それぞれ第一級アルコールおよび第二級アルコールが得られる.
(7)脂肪酸エステルを水素化アルミニウムリチウムでアルコールにまで還元する.
(8)複雑な構造をもつアルコール類は,アルデヒド,ケトン,エステルあるいはオキシドとグリニャール試薬との反応によって合成することができる.
低級の一価アルコールは特有の味と香気をもつ液体で,水とよくまざるが,高級になるほど溶解度が減少し,C5 以上になるとほとんど水に溶けない.多価アルコールは水溶性の液体または固体で,多くは甘味をもつ.化学的には中性の化合物で,種々の無機塩と付加物をつくることがある.ヒドロキシ基の水素原子は金属と置換してアルコキシドを生じ,とくに低級の一価アルコールのアルコキシドは種々の反応の試薬として使われる.アルコールのヒドロキシ基は酸と脱水縮合すればエステルを,ハロゲン化水素またはハロゲン化リンと反応させればハロゲン化物を生成する.酸化すると,第一級アルコールはアルデヒドを経てカルボン酸となり,第二級アルコールはケトンを生成する.強酸の存在下に加熱脱水するとオレフィンを生じる.アルコール類の各種ヒドロキシ基は赤外線吸収スペクトルによって容易に同定できる.すなわち,3650~3200 cm-1 のO-Hの伸縮振動,1410~1050 cm-1 のC-O伸縮振動,およびO-H変角振動による特性吸収から,第一級,第二級,および第三級アルコールを区別することができる.化合物の同定は,アシル化,エステル化,ウレタン化により結晶性の誘導体に導いて行われる.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…単にアルコールとよばれることが多く,またエタノールethanolともいわれる。化学式C2H5OH。…
…一つは環境や器具器材などが汚染されたときに使用するもので,他は創傷などに際して感染を防ぐために用いられる殺菌剤である。前者のものとしては塩素や塩素化合物,石炭酸(フェノール),ヨウ素化合物が代表的であり,後者にはヨードチンキなどヨウ素化合物,アルコールが代表的であるが,両者に共通して用いられるものも少なくない。(1)塩素および塩素化合物 殺菌剤の発展は微生物学の進歩を語らずには成り立たない。…
※「アルコール」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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