(読み)げん

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

元(中華人民共和国の通貨)
げん

中華人民共和国の法定通貨である人民幣の略称および単位。人民元ともよばれ、RMB(人民幣の原語読みrenminbiの略号)または¥(元の原字は圓=円、中国語の発音はユアンyuan)の記号で表記される。1元=10角=100分と定められている。ただし、口語では一般に、1塊=10毛=100分が用いられる。人民元が中国人民銀行のみが発行する中国唯一の法定通貨であることの法的根拠は、「中華人民共和国中国人民銀行法」の「第三章人民幣」である。
 新中国成立以前には、国民政府の支配地域では金円券や銀円券が流通し、中国共産党支配地域では解放区ごとに各種通貨が発行されていたが、人民政府樹立に伴い解放区において1948年1月から通貨の統一が実施され、同年12月中国人民銀行の設立とともに新紙幣すなわち人民幣が発行された。1949年10月の新中国成立直後は、膨大な財政支出の大部分を紙幣の増発に依存せざるをえず、元の価値の下落と物価の動揺を招いた。陳雲(ちんうん/チェンユン)、薄一波(はくいっぱ/ポーイポー)らを責任者とし、1950年3月、「三平」政策(物財、財政、信用の三つの面における均衡化)に基づき、「財政・経済の統一工作」が実施され、中国人民銀行による現金管理の強化が図られた結果、通貨は安定に向かい、農村での流通も拡大され、1951年末までに人民幣による全国的に統一された通貨体制が確立された。その後、1955年3月に1万分の1のデノミネーションが実施され、現在に至っている。
 現在、もっとも多く流通している人民元紙幣は、1999年10月1日から建国50周年を記念して発行された第5版セットおよび2005年8月31日に出されたその改訂版であり、額面は6種(100元、50元、20元、10元、5元、1元)である。硬貨は、現在、1元、5角、1角、5分、2分、1分の6種が流通している。
 元の対外為替(かわせ)レートは、解放直後には、各地区の物価の不統一から不同であったが、1950年7月8日に中国人民銀行総行(本店)が為替レートを公布することにより全国統一レートが実現した。以来、元レートは中国人民銀行により決定されてきたが、1979年3月に国務院直属の機構として、外国為替を集中管理する国家外国為替管理局が設置され、中国外国為替管理暫行条例(1980年2月公布、1981年3月より施行)に基づき、同局が為替レートを決定することとなった。以後、外貨の統一管理政策の下で、外貨市場は存在せず、元の交換レートは、国家が決定し、調整を行う方式が維持されてきた。改革開放政策が開始された1979年になり、外貨留保制度(輸出企業に対し、獲得外貨使用権の一部を留保することを認めた制度)が実施されたことに伴い、留保外貨を企業が相互に融通することが認められ、新たに設置された「外貨調整センター」が仲介機能を果たすこととなった。この結果、徐々に上海(シャンハイ)など大都市を中心に外貨調整市場が形成されたが、その範囲は、各調整センターの管轄地域内での限定的な取引にとどまり、全国的な市場ではなかった。調整市場における取引は、調整為替レートによって行われたため、人民元は、公定為替レートと調整為替レートが併存する二重為替レート制がしばらく続くこととなった。なお、1980年以来、中国国内における外国人旅行者、外国人居留者、および外国企業は、中国銀行が発行する「外貨兌換(だかん)券」のみを使用することが許され、人民幣の使用、保有は禁じられていた。外貨兌換券は公定レートによって外貨と交換された。しかし、外貨兌換券を使えば、人民元では買えない外国製品の購入が可能であり、また外貨への交換も可能であることから闇(やみ)レートによる闇交換の横行という問題があった。
 1994年、中国では、当時副総理兼中国人民銀行行長であった朱鎔基(しゅようき/チューロンチー)の指示の下、財政、金融、貿易、労働、企業体制など広範にわたる大改革方針が打ち出されたが、その一環として外貨管理体制の改革が実施された。改革の主内容は以下のとおりである。
(1)外貨決済の禁止 国内での決済は、すべて元で行い、外貨決済を禁止。また、「外貨兌換券」も廃止。
(2)銀行に外貨を集中 企業の外貨保有を認めず、獲得外貨はすべて銀行(国家外国為替管理局から外国為替業務取扱いを認可された外為(がいため)指定銀行)に売り渡し、外貨の必要時には、実取引の裏付けのある有効な証憑(しょうひょう)に基づき銀行から外貨を購入する。
(3)銀行間外貨市場の創設 外貨取引センターを設立。国内銀行、外国銀行支店、一部のノンバンクを構成メンバーとする会員制取引所で、本部を上海に設置し、特定の大・中都市に置かれた出先センターとコンピュータのネットワークで結ばれている。これにより、中国で初めて全国統一のインターバンク(銀行間)外貨市場が創設された。
(4)全国単一交換レートによる人民元の管理フロート制への移行 需給動向による市場相場を基礎とした管理された変動為替相場制度の採用。具体的には、中国人民銀行は、前日の外国為替市場における各取引の成約金額と成約価格を加重平均して算出した価格を、当日の公表人民元為替レートの中値(基準為替レートと通称される)として発表する。各外為指定銀行は、この基準為替レートに基づき、定められた変動幅のなかでおのおの取引に適用する為替レートを公表し、企業や個人との間で人民元と外貨の売買を行う。
 この外貨管理制度改革の実施は、1996年4月1日から、新たに「外国為替管理条例」が施行(1996年1月29日公布、1997年1月14日改定)されたことにより、法的に裏づけられた。
 この間、人民元の対米ドル公定交換レートは、1989年12月に21.2%、1990年11月に9.6%それぞれ切り下げられた。1994年1月に前記の改革が実施され、為替レートが一本化された際に、それまでの1米ドル=5.81元から8.7元と33.2%の大幅切下げを経た後、管理フロート制の下で、緩やかな元高の傾向にあった。
 しかし、1997年7月に発生したアジア通貨危機の影響が中国経済にも浸透するなかで、元切下げの噂(うわさ)が広がり国際的に波紋をよんだが、中国政府は繰り返し元切下げを行わない旨の声明を出す一方、中国人民銀行がドル買い・元売り介入を実施し、1米ドル=8.28元前後に維持する政策をとった。前記のとおり、人民元は、1994年以降、外国為替市場の設立により、二重為替レート制から管理された市場レートに一本化された管理フロート制に移行したものの、この段階では、実質的にドル・ペッグ制(ドルに対しては固定相場制)になった。
 その後、21世紀に入ると、アジア通貨危機の沈静、中国の経済的躍進および外貨準備の急速な積み上がりなどの状況のなか、人民元レートは過小評価されているという見方が広がり、切上げへの国際的な圧力が増大した。
 こうした背景の下、2005年6月天津(てんしん/ティエンチン)にて開催されたアジア・ヨーロッパ財務相会議では、人民元問題に注目が集中したが、席上、首相の温家宝(おんかほう/ウエンチアパオ)は、人民元為替管理改革の三原則―「主体性(中国が自ら決断する)」、「制御可能性(為替レートの乱高下を防止する)」、「漸進性(改革を徐々に進めていく)」―を表明した。2005年7月21日、中国は、人民元の約2.1%の切上げ(1米ドル=8.28元から8.11元へ)と同時に、実質ドル・ペッグ制から管理フロート制への再移行を発表した。人民元レートは「市場の需給を基礎に、通貨バスケットを参考にして調整」されるという内容で、当面前日比0.3%を変動の上下限とするとされた。いわゆるBBC方式―Band(変動幅)、Basket(通貨バスケット)、Crawling(為替レートを方向性をもって微調整)―に沿った管理フロート制といわれている。通貨バスケットは、米ドル、ユーロ、日本円等11種類の通貨によって構成するとされるが、通貨の比率は発表されていない。
 このような管理フロート制への移行後の人民元レートの推移をみると、移行直前の1米ドル=8.28元から、上昇の趨勢(すうせい)をたどり、2007年以降そのペースが速まり、2008年4月には、1米ドル=6元台にまで達している。米ドルが主要通貨に対し急落した事情もあるが、為替への介入等によるマネーサプライ増から中国国内のインフレが進行しつつあり、中国政府としても、従来の「管理」重点により切上げを抑えてきた政策姿勢から、インフレ抑制手段として人民元の切上げを重視する方向への転換を迫られてきたことがうかがわれる。今後、中国がどのような経済状況の下で、どのようなタイミングで「管理フロート制」から「完全フロート制」へ移行するかが注目される。[平野勝洋]
『金融制度調査会編『中国の金融制度』(1960・日本評論新社) ▽戴相龍編著『中国金融読本』(1999・中央経済社) ▽関志雄・中国社会科学院世界経済政治研究所編『人民元切り上げ論争――中・日・米の利害と主張』(2004・東洋経済新報社) ▽大久保勲著『人民元切上げと中国経済』(2004・蒼蒼社)』

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