ブラック(読み)ぶらっく(英語表記)Georges Braque

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

ブラック(Georges Braque)
ぶらっく
Georges Braque
(1882―1963)

フランスの画家。パリ近郊のアルジャントゥイユ生まれ。父は建築装飾画の請負業者。少年期をル・アーブルで過ごし、父の後を継ぐべく徒弟奉公に入る。1900年パリに出てエコール・デ・ボザールのボナのアトリエやアンベール画塾で学ぶが、05年のフォービスム誕生をきっかけにフォーブの一員となり、明るく輝かしい色彩を駆使して、アントウェルペン(アントワープ)や南フランスのラ・シオタの風景を描いた。しかし、07年秋のサロン・ドートンヌでのセザンヌ回顧展に大きな衝撃を受け、画面構築への関心を強めてゆき、同年『アビニョンの娘たち』を完成したピカソとともに、キュビスムの造形革命を開始する。翌年夏、セザンヌゆかりの南フランスのレスタックで、緑と茶褐色を主調に、幾何学的形態によって構成された一連の風景画を制作。やがて、見る対象から手に触れることのできる対象へ、対象と対象の間の空間の探求へと関心を移行させ、風景画を放棄して静物画へと向かい、身辺のものを画題とする。キュビスムは、ピカソよりもむしろブラックのセザンヌ研究によって展開したというのが近年の説であるが、09年末から2人はとりわけ緊密に制作し、ともに分析的キュビスムの手法を練り上げてゆく。そしてその緊密さは2人の作品をほとんど区別しがたくすることにもなった。色彩は黒、灰色、褐色と限られたものとなり、具象性もしだいに薄らいでゆくが、13年ごろ、画面に新聞紙や壁紙などを貼(は)り付けたパピエ・コレの技法を開発し、総合的キュビスムへと移行する。この時期の作品は明るさをもち、面を重ねた構造は、よどみのない空間を示唆する。
 1914年、第一次世界大戦の勃発(ぼっぱつ)により招集を受けて負傷、長い療養生活ののち、17年に招集解除となってふたたび絵筆をとる。初期キュビスムの厳しい直線のコンポジションは放棄されるが、対象の再現性を保ちながら、それを自由に分解・再構成して、なかば抽象的なデザインのさまざまな可能性を開拓し続ける。また、籠(かご)を頭にのせるギリシアの風習から想を得た20年代の「カネフォール」のシリーズでは古典的世界へのあこがれを示し、さらにフランス的美質の保持者、古典的伝統の後継者との自覚をももつ。49年から56年にかけて描かれた「アトリエ」シリーズは、過去のテーマと実験とを総括する試みであり、縹渺(ひょうびょう)たる詩情に満ちた不思議な世界を展開する。そこに現れた鳥のモチーフは、さらに「鳥」シリーズとして発展するが、それは、生涯の最後にあたって、それまでひたすら描いてきた静物という静かな閉じられた世界からの離脱を象徴するかのようである。ブラックの作品は、精妙な色彩と洗練されたデザイン感覚に基づいており、理知と感情とのみごとなバランスを保持している。パリで没。[大森達次]
『R・コニャ著、山梨俊夫訳『ブラック』(1980・美術出版社) ▽J・ポーラン著、宗左近・柴田道子訳『ブラック――様式と独創』(1980・美術公論社)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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