デジタル大辞泉
「印」の意味・読み・例文・類語
じるし【印】
[接尾]人名や事物名の後半を略した形に付いて、その人や事物を遠まわしに言い表すのに用いる。
「丹―にかかるとまことに愚智だよ」〈人・梅児誉美・後〉
かね【▽印】
牛馬などの家畜のももに押す焼き印。飼育地・飼い主・品位などを示す。かなやき。
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しるし【印・標・験】
- 〘 名詞 〙 ( 動詞「しるす(記)」の連用形の名詞化 )
- [ 一 ] 書いたり描いたりかたどったりして、ある意味を表わすもの。
- ① 他と区別し、そのものであることを示すもの。目じるし。記号。
- [初出の実例]「永き代に 標(しるし)にせむと 遠き代に 語り継がむと 処女墓 中に造り置き」(出典:万葉集(8C後)九・一八〇九)
- ② 書き付けること。また、書き付けたもの。記録。〔新撰字鏡(898‐901頃)〕
- ③ 所属、身分などをはっきりさせるためのもの。紋所・旗・記章の類。
- [初出の実例]「節(シルシ)を持(も)て法駕(みこし)を備へて三国に迎へ奉る」(出典:日本書紀(720)継体元年正月(前田本訓))
- 「黄金作の太刀をはき、切斑の矢おひ、しげ藤の弓の鳥打を、紙をひろさ一寸ばかりにきって、左まきにぞまいたりける。今日の大将軍のしるしとぞ見えし」(出典:平家物語(13C前)九)
- ④ 割符。
- [初出の実例]「凡そ駅馬・伝馬給ふことは、皆鈴・伝符(シルシ)の剋(きさみ)の数に依れ」(出典:日本書紀(720)孝徳二年正月(北野本訓))
- ⑤ 墓標。墓じるし。
- [初出の実例]「暫らく、これなるしるしに向かひ、回向をなしておん通り候へ」(出典:謡曲・笠卒都婆(1430頃))
- ⑥ ある色や形や音などで意思を通じさせようとするもの。信号や合図。
- [初出の実例]「かかるしるしをみせたまはずは、いかでか、みたてまつりたまふらんともしらまし」(出典:大鏡(12C前)三)
- [ 二 ] ( 証 ) 真実や真心を表わすもの。
- ① 事実を証明するもの。証拠。あかし。
- [初出の実例]「引馬野ににほふ榛原(はりはら)入り乱れ衣にほはせ旅の知師(しるシ)に」(出典:万葉集(8C後)一・五七)
- ② 微意を表わすこと。また、その心を表わす品物。現在は、ふつう「おしるし」の形で用いる。
- [初出の実例]「お歳暮のお印までですよ」(出典:泊客(1903)〈柳川春葉〉四)
- ③ 結納。
- [初出の実例]「私(わちき)を貰はふ遣ふと約束をして些(ちっと)ばかりしるしを取た事がありましたのサ」(出典:人情本・春告鳥(1836‐37)一三)
- [ 三 ] ( 印・璽 ) 天皇の位を表わすもの。また、天皇、および官の許可の証。
- ① 天皇として持つべき神器の総称。特に、三種の神器の一つである「やさかにのまがたま」をさす。神璽。しるしの御箱。→みしるし。
- ② 官印とそれを身につける組紐。印綬(いんじゅ)。
- [初出の実例]「既(すて)にして共(とも)に印綬(みシルシ)を授(さつけたま)ひて将軍(いくさのきみ)とす」(出典:日本書紀(720)崇神一〇年九月(北野本南北朝期訓))
- ③ おおやけの印(いん)。官印。国璽。
- [初出の実例]「我此の宮に有と云ふとも未だ璽(しるし)及び公財を不令動ず」(出典:今昔物語集(1120頃か)一〇)
- [ 四 ] ( 首 ) 敵のくび。首級。
- [初出の実例]「去二十一被成一戦敵被打取験、并手負註文給候」(出典:上杉家文書‐永正一〇年(1513)一〇月二八日・長尾為景書状)
- [ 五 ] ( 徴 ) ことがそうなる前ぶれ。ある結果を導きだすきざし。
- ① 徴候。前兆。
- [初出の実例]「如此の夢は、是れ何の表(しるし)にか有らむ」(出典:古事記(712)中)
- 「その比、おしなべて、二三日人のわづらふ事侍りしをぞ、かの鬼の虚言は、このしるしを示すなりけりと言ふ人も侍りし」(出典:徒然草(1331頃)五〇)
- ② 自然が移りゆくけはい。様子。
- [初出の実例]「四の時順ひ行て、万の気(シルシ)通ふことを得」(出典:日本書紀(720)推古一二年四月(岩崎本平安中期訓))
- ③ 分娩第一期に見られる血性のおりもの。子宮口の開大にともなって、卵膜の一部が子宮壁から剥離しておこる。分娩開始の徴候とされる。おしるし。
- [ 六 ] ( 験 ) あるはたらきかけに対して現われる結果。
- ① 神仏の霊験。御利益(ごりやく)。
- [初出の実例]「亦当に五日 経を誦(よ)め。庶くば補(シルシ)有らむことを」(出典:日本書紀(720)持統五年六月(寛文版訓))
- ② かいのあること。効果。
- [初出の実例]「験無(しるしなき)物を思はずは一坏の濁れる酒を飲むべくあるらし」(出典:万葉集(8C後)三・三三八)
- ③ 治療や薬の効能。ききめ。
- [初出の実例]「再び沐(ゆあみ)すれば万の病悉に除(い)ゆ。古より今に至るまで験(しるし)を得ずといふことなし」(出典:出雲風土記(733)意宇)
いん【印】
- 〘 名詞 〙
- ① 判(はん)。木、角(つの)、鉱物、金属などに文字や図形を彫刻し、それに墨や印肉を付けて、文書などに押し、個人、官職、団体などのしるしとするもの。はんこ。印判。印形。印章。おしで。
- [初出の実例]「給二鉄印于摂津伊勢等廿三国一。使レ印二牧駒犢一」(出典:続日本紀‐慶雲四年(707)三月甲子)
- [その他の文献]〔史記‐留侯世家〕
- ② しるし。記号。
- ③ ( [梵語] mudrā 牟陀羅の訳語。標識の意 ) 仏像の手指の示す特定な形。その種類によって仏、菩薩の悟りや誓願の内容が示される。密教では僧が本尊を観念し呪文を唱える時に、指でいろいろな形をつくること。また、その形。印相。印契。→印を作る・印を結ぶ。
- ④ 茶道の蓋置(ふたおき)に用いた、名士の印章。〔南方録(17C後)〕
- ⑤ 「インド(印度)」の略。
印の補助注記
①は、古く中国では、天子の用いるものを「璽(じ)」、臣のものを「印」として区別した。
かね【印】
- 〘 名詞 〙 牛や馬の股におす焼き印。飼い主、飼育地、品位などを表わす。その形によって、琴柱(ことじ)、菴(いおり)、雀、目結(めゆい)、輪違(わちがい)、引両(ひきりょう)、四目結(よつめゆい)、丸、遠雁(とおがり)、鹿笛(ししぶえ)などの名がある。らくいん。かねやき。かなやき。
- [初出の実例]「其印(カネ)鹿笛者北方、飛雀者南方、此内羽折雀・小雀、殊可レ有二御賞翫一候」(出典:尺素往来(1439‐64))
じるし【印】
- 〘 接尾語 〙 人名や事物を表わす、ある語の後半を略した形に付けて、その人や物を遠まわしに表現するのに用いる。元来、近世の通人の間に用いられた言い方。「ワじるし」「フじるし」など。
- [初出の実例]「与印より おのぶどのへ」(出典:浮世草子・世間侍婢気質(1771)三)
- 「丹印(たんジルシ)にかかるとまことに愚智だョ」(出典:人情本・春色梅児誉美(1832‐33)後)
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普及版 字通
「印」の読み・字形・画数・意味
印
常用漢字 6画
[字音] イン
[字訓] おさえる・しるし・はん
[説文解字]
[甲骨文]
[金文]
[字形] 会意
爪(そう)+卩(せつ)。〔説文〕九上に「執持するの信なり」とし、字を爪と(卩)とに従い、を節にして印璽(いんじ)、これを爪でおさえて押捺(おうなつ)する意とする。次条に「は按なり」とし、「反印に從ふ」とするが、は抑の初文。それならば印も人をおさえる形で、印璽とは関係がない。爪は指先。手で人を上からおさえる形。印璽は後起の義。
[訓義]
1. おさえる、支配する。
2. 印璽をおす、しるし、はん。
3. しるしをつける、そのあと。
[古辞書の訓]
〔名義抄〕印 オシテ・シルシ 〔字鏡集〕印 ヲシテ・シルシ・マコト
[語系]
印・・inは同声。按an、遏at、壓(圧)eap、軋eat、抑ietは声義近く、みなおしとどめる意がある。
[熟語]
印可▶・印▶・印鑑▶・印記▶・印亀▶・印黥▶・印検▶・印刷▶・印子▶・印識▶・印璽▶・印朱▶・印綬▶・印証▶・印象▶・印章▶・印▶・印燮▶・印信▶・印組▶・印鈕▶・印泥▶・印▶・印把▶・印版▶・印鼻▶・印譜▶・印封▶・印文▶・印▶・印模▶・印烙▶
[下接語]
影印・押印・火印・仮印・官印・亀印・金印・契印・血印・結印・検印・刻印・私印・璽印・実印・手印・朱印・焼印・証印・心印・信印・石印・節印・印・調印・篆印・銅印・捺印・封印・拇印・印・法印・烙印・弄印
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世界大百科事典(旧版)内の印の言及
【印鑑】より
…日常生活上は,文書の内容を認める意思表示として当事者が押す判を総称し,印,印形(いんぎよう),はんこなどと呼ばれる。印を押す行為を捺印(なついん)または押印といい,紙などの上に形成された押跡を印影という。…
【印刷】より
…印刷は文書,絵画,写真などの平面的な画像を多数複製する手段であるが,現在ではその技術は多種多様となり,印刷とは何かを定義することは困難である。
【歴史】
[源流]
ふつう印刷術は中国に始まったと考えられており,その場合の印刷術は木版に文字を彫りそれに墨を塗り,上から紙をあて〈[バレン]〉のようなもので文字を刷りとる方法が行われたのである。…
【印章】より
…エジプト,ヨーロッパにも伝わり,東アジアでも古くより用いられた。日本では印,判,印判,はんこなどともいう。形体,機能,用途等は多様であり,かつ地域,時代による相違,変遷がある。…
【印籠】より
…重ね容器とするのも,異種の薬品を一具の中に納めるための配慮であろう。印籠は本来印判や印肉を納める容器であり,薬籠というべきこの種の容器を印籠と呼び慣わすようになった経緯はつまびらかでない。中世における印籠は,1437年(永享9)に後花園院が室町殿に行幸した際の室内飾の記録である《室町殿行幸御餝(おかざり)記》をはじめ,《蔭涼軒日録》や《君台観左右帳記》などの記事によっても明らかなように,薬籠,食籠(じきろう),花瓶などとともに押板(おしいた)や違棚(ちがいだな)に置かれ,室内の御飾とされるのが通例であった。…
【日本画】より
…刷毛には幅1寸から8寸まで各種あり,一定幅に均一に塗る絵刷毛,広い面積をぼかしたりするカラ刷毛,どうさを塗るどうさ刷毛と,筆を横に何本もつなげた連筆に大別される。
[印,印泥]
絵を描き上げ,作家の名をしるし,印を押して日本画は完成である。印泥は朱をヒマシ油,松脂,白蠟などと練り合わせたもので,時間をかけて十分に練られたものがよい。…
【印相】より
…仏・菩薩(ぼさつ)の内証(悟境),本誓(ほんぜい)(誓願),功徳,事業(じごう)(はたらき)などを象徴的にあらわしたもの。印契(いんげい),密印,あるいは単に印ともいう。サンスクリットのムドラーmudrāの訳。…
※「印」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」