デジタル大辞泉 「夜」の意味・読み・例文・類語
や【夜】[漢字項目]
[学習漢字]2年
〈ヤ〉よる。「夜陰・夜間・夜勤・夜景・
〈よ〉「夜風・夜中・夜長/月夜・
〈よる〉「夜昼」
[名のり]やす
[難読]
( 1 )「よ」が複合語をつくるのに対して、「よる」は複合語を作らない。(並立的な「よるひる」は例外)
( 2 )上代、夜は「よひ」「よなか」「あかとき」と三分された。当時の日付変更時点は丑の刻(午前二時ころ)と寅の刻(午前四時ころ)の間であったが、「よなか」と「あかとき」の境はこの時刻変更点と一致していると考えられる。
( 3 )元来、「よる」は「ひる」に対して暗い時間帯全体をさすが、「よ」はその特定の一部分だけを取り出していう。従って、古くは連体修飾語が付くのは「よ」であり、「よる」には付かなかったとする考えが出されている。
「観智院本名義抄」「名語記」などから、本来、現在のヨル(夜)の意で使用されたと考えられる。ただ、後には、ヨワは「夜半」と表記され、ヨナカ(夜中)の意で使用された。
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
太陽が水平線下に沈んだ時(日の入り)から,翌朝昇る時(日の出)までの時間を夜という。日の入り・日の出の時刻を決めるのに,太陽は約16′の視半径をもつので,太陽の中心が水平線を通る時刻と太陽の上縁が水平線を通る時刻では異なる。また,太陽が水平線近くにあるときは大気の屈折によって約34′浮き上がって見える。そのため,天文学では太陽の地心高度が-54.2′に達する時刻を日の入り・日の出の時刻と定めている。東京あたりの緯度(北緯35°)では,実際の日の入り・日の出より約3分ほど遅く計算されている。また,日の入り後,日の出前にうすくらがりの状態があり,一般に日暮れとか黄昏(たそがれ),あるいは夜明けと呼んでいる。天文学では,この状態を薄明(はくめい)といい,市民薄明,航海薄明,天文薄明を定めている。日の入り後,太陽による大気の光芒(こうぼう)がなくなって本格的な夜間になるまでの時間がほぼ天文薄明に相当する。
→日の出・日の入り →薄明
日本では1日の区切り方に,昼を中心とするものと夜を中心とするものの二つがあった。前者の場合,1日は曙→朝→昼→夕→夕暮れに分けられる。後者の区分は奈良~平安時代に行われていたもので,1日を夕(ゆうべ)(これから暗い夜になろうとする時間)→宵(よい)(夜になり始めた時)→夜中(よなか)(夜に最も中心的な時間)→暁(あかとき)(夜が終りになるだろう時)→朝(あした)(夜がいよいよ終わってしまった時間)に分けている。あした(朝)は夜が明けての朝ということからしだいに〈あくる朝〉〈明朝〉〈明日〉という形となり,奈良・平安時代に明日を表していた〈あす〉という言葉を追放していったものらしい。また,ゆうべ(夕)もこれと同様に,夜が始まる前の部分だったものが,しだいに昨晩という意味に移っていったのである。
昼と夜の境である〈たそがれ時〉は神隠しなどのふしぎなできごとのよく起きる時刻とされた。〈たそがれ〉は,〈誰(た)そ彼(かれ)〉で,夕方うすぐらくて人の見分けのつかない時をいい,一方〈かわたれ(彼(か)は誰(たれ))〉は,主として明け方のうすぐらい時をいう。このような物事の見分けが不分明な時間は,いわばこの世と異界のまじわる時でもあったから,異界から神や魔物(妖怪)が多く出現したのである。電灯のない時代には,夜はまさに闇の世界であり,この世と異界の境も家のすぐそばまで近づいていたのである。月を拝む習俗である月待や十五夜のように満月に神祭をする風習は,闇としての夜を背景にもつために意味があったのである。
夜は神の世界であったから,祭りや神事は日没から〈あかつき〉にかけて多く行われる。大晦日の年の夜の食事が重視されるのも,それが元来新年の最初の食事であったからである。また〈百鬼夜行〉という言葉があるように,夜はさまざまな魔物や妖怪が跳梁する時間帯でもあった。《日本書紀》の箸墓の伝説では,夜は神が作り,昼は人が作ったとあり,昔話の世界では,一番鶏の鳴声が夜明けの時を知らせ,神や鬼などの退散するしるしとされている。昔話自体が〈昼むかしをするとネズミに小便をかけられる〉と言い伝えて忌まれているように,本来夜語るものであった。
夜は神聖だが,一方で不安で恐ろしい時間でもあったため慎んで過ごすことが要求された。そこで,夜に爪を切ると親の死にめにあえないとか,夜口笛を吹くと蛇が来る,夜新しく履物や着物をおろすとキツネに化かされる,夜カラスが一声鳴くと近く人が死ぬ,夜クモが下るとどろぼうが入る,晩は金勘定をするな,日暮れてから花を立てるな,夜音楽をするとどろぼうが入る,などさまざまな禁忌や俗信が伝えられている。また夜言葉という忌言葉もあり,ネズミをヨメガキミ,キツネをヨルノワカシュ(夜の若衆),塩をナミノハナなどと縁起をかついで言い換えた。これは,夜が昼(この世,生)とは異なった世界であることを意味しており,髪,爪をはじめ直接生命に関する禁忌が多いのは夜が一面で死の世界とみられていたからで,生命に直接つながったり連想されるものは忌まれたのであろう。逆に,夜には物事が死や葬式と関連づけて考えられることが多かったので,禁忌が多く慎んで過ごすべきだとされたのであろう。また,神が新嘗(にいなめ)に物忌している女(巫女)のもとを訪れて神婚をしたり,ヨバイの際に若者が変装して娘のもとを訪れるのも夜であった。
執筆者:村下 重夫
ギリシア神話では,夜ニュクスNyxは原古に混沌の淵カオスから生まれた偉大な女神で,その力は神々の王ゼウスによってもはばかられている。昼の女神ヘメラHēmeraは,ニュクスが自分の兄弟の地下の闇エレボスと結婚して生んだ愛娘で,母と娘は世界の西の果てにある夜の館に住んでいるが,一方が帰ってくるときには他方は館から出て行くので,2人はただすれ違うたびに挨拶をかわすだけで,いっしょにいることはけっしてできない。どこへでもニュクスのお供をして行く眠りの神ヒュプノスHypnosは,ニュクスがエレボスの種によらずに自分だけで生んだ多くの子どもたちの中の一人で,双子の兄弟の死の神タナトスといっしょに夜の館の隣に居を構えている。争いの女神エリスは彼らの妹で,彼女から人間の死と苦しみの原因となるあらゆる災いが生まれたので,ニュクスはもろもろの災いたちの祖母神ということになる。
北欧神話では,夜ノートNóttはもとは巨人の娘だったが,デリングという名の美男の神と結婚し,そのあいだに生まれた息子が昼ダグDagrで,彼は髪も肌の色もまっ黒な母と違い,父に似てまばゆく美しかった。そこで神がみの王オーディンは彼らを天に上げ,それぞれに車と馬を与え,交代で空中をまわらせることにした。ノートの車を引く馬の名はフリームファクシHrimfaxiで,そのたてがみから夜のあいだに地上に霜が降り敷き,朝には轡(くつわ)の泡が地面にこぼれて朝露になる。ダグの馬はスキンファクシSkinfaxiという名で,そのたてがみからは明るい光が発して,空中と地上を照らし輝かせる。
古代インドの神話では,夜の女神ラートリーRātrīは太陽の母親で,毎夜胎児の太陽を身ごもってはたいせつにはぐくんで出生させるが,太陽が分娩されると同時に夜は終わり,ラートリーは消滅せねばならぬので,彼女はこの愛児を自分の乳を与えて育てることはできない。そこでラートリーが生む太陽を代わって育てるのが,彼女の妹の曙の女神ウシャスUṣasで,彼女は同時に,闇の悪魔たちを激しい攻撃を加え西の果てに追い払って,世界に夜明けをもたらす。つまりこの神話では,夜は,一方で太陽を胎内で保護し成長させる慈しみ深い母神と,他方で朝の到来を妨げるおぞましい悪魔と,相反する二つの面と姿を持つとみなされているわけである。
インドネシアのモルッカ諸島の一つのセラム島の原住民ウェマーレ族の神話では,〈夜〉を意味するアメタAmetaという名の人物が重要な役割を演じている。太古にバナナの実から生まれ,人間の祖先の一人だったアメタは,仲間の祖先たちに殺された自分の娘ハイヌウェレHainuweleの死体を切り刻んで分けて埋め,死体のいろいろな部分からそれぞれ種類の違ういもを発生させた。そのおかげで人間は以後,これらのいもを栽培し,主食にして生活するようになった。また彼は,ハイヌウェレの両腕だけは埋めずに,それを持って祖先たちの女支配者だったサテネのところへ行って,ハイヌウェレを殺した者たちをのろった。するとサテネも立腹して,その腕を手に持ち,祖先たちの一部を獣や鳥や魚や精霊に変え,一部は人間にしたうえで彼らのもとを去り,死者の国の女王となったので,このときから人間はみな,死んでからつらい旅をしてサテネが支配している冥府に行かねばならぬことになったという。
夜と死の結び付きは,ニュージーランドのマオリ族の神話にもみられる。天と地を分離させた森の神タネがあるとき土で女を造り,生命を吹きこんで自分の妻にし,ヒネ・イ・タウ・イラという娘を生ませ,この娘が成長すると今度は彼女を妻にめとった。ところがタネが自分の父であることを知ると,彼女はこの関係を恥じ,自殺して地下の冥府に行って偉大な夜の女神ヒネ・ヌイ・テ・ポになった。タネはヒネの死を悲しんで彼女のあとを追って冥府に行き,彼女にいっしょに地上に帰るよう求めたが,ヒネはその申入れを拒否し,タネに向かって〈自分はこのまま地下にとどまり,タネが地上で養う子孫の人間たちを,暗黒と死に引き下ろす〉と宣言し,死の女神となったという。
→月 →星 →夢
執筆者:吉田 敦彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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昼の反対。日没から日の出までをいう。日没後しばらくは薄明るく、日の出直前も薄明るく、夜の始めと終わりには、多少の明るさがある。夜は冬が長く、夏が短い。季語で夜長(よなが)が秋の季語となっているのは、夜間時間が最長となる冬に向かうころの季節感をとらえたものである。
[平塚和夫]
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