〘他サ五(四)〙 (「いだす」から転じて、中世頃から用いられる)
[一] 手もとにあるものを外の方へ移動させる。
① 内のものを外へ移す。また、外の方へ向かって伸ばしあらわす。
※名語記(1275)四「出はいだす也。それをただだすといへり、如何。答 いを略してだすといへる也」
※俳諧・猿蓑(1691)一「首出してはつ雪見ばや此衾〈竹戸〉」
② ある限られた場所から外へ進み動くようにしむける。出発させる。
※
史記抄(1477)一二「らんぐいさかもぎをして、人をそとへたさぬものぞ」
※日葡辞書(1603‐04)「フネヲ dasu(ダス)」
③ ある場所に行くようにしむける。出勤、出場、出演、出席などをさせる。
※滑稽本・浮世風呂(1809‐13)二「あまやかして奉公にも出(ダ)しませんから」
④ 追放する。また、離縁する。
※滑稽本・浮世風呂(1809‐13)二「親子喧嘩の合間こまには夫婦喧嘩さ。出(ダ)しゑへもしねへくせに出て往といふ」
⑤ 郵便物などを送る。
※浮雲(1887‐89)〈
二葉亭四迷〉一「返事は最
(も)う出しました」
⑥ 他のところに持っていく。提出する。
※俳諧・
続猿蓑(1698)上「猪を狩場の外へ追にがし〈曲翠〉 山から石に名を書て出す〈臥高〉」
⑦ 割り当てのものをさし出す。料金などを支払う。また、出資したり、貸し出したりする。
※大唐西域記長寛元年点(1163)三「家ごとに斗穀を税(ダシ)て以て饋(やしな)ひ遺る」
※滑稽本・浮世風呂(1809‐13)四「其代(そんでへ)に本銭(もとで)はいらねへス。荷は借荷で損料を出(ダ)すばかり」
⑧ 買うの意にいう、酒問屋仲間などの隠語。
※洒落本・仕懸文庫(1791)二「やすくはうりやすめへ。なんぞだしなすったか」
[二] 今まで見えなかったもの、なかったものなどを外に現わす。
① 隠れているもの、しまってあるものなどを外に現わす。
※天草本伊曾保(1593)蝉と蟻との事「アリドモ アマタ アナヨリ ゴコクヲ daite(ダイテ)」
※俳諧・続猿蓑(1698)冬「ふたつ子も草鞋を出すやけふの雪〈支考〉」
② 他に与えるために用意する。飲食物などを人前に用意する。
※虎明本狂言・富士松(室町末‐近世初)「たのふだ人のござったに、酒があらばだせ」
③ 上方の遊里で、置屋から茶屋へ
芸娼妓を呼び迎える。
※洒落本・北川蜆殻(1826)上「さきにも綿富から出(ダ)しに来たけれど、あんまり気色がわるいよって、ことわりいふていかなんだが」
④ 生じさせる。発生させる。「芽を出す」「元気を出す」
※俳諧・曠野(1689)五「汗出して谷に突こむ氷室哉〈冬松〉」
⑤ 声や顔つきなどに表わす。意志表示をする。また、模様や色として表わす。
※日葡辞書(1603‐04)「コトバヲ dasu(ダス)」
※悪魔(1903)〈
国木田独歩〉七「一向に面白くない。けれども顔には少も出
(ダ)さなかった」
⑥ 表だった所に発表する。また、掲示・掲載する。また、書物を出版する。
※滑稽本・東海道中膝栗毛(1802‐09)三「おめへが手本を出したから、ツイおれも」
※思出の記(1900‐01)〈
徳富蘆花〉七「色々な投書がのって居たが、中には随分拙いのも人気とりに出してあった」
⑦ 世間に現れるようにする。輩出させる。
※黒い眼と茶色の目(1914)〈徳富蘆花〉四「弟子の中から少からぬ師にまさる秀才を出(ダ)した」
⑧ 商店や飲食店を作って営業を始める。
※
当世商人気質(1886)〈
饗庭篁村〉四「酒屋の跡の明家
(あきや)をば仮初
(かりそめ)の見世
(みせ)出
(ダ)し」
[三]
補助動詞として用いる。動詞の連用形に付く。
① その動作によって表や外に現われるようにする意を表わす。「染め出す」「作り出す」など。
② その動作を始める意を表わす。「歩き出す」「話し出す」「読み出す」など。
[補注]古く「いだす」が他の動詞と複合する場合、上の動詞の語尾がイ段の音のとき、「だす」となることがある。「万葉‐三七六五」の「まそ鏡かけて偲(しぬ)へとまつり太須(ダス)形見の物を人に示すな」など。