南(漢字)

普及版 字通 「南(漢字)」の読み・字形・画数・意味


常用漢字 9画

[字音] ナン
[字訓] みなみ

[説文解字]
[甲骨文]
[金文]

[字形] 象形
釣鐘形式の楽器の象形。古く苗(びよう)族が用いていた楽器で、懸してその鼓面を上から鼓つ。器には底がなく、頸部の四方に鐶耳があり、そこに紐を通して上にけると、南の字形となる。殷の武丁期に貞卜のことを掌った貞人に(なん)という人名があり、その字は南を鼓つ形に作る。〔説文〕六下に「艸木、南方に至りて、枝任(しじん)あるなり」とし、任をしなやかの意に用いるが、苗族が用いた銅鼓は古くは南任(なんじん)とよばれ、いまもかれらはその器をNanyenとよぶ。「南任」がその器名である。〔詩、小雅、鼓鍾〕に「を以てし南を以てす」とあって、単に南ともよばれた。〔韓詩(せつ)君章句〕に「南夷の樂を南と曰ふ」とみえる。また〔礼記、明堂位〕に「任は南蠻の樂なり」とするが、南任がその正名である。この特徴的な楽器によって、南方を南といい、苗族を南人とよんだ。卜辞に「三南・三羌」のように、西方の羌人(きようじん)と合わせて、祭祀の犠牲に供せられることがあった。犬首の神盤古を祖神とする南人は、羊頭の異種族羌族とともに犠牲とされたが、牧羊族の羌人のように捕獲は容易でなく、卜辞にみえる異族犠牲は、ほとんど羌人であった。南方は一種の聖域と考えられ、〔詩、周南、樛木〕には「南に樛木(きうぼく)り (かつるい)之れに(まと)ふ」のように、南は、一種の神聖感を導く発想として用いられる。

[訓義]
1. みなみ、南方、南人。
2. 鐘に似た楽器、南任、南夷の舞楽
3. 〔詩〕の二南、周南と召南。その地は江漢の域を含み、当時南方文化と接触する地域であった。

[古辞書の訓]
名義抄〕南 ミナミ/指南 シルベ

[部首]
南は〔説文〕六下に市(ふつ)・孛(はい)系統の字として市部に属するが、南は懸した楽器の象で、市・孛とは関係がない。孛は(つぼみ)のふくらむ形である。

[声系]
〔説文〕に南声として水部の字一字を収めるが、モンゴルのオルドス方面の水名。また(なん)の或(ある)体を楠に作る。南nmは古くは(侵)tsimの韻。〔詩、小雅、鼓鍾〕では欽・琴・(音)・僭と韻し、〔詩、風、燕燕〕では・心と韻している。

[熟語]
南無・南夷・南院南雲南裔・南栄・南園・南苑南轅・南音南下南柯南華・南南衙・南南郭・南岳・南学・南・南冠・南・南徼・南・南金・南薫・南渓・南軒・南荒南山・南・南枝・南至・南詞・南狩・南巡南廂・南人・南垂・南征・南・南船・南饌・南南端南天・南渡・南土・南蛮・南藩・南風・南・南辺・南畝・南圃・南邦・南北・南奔・南冥・南溟・南面・南門・南籥・南游・南離・南
[下接語]
江南・朔南・山南・司南・指南・湘南・城南・斗南・図南・日南・嶺南

出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報