(読み)クビ

デジタル大辞泉 「首」の意味・読み・例文・類語

くび【首/×頸】

脊椎動物の頭と胴をつないでいる部分。頸部けいぶ
1の上の部分全体。あたま。かしら。こうべ。「―をかしげる」
1に似た形。また、それに該当する部分。「びんの―」
衣服の1にあたる部分。襟。「セーターの―」
(「馘」とも書く)職をやめさせること。解雇。馘首かくしゅ。「お前は―だ」
顔。特に美しい顔。また、美人。
「かかる所には看板の―といふものありて」〈洒・浪花色八卦〉
[下接語]青首足首後ろ首打ち首腕首襟首欠き首合点首かぶとかまがん切り首綺麗きれい螻蛄けら小首さらし首思案投げ首縛り首白首しろくび・しらくび素っ首乳首つる手首投げ首生首にせ抜け首寝首喉頸のどくびひら穂首丸首轆轤ろくろ
[類語](1首っ玉頸部小首/(5免職解任解職罷免解雇馘首首切りお払い箱失業失職無職無業離職食い上げ食いはぐれるあぶれる破門お役御免リストラ免ずる解く暇を出す暇を遣る首になる首を切る首が飛ぶ

しゅ【首】[漢字項目]

[音]シュ(呉) [訓]くび こうべ かしら しるし はじめ おびと
学習漢字]2年
〈シュ〉
頭。「首級首足鳩首きゅうしゅ頓首とんしゅ馬首
頭と胴の間の部分。くび。「縊首いしゅ絞首
いちばん始め。さき。第一位。「首位首相首席首都巻首期首船首
上に立つ人。かしら。「首脳元首党首頭首
詩歌を数える語。「百人一首
罪を白状する。「自首
〈くび〉「首筋首輪足首乳首ちくび手首生首寝首
[名のり]おぶと・かみ・さき
[難読]匕首あいくち首途かどで螻蛄首けらくび

こうべ〔かうべ〕【首/頭】

《「髪辺かみへ」または「上部かみへ」の音変化か》くびから上の部分。あたま。かしら。「―を垂れる」「正直の―に神宿る」
[類語]あたまかしら頭部つむりかぶりおつむヘッド雁首

お‐びと【首】

《「おおひと(大人)」の音変化という》
長官。首領。
は我が宮の―たれ」〈・上〉
古代のかばねの名の一。伴造とものみやつこなど地方の小豪族に与えられた。おうと。

しゅ【首】

[名]主だった者。かしら。
[接尾]助数詞。漢詩や和歌を数えるのに用いる。「律詩三」「返し歌一

しるし【首/首級】

《「」と同語源》討ち取った首。しゅきゅう。

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精選版 日本国語大辞典 「首」の意味・読み・例文・類語

しゅ【首】

  1. [ 1 ] 〘 名詞 〙
    1. あたま。くび。〔詩経‐邶風・静女〕
    2. 主だった者。最上位にあるもの。かしら。
      1. [初出の実例]「一一の菩薩、みな、これ大衆の唱導の首(シュ)として」(出典:妙一本仮名書き法華経(鎌倉中)五)
    3. はじめ。もと。
      1. [初出の実例]「司馬遷が黄帝を五帝之首へ取たほどに」(出典:史記抄(1477)三)
      2. 「此の巻の教授術は〈略〉略(ほぼ)第一巻の首に掲げたる所の如しと雖も」(出典:小学読本(1884)〈若林虎三郎〉二)
    4. 罪を犯した発頭人。首謀。
      1. [初出の実例]「共犯罪者。以造意首。随従者減一等」(出典:類聚三代格‐二〇・宝亀一一年(780)一一月二日)
  2. [ 2 ] 〘 接尾語 〙 漢詩や和歌を数えるのに用いる。
    1. [初出の実例]「柿本朝臣人麻呂従石見国妻上来時歌二首并短歌」(出典:万葉集(8C後)二・一三一・題詞)
    2. [その他の文献]〔漢書‐蒯通伝〕

こうべかうべ【首・頭】

  1. ( 「髪辺(かみへ)」または「上部(かみへ)」の変化した語か )
  2. [ 1 ] くびから上の部分の総称。特に頭部をいう場合が多い。あたま。かしら。
    1. [初出の実例]「一本に云はく新羅明王の頭(カウヘ)の骨を葬り埋めて」(出典:日本書紀(720)欽明一五年一二月(寛文版訓))
  3. [ 2 ] 〘 接尾語 〙 人の数をかぞえるのに用いる。人(にん)
    1. [初出の実例]「吾は当に日に千五百頭(ちカウヘあまりいほカウヘ)産ましめむ」(出典:日本書紀(720)神代上(水戸本訓))

首の補助注記

「地蔵十輪経元慶七年点」に「首(カヘ)」「頭(カヘ)」とあるのは「ウ」の無表記か。

首の語誌

→「あたま(頭)」の語誌


お‐びと【首】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「おほひと(大人)」の変化した語といわれる )
  2. 首長。長官。おふと。
    1. [初出の実例]「是れ国郡に君長(ひとごのかみ)無く、県邑に首渠(オヒト)無ければなり」(出典:日本書紀(720)成務四年二月(熱田本訓))
  3. 大化前代の姓(かばね)の一つ。臣(おみ)、連(むらじ)などより低い地位の氏に与えられたもので、初期の伴造(とものみやつこ)に与えられた。天武天皇一三年(六八四)の八色姓(やくさのかばね)で廃止されたが、非公式には通用していた。おふと。
    1. [初出の実例]「難波の船の人大嶋首磐日・狭丘首(さをかのオヒト)間狭を以て」(出典:日本書紀(720)敏達二年七月(前田本訓))

おふと【首】

  1. 〘 名詞 〙おびと(首)
    1. [初出の実例]「村(ふれ)に長(ひとごのかみ)無く、邑に首(オフト)勿し」(出典:日本書紀(720)景行四〇年七月(熱田本訓))

お‐うと【首】

  1. 〘 名詞 〙 「おびと(首)」の変化した語。

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普及版 字通 「首」の読み・字形・画数・意味


常用漢字 9画

(異体字)
7画

[字音] シュ
[字訓] くび・はじめ・きみ・もうす

[説文解字]
[金文]

[字形] 象形
頭髪のある首の形。古文は(しゅ)に作り、〔説文〕九上に「同じ。古なり。巛は髮に象る。之れを(しゅん)と謂ふ。ち巛なり」とするが、巛を含めて象形の字である。儀容を示す頁(けつ)の字形からいえば、は髪を整えた首の形であろう。金文に「拜首(けいしゆ)」のようにしるす例があり、手と同音の字であった。首長・首謀のように用いる。首を倒懸する形は(きよう)、懸することを縣(県)という。

[訓義]
1. くび、かしら、あたま。
2. きみ、かみ、おさ、諸人の長。
3. はじめ、さき、まえ、ことのおこり。
4. むかう、頭をむける、頭をさげる。
5. したがう、もうす、つげる、ありのままいう。
6. ものの上の部分、刀のつか、いしづき、ことのかなめ、もと。

[古辞書の訓]
〔和名抄〕首領 加宇倍(かうべ)〔名義抄〕首 カウベ・カシラ・ハジム・ホトリ・ススム・ムカフ・オモムク・アラハル・フス 〔字鏡集〕首 オモムク・マコト・フス・モツトモ・ツカ・カフリ・アラハル・マメヤカ・メグラス・ハジメ・ハジム・カウベ・ツク・ムカフ・カシラ

[部首]
〔説文〕に(けい)(稽)など二字、〔玉〕に馘と顏(顔)・頰・髮(髪)の異文などを加えて九字を属する。・首・頁は字形として通用することがある。

[語系]
首・sjiuは同声。頭doも声の近い語である。手sjiuは首と同声。ともに先端にあるもの。頭は先端にあって、その形の太短いものをいう。

[熟語]
首悪・首位・首禍・首稼・首科・首過・首魁・首鎧・首簡・首頷・首揆・首義・首級・首丘・首功・首甲・首肯・首座・首坐・首歳・首罪・首策・首参・首子・首施・首趾・首事・首疾・首実・首従・首春・首将・首章・首唱・首倡・首衝・首状・首身・首席・首選・首鼠・首祚・首足・首賊・首嫡・首痛・首・首途・首都・首盗・首・首脳・首犯・首班・首尾・首府・首伏・首服・首謀・首務・首免・首面・首領・首路・首露・首窩
[下接語]
華首・回首・廻首・魁首・馘首・鶴首・冠首・巻首・貫首・頷首・丘首・鳩首・梟首・矯首・仰首・翹首・空首・屈首・経首・稽首・黥首・鷁首・剣首・黔首・元首・甲首・肯首・皓首・絞首・首・歳首・斬首・自首・授首・倡首・称首・賞首・首・人首・折首・船首・首・低首・剔首・党首・頭首・頓首・年首・馬首・白首・反首・匕首・俛首・俯首・部首・伏首・首・首・北首・盟首・乱首・貍首・領首

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改訂新版 世界大百科事典 「首」の意味・わかりやすい解説

首/頸 (くび)
neck

動物の体で頭部の後方で多少とも細くなっている部分が,しばしば頸(頸部)と呼ばれる。脊椎動物の頸cervixは前肢の前方の胴部が伸長したもので,頭骨につらなる脊柱,脳から伸びた脊髄,咽頭に続く食道,頭部への血管,肺呼吸するものでは気管などが通っている。脊柱前部の椎骨が変形した頸椎は魚類にはないが,一般に両生類で1個,爬虫類で8個,鳥類で13~14個,哺乳類で7個(ごくまれに6,8,9個)あり,頭部の自由な運動を可能にしている。哺乳類でも,クジラなど水生のものには明確に頸といえる部分はない。これは水中での抵抗を減らすために,二次的に頸が短縮したものであり,頸椎の数はやはり7個ある。昆虫類には,頭部と胸部の間に明りょうに識別しうる頸部をもっているものが多い。殻片と筋肉の働きで,頭部を動かしたり頸部を伸縮できる。この頸部が独立した体節なのか,他の体節の一部であるのかは明らかでない。条虫類,腹毛類の体前部のくびれや,コウトウチュウ類,動吻類の吻の後方も頸部と呼ばれる。
執筆者:

体幹の一部で,頭と胸との間にはさまれた細い部分(〈くび〉は一般には〈首〉の字をあてているが,〈首〉の字は本来は頭を意味する)。頸と頭の境は下顎の下縁から後縁に沿って顎関節,乳様突起へと移り,後方で外後頭隆起に達する。また頸と胸との境は胸骨の上縁から鎖骨の上縁に沿って走り,後面では第7頸椎の棘(きよく)突起の先端に至る。頸の前面には中央より少し上方に喉頭隆起という突出があり,喉頭の甲状軟骨によるとび出しである。これが〈のどぼとけ〉で,また〈アダムのリンゴ〉ともいうが,それはリンゴを取ったアダムが神に見つけられ,口にほうりこんだところ,のどにひっかかってふくれ出したのだとの伝説による。喉頭隆起は,子どもや女ではあまりとび出していない。喉頭隆起のすぐ上には舌骨を触れることができるし,下のほうには輪状軟骨とその下に続く気管,それにこれらを外側から取り巻く甲状腺を触れ,かつ目で見ることができる。頸の外側部には胸鎖乳突筋という筋肉による高まりが乳様突起から斜めに下前内側のほうに走っており,その前上のほうには頸動脈三角という三角形のくぼみがある。ここには総頸動脈が皮下の浅いところを走っているので,指先でその拍動をよく触れることができる。〈頸動脈を切って自殺する〉というのは,この場所で総頸動脈を切るのである。頸の背面のところ,後頭部から下のほうを〈項部〉またはうなじという。

 頸の内部の構造は複雑で,次のような種々の器官の組合せからできている。(1)骨格は頸のほぼ中央部を縦に走る脊柱で,7個の頸椎からなっている。(2)筋肉は種々の系統のものが混ざって存在する。項部には表層に僧帽筋,深部に固有背筋群に属する諸筋,脊柱の外側部に斜角筋群,前面に椎前筋群があり,これらが脊柱を取り巻いている。このほかに,頸部の前面には皮下に広く薄い広頸筋という皮筋があり,その下層に胸鎖乳突筋と舌骨筋群とがある。舌骨筋群はさらに舌骨上筋群と舌骨下筋群とに分けられる。(3)血管は頸を通過するものと頸に分布するものとに分けられる。前者に属する動脈としては総頸動脈が食道の両側で椎前筋群の前外側を上がって,血液を脳および頭顔面に運び,椎骨動脈は鎖骨下動脈から分かれて頸椎肋横突起の中を通って大後頭孔から頭蓋腔に入り,脳に分布する。これらのほかに頸部に分布する動脈として上下甲状腺動脈をはじめ数対のものがある。静脈はほぼ動脈に伴って走っているが,そのほかに皮静脈として外側浅頸静脈がある。総頸動脈に相当する静脈は内頸静脈といい,総頸動脈の外側に沿って走る。(4)神経はその分布する場所に応じて分類するのが便利である。皮膚には頸神経の後枝が項部に,頸皮神経が頸の外側部から前部に分布し,筋肉を支配する運動神経としては僧帽筋と胸鎖乳突筋にいく副神経と,舌骨筋群の大部分を支配する舌下神経,その他の頸部筋群を支配する頸神経の枝をあげねばならない。このほか頸部の内臓には舌咽神経迷走神経交感神経の枝が分布している。局所解剖学的な立場から最も重要なのは,総頸動脈と内頸静脈との間にはさまれて,これらと並行して走る迷走神経,迷走神経のやや後内側を走る交感神経幹,頸椎の両側にある,頸神経叢腕神経叢,とくに頸神経叢の一つの枝として前斜角筋の前を通って胸郭にはいる横隔神経である。(5)内臓は頸の前部に位置している。そして大きく3系に分けられる。第1は消化器で,これは咽頭(口部,喉頭部)と,それに続く食道である。脊柱のすぐ前を走っている。第2は呼吸器で咽頭(鼻部,口部),喉頭,および気管である。第3系は内分泌器官で,甲状腺と副甲状腺がそれである。

 頸を全体として観察すると,骨格と筋肉とが頸の内容の大部を占め,前の正中部にわずかに内臓が通る場所がある。この部分が胸や腹では胸腔または腹腔に相当する場所であるが,胸腔や腹腔に比べるとずっと小さい。頸椎には肋骨がないことも胸部と異なる点であるが,詳しく研究すると,頸椎にも肋骨の残りが小さい突起としてくっついている。
執筆者:

〈くび〉はくびれた部位のことで,〈首〉よりも〈頸〉の字に相当する。〈首〉はもと〈〉で〈巛〉は髪,〈〉は頭をかたどっているから,〈首〉は頭を指す。これを〈くび〉と読む際,頭,頸を含む頭,頸のいずれをいうのかあいまいになることがある。首は頭とほぼ同義で,頭と同様〈首座〉〈首席〉その他,最上位の意を表すが,〈首が良い〉とはいわず,〈首が痛い〉は頭痛のことではないから,脳のことも指す頭と等しいとはいえない。頭は切り落とせず頸を切るのだから,首には頸が含まれるといえよう。椎間板の方向と椎間関節の方向とが近似している上位頸椎の間でなければ,人の首を一刀のもとに両断することはできない。切腹する者が小刀または木刀を取ろうとうつむくときに介錯(かいしやく)人が首を切ったのは,このときに頸椎棘突起の間が広く開いて切りやすくなるためである。

 討ちとった敵将や罪人の首を,城壁や路上に見せしめのためにさらすことは,古くから各地にみられた。旧約聖書外典《ユディト書》は,ユディトが彼女の美しい容貌に惑わされた敵将ホロフェルネスを寝室で襲って首をはね,町の城壁にかけてアッシリア軍を敗北に追いやる話が主題である。なお文脈は違うが,同じく聖書では,ヨハネの首を欲したサロメの話もよく知られている。金子光晴によれば,バタビアの一角に謀反人エルベルフェルトの首が槍の穂先に貫かれてさらされ,18世紀のオランダ総督政府に対する謀反を象徴していた(《エルベルフェルトの首》)。首は身体の他の部分から独立していると考えられた。イギリスの子守歌に〈首を切られても小1時間,チャールズ1世は歩いてしゃべった〉とある。罪人の首はさらされたが,英雄の首は埋められて民衆を守護した。《マビノギオン》には,ブリテン島の王ベンディガイド・ブランは敵の上陸を防ぐようフランスのほうに向けてロンドン塔に埋めよと遺言し,それが実行されたとある。オルフェウスの首は海を流れてレスボス島にたどりつき,かみつこうとした大蛇はアポロンによって石と化せられたという(オウィディウス《転身物語》)。切られたみずからの首を持ち運んだというサン・ドニ(ディオニュシウス)の話も有名。

執筆者:


首 (おびと)

日本古代の姓(かばね)の一つ。古くは統率者をあらわす称呼であったものが姓となる。主として地方の県主(あがたぬし)・稲置(いなぎ),および部民(べみん)の統率者,または屯倉(みやけ)の管理者に与えられた。県主の例として志紀県主の志紀首,稲置の例として伊賀の稲置代首,部民の統率者の例として赤染部の統率氏族の赤染部首,そして屯倉の管理者の例として新家屯倉の新家首にみられる。称呼としての古い用例には,埼玉県行田市稲荷山古墳から出土した鉄剣銘の〈杖刀人首〉,《日本書紀》清寧2年11月条の〈縮見(しじみの)屯倉首〉がある。首の語義は,オホヒト(大人)の約であろうとされている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「首」の意味・わかりやすい解説

首(くび)
くび

解剖学上では頸(クビ)の字をあて、頭部と胸部の間の部分をいう。正確には下顎(かがく)の下縁、乳様突起(耳介後方の突出骨部)、外後頭隆起(後頭骨中央部で明らかに頭皮下に触れる隆起部)を結ぶ線が上の境界線、胸骨柄上縁と鎖骨上縁から背部の第7頸椎棘状(けいついきょくじょう)突起の先端を結ぶ線が下の境界線となる。しかし、頸部の形、外見は年齢や男女によって、あるいは個人によっても差異がある。一般に年少者では短く、他部位と比べて割合に太い。横断面でみると、年少者と女性では、成人男子に比べて円形に近い。

[嶋井和世]

頸部の構造

頸部は大別して前面の前頸部と後面の後頸部(項、うなじ)に分けられる。体表から明瞭(めいりょう)にみられるもっとも特徴的な頸部の構造として胸鎖乳突筋がある。クビを左方か右方に回転したとき、耳介後部の乳様突起から同側の胸骨上縁に向かって盛り上がったように走る筋束が胸鎖乳突筋であり、これによって前頸部と側頸部の境界ができる。やせている人の場合では、とくにこの筋の盛り上がりは著明となる。胸鎖乳突筋は頸部にある最強の筋で、頭を側屈して反対側に回旋したり、両筋を同時に働かせて頭の後屈を行うほか、鎖骨を持ち上げて吸息運動を助ける。ところで、分娩(ぶんべん)の際に、胎児のこの筋が過度に伸展して筋肉出血がおこると、筋線維の変性で短縮硬化が生じ、斜頸(先天性筋性斜頸)となることがある。頸部の皮膚は移動性の大きいことが特徴であるが、前頸部の皮下には薄い膜状の広頸筋が下顎骨の下縁から頸部側面を下方に広がるように向かい、胸部の上方まで達している。この筋は皮膚に付着している皮筋として、収縮すると前頸部に多数の縦ひだをつくる。前頸部正中線上のやや上方には、喉頭(こうとう)隆起とよぶ隆起部がみられる。これは、盾形の甲状軟骨の左板と右板が正中線で合する部分が突出したもので、思春期以後の男性にとくに著明であり、女性や子供では目だたない。これは甲状軟骨の左右板の合する角度が男性では90度、女性では120度であるため、男性の場合、突出が目だつわけである。俗に「のどぼとけ」とか「アダムのリンゴ」とよばれるこの喉頭隆起は、嚥下(えんげ)運動の際、かならず上下する。

 甲状軟骨の上方には、体表から触れることができる舌骨がある。U字形で、喉頭部を前方から囲むように位置するが、皮下脂肪の多い人では触れにくい。甲状軟骨のすぐ下方には輪状軟骨があり、体表から触れることができる。この軟骨の下から気管が始まり、食道入口もこの高さで、気管の後方にある。このように、頸部内部では臓器がきわめて複雑に構成されているが、中軸となるのは7個の頸椎である。これを取り囲んで多数の頸筋群があり、頭部や舌の運動、下顎の運動、あるいは胸郭を挙上する吸息筋としての働きなどをしている。頸椎前面には咽頭(いんとう)―食道があり、その前方に喉頭―気管が通っている。甲状軟骨中央部から気管上部にかけては、その前面に甲状腺(せん)が付着し、甲状腺の両側後縁の上下に1対ずつの上皮小体(副甲状腺)があり、甲状腺に付着している。甲状腺は、普通では体表から触れないが、腺腫(せんしゅ)で肥大すると触れるようになる。

[嶋井和世]

血管と神経

食道両側には内側から順に、総頸動脈、迷走神経、内頸静脈が縦走している。胸鎖乳突筋の中央前縁部で総頸動脈の拍動に触れることができる。頸部の動静脈のほとんどはいっしょに走るが、浅層の静脈は頸部皮下静脈として発達している。このため、深部の上大静脈の循環障害や心臓疾患などによって静脈圧が高くなると、外頸静脈の怒張する(膨らむ)のが体表からも見られることがある。頸部には迷走神経のほか、副神経(僧帽筋と胸鎖乳突筋を支配)、舌下神経(舌筋支配)、舌咽神経、交感神経、横隔神経や頸部皮膚感覚をつかさどる頸神経などが錯綜(さくそう)して走っている。

[嶋井和世]


首(古代の姓)
おびと

古代の姓(かばね)の一つ。「おひと(大人)」の意で、有勢者に対する尊称に起源する。首は、地方の部民(べみん)の統率者、地方の屯倉(みやけ)の管理者、一部の県主(あがたぬし)や稲置(いなぎ)、帰化人の後裔(こうえい)などに賜姓されたが、これらはいずれも中小豪族であった。首姓は220余氏を数えるが、八色(やくさ)の姓(かばね)(684年制定)の賜姓にあずかったのは忌部首(いんべのおびと)ら4氏にすぎない。757年(天平宝字1)に聖武(しょうむ)天皇の諱(いみな)(実名)の首を避けて毗登(びと)に改められたが、770年(宝亀1)に元に復した。

[前之園亮一]

『太田亮著『全訂日本上代社会組織の研究』(1955・邦光書房)』『阿部武彦著『氏姓』(1966・至文堂)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「首」の意味・わかりやすい解説


おびと

雑姓の一つ。この姓には2系統がある。一つは地名を氏とする県主,稲置など領首的性格をもつもの。一つは職名,部曲名を氏とする伴造的性格をもつもの。『日本書紀』によれば天武 13 (684) 年の八色の姓 (やくさのかばね) にはなく,首姓の一部は新姓忌寸 (いみき) を与えられたが,多くは旧姓のまま据置かれた。その後,奈良時代にも首姓を賜わっているが,天平勝宝9 (757) 歳,聖武天皇の諱 (いみな) 「首」を避けて「毗登 (ひと) 」姓に改め,次いで宝亀1 (770) 年もとに復した。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「首」の解説


おびと

古代のカバネ。勢力者を意味する「オヒト(大人)」からきた尊称。忌部(いんべ)首・錦織(にしごり)首・河内馬飼首・薦集(こもつべ)首・書(ふみ)首などの伴造氏族や,伊勢大鹿首・迹見首・生田首などの地方小豪族の首長が称する例が多い。684年(天武13)の八色の姓(やくさのかばね)で廃止されたが,その後もこのカバネを称する氏族は多く,757年(天平宝字元)には聖武天皇の諱を避けて毗登(ひと)と改め,770年(宝亀元)にもとに復した。

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デジタル大辞泉プラス 「首」の解説

首〔映画:1968年〕

1968年公開の日本映画。監督:森谷司郎、撮影:中井朝一、原作:正木ひろし、脚色:橋本忍、音楽:佐藤勝、美術:阿久根巖。出演:小林桂樹、古山桂治、鈴木良俊、南風洋子、下川辰平、宇留木康二、鈴木治夫ほか。第23回毎日映画コンクール音楽賞、美術賞受賞。

首〔映画:2023年〕

2023年公開の日本映画。監督・原作・脚本:北野武。出演:ビートたけし、西島秀俊、加瀬亮ほか。

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旺文社日本史事典 三訂版 「首」の解説


おびと

大和政権の姓 (かばね) の一つ
地方豪族や伴造氏族に与えられた。684年の八色の姓 (やくさのかばね) で廃止され第8位の稲置になった例が多い。

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【刀剣】より

…銅剣のもっとも早い出土例は,長安の張家坡の西周墓からのものである。全長約27cm,柳葉の形をもち首(ひしゆ)に近い。北京,陝西省宝鶏からも同様な柳葉形の西周期の青銅剣が出土している。…

【武器】より

…青銅製の刀が短いものであったから,おそらく青銅の剣の方が実用的であって,戦闘中や何らかの形態で小人数の相手と立ち向かうとき,相手に対して,ただ突き進めるだけで目的が達成できる,つまり小さな動作で早い速度が得られるということは,実戦的な攻撃の効果を挙げることが容易であったといえる。この剣の性質をもたせて,より小型化したものが首(ひしゆ)すなわち〈あいくち〉で,隠し持つことができるので暗殺などの目的にかなっていた(刀剣)。 殳(しゆ)は木製の棍棒で,竹を割ってそれを麻布でつつみ,さらに糸を巻いた上に漆を塗ったものが多かった。…

【短歌】より

…5句31拍に合わない作を〈破調〉といい,長すぎるものを〈字あまり〉,短いものを〈字足らず〉と呼ぶ。また〈首(しゆ)〉という単位を用いて,1首,2首というふうに数える。《万葉集》以来の数え方である。…

【刀剣】より

…銅剣のもっとも早い出土例は,長安の張家坡の西周墓からのものである。全長約27cm,柳葉の形をもち首(ひしゆ)に近い。北京,陝西省宝鶏からも同様な柳葉形の西周期の青銅剣が出土している。…

【武器】より

…青銅製の刀が短いものであったから,おそらく青銅の剣の方が実用的であって,戦闘中や何らかの形態で小人数の相手と立ち向かうとき,相手に対して,ただ突き進めるだけで目的が達成できる,つまり小さな動作で早い速度が得られるということは,実戦的な攻撃の効果を挙げることが容易であったといえる。この剣の性質をもたせて,より小型化したものが首(ひしゆ)すなわち〈あいくち〉で,隠し持つことができるので暗殺などの目的にかなっていた(刀剣)。 殳(しゆ)は木製の棍棒で,竹を割ってそれを麻布でつつみ,さらに糸を巻いた上に漆を塗ったものが多かった。…

【伴造】より

…大和朝廷を構成する諸氏族の首長をいう。〈ばんぞう〉ともいう。…

【地峡】より

…大陸と大陸,大陸と半島などを結ぶくびれた狭い陸地。南北アメリカ大陸を結ぶパナマ地峡,ユーラシア大陸とアフリカ大陸を結ぶスエズ地峡,マレー半島のクラ地峡などが有名。その他,ギリシアのコリント地峡,ユトランド半島のキール地峡などがある。古来陸上交通の要衝であったが,運河が開かれ,あるいは計画されたりして海上交通の要所ともなっている。1869年に開かれたスエズ運河は紅海と地中海を結び,喜望峰回りのロンドン~ボンベイ間の距離を58%に短縮,また1914年開通したパナマ運河は太平洋とカリブ海をつなぎ,ホーン岬回りのニューヨーク~ホノルル間の距離を50%に短縮した。…

【頭】より

…動物体の前部にあって1個のまとまりをなす部分をふつう頭という。〈頭部〉も同様の意に用いられる。頭には一般に口があり,摂食器官,感覚器官の発達や神経節の集中化がみられる部域である。動物の積極的な移動は,好適な場所や食物の獲得を主要な動機として方向性をもって行われ,そのための動物体の構造が発達・分化したと考えられる。前後軸の確立と前進方向への運動力の効率的な強化,そして前端部への摂食・感覚および調整の機能の集中などがそれであり,これが頭部形成cephalization(頭化)といわれるものである。…

※「首」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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