宿(読み)ヤド

デジタル大辞泉 「宿」の意味・読み・例文・類語

や‐ど【宿/屋戸】

《「屋の」の意か。または「屋の戸」「屋の」の意か》
家。すみか。「埴生はにゅうの―」
《「やどり」との混同から》旅先で一時的に泊まる家。また、宿屋。「今日の―を決める」
妻が他人に対して夫のことをいう語。主人。宅。
「私が申しますと―が立腹致しますから」〈円朝真景累ヶ淵
奉公人の親元や請け人。また、その家。「―へ下がる」
ある目的のもとに、人々が集まる所。若者宿娘宿など。
揚屋あげや置屋。また、その主人。
「―を頼んで田舎客の談合破らせ」〈浄・冥途の飛脚
家の入り口。戸口。
「夕さらば―開けけて我待たむいめに相見に来むといふ人を」〈・七四四〉
家の庭先。
「秋は来ぬ紅葉は―に降り敷きぬ道ふみわけてとふ人はなし」〈古今・秋下〉
[類語](1うち家屋屋舎おくしゃ住宅住家じゅうか住居家宅私宅居宅自宅きょ住まい住みかねぐらハウス(尊敬)お宅尊宅尊堂高堂貴宅(謙譲)拙宅弊宅陋宅ろうたく陋居陋屋ろうおく寓居ぐうきょ/(2旅館宿屋ホテル民宿ペンション木賃宿旅籠モーテルラブホテル連れ込み連れ込み宿

しゅく【宿】[漢字項目]

[音]シュク(漢) スク(呉) [訓]やど やどる やどす
学習漢字]3年
シュク
一時的に寝泊まりする所。やど。「宿駅下宿旅宿
寝泊まりする。やどる。「宿舎宿直宿泊寄宿止宿露宿
以前からの。長く持ち続けている。「宿痾しゅくあ宿願宿敵宿弊
年功を積んだ。「宿徳宿老
前世からの。「宿縁宿世しゅくせ・すくせ宿命
星座。「星宿二十八宿
〈やど〉「宿屋定宿じょうやど
[名のり]いえ・おる・すみ
[難読]宿直とのい宿酔ふつかよい

しゅく【宿】

[名]
泊まること。また、その場所。やどや。旅館。
宿場。宿駅。「あい宿
星座。星宿。
[接尾]助数詞。旅の宿りを数えるのに用いる。「一宿一飯」

すく【宿】[漢字項目]

しゅく

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精選版 日本国語大辞典 「宿」の意味・読み・例文・類語

や‐ど【宿・屋戸・屋外】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「屋の処(と)」の意か。一説に「屋の戸」「屋の外(と)」の意とする )
  2. 家の戸。家の入口。戸口。
    1. [初出の実例]「夕さらば屋戸(やど)開け設けて吾れ待たむ夢にあひ見に来むといふ人を」(出典:万葉集(8C後)四・七四四)
  3. 家の戸口のあたり。家のまわりの庭。庭さき。
    1. [初出の実例]「秋さらば見つつ偲へと妹が植ゑし屋前(やど)のなでしこ咲きにけるかも」(出典:万葉集(8C後)三・四六四)
  4. 家。すみか。家屋。
    1. [初出の実例]「君待つと吾が恋ひをれば我が屋戸(やど)の簾動かし秋の風吹く」(出典:万葉集(8C後)八・一六〇六)
  5. ( 「やどり」との混同から ) 一時的に泊まる家。旅先で泊まるところ。旅宿。転じて、宿屋。旅館。また、宿泊すること。
    1. [初出の実例]「素盞嗚尊、青草(くさ)を結束(ゆ)ひて、以て笠蓑(かさみの)と為(し)て、衆神(もろかむたち)に宿(ヤト)乞ふ」(出典:日本書紀(720)神代上(兼方本訓))
  6. 特に、自分の家。我が家。自宅。うち。
    1. [初出の実例]「いかならむ時にか妹を葎生(むぐらふ)のきたなき屋戸(やど)に入れいませてん」(出典:万葉集(8C後)四・七五九)
  7. 家の主人。亭主。特に、妻が自分の夫のことを他人に対していう時に用いる。
    1. [初出の実例]「宿を御同道なされ」(出典:浮世草子・本朝桜陰比事(1689)三)
  8. 奉公人の親もと、または請人(うけにん)
    1. [初出の実例]「ずはらんで居ますとにぢる下女が宿」(出典:雑俳・末摘花(1776‐1801)初)
  9. 実家。さと。
    1. [初出の実例]「実家(ヤド)へまゐって母と相談をして来ませうか」(出典:落語・芝居と帯(1898)〈六代目桂文治〉)
  10. ある目的をもって人が寄り集まり、出入りする家屋。また、賭博、逢引き、売春などある種の行為が営まれるのに提供される家。中宿、小宿などの類。
    1. [初出の実例]「隠し売女や勝負ごとの宿をしたといふではなし」(出典:歌舞伎・与話情浮名横櫛(切られ与三)(1853)四幕)
  11. 揚屋。また、置屋。
    1. [初出の実例]「『今日は尾張のお客へも世之介殿へも売ぬ』とて高橋たぶさをとって宿(ヤド)にかへる」(出典:浮世草子好色一代男(1682)七)
  12. 車屋が雇って抱えておく車引き。ひきこ。
    1. [初出の実例]「やどとは一名部屋住み車夫と呼ばるる者」(出典:日本の下層社会(1899)〈横山源之助〉一)

しゅく【宿】

  1. [ 1 ] 〘 名詞 〙
    1. やどや。はたごや。泊まりやど。旅館。旅宿。〔日葡辞書(1603‐04)〕
      1. [初出の実例]「此男、牛を売りに行きけるに、そのしゅくの農人の女(め)にてなむ有ける」(出典:仮名草子・仁勢物語(1639‐40頃)下)
    2. 宿場。うまや。つぎば。→宿駅
      1. [初出の実例]「鎌倉出の宿より鏡の宿にいたるまで、宿々に十石づつの米を置かる」(出典:平家物語(13C前)八)
      2. 「やうやく宮の宿(シュク)にいたりし頃は、はや日くれ前にて」(出典:滑稽本・東海道中膝栗毛(1802‐09)四)
    3. 中世、主として東国地方などの町場をさす語。
      1. [初出の実例]「宿、にしの宮・三橋・あふやせ・玉岡・ひとて、何方之町きと・門・はしやふれ候を」(出典:結城氏新法度(1283)三二条)
    4. 近世、江戸品川宿の略。特にその花街をさす。
      1. [初出の実例]「品川で宿(シュク)のうちへ出る。かごかきは横目をするがやくさ」(出典:洒落本・古契三娼(1787))
    5. 星の座。星宿。星座。
      1. [初出の実例]「八月十五日、九月十三日は、婁宿(ろうしゅく)なり。この宿、清明なる故に、月を翫(もてあそ)ぶに良夜とす」(出典:徒然草(1331頃)二三九)
  2. [ 2 ] 〘 接尾語 〙 旅の宿りをかぞえるのに用いる。泊まり。泊(はく)
    1. [初出の実例]「戸伊麻(といま)と云所に一宿して、平泉に到る」(出典:俳諧・奥の細道(1693‐94頃)石の巻)

や‐どり【宿】

  1. 〘 名詞 〙 ( 動詞「やどる(宿)」の連用形の名詞化 )
  2. 宿をとること。旅に出て、他の家などで夜寝ること。また、その所。
    1. [初出の実例]「飛鳥井に 也止利(ヤトリ)はすべし」(出典:催馬楽(7C後‐8C)飛鳥井)
  3. すまい。仮の住居。一時しのぎのすまい。
    1. [初出の実例]「そこなるむつかしき物どもは、乳母のやどりに残さず取らせて」(出典:宇津保物語(970‐999頃)蔵開下)
  4. 一時的にとどまること。また、そのところ。
    1. [初出の実例]「花散らす風のやどりは誰か知る我にをしへよ行きてうらみむ〈素性〉」(出典:古今和歌集(905‐914)春下・七六)
  5. 星の、天体で占める座。星宿。星座。
    1. [初出の実例]「星の躔(ヤトリ)建こと殊なり」(出典:猿投本文選正安四年点(1302))
  6. 沖縄で士族の屯田(とんでん)。また、小さな集落の意。

じゅく【宿】

  1. しんじゅく(新宿)[ 二 ]」の略称。
    1. [初出の実例]「『私さやうなら。宿(ジュク)から渡って来た、左利きの彦に厄介なことを頼まれてます。〈略〉』『宿(ジュク)』とは新宿といふ意味だ」(出典:浅草紅団(1929‐30)〈川端康成〉三九)

しく【宿】

  1. 〘 名詞 〙 「しゅく(宿)」の変化した語。
    1. [初出の実例]「宿 シク」(出典:色葉字類抄(1177‐81))
    2. 「なんとしくへでもいかふしゃかのふ」(出典:洒落本・呼子鳥(1779)品川八景)

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普及版 字通 「宿」の読み・字形・画数・意味

宿
常用漢字 11画

[字音] シュク
[字訓] やどる・とのい・とどまる

[説文解字]
[甲骨文]
[金文]

[字形] 会意
宀(べん)+(しゆく)。宀は屋、(てん)は席(しきもの)。人が中など神聖な建物に宿直することを示す字。〔説文〕七下に「止まるなり」とするが、留宿して守ることをいい、また致斎(ものいみ)の意がある。〔礼記、礼器〕「三日宿す」とは斎宿すること三日の意。また宿戒ともいい、〔周礼、春官、世婦〕に「女官の宿戒を掌る」とあり、祭祀の前には宿戒する定めであった。それより予(あらかじ)めすること、久しくすること、残存することなどの意となる。

[訓義]
1. やどる、とのいする、まもる。
2. つつしむ、きよめる、はらう、いましめる。
3. とどまる、おちつく、すむ。
4. ひさしい、ふるい。
5. あらかじめ、かねて、さきに、はやく。
6. 速と通じ、まねく、すすめる。

[古辞書の訓]
名義抄〕宿 ヨル・ヤドル・オク・アラカジメ・ムカシ・ネタリ・モト 〔字鏡集〕宿 イヘ・モト・ヤスシ・ムカシ・ヨル・スム・オク・トドマル・トドム・アラカジメ・オホイナリ・モトヨリ・ヤドル・トマル・シク

[声系]
〔説文〕に宿声として縮など二字を収める。

[語系]
宿・(しゆく)(夙)sukは同声。の卜文の字形は月を拝する象であるらしく、両字の声義に関係がある。肅(粛)siuも声近く、宿を粛敬・振敬の意に用いる。は〔説文〕七上に「早なり」と訓する。

[熟語]
宿痾・宿悪・宿意・宿因・宿雨・宿雲・宿営・宿衛・宿駅・宿怨・宿恩・宿火・宿臥・宿戒・宿懐・宿学・宿憾・宿患・宿願・宿貴・宿寓・宿契・宿慧・宿眷・宿嫌・宿構・宿好・宿垢・宿恨・宿根・宿債・宿歳・宿斎・宿罪・宿志・宿止・宿歯・宿積・宿次・宿酒・宿儒・宿宿・宿処・宿舂・宿将・宿訟・宿場・宿心・宿酔・宿生・宿栖・宿夕・宿昔・宿碩・宿膳・宿素・宿草・宿蔵・宿賊・宿沢・宿諾・宿恥・宿・宿鳥・宿直・宿・宿亭・宿敵・宿店・宿蠹・宿徳・宿頓・宿泊・宿病・宿負・宿物・宿憤・宿兵・宿弊・宿抱・宿飽・宿望・宿霧・宿・宿夜・宿留・宿慮・宿廬・宿老・宿世
[下接語]
一宿・淹宿・戒宿・魁宿・合宿・帰宿・耆宿・鬼宿・寄宿・久宿・居宿・寓宿・群宿・下宿・経宿・斎宿・止宿・衆宿・常宿・辰宿・信宿・星宿・棲宿・草宿・托宿・直宿・天宿・投宿・同宿・独宿・屯宿・庇宿・分宿・暮宿・無宿・夜宿・野宿・留宿・旅宿・列宿・露宿・老宿

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改訂新版 世界大百科事典 「宿」の意味・わかりやすい解説

宿 (しゅく)

平安時代末期から各地の街道沿い,河海の港津,河原(川原)(かわら),峠のふもとなど交通の要衝にできた集落で,旅宿・運輸業者の設備,遊女の溜まりなどが中心となって形成されていた。古代末~中世における交通量の増加にともなっておのずと発達した宿もあれば,東海道のいくつかの宿のように鎌倉幕府が主として京都との連絡の便をはかるために政策的に復活・新設したものもあった。道筋・川筋の変動や,要衝となっていた地点の移動によって,宿の盛衰はいちじるしかったが,地理的に有利であり,交通量も減少しなかった宿では,時代をおうにつれて定住人口が増し,常設の店(たな)をもつ商工民の住居が並んだり,社祠や,宿泊所を兼ねる寺院や,寺院(とくに禅寺)が旅の僧尼のために設けた宿泊施設である接待所(接待屋)も続々とあらわれて,しだいに町としての様相,機能をととのえていき,これが地方都市の発達の一母体をなしたのである。

 宿の民家は一般に〈宿在家(しゆくざいけ)〉と称され,住民は〈宿地子(しゆくじし)〉〈間別銭(けんべちせん)〉などの諸税を領主に納入し,宿に定住すること,並びに交通・運輸上の宿の特性に由来するさまざまの職業(生業)に関する特権を保障されていたと推察される。宿在家の統轄には,おおむね〈長者(ちようじや)(宿長者)〉と呼ばれる身分の者が当たっていたようで,その本体は各地の武士であったらしい。しかし武士以外にも,なんらかの原因によってこの長者の地位を得ていた者がおり,その中には宿の遊女の統率・管理を業とした遊女の長(おさ)も含まれていたと考えられる。

 宿にたむろする人々は種々さまざまで,武士,農民,遊女,馬借(ばしやく),車借(しやしやく),大工,細工(さいく),鍛冶(かじ),鋳物師(いもじ),傀儡子(くぐつ)などが混在したが,ほかに〈非人(ひにん)〉と呼ばれた乞食(こつじき)浮浪の民も食と仕事をもとめて宿に集まり,宿の周縁部に仮住いの地を得て,集団をなすことが少なくなかった。とくに西国(さいごく)(近畿以西の諸国)では,平安末期いらい,漸次,〈非人〉を構成員とする〈非人宿(ひにんじゆく)〉が主として大寺社の差配のもとで編成・固定され,これが特別の賤視の対象となっていくにつれて,中世末~近世初期における被差別部落の形成につながったとみられる。この〈非人宿〉の場合には,その統轄の任には大寺社などから権限をゆだねられた僧体の〈長吏ちようり)〉〈長吏法師〉が当たった。近世において,被差別部落の一部の名称として〈宿〉〈夙(しゆく)〉の語がひろまり,その地域の住民を〈宿の者〉〈夙の者〉と呼びならわしたのは,当該地域が前代の〈非人宿〉の系譜をひくものと認識されたためと推察される。また近世においては同じく被差別部落をさすのに〈宿〉よりも〈夙〉のほうが多用されたようであるが,これには文字表現の上で一般的な〈宿〉(宿場町)と〈非人宿〉(特別に賤視される人々の集落)とを明確に区別する意識が働いていたのかもしれない。
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山川 日本史小辞典 改訂新版 「宿」の解説

宿
しゅく

宿泊する建物。また人馬継立てと休泊機能をもつ集落。戦国期,伝馬を継ぎ立てる集落が休泊施設をもち宿駅制度が成立して,江戸幕府に継承された。戦国大名の後北条・今川・武田3氏は,領国内に伝馬(てんま)制をしき,宿立により馬を無賃・有賃で使役する宿継体制を整備,他領への継立ても可能にさせた。天下統一をはたした豊臣秀吉は,1594年(文禄3)京都―清須間に宿駅を設け,人馬継立てを命じた。徳川家康は各大名領で成立した宿駅に新規宿立分を加え,公儀の宿駅制を整備した。関ケ原の戦後,1601年(慶長6)東海道に伝馬制をしき,宿の指定とともに伝馬数がきめられ,朱印状による無賃人馬の継立てを命じた。宿には本陣・脇本陣・旅籠屋がおかれ,駄賃稼ぎが許された。人馬の継立ては問屋場がとりしきった。公用人馬の継立てとともに商荷物の宿継も行われ,陸上の運輸・通信を公儀のもとに統制する連絡網が,直接・間接的支配のもとに宿を連結し,全国に張りめぐらされた。

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世界大百科事典(旧版)内の宿の言及

【世話役】より

…しかし,単なる順番で務める役ではない。順番の場合は当番とか宿(やど)という。したがって,世話役は組織内に常時存在する役ではなく,特別な事業をするときに,とりまとめ役として設定されることが多い。…

【もてなし】より

…客人に飲食や宿舎を与えてもてなす風習はほとんどあらゆる社会にみられるが,国家の権威が人心にいまだ十分浸透していない段階では,こうしたもてなしは,近代社会における場合とは比較にならぬほど大きな意義をもっている。 まず,そのような社会では,訪れる客のもてなしは個人の自由裁量にゆだねられるものではなく,一般に家や親族集団を単位として行われる社会的義務とみなされている。…

【若者宿】より

…若者宿という呼称は,(1)若者組の集会所,(2)若者たちの宿泊所,またはたむろする家屋,の双方に対して用いられる。(1)は若者組には必ず付属し,常設と臨時の2種があるが,一般的には民家の一部を借用するもので,ただ単に宿(やど)と呼ばれることが多かった。…

【駅逓司】より

…1868年(明治1)閏4月,太政官官制の改定にともない,新設の会計官中に設けられた。当時の陸上輸送は,軍事・行政上の公用通行の激増と宿助郷(すけごう)の疲弊によって,深刻な困難に陥っていた。発足当初の駅逓司は諸道の人馬継立(つぎたて)を管掌し,宿駅制度の改革を進めたが,村々の抵抗によって困難を極めた。…

【清水坂】より

…平安時代初期の延暦年間(782‐806)に清水寺が創建されて以来,人々の信仰を集めたので,この坂も洛中からの参詣路として,やや南方にある五条坂や,北方の八坂方面から当坂に通じる三年坂(一名は産寧坂(さんねいざか))とともに,しだいににぎわうようになった。また,当坂は洛中より渋谷越(ごえ)で洛東の山科に通じ,それより南方の醍醐・宇治・奈良方面へ行く道筋につながり,あるいは北方の東海道にも合流する便利な路線に位置していたので,清水寺の門前一帯を中心として早くから交通の要衝となっていたらしく,おおよそ10世紀末ごろから11世紀にかけての時期には,すでに運輸を生業としていた車借(しやしやく)や,乞食(こつじき)や,坂非人(さかのひにん)たちが相当数ここに集住して,いわゆる宿(しゆく)を形成していたと推察されている。 平安時代の最末期より南北朝時代にかけて,当坂周辺の人口はめだって増えたようであるが,その多くは,やはり車借,乞食,坂非人たちであったらしい。…

【宿場町】より

…早くから河口,山麓などに発達して,平安時代には淀川と神崎川(三国川または江口川)の分岐点にあった江口(えぐち)や,その河口の神崎(かんざき),蟹島(かしま)などには多数の遊女がいて,京都の貴族らも遊興に赴いたほどであった。宿(しゆく)という名は平安後期から使われ出し,鎌倉時代には駅と併用されているが,しだいに宿が一般的となった。この時代には東海道の通行が多くなり,天竜川西岸の池田宿,浜名橋西畔の橋本宿などは繁華であった。…

【漂泊民】より

…おのずとそれは,人間とその社会,歴史をとらえるさいの二つの対立した見方,立場にもなりうる。例えば定住的な農業民にとって,漂泊・遍歴する人々は異人,〈まれひと〉,神であるとともに乞食であり,定住民は畏敬と侮蔑,歓待と畏怖との混合した心態をもって漂泊民に接したといわれるが,逆に漂泊・遍歴する狩猟・漁労民,遊牧民,商人等にとって,定住民の社会は旅宿の場であるとともに,交易,ときに略奪の対象でもあった。また農業民にとっては田畠等の耕地が生活の基礎であったのに対し,狩猟・漁労民,商人等にとっては山野河海,等がその生活の舞台だったのである。…

※「宿」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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