病院でもらった薬がわかる 薬の手引き 電子改訂版 「漢方製剤」の解説
漢方製剤
● 漢方薬は健康保険でも使用できる
漢方薬(製剤)が再び見直され、健康保険による医療の分野でも広く用いられています。
それは、現代の西洋医学・薬学をもってしても、原因が不明であったり十分な治療効果が得られない病気に対して、
現在、約150種の漢方薬が健康保険の適用となっていて、多くの臨床医が、なんらかの形で漢方薬を日常の治療に役立てています。
西洋薬が病気の直接の原因にはたらきかけて治療しようとするのに対して、漢方薬は体質の改善によって治療しようとするものです。
こうした漢方薬の特性から、現在では、西洋薬では効果が不十分であったり、副作用が発生するので使用できない場合に、西洋薬を補うといった目的で用いられています。
漢方治療を受ける患者さんを病気別に調べた結果、①気管支
この結果からわかるように、漢方薬での治療の対象が、慢性的な病気やアレルギーが原因の病気に集中しています。
● 漢方治療のポイント
①全身状態を、『
漢方治療では、その人の全身状態を総合的に判断して、薬を処方します。全身状態を判断する基準はいろいろありますが、重要なものに『虚実』があります。
『虚実』というのは、その人の体質や体力の質的な充実度を表す基準のことです。『虚』とは、体力が低下している状態のことで、体力・体質とも虚弱な状態を指します。『実』とは、体力・体質ともに充実していて、機能が
この虚と実の中間的な状態のことを『中』といい、比較的体力もあり、体質も充実している状態を指します。
漢方の治療では、『虚』に対しては不足している部分を補う『
②漢方独自の診断法『
漢方独自の腹診で、よく使われる診断名に『胸脇苦満』と『瘀血』があります。
『胸脇苦満』とは、みぞおちから両脇にかけて重苦しい感じがあり、ここを押すと抵抗を感じ、息詰まるような痛みがある状態のことをいいます。
『瘀血』とは、へその脇から斜め下の部分に抵抗感があり、ここを押すと痛む状態のことをいいます。静脈系の血液の循環が悪くなって血液がうっ滞している状態で、産婦人科系の病気や出血性の病気があるときに現れる症状です。胸脇苦満も瘀血も、漢方では診断の重要なポイントです。
③漢方薬の服用法
漢方薬は、原則として1日2~3回、食間あるいは食前に服用します。
薬の吸収がいちばんよいのは空腹時ですが、それでなければ効果がないのではなく、吸収のよい状態で飲んだほうが、より効果が高まるということです。食間・食前に服用したときに、胃の
服用するときには、吸収をよくするためにも、十分な量のお湯で飲んでください。粉末や
ただ、吐き気・
④服用の指示を正しく守る
漢方薬は、同じ名前の薬であっても、各メーカーによって服用法や服用量が異なっていることがあります。医師や薬剤師は、こうしたメーカーの違いによる服用法の間違いを避けるために、薬を渡すときにはきちんとした指示を出してくれるので、その指示を正しく守ることが大切です。
また、漢方薬というと
⑤服用しても症状がよくならないときは、そのことを医師に伝える
よく、漢方薬は何か月も飲み続けないと効果がないように思われていますが、慢性病では2週間、急性の病気では1~2日も飲めば症状は改善することが多いものです。
医師や薬剤師は、その人の症状をみながら、このくらいの期間飲めば症状が改善するだろうという目安(慢性病でも2週間くらい)をつけて薬を出しています。指示された期間飲んでみて症状が改善しないときは、そのことを医師に報告してください。これまでの薬が合っていなかったわけで、そのときには別の漢方薬を処方してくれるはずです。
⑥指示された検査は必ず受ける
漢方薬でも
甘草を含んだ漢方薬を長期間服用していると、偽アルドステロン症(低カリウム血症、血圧の上昇、ナトリウムや体液の貯留、むくみ、体重の増加などの症状)が現れることがあります。
また、低カリウム血症が進行すると、ミオパチー(手足の震えや
こうした症状がおこらないようにするための、また、おこっているかどうかを調べるための検査なので、指示されたときには必ず受けてください。
⑦利尿剤を服用しているときには、そのことを医師に報告する
これらの薬を服用しているときには、漢方薬を処方してもらう前に、必ずそのことを医師に報告してください。
⑧妊娠している人は、そのことを医師に報告する
漢方薬といっても、薬によっては妊婦や胎児に悪影響を及ぼすものもあります。妊娠していることがわかっていれば、医師は別の薬を処方するか、その薬を処方するにしても悪影響が出ないような形で、慎重に行います。妊婦、現在妊娠する可能性のある人は、そのことを必ず医師に報告してください。
⑨漢方薬にも副作用はある
合成化学薬品に比べれば少ないとはいえ、漢方薬でも以下にあげるような副作用が出ることがあります。
*過敏症状 漢方薬も薬物ですから、人によっては薬物アレルギーをおこすことがあります。
*自律神経症状 漢方薬の中には、不眠、発汗過多、
自律神経症状をおこしやすいのは、
*胃腸症状 漢方薬の中には、胃部の不快感、食欲不振、下痢、腹痛などの胃腸症状をおこすものもあります。こうした症状が現れたときは、服用を中止してください。
胃腸症状をおこしやすいのは、上述した麻黄のほかに、
*偽アルドステロン症・ミオパチー 「⑥指示された検査は必ず受ける」でも述べたように、甘草の成分が含まれた漢方薬を長期間服用していると、偽アルドステロン症やミオパチーが現れることがあります。
血圧が上昇したり、むくみが出たり、体重が増加したというようなときには、服用を中止してください。
*
間質性肺炎をおこしやすいのは、
以上のような症状が出たときには、必ずそのことを医師に報告してください。別の薬に替えたり、現れた症状を抑える治療が必要になるからです。
⑩次のような病気や症状のある人は、事前に医師に報告する
*アルドステロン症・ミオパチー・低カリウム血症がある人 これらの病気のある人には、甘草成分が含まれた薬は原則として使用しません。使用すると、病気を悪化させてしまうからです。
*循環器の病気がある人
*塩分の制限をしている人 高血圧症などで塩分の制限をしている場合には、薬によっては原則として使用しなかったり、処方するにしても病気に悪影響が出ないよう、慎重に行わなければならないからです。
*著しく胃腸の虚弱な人 日頃から胃腸の調子が悪く、胃部の不快感、食欲不振、下痢、腹痛などの症状がある人の場合、薬によってはこうした胃腸症状を悪化させてしまうことがあるからです。
また、これは医師の判断によるのですが、著しく体力が衰えている人の場合にも、薬によっては症状を悪化させてしまうこともあるので、原則として使用しなかったり、処方するにしても症状に悪影響が出ないように慎重に行っています。
出典 病院でもらった薬がわかる 薬の手引き 電子改訂版病院でもらった薬がわかる 薬の手引き 電子改訂版について 情報