塩(えん)(読み)えん(英語表記)salt

翻訳|salt

日本大百科全書(ニッポニカ) 「塩(えん)」の意味・わかりやすい解説

塩(えん)
えん
salt

酸と塩基との中和反応によって生ずる化合物で、酸の陰性成分と塩基の陽性成分からなるものをいう。たとえば、塩酸水酸化ナトリウムとが反応して中和すると、水と塩である塩化ナトリウムを生ずる。


[中原勝儼]

正塩と酸性塩・塩基性塩

酸と塩基の中和は、酸および塩基の強さに応じて反応が完全に進行し、酸のすべての水素原子が陽性成分(金属イオン)で置換される場合と、一部の水素原子だけが陽性成分によって置換され、一部の水素原子がそのまま残っている場合、およびその逆に塩基の水酸化物イオンあるいは酸化物イオンが一部中和されずに残っている場合とがある。たとえば、硫酸アンモニアを通ずると、始めは、

のように、二つある水素のうち一つだけが置換され、さらにアンモニアを通じていると、

のように完全に置換される。全部の水素原子が陽性成分で置換された塩を正塩あるいは中性塩といい、塩化ナトリウムや、この場合の硫酸アンモニウムがそうである。これに対し、陽性成分の中に水素イオンが残っている硫酸水素アンモニウムなどは、酸性塩といっている。

 三塩基酸では2種類の酸性塩(たとえばリン酸二水素ナトリウムNaH2PO4とリン酸水素二ナトリウムNa2HPO4)ができる。また一塩基酸でも、たとえばCH3COONa・CH3COOHのように酸成分の付加化合物ないしは分子化合物を酸性塩といっている。

 塩基性塩とは、酸性塩とは逆の場合で、陰イオン成分として水酸化物イオンまたは酸化物イオンを含むものをいう。たとえばCuCl(OH)やBiClOのような化合物をいう。ただし酸性塩とか塩基性塩とかいっても、これはあくまでも化学式における形式的なものであって、塩そのものの酸性あるいは塩基性を表すものではない。したがって酸性塩がかならずしも水溶液中で酸性を示し、塩基性塩の水溶液が塩基性を示すとは限らない。

[中原勝儼]

単塩・複塩・錯塩

通常の塩、すなわち陽性成分、陰性成分ともに1種類ずつの塩を単塩というのに対して、少なくともどちらかの成分が2成分以上の場合を複塩という。たとえば三フッ化マグネシウムカリウムKMgF3(KF・MgF2とも書く)などがそうである。その意味では酸性塩あるいは塩基性塩も一種の複塩である。これに対し錯イオンを含む塩を錯塩という。たとえばK2[PtCl4]、K4[Fe(CN)6]、[Co(NH3)6]Cl3などのように錯イオン[PtCl4]2-、[Fe(CN)6]4-、[Co(NH3)6]3+を含む塩であるので、これらは錯塩である。これを古く2KCl・PtCl2、4KCN・Fe(CN)2のように書いて複塩としたこともあるが、これは誤りである。ミョウバンは典型的な複塩の一つであり、これはKAl(SO4)2・12H2Oと書かれるが、実際は[K(H2O)6][Al(H2O)6](SO4)2のような錯塩の複塩である。

[中原勝儼]

『水町邦彦著『酸と塩基』(2003・裳華房)』

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