所・処(読み)ところ

精選版 日本国語大辞典 「所・処」の意味・読み・例文・類語

ところ【所・処】

[1]
[一] 場所。ある人や物事が存在したり、行なわれたりする空間的な位置をいう。
① その場所、部分。
古事記(712)上「吾が身は成り成りて成り合はざる処一処あり」
※かくれんぼ(1891)〈斎藤緑雨〉「天気予報の『所(トコロ)に依り雨』」
② 住んでいる場所。住所、居所。また、そのあたり一帯。現在では「所番地」の意でも用いられる。
山家集(12C後)下「山深み榾(ほた)伐るなりと聞こえつつところにぎはふ斧の音かな」
※別れた妻に送る手紙(1910)〈近松秋江〉「住所(トコロ)はちゃんと憶えてゐます」
③ (人を表わす語を含む連体修飾語を受けて) その人、その人の家、またはその人に関することを遠まわしに表現する。
※源氏(1001‐14頃)帚木「式部が所にぞ気色(けしき)ある事はあらむ」
④ 中世以後、地方の都市的空間。特定の区画化された町場的集落地や人々の集住地。また、そこに居住する人々の共同体。
※菅浦文書‐貞和二年(1346)九月「このむねをそむかんともからにおいては、そうのしゅんしをととめらるへく候。よんてところのおきふみの状如件」
⑤ その者の所有している区域。所領。領地荘園などをさしていう。
※今鏡(1170)六「家正といふが、親の譲りたるところをとり給ひけるを、辛く思ひけるほどに」
⑥ 都を離れたいなか、在所のあたり。地方、いなか。また、「所の…」の形で、その地方に所属する意を表わす。
謡曲求塚(1384頃)「かの人を待ちて所の名所をも尋ねばやと思ひ候」
※三四郎(1908)〈夏目漱石〉六「赤酒といふのは、所(トコロ)で出来る下等な酒である」
平家(13C前)四「あれは先年ところにありし時も、大番衆が留めかねたりし強盗六人、只一人おっかかって、四人斬りふせ二人生け捕りにして」
※雑俳・柳多留‐一四〇(1835)「けんくゎで所をくったのは実方」
[二] 抽象的な事柄について、その位置関係などを示す。
① (連体修飾語を受けて) そういう箇所、その点などとさしていう。
※源氏(1001‐14頃)帚木「おなじくは、我が力いりをし、直しひきつくろふべき所なく、心にかなふ様にもやと」
② (多く「所を得る」などの形で) 位置や地位をいう。
③ (連体修飾語を受けて時間的な位置を表わす)
(イ) その折、その場合などとさしていう場合。
※枕(10C終)二五「待つ人ある所に、夜すこしふけて忍びやかに門(かど)たたけば」
(ロ) その時を漠然と限定してさす場合。「ほかの時はともかく、その時においては」という気持を込めて用いる。「今のところ」「今日のところ」など。
吾輩は猫である(1905‐06)〈夏目漱石〉三「雌雄を決しやう抔(など)と云ふ量見は昨今の所毛頭ない」
(ハ) その状況、場面などとさして用いる場合。
※吾輩は猫である(1905‐06)〈夏目漱石〉二「人間なら胸倉をとられて小突き廻される所である」
④ 数量を表わす修飾語を受けて、その程度の数量である意を示す。その下に助詞を伴わないで、連用修飾に用いられることも多い。「一〇円がところ」「三日がところ」「これくらいのところ」など。
[三] 形式名詞として用いる。
① 連体修飾句を受けて、その語句の表わす事柄の意に用いる。…ということ。
※源氏(1001‐14頃)若紫「おぼされん所をも憚らずうちいで侍りぬる」
用言叙述を受け、「ところの」の形で体言へ続ける。「所」が古代中国語で受身の意で用いられるのを直訳した表現として使用され、近代ではヨーロッパ語の関係代名詞の翻訳語としても使われて、多用されるようになった。
※竹取(9C末‐10C初)「たてこめたる所の戸、すなわちただ開きに開きぬ」
※後裔の街(1946‐47)〈金達寿〉三「われらの二人と得がたい理解者であるところの役人殿がだなあ、僕の手をぎゅっと握りしめて」
③ (「…するところには…する」の形で) 同じ動詞を受けて、特定の場所ではそれが十分に行なわれる、ということを強調して表現する。
浄瑠璃淀鯉出世滝徳(1709頃)上「こんやの物いりざっとつもって二百両。扨も金はかたいきな、あるところには有ものか」
④ (「…をした時」の意から変化して、接続助詞のように用いる) 上の句の叙述を受けて、下の述語に続ける。候文などで多く用いられた。
※御堂関白記‐長和五年(1016)一二月二八日「園池下薬殿薬生男為人被害、経通朝臣仰、見侍之処、已死去者」
⑤ 面積を表わす「町」の古訓の一つ。
※書紀(720)安閑元年閏一二月(寛文版訓)「仍て、上の御野(みの)下の御野上の桑原下の桑原并て竹村(たかふ)の地(ところ)、元合(おほすへ)て肆拾町(よそトコロ)を奉献る」
[2] 〘接尾〙
① 場所・箇所などを数えるのに用いる。
※古事記(712)上「吾が身は成り成りて成り余れる処一処あり」
② 貴人の人数を数えるのに用いる。
※正倉院文書‐万葉仮名文(762頃)「ふた止己呂(トコロ)のこのころのみみもとのかたち」

とこ【所・処】

[1] (「ところ」の変化した語) 修飾語を伴って、多く形式名詞として使われる。
① 空間的な場所、部分をいう。その場所、地点、あるいは、その箇所、その点。
※百座法談(1110)三月二日「ここはおぼろけの人のまうで来べきとこにあらず」
② (人を表わす語を含む連体修飾語を受けて) その人、あるいはその人の家をさしていう。
※滑稽本・浮世風呂(1809‐13)二「こう、おめへン所(トコ)のおかみさんもお髪はお上手だの」
③ 家・家柄の意を表わす。
※大寺学校(1927)〈久保田万太郎〉二「大へんいいとこの息子さんなんですとさ」
④ 時間的な位置をいう。そのとき、そういう場合などの意を表わす。
※滑稽本・浮世床(1813‐23)初「豆腐を小半挺買て来て、鰹節をかい居(て)る所(トコ)へ御輿入よ」
⑤ 数量を表わす語に直接付いたり、助詞「が」「の」が付いた修飾語を受けたりして、その数量の程度の意を表わす。
※綿(1931)〈須井一〉四「あの森は、ほんと二百円がとこ値打ちあるかどうか考へもんぢゃが、十円二十円のとこ損しても仕方はねえ」
[2] 〘語素〙 「出たとこ勝負」「二とこ三とこ」など、場所、位置などをさす俗語に用いる。→所(どこ)

と【所・処】

〘語素〙 他の語に付いて、ところ、場所の意を表わす。連濁で「ど」ともなる。「せと(瀬戸)」「くまと(隈所)」「こもりど(隠処)」「たちど(立所)」「ねど(寝所)」「ふしど(臥所)」など。
※神皇正統記(1339‐43)上「或は古語に居住を止と云。山に居住せしによりて山止なりともいへり」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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