[1] 〘副〙 (「と」を伴って用いることもある)
① ごたつくさま、もめるさま、言い争うさまなどを表わす語。もやくや。
※
仮名草子・かなめいし(1663)下「篠葉につきてとびちる湯のしづくに、たへがたくあつかりければ、これにかからじともやもやする所に」
※松翁道話(1814‐46)四「ちっとの間みせいといふ。
イヤならぬというて、もやもやいふ」
② ある思いや
感情などが湧き起こったり、広がったりするさまを表わす語。また、心にわだかまりがあって、
気持が乱れるさまを表わす語。多く、忌むべき感情などで気がむしゃくしゃするさまをいう。もやくや。
※名語記(1275)六「切々なる
こころのもやもや、如何」
※
浄瑠璃・夕霧阿波鳴渡(1712頃)中「皆に気を付けられて早もやもやと腹が立」
③ 特に、のぼせたり、
欲情が起こったりするさまを表わす語。
※
浮世草子・好色五人女(1686)一「かずかずの
かよはせ文、清十郎ももやもやとなりて」
④ 煙、湯気などがたちこめて、ぼんやりしているさま、ぼうっとしていて、はっきりしないさまなどを表わす語。
※はやり唄(1902)〈小杉天外〉五「莨(たばこ)の煙をもやもやと出して」
⑤ 朦朧
(もうろう)として
正体がはっきりつかめないような、不分明なさまを表わす語。
※金(1926)〈
宮嶋資夫〉三「あとからあとから湧き上ってくる、もやもやした
想念」
⑥ 毛、草などが群がり生いしげるさまを表わす語。
※俳諧・三河小町(1702)下「もやもやと髭はしたなや美人草〈
つや〉」
[2] 〘名〙
① もめごと。ごたごた。いざこざ。
紛争。もやくや。
※浮世草子・新色五巻書(1698)二「宮嶋市芝居のもやもや」
② 気持が乱れもつれること。心のわだかまり。
煩悶(はんもん)。もやくや。
※浄瑠璃・松風村雨束帯鑑(1707頃)三「ちょっとしたもやもやが、互に深ふ成て来て」
③ わずらい。病気。
※浄瑠璃・源頼家源実朝鎌倉三代記(1781)六「
わしも去年のもやもやから達者になった祝ひ事」
④ 何かが立ちこめてはっきりしないこと。ぼうっとすること。
※俳諧・俳諧三部抄(1677)上「むす家の蚊やもやもやの中はしら〈胡兮〉」
[3] 〘形動〙
① のぼせさせたり、欲情を起こさせたりするさま。
※浮世草子・好色一代女(1686)三「しどけなく帯とき掛て、もやもやの
風情見せければ」
② 群がって湧き起こったり広がったりするさま。
※花ごもり(1894)〈
樋口一葉〉四「疳癪にもやもやの雲が沸きたれば」
③ 気持が乱れもつれるさま。
※女作者(1913)〈田村俊子〉「肉と云ふものは絶対に斥ける夫婦と云ふものを作らうとしてゐるらしい未通女気(おぼこぎ)とでも云ひ度いものに、この女作者の胸はもやもやにされた」
④ はっきりしないさま。
※山吹(1944)〈室生犀星〉六「日あしはすでに鉛色に沈んだ水の上に、眼をもやもやにしてゐた」