精選版 日本国語大辞典 「西」の意味・読み・例文・類語
にし【西】
にし‐・す【西】
にし【西】
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観測点から見た地平面の方向を方位といい,東西南北の4基点をもとに,北……東,……南,南南西,南西,西南西,西……など16方位で呼ぶのが一般的である。西は,観測者から見て太陽の沈む方向にあたっており,英語のwestも,ギリシア語のhesperos,ラテン語のvesper(ともに〈夕方〉の意)に由来している。古来,中国や日本では十二支(干支(かんし))で方位を呼び,西は酉にあたる。
日本人の伝統的習俗のなかに,西(西の方角)に対してどのような宗教感情や価値意識が見いだされるだろうか。
まず語源に関する諸説をみるに,現在でもしばしば引用される3人の近世碩学の語源説は次のごとくである。貝原益軒《日本釈名(にほんしやくみよう)》(1699)は〈東(ひがし) 日頭(ひがしら)なり。らの字を略す。日のはじめて出る所,かしら也。〉〈西 いにし也。日は西へいぬる日のいにしと云意。いを略す〉と説く。新井白石《東雅(とうが)》(1719)は〈東をヒムガシといひしは,ヒは日也。ムカとは向也。シと云ひしは語助也〉〈西をニシといひしは,ヒ子シといひし詞にて,日没(い)る方をいふなるべし。……ヒ子シと云ふことばの転じて,ニシとなりぬるは。今試にヒネといふ詞を引合せて呼びぬれば,ニといふことばになりぬるなり〉と説明する。本居宣長《古事記伝》(1790-1822)は,〈比牟加斯(ひむかし)爾斯(にし)と云ふハ,もと其の方より吹く風の名にて,比牟加斯ハ東風,爾斯ハ西風の事なりしが,転りて其の吹く方の名とハなれるなるべし。斯(し)ハ風にて,風神を志那都比古(しなづひこ)と申す志,又嵐飆(つむじ)などの志も同じ。又暴風(はやち)東風(こち)などの知も,通音にて同じきなるべし。さて東風(ひむがし)西風(にし)と云ふ名の意ハ,比牟加斯(ひむがし)ハ日向風(ひむがし)なり,爾斯(にし)ハ詳(さだか)ならねど,試に云はバ,和風(なぎし)ならむか,和(なぎ)とハ天(そら)の霽(は)れたるを云ふ〉と解説する。
益軒および白石は,太陽の現れる場所ないし方向を〈東〉と呼び,太陽の没するそれを〈西〉と呼ぶ,という意味の語源説明をおこなう。宣長は,風の方位から〈東〉〈西〉の名称が生じたとの説明をおこなう。日没の方角や和風(なぎかぜ)の風位をもって〈西〉という観念の起りとみなしたのである。
日常生活的現実において〈西〉をたいせつにしてきたという点でいえば,古代以来の日本人の宇宙観の一つとして陰陽五行(いんようごぎよう)説の影響力は,意外なほど大きい。平安貴族たちが方角や時刻や年回りなどをいちいち気に病んで陰陽師(おんみようじ)に相談した事例は,公家の日記や文学作品に頻繁に現れる。一方,大多数民衆の生活サイクルのなかでも陰陽五行説は規制力をもち,それが,近代以後までの日本の民間習俗を縛りつけた。もとより陰陽五行思想は,日本に渡来してからは一貫して国家権力によって掌握された科学技術の基礎原理としての役割を果たしたのであるが,十干十二支の享受のようなかたちで民衆生活のうちに根づいてしまったのである。五行のうち4番目に配当された〈金〉の気は,色でいえば〈白〉,方位でいえば〈西〉,季節でいえば〈秋〉,十干でいえば〈庚・辛〉,十二支でいえば〈申・酉・戌〉としての働きをもつ。結局,〈西〉とは,万物が枯死に向かう秋そのままに〈殺〉の時を意味するが,同時に万物が結実して生命が〈更新〉する時をも意味する。縮んで滅びはするけれど,その瞬間,つぎの新たなる生命が始まる,というのが〈西〉すなわち〈金〉の本性である。
日本の民俗にとって,〈西〉といえば,もはや遠い距離にある漠たる方角である以上に,自分のうつしみ(現実存在)と平面感覚的に連続する場所と考えられた。日本人の他界観念の代表といえる極楽(ごくらく)は西方の浄土であり,そのゆえに〈西〉は浄土信仰にとって重要な方角となったが,この西方極楽浄土は大阪の四天王寺のすぐ先の海であると考えられ,また〈補陀落(ふだらく)〉は紀州熊野のすぐ先の海であった。滅びた生命もただちに〈更新〉するはずだった。
→西国
執筆者:斎藤 正二
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
太陽の沈む方向。さまざまな語源説があるが、「日のイニシ(往にし)方」の意とする説もある。日の沈む方向は季節によって異なるので、漠然とその方向をいうこともあるが、正確にいう場合は北より左に90度離れた方向(これは彼岸(ひがん)のときの日没の方向にあたる)をいう。十二支名では西は酉(とり)の方角にあたる。南西諸島では本土で北を示す方向をニシとよぶ。これは、冬の季節風の方向が、本土では西寄りであるのに対し、南西諸島では北寄りとなるため、卓越風の方向の違いが、方角名にまで影響しているものと思われる。
地学上、西という方向は、(1)地球の自転の方向は西から東に向かう、(2)前記(1)の影響などで中緯度地方では上層で西寄りの風が卓越している、などの特徴をもっている。
[根本順吉]
語源的には、日の「いにし(往)方」とする『日本釈名(しゃくみょう)』『和訓栞(わくんのしおり)』などの説、日没する意の「ひねし」の転とする『東雅(とうが)』などや、「にぎし(和風)」の義とする『大言海』などの諸説がある。仏教で阿弥陀(あみだ)仏の極楽浄土をいうのをはじめとして、歌舞伎(かぶき)では舞台に向かって左側(上方(かみがた)では右側)半分をいい、相撲(すもう)などの左右対称に記された番付でも左側をさし、東方より一枚格が下とされる。太陽が沈む方向であるため、絶対にありえないことのたとえに「西から日が出る」の諺(ことわざ)があるほか、まったく分別のないことを「西も東も知らない」との諺もある。
[宇田敏彦]
…観測点から見た地平面の方向を方位といい,東西南北の4基点をもとに北,北北東,北東,東北東,東……など16方位で呼ぶのが一般的である。北は,観測者が太陽の昇る方向(東)に向いたとき左手に当たる方向で,英語のnorthもインド・ヨーロッパ語系のner(on the leftの意)に由来している。…
※「西」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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