(読み)モノ

デジタル大辞泉 「物」の意味・読み・例文・類語

もの【物】

[名]
空間のある部分を占め、人間の感覚でとらえることのできる形をもつ対象。
㋐物体。物品。「ごつごつしたに手が触れる」「山の上に光るがある」
㋑商品。また、その質。品質。「同じようなが大量に出回る」「高いがはよい」
㋒着物。衣服。「白っぽいを着る」
㋓食物。「歩きながらを食う」「がのどを通らない」
民法で、有体物。権利の客体となりうるもの。
人間が考えることのできる形のない対象。
㋐何かの事柄・物事。「の役に立つ」「を思う」「恋という
㋑ことば。「あきれても言えない」
㋒文章。また、作品。「を書くのを商売にする」「この作品は十年前に描かれただ」
㋓学問。
「己れは此様こん無学漢わからずやだのにお前は―が出来るからね」〈一葉たけくらべ
㋔物事の筋道。道理。理屈。「の順序をわきまえる」
妖怪・怨霊など、不可思議な霊力をもつ存在。「かれる」「の怪」
(「…のもの」の形で)所有している物品・事物。所有物。「会社のを私する」「その企画は彼のだ」
他の語句を受けて、その語句の内容を体言化する形式名詞
㋐判断などを強調して示す。「負けたのがよほどくやしかったと見える」「何をされるかわかったじゃない」
㋑感動する気持ちを強調して示す。「二人とも大きくなっただ」「悪いことはできないだ」
㋒(「…するものだ」の形で)それが当然であるという気持ちを示す。「先輩の忠告は聞くだ」「困ったときは助け合うだ」
㋓(「…したものだ」の形で)過去を思い出してなつかしむ気持ちを示す。「あの店にはよく二人で行っただ」
名詞の下に付いて複合語をつくる。
㋐その種類にはいる品物・作品の意を表す。「SF」「現代
㋑それに相当するもの、それだけの価値のあるもの、などの意を表す。「冷や汗」「表彰状」→もの[助詞]ものか[連語]ものかな[連語]ものかは[連語]ものから[接助]ものぞ[連語]もので[接助]ものなら[接助]ものの[接助]ものゆえ[接助]ものを[助詞]
[接頭]形容詞や形容動詞の語幹に付く。
なんとなくそのような状態であるという意を表す。「悲しい」「寂しい」「静か」
いかにもそうであるという意を表す。「めずらしい」「すさまじい」
[下接句]縁は異なもの味なもの自家薬籠中やくろうちゅうの物人は見かけによらぬもの故郷ふるさとは遠きにありて思うもの銘の物薬籠中の物
[類語]品物物品金品代物製品物質物体無機物有機物無生物・無情物・非情物・

ぶつ【物】[漢字項目]

[音]ブツ(漢) モツ(呉) [訓]もの ものする
学習漢字]3年
〈ブツ〉
もの。ものごと。「物資物質物体物欲遺物汚物怪物見物現物好物鉱物財物産物事物植物人物生物俗物動物毒物万物風物文物名物
一般の人々。世間。「物議物情物論
適当なものを探す。「物色
姿が見えなくなる。死ぬ。「物故
〈モツ〉もの。ものごと。「貨物禁物供物くもつ穀物作物書物食物進物臓物荷物
〈もの〉「物置物音物語物事獲物大物着物品物建物本物安物
[名のり]たね
[難読]物怪もっけ

もん【物】

もの(物)」の音変化。近世後期頃から関東の言葉によく見られる。「うまいが食いたい」「何か書くはないか」「ばかなことをしただ」

もつ【物】[漢字項目]

ぶつ

ぶつ【物】

現物や物件のこと。もの。「を見せる」

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精選版 日本国語大辞典 「物」の意味・読み・例文・類語

もの【物】

  1. [ 1 ]
    1. [ 一 ] なんらかの形をそなえた物体一般をいう。
      1. 形のある物体・物品をさしていう。
        1. (イ) 修飾語によってその物体の種類・所属などを限定する場合。
          1. [初出の実例]「まそ鏡かけて偲(しぬ)へとまつりだす形見の母能(モノ)を人に示すな」(出典:万葉集(8C後)一五・三七六五)
        2. (ロ) 直前または直後の語によってその物体が示されている場合。
          1. [初出の実例]「火ねずみのかは衣此国になき物也」(出典:竹取物語(9C末‐10C初))
        3. (ハ) 特に限定せず物品一般をいう場合。
          1. [初出の実例]「吾妹子(わぎもこ)が形見に置けるみどり児の乞泣(こひなく)ごとに取り与ふる物し無ければ」(出典:万葉集(8C後)二・二一〇)
      2. 特定の物体・物品を一般化していう。文脈や場面から具体物が自明であるとして用いる。
        1. (イ) 財物。器物や金銭。
          1. [初出の実例]「さるは便りごとにものも絶えず得(え)させたり」(出典:土左日記(935頃)承平五年二月一六日)
          2. 「くだ物、ひろき餠などを、物に入れてとらせたるに」(出典:枕草子(10C終)八七)
        2. (ロ) 衣類。織布。
          1. [初出の実例]「これに物ぬぎて取らせざらむ者は座より立ちね」(出典:大和物語(947‐957頃)一四六)
        3. (ハ) 飲食物。
          1. [初出の実例]「きたなき所の物きこしめしたれば、御心地あしからんものぞ」(出典:竹取物語(9C末‐10C初))
        4. (ニ) 楽器。
          1. [初出の実例]「姫君渡し聞こえ給ひて、御琴など弾かせ奉り給、宮はよろづのものの上手におはすれば」(出典:源氏物語(1001‐14頃)乙女)
      3. 対象をあからさまにいうことをはばかって抽象化していう。
        1. (イ) 神仏、妖怪、怨霊など、恐怖・畏怖の対象。
          1. [初出の実例]「四つの蛇(へみ)五つの毛乃(モノ)の集まれる穢き身をば厭ひ捨つべし離れ捨つべし」(出典:仏足石歌(753頃))
        2. (ロ) 物の怪(け)による病。また、一般に病傷、はれものなど。
          1. [初出の実例]「物いたく病みて死に入りたりければ」(出典:伊勢物語(10C前)五九)
        3. (ハ) 男女の陰部。
          1. [初出の実例]「水底にものや見ゆらん馬さへも豆盥(まめだらひ)をばのぞきてぞ鳴く」(出典:仮名草子・仁勢物語(1639‐40頃)上)
      4. 民法上の有体物で、動産及び不動産をいう。
        1. [初出の実例]「本法に於て物とは有体物を謂ふ」(出典:民法(明治二九年)(1896)八五条)
    2. [ 二 ] 個々の具体物から離れて抽象化された事柄、概念をいう。
      1. 事物、事柄を総括していう。
        1. [初出の実例]「山見れば 見の羨(とも)しく 川見れば 見のさやけく 母能(モノ)ごとに 栄ゆる時と 見(め)し給ひ 明らめ給ひ」(出典:万葉集(8C後)二〇・四三六〇)
        2. 「物に争はず、己を枉(ま)げて人に従ひ」(出典:徒然草(1331頃)一三〇)
      2. 「ものの…」の形で抽象的な語句を伴って、漠然と限定した事柄をいう。
        1. (イ) 事態、状況についていう場合。
          1. [初出の実例]「さすがにいとよくものの気色を見て〈略〉かく文通はすと見て、文も通はさず、責め守りければ」(出典:平中物語(965頃)二七)
        2. (ロ) 心情についていう場合。
          1. [初出の実例]「都へと思ふをもののかなしきは帰らぬ人のあればなりけり」(出典:土左日記(935頃)承平四年一二月二七日)
      3. 概念化された場所を表わす。中古から中世にかけて、特に神社仏閣をさすことが多い。
        1. [初出の実例]「ものへまかりける人を待ちて師走のつごもりによめる」(出典:古今和歌集(905‐914)冬・三三八・詞書)
      4. ことばや文字。また、文章や書物。その内容もいう。→物を言う
        1. [初出の実例]「それの年の師走の二十一日の日の戌(いぬ)の時に門出す、その由、いささかにものに書付く」(出典:土左日記(935頃)承平四年一二月二一日)
      5. 感じたり考えたりする事柄。悩み事、考え事、頼み事、尋ね事など。→物を見る物覚ゆ物を思う
        1. [初出の実例]「吾が大君物(もの)な思ほし皇神の嗣(つぎ)てたまへる吾が無けなくに」(出典:万葉集(8C後)一・七七)
        2. 「人木石にあらねば時にとりて、物に感ずる事なきにあらず」(出典:徒然草(1331頃)四一)
      6. 道理。事の筋道。
        1. [初出の実例]「物知らぬことなの給ひそ」(出典:竹取物語(9C末‐10C初))
      7. 特定の事柄が思い出せなかったり、わざとはっきりと言わないようにしたりするとき、また、具体的な事柄を指示できないとき、問われて返答に窮したときなどに仮にいう語。
        1. [初出の実例]「『なんじゃなんじゃと申ほどに、物じゃと申た』」(出典:虎明本狂言・茫々頭(室町末‐近世初))
      8. 言いよどんだとき、あるいは、間(ま)をとったりするために、話の間にはさんで用いる語。
        1. [初出の実例]「今のは頭から只一口にとは〈イヤナニ、モノ〉、只一口に弔らふてやらふものをと云こと」(出典:浄瑠璃・天鼓(1701頃)万歳)
      9. ( 格助詞「が」を伴った「がもの」の形で ) 「…に相当するもの」「…に値するもの」などの意を表わす。→がもの
    3. [ 三 ] 抽象化した漠然とした事柄を、ある価値観を伴ってさし示す。
      1. 一般的・平均的なもの、また、一人前の、れっきとしたもの。物についても人についてもいう。
        1. [初出の実例]「かうものの要にもあらであるもことはりと思ひつつ」(出典:蜻蛉日記(974頃)上)
      2. 大事、大変なこと。重要なこと、問題。
        1. [初出の実例]「一働きだに働かば、これ程の輿、物(モノ)にてや有るべき」(出典:金刀比羅本保元(1220頃か)下)
        2. 「物質上の不便を物とも思はず」(出典:草枕(1906)〈夏目漱石〉一二)
    4. [ 四 ] 他の語句を受けて、それを一つの概念として体言化する形式名詞。直接には用言の連体形を受けて用いる。
      1. そのような事態、事情、意図などの意を表わす。
        1. [初出の実例]「しましくも独りありうる毛能(モノ)にあれや島のむろの木離れてあるらむ」(出典:万葉集(8C後)一五・三六〇一)
        2. 「望のない事を悟ったものと見えて」(出典:吾輩は猫である(1905‐06)〈夏目漱石〉一)
      2. 文末にあって断定の語を伴い、話し手の断定の気持を強めた表現となる。→ものかものかなものぞものだもん
        1. [初出の実例]「梅の花いつは折らじといとはねど咲きの盛りは懐しき物(もの)なり」(出典:万葉集(8C後)一七・三九〇四)
      3. 活用語の連体形を受けて文を終止し、感動の気持を表わす。さらに終助詞を付けて、逆接的な余情をこめたり、疑問・反語の表現になったりすることが多い。
        1. [初出の実例]「たぢひ野に 寝むと知りせば 立薦(たつごも)も 持ちて来(こ)まし母能(モノ) 寝むと知りせば」(出典:古事記(712)下・歌謡)
  2. [ 2 ] 〘 終助詞 〙 ( [ 一 ][ 四 ]のような形式名詞的用法、特にの用法などからさらに進んだもの ) 終止した文に付加して、不満の意をこめて反論したり、甘えの気持をもって自分の意思を主張したりする。主として女性・子どもの表現。→もん[ 二 ]
    1. [初出の実例]「『いやまいらふ』『おりゃるまひもの』」(出典:虎明本狂言・富士松(室町末‐近世初))
    2. 「わたしはなきむしなんですもの」(出典:童謡・胡桃(1926)〈サトウ・ハチロー〉)
  3. [ 3 ] 〘 接頭語 〙 主として形容詞、形容動詞、または状態を示す動詞の上に付いて、なんとなく、そこはかとなく、そのような状態である意を表わす。「ものうい」「ものさびしい」「ものぐるおしい」「ものけざやか」「ものしずか」「ものふる」など。
  4. [ 4 ] 〘 造語要素 〙
    1. 名詞や形容詞の語幹に付いて、その範疇(はんちゅう)に属する物品であることを表わす。「春もの」「先もの」「大もの」「薄もの」など。
    2. 土地などを表わす名詞に付いて、その土地の生産物であることを表わす。
      1. [初出の実例]「『真夏の夜の夢』を現代化した独逸物(モノ)の映画を二人は面白く思ひ」(出典:暗夜行路(1921‐37)〈志賀直哉〉三)
    3. ( 「武」と書くこともある ) 他の語の上に付いて、戦(いくさ)や戦陣に関する事物である意を表わす。「もののぐ」「ものいろ」「ものがしら」「ものぬし」など。
    4. 動詞の連用形に付いて、(イ) そのような動作の結果できた物品であることを表わす。「塗りもの」「干もの」「焼きもの」など。
      1. (ロ) そのような動作の対象となる物品を表わす。「食べもの」「読みもの」「たきもの」など。

物の補助注記

人についていう場合、特に「者」と書く。→者(もの)


もん【物】

  1. [ 1 ] 「もの(物)[ 一 ]」の変化した語。
    1. 形をそなえた物体。また、事柄。
      1. (イ) 形のある物品・物体。また、抽象的な事柄、概念。
        1. [初出の実例]「お辨当のお菜(かず)も毎日おんなじ物(モン)ばっかりでもお倦きだらう」(出典:浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉一)
      2. (ロ) 直前に用いられた名詞を繰り返す代わりに用いる。
        1. [初出の実例]「儒者といふ奴は余程博識(ものしり)な者(モン)だと思ったら」(出典:滑稽本・浮世床(1813‐23)初)
    2. 他の語句を受けて、それを一つの概念として体言化する形式名詞。そのような事態・事情・意図などの意を表わす。→もんかもんだもんだからもんでもんなら。「世の中はそういうもんと思ってあきらめろ」
  2. [ 2 ] 〘 終助詞 〙 「もの(物)[ 二 ]」の変化した語。
    1. [初出の実例]「私タレ目じゃないもん」(出典:にんげん動物園(1981)〈中島梓〉七)

もつ【物】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 仏語。
    1. (イ) 生命。生きもの。また、衆生のこと。
      1. [初出の実例]「故称常、為物軌側、故云法」(出典:法華義疏(7C前)一)
      2. [その他の文献]〔大智度論‐四〕
    2. (ロ) 品物。事物。また、物体。〔法華経‐信解品〕
  3. ( 「ぞうもつ(臓物)」の略 ) 料理の材料としての、鳥獣の内臓。〔訂正増補新らしい言葉の字引(1919)〕
    1. [初出の実例]「夜店の焼とりのモツの味であった」(出典:夢声戦争日記〈徳川夢声〉昭和一八年(1943)三月一一日)

もの‐し【物】

  1. 〘 形容詞シク活用 〙
  2. 物事の様子がいとわしい。どことなく気にさわる。不快である。
    1. [初出の実例]「人もなしと思ひつるに、物しきさまをみえぬることとおもひて」(出典:大和物語(947‐957頃)一七三)
  3. 無気味で怪しい。不吉である。
    1. [初出の実例]「夢にものしくみえしなどいひて」(出典:蜻蛉日記(974頃)上)

物の派生語

ものし‐げ
  1. 〘 形容動詞ナリ活用 〙

ぶつ【物】

  1. 〘 名詞 〙 現物・物件などの意で、現金や品物をさしていう俗語。
    1. [初出の実例]「どうした? 甲州では、ブツは有ったかい」(出典:瀕死の青春(1957)〈井上友一郎〉一)

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普及版 字通 「物」の読み・字形・画数・意味


常用漢字 8画

[字音] ブツ
[字訓] もの・しるし

[説文解字]

[字形] 形声
声符は勿(ぶつ)。〔説文〕二上に「物なり。牛を大物と爲す。天地の數は牽牛よりる。故に牛に從ひ、勿聲」とする。牽牛の星座を首として天地が左動するというような考えかたは、戦国期以後のものである。勿を〔説文〕九下に三游(吹き流し)の象とし、物を勿声とするが、卜辞に牛と物とを対文として用いる例があり、物とは雑色の牛、その従うところは勿ではなく(り)(耒(すき)、犂(すき))である。物はもと物色の意に用い、〔周礼、春官、人〕「其の物を辨ず」、〔春官、保章氏〕「五雲の物を以てす」は、みな色を以て区別することをいう。それで標識の意となり、〔左伝、定十年〕「叔孫氏の甲に物り」、〔周礼、春官、司常〕「雜帛(ざつぱく)を物と爲す」、〔儀礼、郷射礼記〕「旌(はた)には各其の物を以てす」のようにいう。物を氏族標識として用いることになって、それはやがて氏族霊を象徴するものとなった。〔周礼、秋官、司隷〕「其の物を辨ず」の〔注〕に、「物とは衣、兵の屬なり」とあり、それらに氏族霊を示す雑帛がつけられた。さらに拡大して万物の意となる。〔詩、大雅、烝民〕「物れば則(のり)り」とは、存在のうちに、存在を秩序づける原理があるとの意である。また特に霊的なもの、すなわち鬼をもいう。わが国の「もの」にも、無限定な一般の意と、「物の化」という霊的な、識られざるものの意とが含まれている。

[訓義]
1. 雑色の牛、いろいろのもの。
2. もののしるし、氏族のしるし、はた。
3. もの、すべてのもの、存在するもの。
4. 形のあるもの、財貨、物質、禽獣。
5. 鬼、鬼神。

[古辞書の訓]
名義抄〕物 モノ・コトゴトク・シルシ・カタチ・タグヒ

[熟語]
物彙・物役・物価・物賈・物化・物華・物我・物怪・物外・物官・物鬼・物軌・物器・物宜・物議・物曲・物件・物故・物估・物候・物貢・物采・物際・物在・物産・物資・物主・物序・物象・物情・物色・物数・物性・物勢・物則・物徹・物土・物靡・物表・物物・物変・物望・物方・物穆・物・物務・物誉・物用・物妖・物理・物慮・物料・物累・物類・物霊・物論
[下接語]
悪物・衣物・異物・遺物・一物・逸物・雲物・英物・詠物・遠物・応物・下物・荷物・貨物・怪物・開物・外物・格物・活物・官物・乾物・玩物・物・奇物・鬼物・棄物・器物・物・旧物・究物・御物・凶物・禁物・供物・群物・景物・傑物・古物・故物・好物・貢物・鉱物・穀物・才物・財物・作物・産物・死物・至物・私物・賜物・事物・時物・質物・什物・書物・庶物・象物・物・上物・食物・植物・神物・進物・人物・水物・瑞物・生物・斉物・牲物・静物・贅物・節物・銭物・造物・臓物・贓物・即物・俗物・大物・代物・鋳物・長物・珍物・天物・典物・蠹物・動物・毒物・鈍物・難物・二物・廃物・博物・備物・微物・品物・不物・賦物・風物・文物・幣物・弁物・方物・宝物・法物・魔物・務物・名物・毛物・薬物・唯物・尤物・用物・養物・礼物・霊物・老物

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改訂新版 世界大百科事典 「物」の意味・わかりやすい解説

物 (もの)
thing
res[ラテン]
Ding[ドイツ]
chose[フランス]

狭義には外界にあって感覚的に知覚されうる物体を指すが,広義には現実に存在する事実であれ思考対象であれ一般に何らかの存在を指す言葉。また,日本語の用法では,魂,鬼,妖怪のようなものを直接名指すのを避け,〈もの〉〈物の怪(け)〉などと呼ぶこともあるし,〈大物〉〈小物〉など比喩的には人間に関しても用いることがある。ここでは狭義の物に限って考えてみたい。

 西洋においても〈物〉という概念はきわめて多義的であり,そのとらえ方も多様である。そのいくつかを列挙してみよう。

(1)一般に原始社会では,動物や樹木はもとより山や岩のような無機物,さらには丹精をこめて造りあげられたり使い慣らされたりした道具など製作物にさえ霊魂が宿ると考えるアニミズム的思考が支配的である。古代の日本人が万物を〈葦牙(あしかび)の萌(も)え騰(あが)るが如く成る〉ものと見たり,古代ギリシア人が万物をその内蔵する原理によっておのずから生成(フュエスタイphyestai)する〈自然(フュシスphysis)〉とみたのも,そのなごりであろう。こうしたアニミズムは文明人の思考のうちにも強く痕跡を残している。

(2)古代ギリシア以来の一つの伝統として,物を形相(エイドスeidos)と質料(ヒュレhylē)の合成体とみる見方がある。プラトンイデア論がその典型であるが,彼にあっては形相は超自然的原理(イデア)に由来し,質料は自然的なものとみられ,事物の〈何であるか(本質存在)〉は形相によって,それが〈あるかないか(事実存在)〉は質料によって決定されると考えられている。こうした存在論はおそらく製作物の成立ちをモデルにして構想されたものであろう。ギリシア語のエイドスとヒュレはラテン語ではformaとmateria,ドイツ語ではFormとStoffと訳され,これらの用語とともに物の存在構造についてのこの考え方も中世・近代に受けつがれている。

(3)アリストテレス以来,物を経験に与えられる諸特性(シュンベベコスsymbebēkos)の担い手つまり〈基体(ヒュポケイメノンhypokeimenon)〉とみるとらえ方も一つの伝統になっている。シュンベベコスとは基体に付帯して〈共に居合わせるもの〉という意味である。このとらえ方は,ヒュポケイメノンが命題の〈主語〉をも意味するところから知られるように,命題の〈主語-述語〉という構造をモデルに構想されたものである。このヒュポケイメノンが,ラテン語でも〈下に置かれたもの〉という言葉のつくりをそのまま写してsubstantiaないしsubjectumと,シュンベベコスがaccidensと訳され,物をもろもろの特性の基体・実体とみるこの考え方も,中世のスコラ哲学やさらには近代哲学にも継承される。

(4)近代のロックなどにもこの種の考え方は残っており,彼は実体そのものに対しては不可知論的立場をとるが,それでも実体としての物体そのもののうちに実在する第一性質primary qualities(延長,形態,運動など)と,物体によってわれわれの心のうちに生ぜしめられる第二性質secondary qualities(色,音,味,香など)を区別したのに対し,経験論の立場を徹底するD.ヒュームは,経験に与えられることのない実体の想定を否認し,したがって実体を想定してのみ意味をもつ第一性質,第二性質の区別をも否定した。彼にとって〈物〉とは特定の感覚的所与の集合ないし関数関係を名指す名辞にすぎないことになる。こうした考え方は,19世紀末葉のマッハの現象主義や20世紀初頭のフッサールの現象学にも受けつがれている。

(5)物を微小な基本的要素,たとえば原子(アトム)の集合体とみる立場も古代ギリシアのデモクリトス以来一つの強い伝統になっており,現代の量子論によってさらに原子そのものの内部構造が問い深められることによって,ますます精緻に仕上げられつつある。この考え方の一つの変異体として,ライプニッツのようにその基本的単位を空間的広がりをもたぬ力の統一体(モナド)としてとらえる立場もある。

(6)ライプニッツのこの考え方はカントによっても受けつがれる。彼は人間の認識に与えられる物の〈現象Erscheinung〉と,その背後にある〈物自体Ding an sich〉とを区別するが,この物自体は意志つまりある種の力を本質とするものと考えられている。カントの思想を継承したショーペンハウアーは,物自体を明確に意志・意欲・生命力としてとらえている。

(7)興味あるものとして,〈物〉を高次に構成された〈構造〉ないし〈シンボル〉としてとらえる考え方がある。たとえば人間以外の動物の場合には,神経系の発達が最高度の段階に達しているチンパンジーにあってさえも,行動の対象はそのつどの生物学的環境のなかでの刺激の一定の布置,つまりその時々の現れにとどまる。ところが人間の場合には,現に与えられているその現れをただそれだけのものとして受けとるのではなく,現に与えられてはいないがかつて与えられたことのある現れや,あるいは与えられうる可能的現れと重ね合わせ,それらを相互に切り換えて,眼前の現れを,与えられうるであろう多様な現れの一つとして受けとることができる。つまり,現に与えられている構造(刺激の布置)を足場にして,その構造を一つの局面としてもちうるが,けっしてそれに尽きることのないいっそう高次の構造(さまざまな構造の構造ともいうべき〈物〉)を構成し,眼前の構造をその一局面としてとらえることができるのである。動物学者たちが,動物には対象を〈物として扱う態度〉が欠けているというときに考えられているのはこのような事態である。

 してみれば,われわれにはきわめて単純な所与のように思われる〈物〉も,実は高次に構成された構造だと考えねばならないことになろう。そして,そうした構成作業を行うのは,与えられた刺激を足場にして,単なる信号にとどまらない〈シンボル〉としての記号を創出する,人間にのみ可能なシンボル機能なのだとしてみれば,〈物〉とはそうした機能によってつくられた一つの〈シンボル〉だということも許されよう。
 →物質
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物 (もの)

法律上の概念として,物とは広義では権利の客体をさすことばである。たとえば土地,建物,自動車,家具,電気製品等々の物を客体として所有権その他の権利が成立するわけである。

 もっとも,権利の種類によっては,物が直接的な権利の客体とならない場合がある。すなわち,さきにあげた所有権を中心とする物権では物が客体となるが(ただし,権利を客体とする権利質(民法362条以下),地上権などに対する抵当権(369条2項)といった例外がある),金銭の支払とか物の引渡しを求める権利である債権(間接的には物を客体とするといえようが)は,厳密には人(債務者)の給付行為(支払,引渡し)がその権利客体であり,人格権の客体は権利者それ自身である。

 また,民法上は物を有体物に限定している(85条)ので,著作・発明などの精神的創造物(無体物)に対する財産的権利は,いわゆる無体財産権として特別法にその根拠を有している(特許法,著作権法など)。

 他方,物が所有権の客体となるためには以下の要件を満たす必要がある。(1)有体性 空間の中で有形なものとして存在する固体,液体,気体のみが民法上の所有権の対象たりうる(85条)。債権や無体財産に対し所有権は成立しない趣旨である。なお,電気,光,熱などのエネルギーに対しては,その排他的支配が可能な限り所有権類似の支配権の成立が認められよう。(2)非人格性 生きている人間(ないしその肉体の一部)に対し所有権は成立しない。ただし,分離した身体の一部,死体,遺骨に対しては所有権が成立しうる。(3)支配可能性 人間により支配可能な物,可能な状態の物でなければならない。したがって,月とか星とかは法律上の物ではない。(4)物の独立性,単一性 所有権の客体たりうるためには1個の物としての統一性が必要であり,原則として物の一部,集合物には所有権が成立しない。

 次に,物は各種の観点から分類しうる。(1)不動産と動産 まず不動産動産とは,その自然的性質,経済的な価値,そのうえに成立しうる権利(とりわけ担保権)などの相違からして,分類の意義がある。不動産は,その重要性にかんがみ,登記簿という国家の管理する帳簿上にその物理的現況,権利関係が公示されうるしくみとなっている。(2)主物と従物 家屋と畳・建具との関係のように,それぞれ独立の物であるが,ある物の経済的効用を高めるために,他の物がそれに付属せしめられている場合,前者を主物,後者を従物と呼ぶ(87条1項)。そして,民法は,これらが経済的利用の面で一体をなしているがゆえに,法的な運命のうえでも同一に扱い,主物が処分されると従物もまた原則としてその処分に従うとしたのである(同条2項)。(3)元物(げんぶつ)と果実 物の経済的利用法に従って直接収取される物(天然果実)と,物の使用の対価として受くべき金銭その他の物(法定果実)を果実という(88条)。また,これらの果実を生み出す物を元物という。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「物」の意味・わかりやすい解説


もの

私法上は権利の客体としての物をいう。民法の起草者は物の定義に際し、物権(典型的には所有権)を中心に考えたので「この法律において「物」とは、有体物をいう」と規定した(85条)。無体物、たとえば物権や債権などの権利、発明、著作などは民法上物とはされないが、財産的価値を有し取引の対象ともなりうるので、権利の客体としては物に準じて取り扱うことが必要となる。特許権、著作権などは無体財産権といわれる。

 民法第85条にいう有体物とは、排他的支配の可能性があればよいとされ、電気・熱などのエネルギーもこれに含まれると解されている。刑法第245条も窃盗罪につき電気を財物とみなす、と規定した。支配可能でなければならないので、日、月、空気、海洋は含まれないが、漁業権、公有水面埋立権の認められる一定区画はここにいう物といえる。また排他的な支配が可能でなければならないので、原則として独立した一個の物であることを要する(一物一権主義)。土地は一筆の土地が一個の物となり、建物などの合成物は全体として一個の物となる。これに対して土地の一部である山林の立木や未分離果実が独立して物権の客体とされ、工場の施設・設備が一括して一個の抵当権の客体とされることがある。さらに企業全体、あるいは在庫商品(集合物)が一個の担保物権の客体とされることもある。

 物は、取引の場面に応じ、動産・不動産、主物・従物(建物とその付属物など)、元物(げんぶつ)・果実(収益の元となるものと収益)、特定物・不特定物ないし種類物などに分類される。

[伊藤高義]

『内田貴著『民法Ⅰ 第4版 総則・物権総論』(2008・東京大学出版会)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「物」の意味・わかりやすい解説


もの
Sache

民法上,物 (「ぶつ」とも読む) とは,物権の客体をいい,固体,液体などの有体物がその意味での物とされる。電気,ガスなどの無体物は物権の客体とならず,物ではないとされる。ただし刑法は窃盗,強盗の罪の章については,電気は財物とみなしているが,これは刑法上物とは管理可能物すべてを含む注意的規定であると理解されている。したがって,たとえば電気,ガスにも窃盗罪は成立する。物はそのうえに成立した物権関係の公示方法の違いによって不動産動産に分類される。またそのうえに成立した物権の帰属の仕方の特例を設ける必要から,主物と従物,元物と果実などに分類される。なお物の個数は独立した部分 (あるいは独立した容器に入った部分) ごとに数えるが,土地のような不動産の個数は,人為的に分割された部分「筆」ごとに数えられる。


ぶつ

」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【旗】より

…千葉常胤(ちばつねたね)が奥州追討にあたり源頼朝に献上した旗は,1丈2尺2幅で,その上部に伊勢大神宮,八幡大菩薩,下部に鳩2羽が白糸で縫いとられていたという(《吾妻鏡》)。旗指物【西垣 晴次】
[中国]
 〈はた〉を通称して,旗(き)あるいは旌旗(せいき)などというが,もともと〈旗〉〈旌〉ともに〈はた〉の一つの種類を表す語である。各種の旗を示す漢字は,もとよりこれにとどまらないし,金文の図象文字にも数多くみられる。…

【こと(事)】より

…〈こと〉は〈もの〉と対立する優れて日本的な存在概念である。英語のevent,matter,ドイツ語のSache,Sachverhalt,フランス語のchose,faitなどを時によっては〈事〉と訳す場合もあるが,元来の発想はそれらとは異質である。グラーツ学派のマイノングが,高次対象論において学術的概念として導入した〈objektiv〉をはじめ,後期新カント学派,初期現象学派,論理分析学派などの学術的概念のなかには〈こと〉に類するものがないわけではないが,それらとて〈こと〉とはかなりのへだたりがある。…

【民会】より

…帝政初期以降,属州の都市や部族の代表が中心市で元首をまつり,属州の問題を議したもので,ときには総督の失政を元首に訴えた。【鈴木 一州】
【ゲルマン社会】
 ゲルマン人のもとでは,ディングDing(ドイツ語),シングthing(古北欧語)などと呼ばれる自由人の集会があった。古典古代すなわちギリシア・ローマの民会が国政上の一機構であり,評議会,元老院による貴族の発議権に対する平民の同意権(ないしは拒否権)が行使される場であるのと異なり,ゲルマン人の〈民会〉は経済的・政治的にそれぞれ自立した自由人の集合・集会であり,タキトゥスも《ゲルマニア》11~12章にいうように,立法・司法機能をもつが執行機能をもたない。…

【スカンジナビア】より

…この闘争を通じて組織されたスウェーデン国会Riksdagには,他のヨーロッパ諸国の身分制議会と異なり農民代表が地位を占めた。
[集会の機構]
 農民たちは,共通の関心事(相互の紛争の調停,治安,防衛)を処理するために集会(古北欧語シングthing,現代語ting,しばしば民会と訳される)をもった。異教時代にはここで,共同体結合を神聖化し,収穫と平和と戦勝を祈願する祭祀も行われた。…

【民会】より

…帝政初期以降,属州の都市や部族の代表が中心市で元首をまつり,属州の問題を議したもので,ときには総督の失政を元首に訴えた。【鈴木 一州】
【ゲルマン社会】
 ゲルマン人のもとでは,ディングDing(ドイツ語),シングthing(古北欧語)などと呼ばれる自由人の集会があった。古典古代すなわちギリシア・ローマの民会が国政上の一機構であり,評議会,元老院による貴族の発議権に対する平民の同意権(ないしは拒否権)が行使される場であるのと異なり,ゲルマン人の〈民会〉は経済的・政治的にそれぞれ自立した自由人の集合・集会であり,タキトゥスも《ゲルマニア》11~12章にいうように,立法・司法機能をもつが執行機能をもたない。…

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