(読み)オオヤケ

デジタル大辞泉 「公」の意味・読み・例文・類語

おお‐やけ〔おほ‐〕【公】

《「大宅おおやけ(大きな家)」の意から、皇居天皇朝廷、さらに公共の意に転じた語》
[名]
政府官庁。また、国家。「の機関」「の費用」
個人の立場を離れて全体にかかわること。社会。公共。世間。「のために尽くす」⇔わたくし
表だつこと。表ざた。「の場に持ち出す」「事件がになる」
天皇。皇后。または中宮
「おほかたの御心ざま広う、まことの―とおはしまし」〈栄花・月の宴〉
朝廷。
「―の宮仕へしければ」〈伊勢・八五〉
[名・形動ナリ]ものの見方・扱い方などが偏っていないこと。また、そのさま。公平。公正。
「詞うるはしく、論―なり」〈難波物語〉
[類語]1政府行政府政庁政権内閣台閣官府官庁官衙かんがかんくにかみ2正格正則正統正調本式本格的正規正式格調格式品格品位風格正しい本物儀礼礼法礼式礼儀風儀作法よそ行き格式張る折り目正しいフォーマル公的公共公式本格本筋まっとう正道本道本流主流中正至当合理的合法的押しも押されもせぬれっきとちゃんとまとも道理道理至極腰を入れる本腰本腰を入れるレギュラーオーソドックスプロパー3表向き公然おおっぴらオープン筒抜け

こう【公】[漢字項目]

[音]コウ(漢) ク(呉) [訓]おおやけ きみ
学習漢字]2年
国や官にかかわること。おおやけ。「公営公私公式公認公務公立奉公官公庁
世間一般。「公演公開公害公共公衆公然公表公論
かたよらない。「公算公正公平
通じて用いられること。共通。一般。「公理公約数
君主。また、貴人。大臣。「公子王公三公乃公だいこう
人を敬って呼ぶ語。「菅公かんこう君公尊公尼公老公主人公
[名のり]あきら・いさお・さと・たか・ただ・ただし・とおる・とも・なお・ひと・ひろ・まさ・ゆき
[難読]公孫樹いちょう公達きんだち公卿くぎょう公家くげ公方くぼう公司コンス公魚わかさぎ

こう【公】

[名]
国家や社会の全体に関係する事柄。おおやけ。「一身に奉ずる」⇔
華族制度で、五等爵の最上位。公爵。
[代]二人称人代名詞。あなた。貴公。
「―のおむかひに出たのぢゃ」〈洒・遊子方言
[接尾]
地位の高い人の姓名に付いて、敬意を表す。「伊藤博文
人名の略称などに付いて、親愛の情、または軽い軽蔑の意を表す。「熊」「八

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「公」の意味・読み・例文・類語

こう【公】

  1. [ 1 ] 〘 名詞 〙
    1. かたよらないこと。偏頗(へんぱ)のないこと。平等。
      1. [初出の実例]「所謂為公者、無私曲也」(出典:永平道元禅師清規(13C中)知事清規)
      2. [その他の文献]〔書経‐周官〕
    2. 明らかなこと。かくさないこと。あからさまなこと。〔漢書‐呉王濞伝〕
    3. 朝廷。公儀。役所。官府。おおやけ。また、社会、世間。
      1. [初出の実例]「一旦緩急あれば義勇公に奉じ」(出典:教育に関する勅語‐明治二三年(1890)一〇月三〇日)
    4. 旧華族制度五等爵の第一位。ヨーロッパの貴族の階級についても用いる。公爵。
      1. [初出の実例]「爵は公侯伯子男の五等とす」(出典:華族令(明治四〇年)(1907)二条)
    5. 宰相や大臣の尊称。「公卿」「三公」など。
      1. [初出の実例]「勧道諸生空赧面、従公万死欲魂」(出典:菅家文草(900頃)二・講書之後、戯寄諸進士)
      2. 「我、東海の公に見えて、以て我を記室とせむと為るに」(出典:今昔物語集(1120頃か)九)
    6. 王公家軌範一九二六)による旧韓国の公家を継いだ皇族待遇者。日韓合併の時、勅旨によって韓国の李および李を公としたのに始まる。
    7. 父、舅など、一般に長者や、貴人を敬っていう語。
      1. [初出の実例]「群公郷士受領廷尉三十九人」(出典:延慶本平家(1309‐10)四)
      2. [その他の文献]〔賈誼‐論時政疏〕
  2. [ 2 ] 〘 代名詞詞 〙
    1. 対称。同等の者に用いる。古くは目上の者に対して用いた。貴公。
      1. [初出の実例]「文始悦で趙をほめて公は名家の駒と云たぞ」(出典:玉塵抄(1563)一六)
      2. [その他の文献]〔史記‐鼂錯伝〕
    2. 男子の自称。目下の者に向かって、また自らを尊大にいうときに用いた。乃公(だいこう)。〔杜牧‐題禅院〕
  3. [ 3 ] 〘 接尾語 〙
    1. 貴人の姓名などに添えて敬意を表わす。
      1. [初出の実例]「答澄公奉献詩嵯峨天皇〉」(出典:文華秀麗集(818)中)
      2. 「太政大臣師長公を始として」(出典:延慶本平家(1309‐10)四)
    2. 同輩、もしくは目下の者の名前に付けて、親しさや、軽い軽蔑の意を表わす。近世以降の用法。
      1. [初出の実例]「長公、お慈悲お助けと顫(ふろ)ひ戦慄(わなな)き三拝答拝」(出典:浄瑠璃・仏御前扇車(1722)二)

おお‐やけおほ‥【公・大宅】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「やけ」は「家・宅」。「おおやけ」の原義は、大きな家 )
  2. 大きな家。屯倉(みやけ)などの大きな建築物
  3. 朝廷。政府。官庁。幕府。
    1. [初出の実例]「若し仕へて名を成さむと欲ふ者は、還りて司(オホヤケ)に仕へよ」(出典:日本書紀(720)天武即位前(北野本訓))
  4. 天皇。皇后。中宮。
    1. [初出の実例]「かぐや姫〈略〉いみじく静かに、おほやけに御文(ふみ)奉り給ふ」(出典:竹取物語(9C末‐10C初))
  5. 国家。社会。
    1. [初出の実例]「奥に、今の御寓(あめのしたをしらす)天皇より始めて、臣、連等に及るまでに所有(たもて)る品部は、悉に皆罷めて、国家(オホヤケ)の民と為宜し」(出典:日本書紀(720)大化二年八月(北野本訓))
  6. 公的なこと。政治に関すること。
  7. 表むき。表ざた。表だったこと。
    1. [初出の実例]「宮内大臣某子爵夫人との関係が公(オホヤ)けになった」(出典:暴君へ(1916)〈有島生馬〉)
  8. ( 形動 ) 公平であること。私情のないさま。
    1. [初出の実例]「詞うるはしく、論おほやけなり」(出典:評判記・難波物語(1655))
  9. ( 形動 ) 金持であること。また、そのようなさまや人。財産家。資産家。
    1. [初出の実例]「去ながら、こなたはおほやけな事でござれば」(出典:虎寛本狂言・米市(室町末‐近世初))

公の語誌

( 1 )広壮な貴人の邸宅の意から、最高権力者としての天皇が住む宮殿をさすことになり、やがてそこに住む天皇を、さらには朝廷、政府、国家、社会をさす語へと変化していったものと考えられる。
( 2 )国家・朝廷といった概念も、すでに上代に認識されているが、一般的には、平安時代以降、朝廷に仕える政務を「公事」と認識して「おほやけわたくし(公私)」などと区別する感覚が定着した。
( 3 )後代になると、のような意味も生じるが、社会的な公正・安定性から派生したものであろう。


おおやけ‐おほやけ‥【公】

  1. 〘 形容詞シク活用 〙 ( 名詞「おおやけ」を形容詞化したもの ) 物事に対する態度が、公式的な、ある定まった仕方に従っているさま。表だっている。格式ばっている。折り目正しい。おおやけおおやけし。
    1. [初出の実例]「おもていとしろくて、下(しも)などとりつぎまゐる程、これはたおほやけしう、唐めきてをかし」(出典:枕草子(10C終)一〇四)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

普及版 字通 「公」の読み・字形・画数・意味


常用漢字 4画

(旧字)
4画

[字音] コウ
[字訓] きみ・おおやけ

[説文解字]
[甲骨文]
[金文]

[字形] 象形
儀礼の行われる宮の廷前のところの、平面形。廷前の左右に障壁があり、その中で儀礼が行われた。〔説文〕二上に「なり」とし、公平に分かつこと、また「韓非曰く」として「厶(わたくし)に背くをと爲す」(〔韓非子、五蠹〕「私に背く、之れをと謂ふ」)の語を引く。厶(私)と(八)とに従い、を左右に背く形と解するものであるが、卜文・金文に厶に従う形のものはなく、方形の宮の前に、左右の障壁の線を加える。その廷前をといい、そのに祀る人をという。そこで神徳をたたえる讚歌を(頌)といい、族内の争訟を裁くを(訟)という。〔詩、召南、小星〕「夙夜(しゆくや)に在り」とは、公宮にあって、その祭事に従うことをいう。領主として祀られるものが公であり、その家の私属を私という。その関係を社会化して公私といい、公は公義・公正の義となる。

[訓義]
1. 公宮、きみ、祀られる人。
2. 天子・諸侯・公・長老の称、尊称。
3. おおやけ、公的なもの。
4. 公平、正しい。
5. つかさ、つとめ。
6. 工・功と通じ、しごと、てがら。

[古辞書の訓]
名義抄 キミ・オホヤケ・ツカウマツル・アラハス・コト・トモ/兄 コジウト/雷 イカヅチ 〔字鏡集〕 ツギ・サト・タビ・アラハス・トホル・マサシ・オホヤケ・ツカウマツル・タヒラカ・ヰルキミ・トモガラ・オホキミ・キミ・ヰル・コト・トモ・タダ

[声系]
〔説文〕に声として(翁)・(松)・・瓮など七字を収めるが、声のままのものはない。は公宮における行事・儀礼を示すもので会意。は長老の字義をとるものであろう。

[語系]
kong、ongは声義に通ずるところがあり、は鳥の頸毛。〔方言、六〕に周・秦・晋・の地では、老を尊んで翁とよんだという。工・功・貢kongはと同声。金文に百工を康宮に属するものとしており、工・功・貢はもと公事に関することとされたものであろう。

[熟語]
公案・公移・公嫗・公益・公家・公暇・公・公衙・公会・公廨・公害・公幹・公鑒・公患・公館・公器・公義・公議・公宮・公給・公許・公共・公金・公・公潔・公権・公憲・公言・公姑・公庫・公侯・公公・公行・公座・公財・公罪・公子・公私・公司・公事・公示・公室・公社・公主・公誠・公選・公然・公孫・公台・公断・公鋳・公庁・公調・公直・公庭・公廷・公第・公程・公田・公塗・公帑・公牘・公任・公婆・公評・公布・公賦・公憤・公文・公平・公輔・公法・公俸・公明・公・公用・公理・公廩・公・公論
[下接語]
王公・郭公・貴公・愚公・君公・三公・至公・主公・諸公・相公・上公・仁公・狙公・尊公・大公・太公・乃公・天公・土公・辟公・奉公・雷公・老公

出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「公」の意味・わかりやすい解説


おおやけ

「私(わたくし)」に対するもので、個人的でない事柄をいう。原義は「おお」(大)「やけ」(家、宅)で、宮殿や屋敷などの大きな建築物を意味した。転じて、そのような場所で行われる仕事、その所有者、そこに住む人間などを意味するようになり、政府、朝廷、官庁、また天皇家や天皇、皇后、中宮などをもさした。現代では、国家、社会など公共に関する事柄や、世間一般、表向きの面に関する意味で用いられる。

[藁科勝之]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

旺文社日本史事典 三訂版 「公」の解説


きみ

大和政権下の姓 (かばね) の一つ
「君」とも書く。豪族の首長の尊称が姓とされた。筑紫,上毛野など地方の有力豪族のほか,大王の子孫と称する畿内周辺の中小豪族にも与えられた。759年,「君」はすべて「公」に改められた。

出典 旺文社日本史事典 三訂版旺文社日本史事典 三訂版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「公」の意味・わかりやすい解説


こう

「ヘルツォーク」のページをご覧ください。


公[ロシア]
こう[ロシア]

「クニャージ」のページをご覧ください。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のの言及

【公地公民】より

…すべての土地と人民は朝廷に属するとし,豪族の私地私民に対立する概念。大化改新によって私地私民を廃止し,公地公民の政策が打ち出され,約半世紀後の大宝律令の施行によって公地公民制が確立したというのが通説である。しかし,すでに中田薫が指摘しているように,律令においては,口分田(くぶんでん)は私田とされていた。…

【私】より

…したがって,私の原イメージは農耕する民衆の姿である。これに対して,公(おおやけ)は,大宅,大家から,皇居,天皇,朝廷,政府,国家,社会などを意味するようになった。公共,公正,公論と私腹,私欲,私論の対比にみられるように,公がプラスの価値であり,私がマイナスの価値であるとされてきた。…

【君】より

…日本古代の(かばね)の一つ。公とも表記され,古くは有力豪族の尊称で首長の意。大和国家の王者が大王(おおきみ)と称するようになると,君は姓としてしだいに位置づけられ,その中で大王は君(公)の中の大なるものとして諸豪族に超越する立場を獲得した。…

【氏姓制度】より

…日本古代において,中央貴族,ついで地方豪族が,国家政治上に占める地位,社会における身分の尊卑に応じて,朝廷より(うじ)の名と(かばね)をあたえられ(氏・姓(かばね)をあわせて(せい)ともいう),その特権的地位を世襲した制度。大化改新ののち,律令国家におよぶと,戸籍制によって,氏姓はかつての部民(べみん),つまり一般の公民にまで拡大され,すべての階層の国家身分を表示するものとなり,氏姓を有しないものは,天皇,皇子,諸王と奴婢のみとなった。
[政治制度としての氏姓制度]
 このような制度は,原始共同体において,氏族や部族が社会の単位となった,いわゆる氏族制度とは異なる。…

【公私】より

…江戸期の荻生徂徠は次のように明解に定義する。〈公なるものは私の友なり。衆の同じくする所,これを公といい,己の独りもっぱらにする所,これを私という〉(《弁名》)。…

【公地公民】より

…すべての土地と人民は朝廷に属するとし,豪族の私地私民に対立する概念。大化改新によって私地私民を廃止し,公地公民の政策が打ち出され,約半世紀後の大宝律令の施行によって公地公民制が確立したというのが通説である。しかし,すでに中田薫が指摘しているように,律令においては,口分田(くぶんでん)は私田とされていた。…

【爵位】より


[ヨーロッパ]
 古代ローマの貴族には,位階序列を表す称号はなく,ヨーロッパの爵位は,中世・近世においてその発達をみることができる。国と時代により差異はあるが,一般に知られている爵位は,公(デュークduke),侯(マーキスmarquis),伯(アールearl),子(バイカウントviscount),男(バロンbaron)の5位階である(かっこ内は英語)。これらのうち,公と伯の呼称が歴史的に見て最も古く,それぞれ古ゲルマンの軍事統率者であるドゥクスdux(ドイツ語はヘルツォーク,フランス語はデュクduc),フランク国王の統治権とりわけ裁判権を地方管区ごとに執行する役人としてのコメスcomes(ドイツ語はグラーフ,フランス語はコントcomte)とにさかのぼる。…

【ヘルツォーク】より

…フランク王国,ドイツ王国における官職,称号。大公または公と訳されることが多い。古ゲルマン人のもとで,戦時に置かれる最高の軍隊指揮官で,多くの場合有力豪族が選ばれた。…

※「公」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

仕事納

〘 名詞 〙 年の暮れに、その年の仕事を終えること。また、その日。《 季語・冬 》[初出の実例]「けふは大晦日(つごもり)一年中の仕事納(オサ)め」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油...

仕事納の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android