(読み)タダ

デジタル大辞泉 「徒」の意味・読み・例文・類語

ただ【徒/×只】

《「ただ」と同語源》
[名]
取り立てて値打ちや意味がないこと。普通。「―の人」「―のからだではない」
何事もなく、そのままであること。無事。「見つかったら―では済まない」
(只)代金のいらないこと。また、報酬のないこと。無料。「―でくれる」「―で働く」
[形動ナリ]
ありきたり。また、ありのまま。
「―なる絹綾など取り具し給ふ」〈・宿木〉
何事もないさま。
「朝露のおくる思ひに比ぶれば―に帰らむ宵はまされり」〈和泉式部日記
[補説]3は「只」の字を「ロ」と「ハ」とに分け、俗に「ろは」という。
[類語](1平凡ありきたり凡俗ありふれる普通一般一般的尋常通常平常通例標準標準的平均的つね当たり前常並み世間並み十人並み月並み凡庸日常茶飯日常茶飯事平平凡凡常套決まりお定まり平板類型的紋切り型芸がないノーマルレギュラースタンダード/(3無料無銭無償ろはフリー

あだ【徒】

[形動][文][ナリ]
実を結ばずむなしいさま。無益なさま。むだ。「せっかくの好意がになる」
浮ついたさま。不誠実で浮気っぽいさま。
「―なる恋にはあらで、女夫めおとの契を望みしなり」〈紅葉金色夜叉
一時的ではかないさま。かりそめ。
「なかなかに―なる花は散りぬともまつを頼まぬ人のあらめや」〈為頼集〉
いいかげんなさま。粗略だ。
「まだしき時に方さまの御心づかひゆゑと、それはそれは―に存ぜぬに候」〈浮・文反古・五〉
[類語]無駄駄目台無しふいおじゃん空中分解挫折くたびれもうけおしまいわやパンクぼつ余計余分蛇足だそく不必要不要不用無用無益いたずら徒労不毛無駄足無駄骨無駄骨折り骨折り損不経済二度手間無くもがなあらずもがな無にする無になる無に帰する水泡に帰する水の泡

いたずら〔いたづら〕【徒】

[形動][文][ナリ]
存在・動作などが無益であるさま。役に立たないさま。むだ。「に時を過ごす」
あるべき物がないために物足りないさま。なんの風情もないさま。
「入江の―なるども」〈更級
何もすることがないさま。退屈。→悪戯いたずら
「舟も出ださで―なれば」〈土佐
[類語]無駄駄目台無しふいおじゃん空中分解挫折くたびれもうけおしまいわやパンクぼつ余計余分蛇足だそく不必要不要不用無用無益あだ徒労不毛無駄足無駄骨無駄骨折り骨折り損不経済二度手間無くもがなあらずもがな無にする無になる無に帰する水泡に帰する水の泡

と【徒】[漢字項目]

[音](漢) ズ(ヅ)(呉) [訓]かち あだ むだ いたずら
学習漢字]4年
〈ト〉
乗り物に乗らずに歩く。かち歩きする。「徒行徒渉徒卒徒歩
何も持たない。「徒手
何もしない。何の役にも立たない。むだ。「徒食徒然とぜん徒労
いっしょに事をする仲間。ともがら。「徒党徒輩学徒義徒逆徒教徒信徒博徒ばくと叛徒はんと仏徒暴徒
門下の弟子。「徒弟生徒
五刑の一。懲役刑。「徒刑
〈ズ〉6に同じ。「徒刑笞杖徒流死ちじょうずるし
[名のり]とも
[難読]徒名あだな徒花あだばな徒士かち徒然つれづれ

と【徒】

その仲間。その同類の人。「学問の」「無頼ぶらい
[類語]仲間同類一類一党徒輩とはいともがらやからたぐい集団一群一団チームパーティー

かち【徒/徒歩/歩/歩行】

乗り物を使わないで歩くこと。徒歩とほ
「―で山へ登りました」〈二葉亭訳・片恋
(「徒士」とも書く)
江戸時代、武士の身分の一。騎乗を許されない下級の武士。おかち
㋑「徒侍かちざむらい」に同じ。
㋒「徒組かちぐみ」の略。

ず〔ヅ〕【徒】

律の五刑の一。今の懲役刑にあたる。1年から3年まで半年ごとの五等級があり、より軽く、じょうより重い刑。徒罪。徒刑。

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精選版 日本国語大辞典 「徒」の意味・読み・例文・類語

いたずらいたづら【徒・悪戯】

  1. [ 1 ] 〘 形容動詞ナリ活用 〙 ( 徒 )
    1. 存在する物事が、無益、無用であること。役に立たないこと。むだで価値がないさま。
      1. [初出の実例]「時の盛りを 伊多豆良爾(イタヅラニ) 過し遣りつれ」(出典:万葉集(8C後)一七・三九六九)
      2. 「我が身のかくいたづらに沈めるだにあるを」(出典:源氏物語(1001‐14頃)若紫)
    2. あるべき物がないために物足りないこと。物がなく空虚なさま。
      1. [初出の実例]「又閑曠(イタツラナル)所に、兵庫(くら)を起造(つく)りて」(出典:日本書紀(720)孝徳・大化元年八月(北野本訓))
    3. 用がなく、ひまなこと。する事もなく、手持ちぶさたなさま。所在ないさま。
      1. [初出の実例]「ふねも出(いだ)さでいたづらなれば」(出典:土左日記(935頃)承平五年一月一八日)
    4. 本来の目的、意図などを果たさないで終わること。むなしく事を終えること。成果があがらないさま。→いたずらに
      1. [初出の実例]「かかる雨にきたるを、いたづらにてかへすな」(出典:落窪物語(10C後)一)
  2. [ 2 ] 〘 名詞 〙
    1. [ 一 ] ( 形動 ) ( [ 一 ]の転じたもので、のちにもっぱら「悪戯」の字があてられる )
      1. ( ━する ) 無益な行為。また、そのような行為をしがちであること。
        1. (イ) 他人に迷惑をかけるようなよくないふるまい。わるさ。また、それをしばしば行なうさま。
          1. [初出の実例]「きゃつが色々いたづらを致しまする」(出典:虎寛本狂言・真奪(室町末‐近世初))
        2. (ロ) 子供などがふざけてするわるさ。もてあそぶべきでない物をおもちゃにするさま。
          1. [初出の実例]「発明(かしこい)と誉(ほめ)そやされると悪騒(イタヅラ)が不成(ならぬ)ゆへ」(出典:洒落本・禁現大福帳(1755)序)
        3. (ハ) 自分のした事を謙遜していう語。「ほんのいたずらのつもりでございます」
      2. 性愛に関する行為、感情などを主として否定的にいう語。
        1. (イ) 性に関してだらしがないこと。みだらであるさま。好色な感じ。
          1. [初出の実例]「若き女房の徒(イタヅラ)さうなるあり」(出典:咄本・内閣文庫本醒睡笑(1628)七)
        2. (ロ) 性的な衝動。異性に対する思い。
          1. [初出の実例]「恥は目よりあらはれ、いたづらは言葉にしれ」(出典:浮世草子・好色五人女(1686)一)
        3. (ハ) ( ━する ) 男女間の、道にはずれた関係。不品行な行為。特に、夫婦でない男女がこっそりあうこと。不義。密通。姦通。
          1. [初出の実例]「もし私にいたづらあらば、先の相手を切りも殺しもなさる筈」(出典:浄瑠璃・山崎与次兵衛寿の門松(1718)中)
    2. [ 二 ] ( 徒 )
      1. 女の前髪の末を、髻(もとどり)の左右から背に出したもの。ふりわけ。〔随筆・守貞漫稿(1837‐53)〕
      2. 操り人形の鬘(かつら)の一つ。若い男の耳の所から顔の横に細長く出ている毛。
      3. 前髪の両端に垂れ下げる飾り。若い女は細いものを、年配者は太いものをつける。

徒の補助注記

「いたずら」が無用な、むだな状態を表わすのに対して、類義語「むなし」は、物自体が存在しない状態をいう。


かち【徒・歩・歩行・徒歩】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 馬・船など、乗り物に乗らずに足で行くこと。歩いて行くこと。徒歩(とほ)
    1. [初出の実例]「馬買はば妹歩行(かち)ならむよしゑやし石は踏むとも吾は二人行かむ」(出典:万葉集(8C後)一三・三三一七)
    2. 「母御の歩(カチ)にて歩(あゆ)ませ給ふが御痛敷候」(出典:太平記(14C後)一一)
  3. ( 歩いて行くことの意から ) 陸路を行くこと。陸路。また、陸。〔色葉字類抄(1177‐81)〕
    1. [初出の実例]「フネデサエ ヤウヤウ ツイタニ cachiua(カチワ) ナカナカ ナルマイ」(出典:ロドリゲス日本大文典(1604‐08))
  4. 歩いて主君の供をする侍(さむらい)。かちのもの。かちざむらい。歩行の士。歩兵。歩卒。走衆(はしりしゅう)
    1. [初出の実例]「十、歩行の士、御大将の御前を歩むべし」(出典:兵法雄鑑(1645)一九)
  5. ( 徒士 ) 江戸時代、諸藩の武士をいう。幕府の御家人(ごけにん)にあたる。当時、武士階級を侍、徒、足軽中間の三者に分けることがあった時、侍は騎乗を許されたが、徒以下は許されなかったことから区別された。→かちの衆(しゅう)
    1. [初出の実例]「侍三人、徒士弐人、足軽拾五人、中間拾弐人、右御門番相勤候節」(出典:徳川禁令考‐前集・第三・巻二二・享保六年(1721)一二月)
  6. ( 徒士 ) 江戸幕府の職名。平日は江戸城本丸の獅子間以下諸所に勤番し城内の警衛にあたり、将軍他行のときは先払(さきばらい)、辻固(つじかため)などに任じた。御徒(おかち)。七十俵五人扶持。一組三〇人。一五組。西丸にもいた。かちざむらい。〔徳川実紀‐享保四年(1719)〕

あだ【徒】

  1. 〘 形容動詞ナリ活用 〙 表面だけで、実のないさま。まれに「の」を伴う用法もある。
  2. 空虚なさま。むだなさま。実を結ばないさま。
    1. [初出の実例]「のちまきのおくれて生(お)ふる苗なれどあだにはならぬたのみとぞきく〈大江千里〉」(出典:古今和歌集(905‐914)物名・四六七)
  3. 一時的でかりそめなさま。はかなくもろいさま。
    1. [初出の実例]「露をなどあだなる物と思ひけむわが身もくさにおかぬばかりを〈藤原惟幹〉」(出典:古今和歌集(905‐914)哀傷・八六〇)
    2. 「あだなる契をかこち、長き夜をひとり明かし」(出典:徒然草(1331頃)一三七)
  4. いいかげんでおろそかなさま。粗略なさま。
    1. [初出の実例]「たしかに、御枕がみに参らすべき、祝ひの物に侍る。あなかしこ、あだにな」(出典:源氏物語(1001‐14頃)葵)
    2. 「中にも今にわすれねば、かく置所までをうず高く、仮にも化(アダ)には思はず」(出典:浮世草子・好色一代男(1682)六)
  5. 浮薄なさま。不誠実で浮気っぽいさま。
    1. [初出の実例]「いまの世中、色につき、人のこころ、花になりにけるより、あだなるうた、はかなき事のみいでくれば」(出典:古今和歌集(905‐914)仮名序)

徒の語誌

「徒」との同音語のうち、「仇討ち」など「自分に害を加えるもの・敵」の意の「あだ(仇)」は上代から使われているが、古くは清音で「徒」とは別語。また、「あだ名」の「あだ」は、「徒」と同源かともいわれるが、「別、他」の意である。

徒の派生語

あだ‐げ
  1. 〘 形容動詞ナリ活用 〙

と【徒】

  1. 〘 名詞 〙
  2. なかま。ともがら。同類。〔文明本節用集(室町中)〕
    1. [初出の実例]「兄と云ふ人来たりて、我が徒にむかひ、恩を謝して」(出典:随筆・胆大小心録(1808)一四)
    2. [その他の文献]〔論語‐先進〕
  3. 益のないこと。無駄。むなしいこと。徒労。〔論語‐陽貨〕
  4. 五刑の一つ。罪人を労役に服させること。徒罪。→徒(ず)。〔新唐書‐刑法志〕

かし【徒】

  1. 〘 名詞 〙 「かち(徒)」の上代東国方言。
    1. [初出の実例]「赤駒(あかごま)を山野に放(はか)し捕りかにて多摩の横山加志(カシ)ゆか遣らむ」(出典:万葉集(8C後)二〇・四四一七)

【徒】

  1. 〘 名詞 〙 律の五罪の一つ。懲役刑で、一年から三年まで半年ごとの五等級に分かれる。徒刑。徒罪。〔律(718)〕

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「徒」の意味・わかりやすい解説


大宝,養老律における五刑の一種。鉄製,あるいは木製の首かせを着して使役する刑。その期間は1年から3年に及んだ。律令制においては,徒刑以上の刑は,特に慎重な執行が望まれており,上訴についても特別な規定がある。平安期以降,検非違使の庁例時代になると次第にその期間が延長される傾向が生じ,私鋳銭犯のごときは無期徒刑に処された。明治初年の刑法典である『仮刑律』『新律綱領』には正刑の一つとして採用されている。 1873年の『改定律例』においてそれにかわり懲役が行われることとなった。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「徒」の解説


徒罪・徒刑とも。律の五罪の一つ。流(る)より軽く杖(じょう)より重い刑。所定の期間を労役に服させる刑罰で,現在の懲役刑にあたる。徒1年から徒3年までの5等がある。徒の執行は,畿外では国司がその地の労役にあて,畿内では囚獄司が京中の道路・橋梁の修繕,宮城四面の掃除,宮内の穢汚および厠溝の処理などの労役にあてた。



かち

徒士・歩行とも。近世,下級武士の一身分。本来の武士身分が御目見以上の馬上の身分をさすのに対し,徒は御目見以下で騎乗を許されない軽格の武士である。江戸では足軽以下の武家奉公人と同様に,人宿(ひとやど)などから雇用される存在でもあった。本来の武士身分と足軽以下の奉公人の中間に位置するといえる。

出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報

旺文社日本史事典 三訂版 「徒」の解説


律令の刑罰の一つ。➡ 五刑

出典 旺文社日本史事典 三訂版旺文社日本史事典 三訂版について 情報

世界大百科事典(旧版)内のの言及

【懲役】より

… 日本における懲役の語は,西洋法を参照にした1872年の懲役法において,明治新政府下の仮刑律(1868),新律綱領(1870)に定められた5刑のうちの笞・杖に代わる短期自由刑として,まず用いられた。翌年には,旧幕期以来の伝統をもつ受刑者使役刑たる徒刑を執行する場所である徒場を懲役場と名称を変更し,同年の改定律例は,刑名としても徒,流を懲役に変え,終身懲役をも定めた。この懲役が,初の本格的な西洋法の継受である1880年の(旧)刑法では,島地発遣刑の徒・流などとともに,内地の懲役場で定役に服す重罪刑として規定され,刑期によって重懲役(9~11年)と軽懲役(6~8年)に分けられた。…

【中国法】より

…さらに法制の背景をなす社会構造も根本から異なっているので,もし律令という名を共通にするという理由で,両者の社会を等質とみなそうとするならば,大きな過誤に陥るおそれがある。律令格式 唐律に定める刑罰に五等あり,これを五刑と称するが古代の肉刑の五等とは異なり,笞・杖・徒・流・死をいう。笞も杖も背を鞭打つ刑であるが,竹または木をもってつくり,笞は細く杖は太い。…

【懲役】より

… 日本における懲役の語は,西洋法を参照にした1872年の懲役法において,明治新政府下の仮刑律(1868),新律綱領(1870)に定められた5刑のうちの笞・杖に代わる短期自由刑として,まず用いられた。翌年には,旧幕期以来の伝統をもつ受刑者使役刑たる徒刑を執行する場所である徒場を懲役場と名称を変更し,同年の改定律例は,刑名としても徒,流を懲役に変え,終身懲役をも定めた。この懲役が,初の本格的な西洋法の継受である1880年の(旧)刑法では,島地発遣刑の徒・流などとともに,内地の懲役場で定役に服す重罪刑として規定され,刑期によって重懲役(9~11年)と軽懲役(6~8年)に分けられた。…

※「徒」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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